内なる敵が英雄に

  
9/11テロが起きてからテロリズムを題材にしたドラマが増えてきた。フォックス・テレビの『24』は日本でも大ヒットし、国内テロに完全と立ち向かうアメリカ人のイメージを宣伝する事となった。Showtimeの目玉ドラマが『ホームランド』で、これも全米で人気を勝ち取ったドラマである。
  物語は中東地域での任務でアルカイーダの幹部に拘束され、米国に工作員として派遣されるべく洗脳された海兵隊員が主人公のニコラス・ブローディ軍曹である。ブローディを捕虜にしつつも人間的に扱い、イスラム教徒に改宗させてしまったのがアブ・ニザールというアル・カイーダの幹部である。彼が誰にも知られずブロディに命令を下すハンドラー(指揮担当者)である。その極秘任務とは副大統領暗殺で、ブロディが爆弾ベストを着て自爆テロを起こす、という計画であった。

 デルタ・フォース(陸軍特殊部隊)に救出され、英雄として帰還したブロディを疑いつつも信じて恋に落ちるCIAオフィサー役キャリー・マティソンをクレア・デインズが演じている。戦争捕虜となって帰ってきた軍人が一躍人気者になるのは、ジョン・マッケイン上院議員をモデルにしたのだろう。もっとも、原作はイスラエルのギデオン・ラフ(Gideon Raff)の『戦争捕虜( Hatufim)』で、それをアメリカ風にしリメイクしたのが本作。何年にも亙る苦痛に耐えて帰国した英雄軍曹は、一般国民の支持を勝ち取り下院議員になるといった筋書きである。シーズン1の最終エピソードでは、単純なミスでブロディが暗殺に失敗してしまう。

  こうしたリアリティのあるドラマは日本で作れないだろう。なにせ自衛隊員は軍事ではなく公務員だし、諜報機関や防諜機関も無いスパイ天国だから、作るとしたらせいぜい人情刑事ドラマくらい。『あぶない刑事』『踊る大捜査線』『相棒』などが人気ドラマになって映画化されるくらいだから平和な国だ。いい大人なら無料でも視る気がしないし、お金を払って映画館で観るなんて頭がどうかしている。

イスラエルの方が真の敵

 民衆政国家は大衆社会の中で腐敗してゆく。烏合の衆たる大衆は良書や古典で教養を深めようなどとはしない。昔も今も耳学問かせいぜい絵本くらいが関の山。中世ヨーロッパでは識字率が低くて聖書すら読めない者が大勢いた。聖職者の中にはまともにラテン語を学ばす、説教台から適当に福音を述べる似非司祭もいたくらいである。アメリカの青年が備える知識のほとんどがテレビかインターネットの情報くらいだ。本作ホームランドだってフィクションであると教えなければ、実話かと思ってしまうだろう。確かに若者でも物知りがいる。ただし生半可の知識が頭に詰まっているだけだ。どう判断したらいいか解らない。だから動く絵本、つまり映画で教えて貰って教養人になったつもりでいる。その知識と判断をつくっている者の正体には関心がないのである。誰がどこで作ったか分からないホットドックを食っても平気なのと同じ。

  ホームランドばかりでなく『24』などのサスペンス・アクション・スパイ・ドラマが沢山制作されているのに、不思議なことにイスラエルやユダヤ人がアメリカの敵になる筋書きの作品がないのだ。現実の米国を見ればイスラエルの衛星国みたいに成り下がっているのに誰もそれを題材にして脚本を書かない。ここに最大のタブーが存在する。合衆国政府は何億ドルもイスラエルに資金援助したり、ユダヤ系アメリカ人に政財官界のみならずマスコミ・学界・芸能界までが支配されているのに、テレビ・ドラマやハリウッド映画では無視。イスラエルのスパイと発覚したジョナサン・ポラードは有名なのに映画化されない。モサドが米国内で起こす悪事や中東地域で企てる秘密作戦(black operation)についての映画を我々は観たことがあるのか。まったく題名が思い浮かばないはずだ。

   西欧系白人役者を舞台裏で操る監督、脚本家、映画会社重役、資金投資家がユダヤ人だから。『ホームランド』と『24』の名物プロデューサーであるハワード・ゴードンはユダヤ人である。CIAオフィサーのキャリーが所属する対テロ防諜課のチーフ、サウル・ベレンソンを演じるのはマンディ・パティンキンである。CBSの人気ドラマ『クリミナル・マインド』でFBI心理犯罪特捜課の重鎮、FBIプロファイラーを演じていた俳優。『ホームランド』ではムスリム・テロリストからアメリカを守る愛国者として描かれている。巧妙にアメリカを陰で支えるのは英雄的ユダヤ系アメリカ人といった錯覚を視聴者に植え付けている。現実とは反対のユダヤ人像を一般国民に刷り込んでいるのだ。アラブ人と似たセム系の顔をした異邦人を毎週、西欧系アメリカ国民は観ているのである。中東アジア人の容姿を深いに思わず、同胞として受け入れるように洗脳しているのだ。ジョージ・オーエルなら大笑いでこうした茶番を指摘するだろう。

  定番の歴史教育しか受けていない学校秀才が教養人として振る舞う日本で、西欧世界におけるユダヤ人を説明しようとすれば気が遠くなってしまう。教科書的アメリカ史ですら満足に知らない日本人に、アメリカの裏事情はとうてい分からないし、拒絶反応を起こしてしまうだろう。なにせ大東亜戦争期でも心理戦や宣伝工作に無関心だった日本人だから仕方ないか。つづく。

 

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