核開発を諦めた北歐の中立国
ロシア・ウクライナ紛争が勃発したことで、長らく軍事的中立化を守ってきたスウェーデンとフィンランドが、ついにNATOへ加盟する事となった。歐米諸国のみならず日本でも、この転換を聞いた軍事評論家や地政学者はウキウキで、両国のNATO加盟でロシア包囲網が出来たと喜んでいた。しかし、もっと歓迎していたのはアメリカの国防総省や軍需産業から献金をもらう政治家、および兵器産業に投資する金融業者の大御所の方だ。たぶん、ロシアを挑発した闇組織には、軍需産業で儲ける連中が絡んでいたに違いない。
というのも、両国が加盟したことで、米国主導のNATO軍はスウェーデンやフィンランドに軍事基地を展開できるし、米国製やNATO使用の武器も導入できるからだ。ロシアが非難するように、NATOの東方拡大は著しい。2009年にはクロアチアとアルバニアがNATOの加盟国となり、最近ではアルバニアのクチョヴァ(Kuçovë)にある空軍基地が話題となった。アルバニア政府とNATOは旧ソ連時代の基地にF-35戦闘機などを配置するため、5千万ドルの費用をかけて改装したそうだ。
日本のNHKや民放は西側諸国のマスコミ報道を垂れ流すだけで、事態の本質を分析することがない。英国の王立国防研究所(Royal United Services Institute)のニール・メルヴィン博士(Dr. Neil Melvin)が、「北歐全体がNATOの領域になり、これはロシアの戦略にとって大打撃だ」とか、「NATOがバルト海の支配権を握るようになった」と指摘すれば、「お説ごもっとも!」と頷く。しかし、バルト三国と同じく、スウェーデンやフィンランドは元々“反ロシア”じゃないか! その対外戦略はロシアからの軍事侵攻に備えたものである。今更、NATOの脅威が迫ったところで、ロシアの将軍達が青ざめるのか?
それよりも重要な事は、前々からNATOや米国との関係が深く、米軍への依存が高かったスウェーデンが、本格的に“アメリカの衛星国”になったということだ。確かに、NATOによる集団安全保障といった枠組みに入れば安心である。だが、その反面、自国の命運を外国に預けることになるから、独自の軍事・外政を貫くことはできない。敗戦後の日本人には独立国の気概が無くなってしまったからピンとこないけど、「自分の国は自力で守る」というのが正常な国家の鉄則だ。一般国民は日米安保条約があるから安全と思っているが、もしワシントンやウォール街の重鎮どもが、何らかの利益で軍事行動を拒めば、大統領やペンタゴンは親分に従うしかない。支那による沖縄侵掠といった「有事」になっても、在日米軍は兵隊を動かさないし、適当な口実を設けてグズグズする事もある。
「中立国」を標榜しているスウェーデンであるから、第二次世界大戦後には英仏と同じく、「スウェーデンも核武装すべし」という主張が国防方針の中にあった。実際、1945年11月には原子力委員会(Atomkommittén / AC)が設置され、“民生用以外”の核開発が検討されていたという。ACの評議委員の中には、「スウェーデン国家防衛研究所(Försvarets forskningsanstalt / FOA)」のメンバーも含まれており、X線の研究で有名な物理学者のマンネ・シーグバーン(Karl Manne Georg Siegbahn)や磁気流体力学を研究した物理学者のハンネス・アルヴェーン(Hannes Olof Gösta Alfvén)がいた。産業界からは王立科学院のメンバーで、FOA議長を務めた通信技術者のホーン・スターキー(Håkan Karl August Sterky)や原発の開発に携わった技術者のラグナー・リジェブラド(Karl Ragnar Liljeblad)も加わり、ACの議長には社会民衆党のマルテ・ヤコブソン(Malte Jacobsson)が就いていた。
(左 : マンネ・シーグバーン / ハンネス・アルヴェーン / ホーン・スターキー / 右 : ラグナー・リジェブラド)
スウェーデン政府は優秀な科学者や技術者を取り揃えて核開発に臨んだが、国防省の研究チームは幾つかの壁にぶち当たっていた。原爆の材料にはウランかプルトニウムが必要となるが、当時、高濃縮のウランは入手が難しかったので、プルトニュウムの方が好ましいという結論になったらしい。(Thomas Jonter, The Swedish Plans to Acquire Nuclear Weapons, 1945-1968 : An Analysis of the Technical Preparations, Science & Global Security, Vol. 18, 2010, p.64.)まぁ、技術的にもウラン235とウラン238の分離は難しいから、原子炉でも作って燃料棒からプルトニウムを取り出そうか、となるのも解る気がする。
とはいっても、大きな原子炉となれば建設費用が嵩むし、原爆の製造だって直ぐには出来ない。開発チームの計画では、八年くらいかかってしまうという予測があった。しかも、FOAの計算では4億5千万クローネ(現在の価値だと約10億ドル)の予算が必要とされていたから溜息が出てしまう。核開発に向けて「Lプログラム」を発足させたスウェーデンは、必要不可欠な材料の獲得に奔走した。1957年、スウェーデンは英国から極秘裏に10gのプルトニウムを分けてもらったそうだ。* この程度だと少なく思えるが、研究者にとっては充分な量である。註*(Thomas B. Johansson, ‘Sweden's abortive nuclear weapons project ’, Bulletin of the Atomic Scientists, Vol.42, No.3, March 1986, p.32.)
マンハッタン計画でも知られているように、当時、どの国も原爆開発には苦労し、国内最高の頭脳をかき集めて製造に取り組んでいた。日本でも帝國海軍が京都帝國大学の荒勝文策(あらさく・ぶんさく)教授に依頼し、理化学研究所の仁科芳雄(にしな・よしお)博士をはじめ、東京帝國大学、東北帝國大学、大阪大学などの研究者が脳漿を絞って取り組んでいたことは知られている。スウェーデンも必死に頑張ったが、どうしても核先進国のアメリカに頼りたくなったようだ。しかし、この最終兵器を独占したいアメリカは、スウェーデンの核開発には消極的であった。むしろ断念させるよう仕向けていたのだ。合衆国政府は高濃縮ウランや最新設備はもとより、製造の秘訣(know-how)などを与えてはならぬと考え、核兵器に使われる材料や製造器具の輸出に制限をかけていたのである。(Thomas Jonter, The Swedish Plans to Acquire Nuclear Weapons, 1945-1968, p.66.)
スウェーデンの独立を望む軍人や愛国的な政治家は、独自の核開発に熱心であったが、抵抗する勢力も少なくなかった。何しろ“リベラル色”の強いスウェーデンだ。危険な軍事研究に反対する奴が多い。例えば、「Dagens Nyheter」紙の編集者であるヘルベルト・ティングステン(Herbert Tingsten)とか、国連大使になった社会民衆党のインガ・トーンソン(Inga M. Thornsson)、外相のアーステン・ウンデン(Östen Undén)が反対の声を上げていたし、首相のターゲ・エランデル(Tage Erlander)でさえ腰が据わって居らず、心が揺らいでいたのだ。只でさえ、スウェーデンの国民感情には左翼思考が強く、平和主義が猛威を振るっているのに、ここへソ連の工作員やエージェントが加わってしまえば、核武装は国民分断の火種となってしまうだろう。
(左 : ヘルベルト・ティングステン / インガ・トーンソン / ターゲ・エランデル / 右 : アーステン・ウンデン)
1960年代や70年代、日本でもスウェーデンの反核運動は有名で、「スウェーデン反核行動グループ」に共鳴する学生や活動家も多かった。リベラル派の政治家で暗殺されたオロフ・パルメ首相とか、経済学者のグルナー・ミュルルダール(Karl Gunnar Myrdal)の女房であったアルバ・ミュルダール(Alba Reimer Myrdal) 、アナーキストでフェミニストの左翼画家たるモニカ・ショー(Monica Sjöö)といった面々を思い出せば判るじゃないか。亭主のグンナーは1974年、政治哲学にも精通した経済学者のフリードリッヒ・ハイエック(Friedrich August von Hayek)教授と共にノーベル経済学賞を受賞したが、女房のアルバは“いかがわしい”ノーベル平和賞の共同受賞者だった。ミュルダール夫妻はロックフェラー財団の招きで、米国の人種問題を研究したくらいだから、ゾッとするほどの左翼カップルだ。
(左 : グルナー・ミュルルダール / アルバ・ミュルダール / オロフ・パルメ / 右 : モニカ・ショー )
マスコミ業界や教育界からの妨害も酷かったが、軍内部からの不満や反感もあったので、スウェーデンの核開発は暗礁に乗り上げていた。陸軍や海軍の上層部は核開発に費やされる膨大な歳出により、自分たちの予算が削られるのではないかと恐れていた。しかし、空軍は違っており、どんなに予算が増えてもお構いなし。というのも、出来上がった核兵器は戦闘機や爆撃機に搭載されるので、核開発の成功となれば空軍の予算も増えるし、存在感も大きくなるから大歓迎。しかし、1945年以来、多大な努力を注いだにもかかわらず、スウェーデン政府は1968年に核開発を断念し、NPT(核不拡散条約)に署名することになった。
兵器輸出で儲ける国家
核兵器の保有は断念したけど、スウェーデンは小国ながらも、武器輸出で結構もうけている。一人頭の額でいえば53ドルくらいで、イスラエルの97ドルやロシアの57ドルに次ぐ第三位の武器輸出国だ。南アフリカと同じくスウェーデンも兵器産業に力を入れており、最新鋭の戦闘機や重火器の見本市では常連の生産国である。軍事オタクじゃなくても、スウェーデン陸軍の「ストリッツヴァグン(Stridsvagn) 103」戦車やサーブ社の「グリッペン(Saab JAS 39 Gripen)」戦闘機くらいは知っているだろう。
ただ、アメリカやEU諸国からの技術供与も盛んになるから、米国兵器のライセンス生産も増えてくるし、外国の軍事会社がスウェーデンの市場に入ってくるから、政府がアメリカ製の武器を購入する場合も多くなる。例えば、ロッキード・マーチン社のパトリオット防衛システムを導入したが、その価格は40億ユーロだった。また、スウェーデンの軍需会社がアメリカやブリテン、ドイツの傘下になることもある。大手兵器会社の「サーブ(Saab)」は、巨大財閥のウォレンバーグ家(the Wallenbergs)が支配権を握っているけど、車輌生産の「スカニア(Scania)」はドイツのフォルクスワーゲン・グループに買収されたし、重火器やミサイルを生産する「ボフォーズ(Bofors)」は、元々スウェーデンの会社であったのに、2005年にブリテンのBAE Systems社に吸収され、子会社の「BAE Systems Bofors」となってしまった。
奴隷の楽園と化した日本
一方、敗戦の衝撃で腑抜けになった日本は、国軍の再興すら諦め、核兵器ばかりか通常兵器の開発も疎かだ。特に酷かったのは、「クリーン」を売り物にした三木武夫が総理の時である。外国の首相なら唖然とするが、「防衛費1%枠」という馬鹿げた方針が決定され、それ以降、日本は軍事小国の道を黙々と歩み続けてきた。昭和の頃から、こうした馬鹿馬鹿しい拘束衣で締め付けられてきたから、日本の防衛産業は衰退の一途を辿り、縮小の道を歩み続けている。三菱重工や川崎重工、IHIはもとより、コマツやダイセル、横浜ゴム、住友重機械工業なども兵器部門から撤退する有様だ。日本人は製造業が強いのに、左翼陣営のせいで武器の開発や輸出が制限され、防衛産業はガラパゴス化となっている。1980年代、日本人は“バブル経済”とやらに浮かれており、本来なら豊かな財源を国防の強化や兵器開発に使うべきだったのに、政府は米軍への思いやり予算とか海外援助(ODA)に浪費していたのだ。アカの巣窟と化していた大学はもっと深刻で、軍事関連の研究は拒否。物理学や生物学を専攻する教授も、法学部の反日活動家と連帯し、「憲法九条を守れ!」と叫んでいたんだから、もう情けなくて涙が出てくる。ノーベル賞をもらった物理学者の益川敏英博士も護憲運動の賛同者である。スタンフォードやプリンストン、MITなんかとは大違いだ。
鳩山由紀夫や菅直人と同じく、国防・外政に関しては岸田文雄も論外。「これが日本の行政府なのか?」と疑ってしまう程だ。財務官僚と親戚、バイデン政権の犬と化した岸田総理は、上川陽子を使節にしてウクライナへ数兆円も献上するし、パンデミック条約を結んで日本国民を差し出そうとする。さらに、この売国総理は日本人の“質”を変えるべく、大量の移民を輸入することにした。最近、技能実習生の制度が廃止され、「育成就労制度」が導入されたが、これは外国人労働者の定住を促進する政策である。つまり、日本の人口減少や労働者不足を外人で穴埋めするという政策で、「国境なき日本」にするという魂胆だ。
一般の日本人は気づいていないが、岸田総理とそのパトロン達が目指すのは、外国の投資家や金融業者が天上に君臨するという日本である。すなわち、裕福な外国人が大手企業の経営者や筆頭株主となり、その支配下で日本人が蟻のように働くという図式である。緊縮財政で貧乏になった一般平民は、“アジア並”の生活水準で耐え忍び、アジア人労働者と“対等な立場”でコキ使われることになるんだが、こうなると判っていても抵抗することはない。なぜなら、普通の日本人は「独立の気概」を持っていないからだ。
刀を棄てた日本人は、「独立国家」という意味が解らない。帝國陸街軍を有していた頃の日本人は、独立国の矜持を持っていたし、その雰囲気を実感していた。もし、外国で侮辱や迫害を受ければ、「いずれ帝國が軍が現れ、不届きな外人を成敗してくれる」と信じていたし、子供達の憧れは陸軍大将や海軍提督だった。「一生懸命勉強して大学教授になる!」と公言する子供がいれば、友達から変人扱いだ。ところが、大東亜戦争の敗北で日本人は腰砕けとなった。社会党が唱える「非武装中立」が持て囃され、核武装を主張する政治家なんか居やしない。国防軍の再建を口にしただけでも大騒ぎだ。ということで、日本は「隷属状態」が天然自然の状態ということになってしまった。
つくづく思うけど、日本人は本当に脳天気である。あまりにも平和なので高学歴の国民でさえ理解していないが、奴隷とは自分の運命を自分で決められない家畜である。自分の命や未来は御主人様の気分次第。他者に隷属する者は、今日、仕事の御褒美をもらえても、明日、撃ち殺されるかも知れないのである。たとえ、命が助かっても、他者へ転売されることもあるし、家族が別々に売却される、「バラ売り」という事態も有り得る。もし、合衆国政府が日本を見限り、北京政府へ売却すれば、我が国は支那の属州になるだろう。たぶん、太平洋に浮かぶ辺境の島国とか、「倭人自治区」と呼ばれるんじゃないか。支那人は「盲流」による侵掠を得意とするので、既に沖縄や北海道では植民地化が進んでいる。日本人は米国が差し出す核の傘を信じているが、もしかすると将来、支那人の恐ろしい傘に縋ることになるかも。まぁ、日本のサムライはサッカーチームにしかいないから、当然なのかも知れない。
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