実力主義のアメリカドラマ業界

   この『ブレイキング・バッド』で人気が出たキャラクターの一人は、麻薬密売網を取り仕切るボスのガス(Gustavo Gus Fring)である。表の顔は、フライド・チキンのチェーン・レストランを営むビジネス・マンで、裏ではアメリカ西南部一帯でメタンフェタミン(メスまたはシャブ)を売りさばくボス。真面目で穏和な商売人の顔と冷酷残忍な裏の顔が、一瞬で入れ替わるところが印象深い。

  ある時、ウォルターやジェシーの目の前で、ガスは自分の部下を羽交い締めにして喉を刃物(box cutter)で切り裂いた。顔色ひとつ変えずに部下を殺すガスと、彼の喉から流れ出る鮮血に二人は凍りついてしまう。激怒したチンピラよりも、冷静な親分が事務的に殺すシーンの方がいっそう恐怖心を煽る。それに、カッターで人間の体を切り裂く方が、銃で撃ち殺すよりも残酷に思えるのだ。シーズン4で印象的だったのは第9話「Salud」ではなかったか。その前に、あらすじを触れておく。

 主な登場人物

  ジェシー・・・彼はウォルターの元教え子だったが、麻薬に溺れてしまい、メタンフェタミンのまがい物を扱っている小売人。ウォルターがメスの製造を始めるに当たって助手を務めるようになった。次第に良きパートナーになってゆくが、やがて喧嘩別れれしてしまう。
  マイク・・・ガスの懐刀で、元警官。抜け目が無く有能な部下で、最初は見下していたジェシーを見直すようになる。
   ドン・エラディオ・・・アメリカとメキシコを跨いで麻薬を密売するホアレス・カルテルを統帥する元締。ガスの独立的麻薬販売を許さず、傘下に引き入れようとする。
   ヘクター・サラマンカ・・・エラディオの部下で、今は老齢で体が弱り引退している。

  話は、ガスがチリからメキシコにやってきて、友人と小さな麻薬の密売を始めた頃にさかのぼる。メキシコで巨大麻薬カルテルを仕切るドン・エラディオは、雑魚の二人を呼びつけ、ガスの友人マックスを殺してしまう。手を下したのは彼の命令を受けたヘクターであった。それゆえ、ガスは養老院で車椅子生活のヘクターを未だに許さない。
 
 メキシコからアメリカへ密入国したガスは、チェーン・レストランを展開して、地元で成功したビジネスマンとして世間の目を欺いていた。ウォルターの高純度のメスに興味を示したガスは、大規模な製造工場を彼に提供したくらいである。ウォルターの上等なブルー・クリスタル・メスは大人気になり売り上げも伸びたが、エラディオはそれを邪魔しに掛かる。そこで、ガスはこのカルテルのボスと和睦を結ぶため、エラディオにクリスタル・メスの製造方法を教えることにした。カルテルの麻薬製造工場にジェシーとマイクを連れていったガスは、一計を案じていた。カルテルの一味を集めたエラディオの前で、土産のメキシコ酒を振る舞うことにした。

  だが、用心深いエラディオは、ガスがグラスに注がれたその酒を先に飲むまで、じっと見つめて酒に口を付けない。ガスがその杯を一気に飲み干してから、エラディオは安心して口に流し込んだ。彼の部下も一気に飲み干した。じつは、その酒には猛毒が含まれていたのである。あらかじめガスは錠剤を飲んで、胃の粘膜を保護していた。皆が酒を飲んでから、少し経って、ガスは便所に行って酒を吐き出したのである。その間、エラディオとその部下は次々と苦しみ出し、次々と死んでしまった。さすがのガスも猛毒でフラフラになってしまい。その場を一刻も早く立ち去ろうとしたのである。ガスはただ逃げ去ったのではなかった。用意周到な計画を立てていたガスは、医療班を用意していたのである。

  命を張って宿敵を倒したガスに感服してしてしまう視聴者。脚本家のヴィンス・ギリアンに多くの批評家が賞賛を送り、100点満点をつける者まで現れた。アメリカのドラマ批評家がここまで絶賛するのは珍しい。一般視聴者を置き去りにして、スポンサーとテレビ局に対して提灯記事を書く日本人批評家とは違うのだ。アメカのドラマ業界は競争が熾烈で、入念に練られた脚本と上手い役者でドラマを制作しないと、すぐに人気が落ちて番組打ち切りになってしまうのだ。日本のドラマなどは、子供の学芸会程度で、杜撰な脚本に下手くそな役者を混ぜ込んで作ったインスタント作品ばかり。視聴者が「あっ」と驚くようなドラマ展開と独創的なアイデアを絶妙に盛り込む、といった厳しい課題が全然ない。
 
 日本のヤクザ・犯罪ドラマでは、殴り込みや銃撃戦はあるが、知的で綿密な策略をめぐらして敵を倒す、といった筋書きが滅多にない。ドタバタ喜劇はあるが、モンティー・パイソンのような知的ユーモアを織り込んだコメディー・ショーはないのだ。日本では脚本家の才能が乏しかったり、一般観客の知的レヴェルが低く精神が幼稚なため、上等で洗練されたドラマを受付けない素地があるのかもしれない。それに制作予算が少ないことに加えて、失敗が怖い制作者は無難な道を選んでしまう。だから、簡単に騙せる若者をターゲットにしたドラマで良しとする。NHKの大河ドラマなんて「怠惰」ドラマである。人気のある素人俳優を出演させれば、熱心な固定ファンが観てくれるから安心。ドラマの筋書きや演技力は二の次か一番最後の要素で、関連グッズが売れれば制作者は満足。民放も同じ。人気女優が出演するだけで、話題のドラマになるし、裸になってうめき声を上げれは「体当たりの演技」と絶賛される。これなら吉原のストリップ劇場と変わらない。

ヒスパニック化するアメリカ

  『ブレイキング・バッド』の舞台設定が、現在の米国に横たわる深刻な社会問題を反映している。ニュー・メキシコ州ばかりでなく、全米で中南米系住民が激増しているのだ。合法・非合法移民でやがてヒスパニック人口はアメリカ白人を凌駕すると言われている。不法入国者が堂々と暮らしていたり、定職に就いている。しかも、不法移民の子供が公立学校に通っているのが普通の光景になっていたり、福祉詐欺で巨額の税金が闇に消えているのだ。下層階級の移民が増えれば、凶悪犯罪者も増える。信じられないことだが、移民局(ICE)に拘束された不法移民でさえ、あっけなく釈放されているのである。理由は簡単。留置所・刑務所が満員状態なのだ。アメリカ国民は犯罪者を養うために働き、税金を払っている。自分の健康保険料を払うのがやっとの労働者階級や中流階級白人が怒りに燃えているのだ。ヒスパニック移民の子供らが、ストリート・ギャングになって麻薬を売り始めたり、殺人・強盗を働いて、善良な国民が被害者になったり、と治安を乱している。

  アメリカ・ドラマでしばしば描かれているのは、ヒスパニックが群れて租界またはゲットーを形成していることである。同じ人種・民族が自然と寄り合って生活をし、快適で安心な生活空間をつくっているのだ。そこでは英語よりスペイン語が共通語・準公用語になっており、街の臭いが南米風になっていたりする。要するに、アングロ・アメリカの国家にラテン・アメリカの小宇宙が発生し、膨張しているのだ。もちろん、南米のギャング文化も輸入されているから、凄惨な殺し合い、報復合戦が町中で繰り広げられている。これじゃあ正常な白人は逃げ出してしまう。

  皮肉なもので、アメリカ南部は薄汚い下層の南米人によるリコンキスタ(再征服または領土恢復)が進行しているのだ。西歐系アメリカ白人は少子化で消滅の道を確実に歩んでいるのに、ヒスパニック家庭では子沢山で人口侵略を完成させようとしている。麻薬汚染より怖い現象である。メスやコカインな撲滅運動で減らせるが、ヒスパニック系の人間を撲滅しようとは言えない。イナゴの大群が駆除できぬように、ヒスパニックの流入はすでに合衆国政府の手に負えないのである。我々はいま、一つの偉大な国家が人種的に変貌しているのを目撃しているのである。


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