無敵の太陽

主要マスメディアでは解説されない政治問題・文化・社会現象などを論評する。固定観念では分からない問題を黒木頼景が明確に論ずる。

2017年07月

「毒ガスの父」はユダヤ人 / フリッツ・ハーバーの遺産


『ワンダー・ウーマン』で無視された科学者

Fritz Haber 5Poison Gas attack 2









(左: フリッツ・ハーバー  /  右: ガス・マスクをつけた兵士)

  前回、大ヒット映画の『ワンダー・ウーマン』を紹介したが、その中で合点の行かないシーンがあった。物語は第一次世界大戦を舞台としており、邪悪なドイツ軍はトルコにある秘密工場で密かに毒ガス兵器の開発をしていたというのだ。米国諜報員のスティーヴ・トレヴァーは、早速その研究施設に潜入し、ドイツ軍の機密情報を盗むことに成功する。そして、工場の敷地内にあった飛行機に乗り込むと、追撃を振り切って逃げることができた。ところが、トレヴァーは逃げる途中、飛行機から手榴弾を工場に投げ込み、大爆発を起こした工場は破壊されるのだ。そして、この秘密実験を取り仕切っていたのは、あのエーリッヒ・ルーデンドルフ将軍であった。(実際の監督官は「ドクター・ポイズン」という女性科学者。) ダニー・ヒューストン扮するこのドイツ軍人は、残忍冷酷なうえに悪魔の新兵器を開発していたという訳である。

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(左: エーリッヒ・ルーデンドルフ  / 右: 毒ガス実験の風景 )

  でも、化学専攻の学生が観れば、「何かおかしいぞ」と気がづくはずだ。確かに、ドイツ軍は毒ガス兵器の開発に熱心だったけど、実際に研究を行っていたのは、ユダヤ人化学者のフリッツ・ハーバー(Fritz Haber)である。何でルーデンドルフ将軍が、ガラス越しに実験風景を観察しているんだ? そもそも、『ワンダー・ウーマン』自体がフィクションだからしょうがないけど、「邪悪」なドイツ軍という刷り込み(Prägung)を使って一般人を騙そうとする手口は汚い。脚本家のアラン・ハインバーグは、本当に歴史的事実を知らなかったのか? こういった点を追求するのが、ジャーナリストの務めなんだけど、エンターテイメント欄を担当するのは、藝能ニュースしか分からない素人だから、腹を立てても仕方がない。だいいち、理系で藝能記者なる奴なんていないよなぁ。それに、記者の方だって「いちいち目くじらを立てるなよ!」と反論するから、筆者としては諦めるしかない。

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(左ワンダー・ウーマン  / 右スティーヴ・トレヴァー )

  それでも、ちよっとくらいは異論を唱えたい。そこで、簡単ではあるが、フリッツ・ハーバーの人生を述べてみる。(Bretislav Friedrich, "Fritz Haber", Angewandte Chemie Vol. 44, 2005 & Vol. 45, 2006を参照。) フリッツは1868年12月9日、プロイセンのブレスラウ(Breslau / 現在はポーランド領で「Wroclaw」と呼ばれている)で生まれた。父親のジークフリード(Siegfried)は、地元でちょいと知られた染め物商人で、仕事の関係上、薬剤師の腕前を持っていた。息子のフリッツが化学者を志したのは父親の影響かも知れない。一方、母のパウラ(Paula)はフリッツを出産した時に亡くなってしまったという。そこで、鰥(やもめ)となっったジークフリードはフリッツが6歳の時に再婚し、三人の娘をもうけた。つまり、フリッツにとっては異母姉妹ができたことになる。父親とはギクシャクしていたフリッツも、この三姉妹とは仲良くしていたそうだ。

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(左: 幼少時のフリッツ・ハーバー  / 中央: 青年時代のハーバー /  右: 研究者時代のハーバー)

  フリッツが成長する過程で最も影響を受けたのは、叔父のヘルマン(Hermann)からであったらしい。この叔父は地元で新聞社を営んでいたそうで、リベラル思想の持ち主であった。彼は甥のフリッツが化学の実験に興味があるというので、自分が住むアパートメントの空いたスペースを提供し、そこを使わせてやったそうだ。ユダヤ人の家庭に生まれたフリッツではあるが、ユダヤ教の学校へ通わず、地元にあるプロテスタント系の「聖エリザベート」学校(ギムナジウム)に通ったそうだ。そこに在籍する生徒の半数はユダヤ人であったというが、フリッツ自身はユダヤ教への興味が無かったせいか、自分をあまりユダヤ人とは意識せず日常生活を送っていたらしい。昔はどこでもそうだが、父のジークフリードは倅(せがれ)を跡継ぎにしたかった。しかし、息子のフリッツは学問の道に進みたかったようで、叔父のヘルマンに助けてもらい、大念願の学に進むことが出来たという。18歳になったフリッツは、ベルリンのフリードリッヒ・ウィルヘルム大学(Friedrich-Wilhelms-Unversität / 現在のフンボルト大学)に入り、化学と物理学を専攻した。翌年にはハイデルベルク大学に移り、再びベルリンに戻ると、今度はシャーロッテンブルク工科大学(Technische Hochsule Charlottenburg)に転入したそうだ。

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(左: カースルスルーエ時代のハーバーとその同僚たち  /  右: ファーカスと一緒のハーバー)

  ハーバーは1891年にフリードリッヒ・ウィルヘルム大学を優秀な成績(cum laude)で卒業し、有機化合物のヘリオトロピン(heliotropine / piperonal)についての論文で博士号を得た。卒業後、何をしようかと決めかねていたハーバーであるが、父親の要請で化学企業に勤めることになったらしい。彼はスイスに向かい、家族共々親しいゲオルグ・ランゲ(Georg Lunge)の許(もと)に行き、そこで働いていたが、やがてイエナに移ることになった。イエナに移住すると、ルートヴッヒ・クノー(Ludwig Knorr)に師事してリサーチ・アシスタントになったらしい。さらに、イエナを去ると、硝酸の製法で著名な化学者、ウィルヘルム・オストヴァルト(Friedrich Wilhelm Ostwald)の許で働くことになったそうだ。彼は1909年にノーベル化学賞を授与された人物である。

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(左: ゲオルグ・ランゲ  / ルートヴッヒ・クノー / ハインリッヒ・トライチュケ /  右: セオドール・モムゼン)

  このオストヴァルトとは親密になれなかったが、イエナ滞在中のハーバーには人生の転換期が訪れていた。つまり、25歳のハーバーはキリスト教の洗礼を受けたのである。当時、反ユダヤ主義で知られていたハインリッヒ・トライチュケ(Heinrich von Treitschke)がある記事を書き、それに対し高名な歴史家のセオドール・モムゼン(Theodor Mommsen)が反論を書いたという。ハーバーはモムゼンに触発され、キリスト教徒になる決心をしたそうだ。ドイツに住むユダヤ人は常に「ドイツ国民」なのか、それとも「異邦人」なのか、といった問題に悩むので、「自分はドイツ人だ」と断言したいが為に、キリスト教徒になる者が多い。また、社会で出世を考えるとキリスト教徒に鞍替えした方が「得」と考えるユダヤ人もいたので、彼らは信仰心が無くてもキリスト教徒になっていた。だから、日本人は教科書や一般書で「キリスト教徒である」と紹介されるドイツ人でも、その素性や家系をよく調べた方がいい。(ユダヤ人は名前や家系、宗教、国籍、そして容姿まで変えるから、油断がならないぞ。)

  1894年、ハーバーはカールスルーエ工科大学(Technische Hochschule Karlsruhe)に移り、そこで約17年を過ごす事になる。この大学は優秀な科学者を輩出したことで有名だった。日本人に最も馴染みが深いのは、ハインリッヒ・ヘルツ(Heinrich Rudolf Hertz)だろう。ご存じ、周波数の単位「ヘルツ」は彼に由来する。ヘルツはハーバーと同じくユダヤ人であるが、一応キリスト教徒になっている。というのも、彼の父グスタフがルター派に改宗していたからだ。それでも、やはりユダヤ人であることには変わりがなく、ナチ党が台頭したことで、英国に亡命する破目になった。他の科学者で有名なのは、液晶を開発した物理学者のオットー・リーマン(Otto Lehman)だろう。彼の業績は述べるまでもないが、日本人の造語能力はとても素晴らしい。「液晶」という用語は、「液体(liquid)」と「結晶 (crystal)」を組み合わせた造語である。もし科学技術を“自慢”する朝鮮人や支那人なら、どんな訳語や造語を発明したのか、と想像したくなる。

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(左: オットー・リーマン  / ハインリッヒ・ヘルツ / ヘルマン・シュタウディンガー /  右: カール・ボッシュ)

  カールスルーエ大には他にも、ノーベル賞を授与されたヘルマン・シュタウディンガー(Hermann Staudinger)がいたけれど、ハーバーも化学賞をもらっていた。彼は窒素からアンモニアを合成する研究に取り組み、カール・ボッシェ(Karl Bosch)と一緒に工業化を目指していたのだ。そして、彼らの研究を土台にして化学肥料の開発に成功したのが、スポンサーとなっていたBASF(バーディッシェ・アニリン・ウント・ソーダファブリック / Badische Alnilin und Sodafabrik)社である。この総合化学メーカーは、日本にも支社があるので、たぶん石油化学製品や農業用肥料に詳しい人なら知っているんじゃないか。また、ハーバーはあのマックス・ボルン(Max Born)とも共同研究を行ったことがあり、「ボルン・ハーバー・サイクル」の図は有名だ。ちなみに、この物理学者はユダヤ人で、ナチ・ドイツを離れて英国に亡命することになった。1954年にノーベル賞をもらったボルンは、オーストラリア人歌手オリビア・ニュートン・ジョンの祖父としても有名である。

Max Born 1Olivia Newton John 3Clara Haber 1









(左: マックス・ボルン  / 中央: オリヴィア・ニュートン・ジョン /  右: クララ・イマーヴァール)

  色々な研究に携わっていたハーバーだが、私生活でも重要な事があった。彼は1901年、同じユダヤ人で科学者のクララ・イマーヴァール(Clara Immerwahr)と結婚する。彼女はドイツで初めて博士号を授与された女性らしい。彼女も結婚を切っ掛けにキリスト教へ改宗したそうだある。彼らには息子が生まれ、「ヘルマン」と名づけられた。クララは献身的にフリッツに尽くしたようで、研究よりも家事に専念し、時折夫の論文を英語に訳してあげたそうだ。今の科学者カップルなら、「ダブル・インカム・ノー・キッズ」で優雅な生活を楽しむんだろうが、昔のヨーロッパ人は夫を支える「糟糠(そうこう)の妻」が理想だった。

Tank 1Depth Charges








(左:  戦車  / 右:  水中爆雷 )

  農業の生産性を上げるために貢献したハーバーであるが、彼の名を歴史に刻みつけたたのは、毒ガスの開発であった。第一次世界大戦には様々な兵器が投入され、戦争の様相を一変させていた。例えば、戦車や潜水艦はよく知られているが、空母や水中爆雷(depth charges)、水中聴音器(hydrophones)、飛行機に取りつけるマシンガンなどが挙げられよう。あと日本人なら沖縄戦を思い浮かべてしまうが、敵兵を焼き尽くす火炎放射器は、ドイツ人のリヒャルト・フィードラー(Richard Fiedler)が開発した兵器である。ちなみに、関係無いけど、女性の生理用ナプキンが発達したのも第一次大戦の頃であった。従来は単に布を使っていたくらいだが、この時代になるとセルロースを用いたお手軽製品が登場し、従軍看護婦などは新製品のコテックス(Kotex)を使用していたそうだ。この名称は「コットン(cotton)」と「テクスチャー(織地 / texture)」を組み合わせた言葉である。(くれぐれも断っておくが、筆者は変態じゃないぞ。あくまでも歴史的知識の紹介なんだから。)

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(左: 飛行機に搭載するマシンガン  / 右: 火炎放射器 )

  話を戻すと、ハーバーは有機砒素化合物を主成分とした毒ガス兵器を開発していたそうだ。これは敵兵が装着するフィルターに浸透し、この攻撃を受けた相手はガス・マスクを外したくなるそうだ。ハーバーはドイツ軍が毒ガス兵器を用いることに反対せず、むしろ積極的に用いるよう提案していたのである。というのも、彼は毒ガス攻撃による心理的効果を重視していたからだ。人間は砲撃を喰らっても、段々慣れてしまい、塹壕の中に入ってしまえば、爆発の轟音を聞きながらでも睡眠を取ることができる。ところが、目に見えない毒ガスだと、そうはゆかず、猛毒の気体はあらゆる場所に入ってくるし、逃げようにも逃げられない。一旦ガスを浴びてしまえば目がただれるし、鼻や口から吸引すれば、激痛を伴って呼吸困難に陥る。たとえ死ななくても、動けなくなる程の重態になってしまうだろう。これは非常に怖ろしい。実際、ヒトラーもこの「洗礼」を受け、新兵器の使用に戦慄を覚えたことがある。ハーバー曰わく、「どの戦争も兵士の精神に対するもので、その肉体に対してのものではない」そうだ。("New, Terrible Force, Hit Oppau, Haber Says," New York Times, September 25, 1921)

poison Gas 3Poison Gas









( 写真 / 毒ガス攻撃を受ける兵士たち )

  ハーバーの見解によると、化学兵器は通常兵器よりも「人道的」なのだという。なぜなら、戦争の期間を短くするからだ。なるほど、その考えにも一理ある。大量殺戮が可能な分だけ戦闘が激しくなるので、早期の和平が成立するという訳だ。しかし、戦争はそう簡単に終わることはない。有名なイープル(Ypres)の戦いで毒ガス兵器が使われたが、風向きによっては味方に損害が出てしまうし、確実に相手を殺傷できるとは限らないから、決定的な最終兵器じゃないだろう。ハーバーには悪いが、戦争を終結に向かわせたのは、ドイツの経済的破綻が原因だった。つまり、戦争継続のための財源が尽きたという訳だ。戦闘が終わってドイツに悲惨な結果がもたらされた、ハーバーにも悲劇が訪れていた。夫が残酷な兵器の開発に夢中になっていた頃、夫人のクララはその倫理的罪に悩んでいた。フリッツは化学者の制服を着てウキウキしていたが、その陰でクララは自殺を考えていたのだ。フリッツがベルギーから戻ってくると、彼女は夫の軍用拳銃を手にして自宅の庭に向かい、そこで拳銃自殺を図ってしまうのだ。1915年5月2日、彼女は絶命する。夫のフリッツは睡眠薬を飲んで寝ていたので、その銃声に気づかず、息子のヘルマンが発見したそうだ。

Fritz Haber & Einstein 1(左  /  アインシュタインと一緒のハーバー)
  ドイツの世間が狭いのか、化学兵器の開発者は核兵器の父と親しかった。ハーバーがカイザー・ウィルヘルム研究所(Kaiser Wilhelm Institut für Physikalische Chemie und Elektrochemie)に勤めていた頃、その同僚にアルバート・アインシュタインがいたという。(ちなみに、ハーバーの研究室はユダヤ人銀行家のレオポルド・コペルLeopold Koppelからの資金で運営されていたそうだ。当時のドイツは驚くほどユダヤ人に開かれており、様々な分野でユダヤ人が“活き活きと”暮らしていたのだ。「暗くて排他的なドイツ」というのは、1930年代以降の話である。) 同じユダヤ人科学者だったからか、二人は非常に仲が良く、ハーバーは当時女房と上手く行っていないアインシュタインにとって、良き相談相手となっていた。(Thomas Levenson, Einstein in Berlin, New York, Batam Books,1999を参照。) しかし、化学兵器を肯定していたハーバーと違って、アインシュタインは殺戮兵器に対して否定的であったという。彼は毒ガスが戦争終結の近道になるとは思っていなかった。平和を愛するの天才によれば、兵器に人道的なものはなく、ただ廃棄されることが望ましいとのことだった。でも、そのアインシュタインが毒ガス兵器よりも怖ろしい、原爆の開発を主導していたんだから、何とも皮肉な話である。
 
  戦争が終わると、勝者の英米は900名の「戦犯」を追求するリストを作成していた。「まさか !」と思いたいが、このブラック・リストにハーバーの名前が載っていたのだ。いくら非戦闘員の科学者といえども、戦争協力者なんだから仕方ない。この処置に異論を唱えるユダヤ人だって、第二次大戦後ナチスに協力した科学者を赦さなかったんだから、どうこう文句は言えないんじゃないか。そこで、「戦犯」にされて怯えたハーバーは、お気に入りの化学者用制服を脱ぎ捨てて、一目散に国外脱出を図ったそうだ。しかも、ご自慢の髭を剃り落とすほど怯えていたそうだ。こうした「身支度」を整えたハーバーは、電光石火の如くスイスに逃亡したのだが、それでも安心できなかったのか、ハーバーは戦犯の訴追をかわすため、サンモリッツ(Sankt Moritz)で国籍を取得することにしたという。ところが、あっけなく戦犯捜しは終わってしまい、ハーバーは安心してベルリンに戻ることができた。第一次大戦の頃は、まだ歐米諸国に常識が残っていていたから、敵国を裁判にかけてまで折檻しようとは思っていなかったのだ。ちなみに、戦争中は「邪悪」なドイツであったが、スウェーデンの学界はそれを気にせず、太っ腹とも思えるくらいドイツ人学者にノーベル賞を与え続けていた。1914年から1919年の間に、電磁波を研究したマックス・フォン・ラウエ(Max von Laue)、ガス・マスクを開発したユダヤ人のリヒャルト・ヴィルシュテッター(Richard Willstätter)、「量子力学の父」マックス・プランク(Max Planck)、ユダヤ人嫌いのヨハネス・スターク(Johannes Stark)などが受賞している。ハーバーも1918年に受賞した。

Richard Willstatter 1Max von Laue 1Max Planck 2Johannes Stark 1








(左:  リヒャルト・ヴィルシュテッター / マックス・フォン・ラウエ / マックス・プランク / 右: ヨハネス・スターク )

  栄誉ある化学賞をもらう前のハーバーには、もう一つ別の慶事があった。クララに先立たれて男鰥(やもめ)となっていたハーバーは、1917年に新たな妻シャーロット(Charlotte)を迎える事になった。そして、彼女との間には娘のエヴァと息子ルートヴィッヒが生まれたという。しかし、再婚を果たしたハーバーであったが、その後二人は別れることになる。この離婚劇はさておき、ドイツに戻ったハーバーは、以前の生活を取り戻したかのように見えた。ところが、1930年代になるとドイツの雲行きが怪しくなってきたのだ。ウィルヘルム研究所で独自の研究部署を任されていたハーバーだけど、ユダヤ人であることには変わりがない。彼はユダヤ人を憎むヒットラーの出現で、科学者の地位を失う窮地に追い込まれてしまう。1933年の公務員法でハーバーは、四人のユダヤ人研究員を解雇せねばならなくなったのだ。(ハーバート・フロイントリッヒHerbert Freundlich,ハートムート・コールマンHartmut Kallman, マイケル・ポランニーMichael Polanyi, ラディスラウ・ファーカスLadislau Farkasの四人。) そして、ナチ党の人種政策に憤慨したハーバーは、1933年4月30日、研究所を去るため辞職願を提出したという。この辞任劇を耳にしたマックス・プランクは教育文科大臣のベルンハルト・ルスト(Bernhard Rust)を通して直訴したというが、総統の考えは変わらなかったそうだ。

Herbert Freundlich 1Hartmut Kallmann 1Michael Polanyi 1Ladislaus Farkas 1








(左: ハーバート・フロイントリッヒ  / ハートムート・コールマン  /  マイケル・ポランニー  /   右: ラディイラウ・ファーカス)

  失業したハーバーには、日本やフランスからも誘いがあったというが、最終的に英国のウィリアム・ポープ卿(Sir William Pope)の誘いに乗って、ケムブリッヂ大学に向かうことになったという。この地でも、またハーバーは運命的な出会いを迎える。以前このブログでも紹介した、科学者にして政治家であるハイム・ワイズマン(Chaim Weizmann)と邂逅(かいこう)したのだ。ワイズマンはハーバーに、パレスチナへ移住して、開設間もないダニエル・シフ研究所(Daniel Sieff Institute)に勤めないか、と誘ったらしい。ワイズマンはパレスチナに立派な研究機関を創りたかったそうで、ハーバーは打って付けの人材だった。ところが、ハーバーは未だに自分を「ドイツ人」と考えていたので、遠い外国に渡るつもりはなかったらしい。当時のドイツ系ユダヤ人は、異郷のドイツを本気で「祖国」と考えていたようだ。そういえば、中世史家のエルンスト・カントロヴッツ(Ernst Kantorowicz)も本当にドイツを愛していたらしい。また、ウィーン生まれのシュテファン・ツヴァイク(Stefan Zweig)も故郷を終始愛しており、ヨーロッパの未来に絶望したこの伝記作家はブラジルで自殺を遂げたのだ。

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(左: ハイム・ワイズマン  /  中央: エルンスト。カントロヴィッツ  / 右: シュテファン・ツヴァイク )

  1934年に入ると、英国で亡命生活を送っていたハーバーは、“これ”といった当てもなく、スイスのバーゼルを旅行したそうだ。しかし、現地で体調を崩し、1月29日、心臓発作でこの世を去ることになった。ハーバーの遺書により、彼の遺体はスイスの地に埋葬され、クララの灰も隣に埋められたという。最初の妻の方が忘れられなかったのかのかなぁ、と思うとちょっぴり悲しくなる。彼の研究は「チクロンB」の開発に繋がったと言われるが、この薬品は殺虫剤で人間用ではなかった。何の物的証拠も示さず、反対尋問の証言でもない噂話を基に、「ガス室殺人」をでっち上げるユダヤ学者と、「ホロコースト・ビジネス」で利益を得る映画人には吐き気がする。もし、ハーバーが生きていたら、「絶滅収容所」の調査をしてもらいたかった。でも、さすがのハーバーも同胞の前では、科学者の良心を捨て去り、「あった、あった」と騒ぐだろう。だって、「科学的事実」より、「同胞愛」のほうが大切だもんね。

 


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新ワンダー・ウーマンはフェミニストの理想?!

教科書に載せて全日本人に知らせたい現代史 支那人の卑史 朝鮮人の痴史
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困難だった映画制作

GalGadot & Chris PineLynda Carter 5









  日本ではまだ公開されていないが、アメリカでは既に上映された新作『ワンダー・ウーマン』は、結構いい評判であるるようだ。この作品は随分と長い時間をけて制作されたそうで、当初は成功するかどうか危ぶまれていた。映画の企画は1999年の頃から持ち上がっていたようで、制作元のワーナー・ブラザーズとシルヴァー・ピクチャーズは、ジョン・コーエン(John Cohen)を脚本家にして、映画制作を進めようとしたらしい。制作指揮を依頼されたコーエンは、ダイアナ(ワンダー・ウーマン)役を、有名女優のサンドラ・ブロック(Sandra Bullock)にしようかと考えていたそうだ。確かに、ブロックは知名度抜群だが、スーパー・ヒロインには向かないんじゃないか。代表作の『スピード』で演じたような、素人娘役が似合っており、アクション映画には不向きなように思えてならない。

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(左: サンドラ・ブロック  /  右: アンジェリーナ・ジョリー)

  配給会社はコーエンに任せるつもりだったが、彼が仕事を断ると、脚本担当はトッド・アルコット(Todd Alcott)やレオナード・ゴールドバーグ(Leonard Goldberg)に移ったというが、どちらも頷かず実現しなかった。そうこうしているうちに2010年となってしまい、監督役はジョス・ウィードン(Joss Whedon)に廻って行ったという。彼はダイアナ役をアンジェリーナ・ジョリー(Angelina Jolie)にしようかと考えていたそうだ。なるほど、ジョリーなら『トゥーム・レイダー』や『Mr. & Mrs. スミス』、『ソルト』でアクションをこなしているし、体型もスーパー・ヒロインにピッタリだ。出演料は高くつくが、宣伝効果を計算すれば決して高くはない。ただし、ああいった“大女優”になると、色々と注文が飛び出しそうだから厄介だ。でも、そこは大手の映画会社が根回しをするから安心なのかも。

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(左: アイリーン・ウォーノス  / 中央: 「アイリーン」に扮したセロン / 右: パティー・ジェンキンズ )

  ところが、ウィードンも監督を降りてしまい、作品の撮影は再び延期され、宙に浮いた状態となってしまった。そこで制作会社が白刃を矢を立てたのが、女性監督のパティー・ジェンキンズ(Patty Jenkins)だった。彼女は殺人犯の伝記を映画化した『モンスター』の監督として知られている。ハリウッド・スターのシャーリーズ・セロン(Charlize Theron)が、連続殺人鬼のアイリーン・キャロル・ウォーノス(Aileen Carol Wuornos)を演じて話題となったが、日本ではさほど人気にならなかった。そもそも、なんでわざわざ美人女優を起用して、不細工な役柄を演じさせたのか? ギャラと美貌の無駄である。最初からアイリーンと似ている“不美人”女優を雇って、ノーメイクで演技をさせればいいじゃないか。美人をブスにする事で喜ぶのは、フェミニストかその類いの女性くらいである。フェミニストの性(さが)は非常に厄介で、女に生まれたことで“楽しい”思い出や体験が無い。男性から“ちやほや”されないし、鏡を覗けば憂鬱になる。男子の友達から食事に誘われないし、誘われたとしても「僕がおごるから !」という言葉はなく、いつも「じゃ、割り勘ね !」という「平等主義」の合い言葉だけ。彼女たちにとって「レディー・ファースト」は利益の無い慣習で、クルマに乗せてもらう時も、男から「ドアくらい自分で開けられるだろう」と言われてお終い。これじゃ性格が歪んでしまうだろう。だから、フェミニストには男社会への恨みが募っている。「女の価値は容姿じゃないのよ!」という怨念が根底にあるんだから恐い。したがって、こういった女性と理性的に話しても無駄。(男女平等なんだから「特別扱い」は無いはずなのにねぇ。)

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(左: シャーリーズ・セロン  /   右: 「アイリーン」を演じたセロン )

  一方、『モンスター』に出演したシャーリーズ・セロンは、フェミニストの評論家から、その「演技力」を絶讃されて喜んでいたけど、オツムの足りないセロンには、巧妙に「美しさの撲滅」を謀る左翼の意図が見抜けなかった。監督のジェンキンスは、大根女優を「実力派女優」にして満足だろが、日本の観客からすれば人材の無駄遣いにしか見えない。日本人なら適材適所考えるだろう。例えば、かなり昔のことだけど、緒形拳が岩下志麻と一緒に『鬼畜』という作品に出演し、子供を殺す犯罪者を演じたことがある。当初、監督は緒方ではなく渥美清を考えていたそうだが、『寅さん』のイメージが悪くなるのを懸念した事務所が断ったらしい。でも、緒形拳で正解だった。元「仕掛人」の緒方なら、簡単に冷酷な殺人鬼を表現できるじゃないか。ただし、温厚そうな渥美清が演じたら、それはそれで恐いから、効果があったのかも知れない。しかし、観客の反応がどうなるのか未知数だからやめておいてよかった。関係無いけど、役者には“はハマリ役”というものがある。例えば、『ねこタクシー』のカンニング竹山は良かった。何と言っても藝能人のオーラがゼロで、いかにも居そうな、うだつの上がらないタクシー運転手を演じていたからだ。しかも、猫を隣に乗せたり、公園で一緒にお弁当を食べるシーンは“しんみり”していて哀愁が漂っていた。やはり、映画は内容に合った配役じゃないと。もう一つ筆者の好みを言わせてもらえば、竹山の相棒となる「御子神(みこがみ)」さんは、三毛猫じゃなくて茶トラ猫の方が良かったなぁ。

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(左: アラン・ハインバーグ  / 右: リンダ・カーター版のワンダー・ウーマンを描いたイラスト )

  脱線したので話を戻す。『ワンダー・ウーマン』の監督を任されたジェンキンズだが、当初は余り期待されておらず、映画会社の方も成功するかどうか不安だったという。ところが、その予想に反して映画は大ヒットとなり、続編の制作も決定したそうだ。時代の変遷とは驚くべきもので、1970年代に作られたテレビ版と比べれば画質も良くなり、莫大な予算も得ていたから、豪華な作りとなっている。ところが、この作品にはいまいち特徴や味わいが無い。確かに、派手なアクション・シーンが満載で、CGも素晴らしいのだが、只それだけである。おまけに、作品の色調はリベラル派が喜びそうな思想が基調になっていた。例えば、ダイアナと諜報員のスティーヴ・トレバーが向かう英国は、男尊女卑の社会となっており、貞淑な女性が基本とされ、ダイアナのような御転婆(おてんば)娘は白い目で見られるという設定なのだ。長いスカートを窮屈に思うダイアナのシーンは、当時の慣習に対する諷刺となっている。まぁ、こんなストーリーになるのも当然で、脚本家のアラン・ハインバーグ(Allan Heinberg)はユダヤ人のゲイだから、礼儀正しい英国文化が大嫌い。何でも「平等」、如何なる「差別」も許さないとするユダヤ人らしく、理不尽な倫理道徳を憎んでいる。彼らはどんなに下品でも、好き勝手に暮らせる「自由」の方がいい。信仰心を捨てたユダヤ人は、忌々しい西歐人が守る礼節など馬糞くらいにしか思っていないのだ。ちなみに、ハインバーグは『セックス&ザ・シティー』『グレイズ・アナトミー』『スキャンダル』といったTVドラマを手掛けている。また、彼が制作した「ゲイが夢想するバナナとキュウリ」という卑猥なCMを観れば、何となく彼の正体が分かるはずだ。

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(左: エーリッヒ・ルーデンドルフ  /  中央と右: ルーデンドルフを演じたダニー・ヒューストン)

  DCコミックスには幾つかのルールがある。その一つは、ドイツ人はいつも悪人ということだ。したがって、ドイツ軍が悪役になっていたのは毎度の事で、今回の作品は更にスケールがアップしており、ワンダー・ウーマンが戦争神アレス(Ares)と戦う設定になっている。物語の中では、歴史的に有名なドイツ軍のエーリッヒ・ルーデンドルフ大将(Erich F. W. Ludendorff)が登場し、その役をダニー・ヒューストン(Danny Huston)が演じている。戦史を勉強したことがある人なら、これを見て呆れ返ってしまうだろう。タンネンベルクの戦いに貢献し、優秀な参謀であると共に高名な政治家となった軍人が、残忍冷酷な悪役になっているのだ。また、戦時内閣で平和を訴えていたパトリック・モーガン卿(Sir Patrick Morgan)役をデイヴィッド・シューリス(David Thewlis)が演じていて、その正体は神々を殺しまくったアレス神となっていた。彼とワンダー・ウーマンの戦闘シーンは、派手なCGを使って演出され、映画のクライマックスになっている。強大なパワーを有する破壊神が登場していることからも分かる通り、『ワンター・ウーマン』は諜報活動を基本にしたスパイ・アクション映画というより、超能力者のミュータントが出てくる『X-Men』のようになっている。日本で言えば「ドラゴンボール超」みたいなものだ。

  新たにリメイクされた『ワンダー・ウーマン』は元々フェミニズムの産物だから、監督のジェンキンズがその路線で制作してもおかしくはない。(この点については、以前当ブログで触れたので、興味のある方は「ワンダー・ウーマン」の記事を読んでください。) それに、総指揮を執ったジェンキンズ自身がフェミニストで、その母親エミリーもフェミニストだったというから、もう筋金入りのリベラル派である。また、彼女の思想は意外と単純で、アクション映画を好むのは男性ばかりじゃない、人類を救うヒーローがいつも男性というのはおかしい、という考えらしい。ジェンキンズが思い描く「ワンダー・ウーマン」は、女性だって力強くなれるし、「スーパーマン」や「バットマン」に負けず劣らず、格好いいスーパー・ヒロインになれるんだ、という主張に基づいている。

Gal Gadot 7Gal Gadot 1








(左: 「ミス・イスラエル」に選ばれたガル  /  右: 女優になったガル・ガダット)

  だが、皮肉なことに、ワンダー・ウーマンの成功は「女性的セクシーさ」が隠し味になっている。それに、か弱いはずの女性が驚異的な強さを発揮する点にこそ、「ワンター・ウーマン」の魅力があるのだ。ダイアナ役を演じたガル・ガダット(Gal Godat)は、モデル業もできるほどプロポーションが良く、重量挙げ選手とは違った体型を持っている。もし、ヒロインとなるダイアナ・プリンスが、ゴリラみたいな“ごつい”顔で、元プロレスラーみたいな体型だったら人気は出ない。一見すると華奢な体つきの女優だから、一般の観客が魅了されるのであって、肩の筋肉が盛り上がり、首が筋肉に埋もれ、太腿が丸太より太くて、がっしりと短く、腰と尻が区別できぬほど頑丈な体型だと、確かに強そうだが、お金を払ってまで見たいとは思わない。つまり、女性らしいバストやヒップ、すらりと伸びた脚などがあるから魅力的なのである。映画だからしょうがないけど、男がいないはずのアマゾネス社会で、みんなが化粧をしていたのは奇妙だ。

Robin Wright 3Ann Ogbomo 2(左ロビン・ライト  /  右アン・オクボモ)
  しかも、女ばかりの世界で男を意識した格好なんておかしいじゃないか。南米にある原始的なインディオの村では、女性が胸を隠さす、乳房を露出したままで生活をしているんだから、アマゾネスの島でもみんなノーブラでいいはずだ。それなのに、ギリシア人と同じような服装をしているんだから、本当におかしい。不思議なことは他にもある。古代ギリシアの競技では、選手の男たちは全裸で槍投げをしていた。それなら、アマゾネスたちも全裸で剣術を練習してもいいはずだ。でも、そこだけは妙に西歐的で、男優りの女たちにも「羞じらい」がある。もっとも、アンティオペ将軍(Gen. Antiope)を演じていたロビン・ライトなら、交渉次第で全裸の役もOKしたかもねぇ。他方、「フィリッパス(Philippus)」を演じたアン・オクボモが全裸になっても、あまり話題になりそうもない。アフリカに行けば、それ風の女性を観ることができるからだ。

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(左: ドイツ人のカップル  /  右: ドイツ軍人 の家族)

  米国のDCコミックスを実写化した映画に共通しているんだが、ぶっ殺しても可哀想に思えない悪役にはドイツ兵が適している。確かに、第一次・第二次世界大戦で、ドイツは英米の敵となった。そして、激戦の末に英米軍が二度も勝ったから、アメリカ人やイギリス人にとっては、ドイツ軍将兵が格好の悪役だ。恨み骨髄のユダヤ人脚本家たちは、ドイツ兵にだって心優しい人物もいるだろう、とは考えない。ドイツ軍将兵は、ことごとく冷血漢。立派なドイツ軍将校と下品なアメリカ兵を対比することはなく、女子供対しても残酷なのがドイツ人で、人情に厚く道徳的なのがアメリカ人となっている。だから、ハリウッド映画はいつもワン・パターンだ。そもそも、アメリカの観客は「正義の味方が必ず勝つ」という絵本みたいな作品しか好まないし、ハッピー・エンドになると分かってる映画じゃないと喜ばない。だいたい、ドイツがどこにあるのか地図上で示すことが出来ないアメリカ人に、複雑な歴史的背景を理解せよと要求する方が無茶で、彼らは勧善懲悪の単純な映画しか受け付けない。どちらが「善」なのか“はっきりしない”作品は、大衆社会のアメリカでは“うけ”ないし、企画段階で「ボツ」になってしまうのだ。

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(左: 英米人が憎むイツ人の少女たち  / 右: 英米人が好むユダヤ人の男性 )

  とにかく、ハリウッドで制作されるアクション・ヒーロー映画には、ユダヤ人の意図が見え隠れするから気持ちが悪い。というのも、ユダヤ人を“いじめた”ドイツ人は極悪人、という刷り込みが含まれているからだ。二度の大戦は、西歐系のアメリカ人と「非ユダヤ系」のイギリス人のが主体となって戦った死闘である。ユダヤ人が先頭に立って戦った訳じゃない。そこで、ハリウッドのユダヤ人たちは巧妙な構図を考えていた。すなわち、ドイツ軍を悪く描くことで、それを倒した英米軍が救世主となり、彼らが救ったユダヤ人は「可哀想な被害者」となる。そして、ユダヤ人が英米人を称讃すればするほど、英米人の頭の中では、ドイツ人が極悪人となり、その悪党によって迫害されたユダヤ人は、益々哀れな“弱者”となって「正義の味方」に与する一員になるのだ。いくつかの映画では、復讐心に燃える勇敢なユダヤ人が秘密工作員になったり、情報将校として必死の活躍したり、という設定がよく見られる。しかし、当時の英米を調べてみれば分かるが、一般的にユダヤ人は嫌われ者で、隣人とか友人にしたくない民族であった。ユダヤ人の難民受け容れに関する世論調査でも、六割以上のアメリカ人が「反対」と答えたそうだ。

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(写真 / 英米のゲルマン系国民が「友人」と思うユダヤ人のタイプ)

アメリカのヒーローになったユダヤ人のヒロイン

  ハリウッドのユダヤ人たちからすれば、憎いドイツ軍をやっつけるのは「ユダヤ人将兵」であって欲しいが、実際の歴史を見ると、大抵のユダヤ人はあっけなく殺されるか、ビクビクしながら家畜のように追い立てられ、収容所に閉じ込められて終戦を迎えただけである。これじゃあ、ユダヤ人は意気銷沈だ。そこで、西歐人の容姿をした俳優を「主人公」にして、ユダヤ人の夢、すなわちドイツ兵をコテンパンにやっつける「ヒーロー」に仕立て上げた。ところが、最新作の「ワンダー・ウーマン」では、従来の「代理人」ヒーローではなく、本物の「ユダヤ人」が憧れの「英雄」になったのだ。しかも、主役を射た止めたガル・ガダットは、2004年、18歳の時にミス・イスラエルに選ばれたスーパー・モデルである。(Gabe Friedman, "Is Ga Gadot On Her Way To Being The Biggest Israeli Superstar Ever? ", The Jewish Daily Forward, May 29, 2017) これならイスラエルのユダヤ人は大満足。何と言っても、彼女は兵役を済ませた女優であるから、イスラエル軍としても誇りにできる。現地の主要メディアによると、「イスラエルとその国民は、ガル・ガドットのようなヒロインが必要なのだ」とのこと。まぁ、彼らがそう思っても致し方ない。国際社会に流布するイメージといったら「醜いユダヤ人」という否定的なものが大半である。ところが今回、イスラエル出身のユダヤ人女優が、このネガティヴ・イメージを払拭してくれたのだ。イスラエル国民が喜んだのも無理はない。(Danielle Berrin, Gal Gadot and the Jewish essence of Wonder Woman, Jewish Journal, May 31, 2017) 

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( 写真 /  リンダ・カーター)

  イスラエルや歐米諸国に住むユダヤ人が、ガル・ガダットをこぞって持て囃したのは分かるが、普通のアメリカ人からしたら、今回のキャスティングにはどうも納得が行かない点がある。1970年代に制作されたテレビ版だと、リンダ・カーター(Lynda Carter)がワンダー・ウーマン役を務め、絶大な人気を誇っていた。彼女は今でも語り継がれるほどの功績を残している。そのカーターも1972年に「ミス・ワールド」のコンテストに出場し、合衆国代表となった。しかし、世界大会の最終予選に残ったものの、オーストラリア代表のベリンダ・R・グリーン(Belinda Roma Green)に破れてしまい、ミス・ワールドの王冠を逃してしまったというから、本当に惜しい。それでも、カーターの美貌は業界の注目を引いたようで、彼女はファフッションモデルとなり、次第にテレビ・ドラマへと進出するようになった。そこで運命の『ワンダー・ウーマン』に出逢い、ダイアナ役を演じて世界的知名度を得ることになるのだ。日本でも『ワンダー・ウーマン』はテレビで放送され、多くのファンを獲得したことは人々の記憶に残っている。

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(左: ガル・ガダットによる新しいワンダー・ウーマン  /  右: リンダ・カーターが演じた昔のワンダー・ウーマン)

  翻って、ガル・ガダットは“ちらっ”と見れば美人に見えるが、アメリカだとあの程度なら「平均」、あるいは「凡庸」といった評価がせいぜいで、冷静に見れば際立った美人ではない。だが、人々の印象はどうにでも変化するので、彼女がスーパー・スターになるのも夢ではないし、各マスメディアが頻りに持ち上げるから、徐々にではあるが「美人」に見えてくる。それに、ハリウッドで雇われる化粧アーティストの腕は超一流だから、どんなに貧相な素材でも絶品にする事など朝飯前。まさに「職人技」だ。ガルの起用は偶然なのかも知れないが、筆者にはどうしても疑いたくなる点がある。もしかしたら、「ガルの採用はジェンキンズ監督の“好み”が反映されたのでは?」と思えるからだ。なぜなら、フェミニストのジェンキンスが選ぶフェミニズムのヒロインには、妖艶な「美人」が適さないからである。つまり、「色気」より「筋肉」の方が優先されるというわけ。

Audrey Hepburn 1(左  /  オードリー・ヘップバーン)
  確かに、ガルはブスじゃないけど、男性の観客が喜ぶようなセクシー女優ではない。これはゲスの勘ぐりだけど、ジェンキンズ監督は、無意識的に美人女優に嫉妬を覚え、嫉妬を感じないガルに目をつけたんじゃないか? なるほど、アクション・スターを求めていたからガルに決めた、という言い訳も成り立つだろう。しかし、たとえ武術の素人でも、地道な訓練と最新技術の特撮でどうにでもなるはずだ。こう考えると、ジェンキンズが理想とするスーパー・ヒーローは、女の“香り”を除いた戦士だったのでは、との疑問が湧いてくる。うがった見方をすれば、「女の色気」を前面に出す女優より、「性的魅力」の薄い女優を選んだんじゃないかと思えてしまうのだ。日本では女優の評価で「綺麗」と「可愛い」、「美人女優」と「実力派女優」といった区別があるけど、米国でもあるみたいで、名作『ローマの休日』で一躍有名になったオードリー・ヘップバーンは、大女優になったけど、セクシーさが足りなかったので、「お嬢様」の役しかできなかった。『麗しのサブリナ』『ティファニーで朝食を』『マイフェアレディー』『おしゃれ泥棒』などで有名になったが、若さが失せると価値が激減し、あとは定番の親善大使になるしかなかった。ちなみに、決して美人女優じゃないけど、『愛の嵐(The Night Porter)』でルチアを演じたシャーロット・ランプリング(Charlotte Rampling)には妙な「セクシーさ」があった。歳を取ってもどことなく魅力的で、人気TVドラマ『デクスター』のシーズン8に出演していて、とても懐かしかったのを覚えている。印象的な女優は中高年になっても存在感を持っているという実例だ。

Charlotte Rampling 6Charlotte Rampling 7Charlotte Rampling 2










(左と中央: 若い頃のシャーロット・ラナンプリング  /  右: 最近のランプリング)

  またもや脱線したので元に戻すと、監督のパティー・ジェンキンズは、フェミニズムの宣伝だけではなく、他にも政治的メッセージを込めていたそうだ。日本人も奇妙に思うだろうが、今回の作品はナチスが登場する第二次世界大戦ではなく、第一次世界大戦が時代背景となっている。その理由をジェンキンズ自身が述べていた。彼女は「ナショナリズム」の台頭に警鐘を鳴らすつもりで、第一次大戦を選んでいたのである。(Matthew Rozsa, "The confused, confusing nationalism behind, Wonder Woamn", Salon, June 6, 2017) 彼女は丁度100年前に起きた戦争を、現在の国際的危機に結びつけたかったらしい。いかにもリベラル派らしい発想で、「ナショナリズムは悪」と考えるユダヤ人の意向と一致する。国際的「根無し草」の民族にとって、同じ種族の仲間で団結しようとするナショナリズムは、身の毛もよだつ悪夢となるからだ。でも、一番強烈な国家意識をもっているのはアメリカ人なんじゃないか? (イスラエルのユダヤ人を除いたらの話けれど。)

洗脳映画をつくるハリウッド

  アメリカ国内で好成績を上げ、イスラエルでも歓迎された『ワンダー・ウーマン』だが、その裏で様々な問題が起こっていた。例えば、レバノンやチュニジアでは上映禁止となったらしい。やはり、イスラエル軍を連想させる女優の起用で、イスラム諸国が難色を示したのであろう。たかだか一本の娯楽映画なのに、公的機関が介入してくるなんて異常で、我々だと「過剰反応なんじゃないか」と思ってしまうが、大衆に及ぼす影響を懸念する政府だと、上映許可を渋ってしまうのだろう。洗練されたエンターテイメントが乏しい国では、映画といえども強力なプロパガンダとなるから、自由放任のままという訳にも行くまい。アメリカ人は気づいていないけど、彼ら自身が既に洗脳されているのだ。第一次と第二次世界大戦は「光と闇」、「正義と悪魔」との戦いにされているが、そこでの戦死者や破壊の規模を考えれば、とても「良い戦争」とは思えない。

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(左: ドイツの軍人  / 中央: ドイツ人のカップル /  右: ドイツ人の少女)

  それに、どうしてゲルマン系のアメリカ人やイギリス人が、いつまでもゲルマン系のドイツ人を「敵」と見なす必要があるか? ナチスのドイツ軍将校は“いつも”残忍冷酷だけど、彼らにだって両親や兄弟、女房や子供がいるはずだ。映画の半分くらいは、温かい家庭のドイツ兵を描いてもいいはずで、ドイツ貴族を紹介すれば、ドイツ人の方が好ましく思えてくる。その証拠に、ドイツ軍を唾棄するアメリカ人やイギリス人が当時のドイツを撮したフィルムを見れば、その美しい娘たちや立派な軍人に感動するはずだ。もし、反ドイツ映画しか知らぬアメリカ人が、髭もじゃのユダヤ人とか、“へちゃむくれ”のユダヤ娘を目にすれば、現実の彼らに嫌悪感を抱くだろう。実際、ゲルマン人ばかりが暮らすドイツ人村と、ユダヤ人だらけの村を比較すれば、大抵の歐米人は「ドイツ人村」に住みたいと答えるはずだ。不動産屋だって、ゲルマン人が住む土地の価格を高くし、ユダヤ人が住む土地の物件には、「お手頃価格」をつけるだろう。

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(左: ヴィクトリア女王  /  中央: ウィルヘルム2世  /   右: ジョージ5世)

  最近の日本人は忘れているけれど、ドイツ皇帝のウィルヘルム2世は英国王ジョージ5世は従兄弟同士で、ヴィクトリア女王が共通の祖母となっている。(ウィルヘルムの母ヴィクトリアは、ヴィクトリア女王の長女である。) 第一次世界大戦はある意味、英独の間で生じた従兄弟同士の戦争となっていて、そこに途中からアメリカが参戦し、英米独で厖大な損害を出したというのが実態だ。負けたドイツがヴェルサイユ条約で苦しんだのは有名だから説明するまでもない。一方、英国はこの戦争で国家の屋台骨が揺らいでしまったのだ。優秀な人材がバタバタと倒れ、惜しい人材が大勢墓場行きとなった。何で参戦したかも分からぬまま負傷したアメリカ兵は愚痴をこぼしてばかり。「もう歐洲の戦争に係わりたくない」と考えても不思議ではない。もちろん、戦死者にも数々の不満があるが「死人に口なし」で、当り前だけど、何の愚痴も記録に残っていないのだ。ということで、ユダヤ人が介入しなければ、今頃は英米独の国民同士で和解が実現し、「お互い馬鹿な事をしましたね」で済むのだ。しかし、このままハリウッドの洗脳が続けば、千年経ってもドイツ軍は極悪人のままである。朝鮮人は千年経っても日本人を赦さないそうだが、ユダヤ人は二千年経っても恨みを忘れないだろう。支那人といい朝鮮人、ユダヤ人など、アジア大陸の民族はしつこくて、ネチネチしている。我々はあっさりした日本人に生まれて本当に良かった。




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