黒木 頼景
成甲書房
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「安全保障」の専門家 ?
世間には様々な有名人がいる。見た目とは違って素晴らしい人もいれば、“とんでもない”食わせ者がいるから、上っ面(ツラ)だけを見て判断してはならない。例えば、映画の中でチンピラやギャングを演じる「悪役商会」の俳優なのに、私生活では意外と優しい紳士といった人物もいるし、他方、正義感に溢れる刑事役とか熱血教師を多数演じる二枚目男優なのに、舞台裏に廻ると陰険な意地悪だったりするから、外見に惑わされると“ひょんな事”で痛い目に遭う。
筆者は参議院議員として活躍する青山繁晴に興味が無く、その話を退屈に感じていたから、彼が「虎ノ門ニュース」や「チャンネル桜」に出演しても、視聴することはあまり無かった。ところが、数週間前、偶然にも「ユーチューバー」のKAZUYA君が制作した動画を目にし、青山議員が奇妙な発言を口にしているというので驚いた。というのも、青山氏が出演番組の中で「講演会の前に聴衆からの質問を1,000件覚える」とか、「パソコン四台を並べて、四つの原稿を同時に書く」と述べていたからだ。「本当なのか?」と猜疑心が湧いたので、元の映像を探したところ、匿名人物による「青にゃん劇場」という編集動画があったので、一応覗いてみた。
確かに、番組の中で青山議員が「疑惑の話」を披露していたので、「えっ !」と呟いてしまったが、“編集動画”なのでそのままでは鵜呑みにできない。例えば、青山氏は「幼少の頃から記者時代まで腕のみならず、体のあちこちから金粉が出ていた」と述べているが、どういう文脈で発言したのか解らないから、巧妙な切り貼り動画の可能性がある。まさか、正常な大人がそんなヨタ話をするとは思えない。また、ある癌患者が青山氏の著作『ぼくらの死生観』を読み、偶然、青山氏と握手をしたら、後日、癌が消えていたという話もあった。でも、これだって単なる「偶然」で、青山氏の念力で治った訳じゃないだろう。もしかしたら、「青にゃん劇場」の制作者が意図的に青山議員を貶めるため、「編集」がバレない程度に映像を繋ぎ合わせ、印象操作をしているのかも知れないのだ。
ただ、気になるのは、青山氏が軍事ニュースで奇妙な間違いをしていたことである。(これだって、偽情報の可能性は否定ではないけど。) 例えば、「虎ノ門ニュース」に出演した時、護衛艦「いずも」の写真を指して「空母ロナルド・レーガン」と呼んでいたのだ。まさか、そんな間違いはないと思うが、こうした解説映像を見てしまうと、「あれっ!」と眉を顰めても不思議じゃない。以前、チャンネル桜で井上和彦が護衛艦「いずも」の艦内を紹介していたから、素人でも米軍の原子力空母と間違わないはずだ。また、青山氏は自衛隊の「エア・クッション型揚陸艇」の写真を前にして、「これは国際社会においては強襲揚陸艦です」と喝破していたから、「言葉を間違えているんじゃないか?」と質問したくなる。もし、一般の日本人が「強襲揚陸艦」と聞けば、「ワスプ級の強襲揚陸艦(Wasp class amphibious assault ship)」や「エセックス(USS Essex)」を頭に思い浮かべてしまうから、「ホバークラフト」のような「エア・クッション艇(LCAC / Landing Craft Air Cushion)」を想像することはない。
青山氏の軍事知識には首を傾げたくなる点が多く、アメリカの軍事衛星では、地上にある10cm四方のモノ鮮明に見えるらしく、机に置いたコーヒー・カップがガラス製なのか陶器なのかの区別がつくらしい。たぶん本当なんだろうが、現在の解析度がそこまで進化しているとは驚きだ。軍事技術は急速な発達を遂げているから、勉強しないと最新技術に疎くなる。もう一つ、おかしいのは、青山氏が述べるステルス機の説明である。普通、ステルス爆撃機はミサイルを内蔵し、敵のレーダーに補足されないように飛行するのに、青山氏の解説では、ミサイルが外附になっているのだ。言うまでもなく、ミサイルを「外附」にしたらステルス機の意味が無い。そういえば、青山氏は2017年7月からずっと「朝鮮半島で有事が起きるぞ !」とか、「米鮮の戦いが間近 !」と警告していたが、9月、10月、11月、12月になっても戦争の危機は無かった。青山氏の「予言」は全く当たらなかったが、それにめげず、年末は無いけど「来年早々には起こるかも知れない」と述べていたのだ。おそらく、青山氏はハッタリで「戦争開始」という方に賭けていたんだろうが、その「直感」は当たらず、見事に「ハズレ」てしまった。これじゃあ、「世紀の予想外し」である副島隆彦と同じだ。
とまぁ、青山氏の話には新鮮な驚きが尽きないが、それに附随する疑問点も多い。例えば、青山氏は三沢基地で航空自衛隊のF-2戦闘機に乗せてもらい、8Gの体験をしたというが、60歳代の素人がそんな重力に耐えきれるのか? 青山氏は体を鍛えているので、自衛隊から許可が下りたというが、もしかしたら、有名人に対する“サービス”なのかも知れない。つまり、自衛隊がなす宣伝活動の一環ということしだ。青山氏は自衛隊に好意的な有名人だから、パイロットの橋本勝士・中佐が戦闘機の宙返りをしてくれたり、ドッグ・ファイト並の操縦で最大8.5Gの体験をさせてくれたのかも知れないぞ。ただ、青山氏によると、その飛行時間が1時間半にも及んだというから、筆者にはとても信じられない。8Gを越える重力加速度って結構凄いぞ。例えばもし、体重60kgの人が5Gを体験したら、300kgの力が加わったような感覚になる。したがって、「8G」ともなれば480kgの体重がのしかかったような状態になるから、いくら“強靱な肉体”を誇る青山氏でも、急激な重力加速で脳に血が上らなくなり、酸欠で意識を失う虞(おそれ)もある。しかし、青山氏のことだ。「Gスーツ」を着ていたから大丈夫、と笑顔で答えそうだ。
(左 : 自衛官と一緒の青山繁晴 / 右 : 戦闘機に乗って喜ぶ青山氏 )
カーレースやサーフィンを楽しむ青山議員は、並外れた筋肉を持っているようで、100mを12.4秒で走ることができ、片腕だけで40kgのダンベルを持ち上げられるそうだ。「40kg」といったら、子供一人の体重くらいだが、それを片腕で、しかも左右合計だと80kgにもなるのに、それを持ち上げて筋肉を鍛えているというから凄い。さらに驚くのは、青山氏の眼球で、「3.5」の視力があるらしい。もう、「600万ドルの男(The Six Million Dollar Man)」並のスーパーマンだ。(ちなみに、このTV「ヒーロー」は米国男優のリー・メジャースが演じたステーヴ・オースチン空軍大佐。彼は訓練中の大事故で瀕死の重傷を負う。しかし、米軍の極秘プロジェクトで左目と右腕、両脚が機械のサイボーグに変身する。彼は原子力電池で怪力を発揮し、その両脚を使うと、時速100km/hで走ることもできた。オースチン大佐なら、戦闘機に乗って8Gはおろか、10Gでも13Gでも“へっちゃら”だ。)
日本には信仰の自由があるので、青山氏がどんな宗教を信じようが、お化けを信じようが一向に構わない。しかし、政治と結びつけるなら、せめて根拠を示して欲しい。例えば、青山議員は沖縄戦で悲惨な最期を遂げた「白梅隊」の話をするが、彼が公言する「自決した少女」というのは本当に存在したのか? というのも、筆者は金城和彦(きんじょう・かずひこ)著『嗚呼沖縄戦の學徒隊』を読んでいたから、何となく納得できない。この本は1978年に原書房から出版されているが、筆者が持っているのは平成12年度の再版である。当時、筆者は中村粲先生の『昭和史研究所會報』を購読しており、中村先生が推薦したので即座に購入した。(再版で中村先生は序文を書いている。) 学校の歴史教科書は極左偏向が激しく、金城氏の本は絶対に紹介されない。本来なら、全国の中学生や高校生に読ませるべき必読本なのに、受験勉強には関係が無いから本棚の塵になっている。
青山議員が演説の中で言及する「白梅隊」というのは、沖縄県立第二高等女子学校の生徒で編成された「白梅学徒隊」のことで、彼女達が壮絶な最期を遂げた国吉の豪には、「白梅之塔」が建っている。「白梅学徒隊」の他にも、従軍看護婦となった女生徒は大勢いて、有名なのは沖縄県立第一高等女学校の「ひめゆり学徒隊」、同県立第三高等女学校の「名護蘭学徒隊」、同県立首里高等女学校の「ずいせん学徒隊」、私立積徳高等女学校の「積徳(せきとく)学徒隊」、私立昭和高等女学校の「梯梧(ていご)学徒隊」である。沖縄戦では、こうした乙女達に加え、いたいけな小学生までが軍に協力し、アメリカ兵の攻撃を受けて命を失ったそうだ。戦後の左翼教育では、軍に利用された「憐れな子供達」という説明になっているが、実際は、愛国心に満ちた皇国の少年少女であった。戦場に臨む少年達が記した遺書を読むと、その愛国心と家族への気持ちが伝わってくるので、誰でも熱い涙が止まらなくなる。
青山議員は演説やブログ(2016年4月12日と2017年6月23日の「道すがらエッセイ/ On the Road」)、著書(『危機こそぼくらは甦る』)の中で塹壕に避難した少女達が「自決」したと述べているが、自決したのは僧侶出身の鈴木上等兵と矢野兵長の方じゃないのか? 金城氏の本によれば、学徒隊の大嶺美枝(おおみね・みえ)さんは米軍の艦砲弾が炸裂したことにより亡くなってしまった。また、地下壕にいた上原春江、擇波幸子、上原ハツ子さん等は、米軍の火炎放射器により焼き殺されてしまったという。(金城和彦 『嗚呼沖縄戦の學徒隊』、天正社、平成12年、p.240.) 米軍の攻撃は容赦なく、圧倒的に不利な状況に追い込まれた日本の将兵はほぼ無力。大城政子さん等の看護隊は壕の中に飛び込み、轟音響く猛攻の恐怖に怯えていたが、お経を唱える鈴木上等兵は、大城さん等に「ここから出るんだぞ。最後まで生きるんだぞ」と言い聞かせた。そして、鈴木上等兵は「これまで !」と観念したのか、歩兵銃を喉元にあて、足で引き金を引くと潔く自決したという。(上掲書 p.241.)
大城さん達は鈴木上等兵の遺言に従い、必死で壕を出ることにしたが、入り口は石で塞がっていたそうだ。これは米軍の「馬乗り攻撃」による破壊のせいで、壕内の岩盤が崩れ落ち、その粉砕石が入り口に積もっていたのである。(「馬乗り攻撃」とは塹壕の上から壕内に穴を掘り、そこから手榴弾やガソリンを注入にして、壕内の日本人を追い出そうとする攻撃のこと。) それでも、大城さん達は懸命、石を一つ一つ取り除き、やっと外に脱出できたそうだ。しかし、戦闘の犠牲はあまりにも多すぎた。金城氏の本によれば、学徒隊46名中、35名が散華したらしい。青山氏は白梅隊が「自決」したという壕内に入り、「血を流したオカッパ頭の少女」という霊を見たらしいが、一体、「自ら命を絶った少女」は実際「何人」いたのか? そして、どのような資料から、そうした話を持ち出しているのか、是非、教えてもらいたい。そういえば、青山氏は硫黄島を訪れたとき、激戦地の写真を撮り、その写真には「赤いカーディガンを着た少女」が写っていたそうだ。でも、どんな人物の霊が写っているのか、これも隠さず是非、我々に見せてもらいたい。
青山議員の行動には“おかしな”点が多く、言行不一致と思われても不思議じゃない。例えば、議員選挙に出馬する前、政治家が議員バッチを附けてふんぞり返るなんて恥ずかしい、と述べていたが、イザ当選すると、青山氏は堂々と議員バッチをつけてテレビに出ていた。虎ノ門ニュースを視聴した一般国民は、数十回以上、議員バッジを輝かせる青山氏を見たはずだ。青山議員は演説会場やテレビ局では叛骨精神を掲げ、「国士」を気取るが、永田町では反対の姿を曝け出す。彼は利権政治に与しないと豪語していたが、いざ党議拘束がかかると、入管法の改正、水道法、アイヌ新法に賛成していた。議員バッジをチラつかせる「青山先生」は、散々、「政治家は本来ボランティアであるべし」とか、「移民法には反対します」と述べていたが、自民党の圧力を受けるとクルっと態度を変え、躊躇なく掌(てのひら)を返していた。そして、支持者や視聴者から批判を受けると、「ただ反対票を投ずれば、いいんですか?!」と激しく反撥し、裏切行為の自己弁明に徹していたのだ。
今さら言っても仕方ないが、選挙公約で「議員生活は一期しか務めません」と断言していたんだから、自民党の執行部を敵に廻してでも、信念を貫けばいいじゃないか。たとえ無駄でも、自民党が売国法案を出せば、それに異を唱えるべきだろう。それなのに、青山氏は意外と自民党執行部に従順だ。何らかの裏事情で「賛成」に廻ったのかも知れない。でも、どうせ「一期だけ」なら、「未練」は無いはず。激しく総理大臣や幹事長に叛旗を翻せばよかったのにねぇ~。まさか、「二期目」を狙っているとか? いや、そんなことはないだろう。なぜなら、青山氏はいつでも死ぬ覚悟をしている「護国の鬼」であるからだ。(本人曰わく「ガーディアン<guardian>」であるらしい。) 売国法案に賛成したのは、青山先生の「弱さ」ではなく、みんなが持つ「弱さ」のせいなんだって。まぁ、国会議員は舞台裏手での取引があるから、「正義」や「正論」を求めても無駄なのかも知れない。
青山氏には熱烈なファンが附いており、彼を批判すると猛烈な抗議が来るらしいが、青山支援者はもっと冷静になって、彼の言動を検証してみるべきだ。一般国民は青山氏の熱弁にコロっと騙されてしまうが、よく調べてみると結構“いかがわしい”言論もあるから、そのまま鵜呑みにせず注意すべきである。「前編」では青山氏の不可解な言動に触れたが、「後編」は本題に入り、彼の「米語」について述べてみたい。
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