暴力が暴力を生む蟻地獄

  シーズン6で愛する妻タラを殺されたジャックスは復讐の鬼となる。日本ではまだ放送されていないので、ストーリーを少し振り返ってみる。サム・クローの裏ビジネスでいつも危険と隣り合わせの生活に嫌気がさしたタラは二人の子供アベルとトーマスを連れてどこか遠くの州に逃げてしまおうと計画する。警察しにクラブにとって都合の悪い証拠を渡す代わりに、保護を受ける取引であった。しかし、タラはジャックスに見つかる。二人は話し合い、理解して仲直りをした。だが、ここで運命の悪戯が起こる。
 
  ジャクスの母ジェマは二人の孫をタラに奪われると勘違いし、激情に駆られてつい刃物を手にしてタラを殺してしまうのだ。タラは殺される前、ジャクスと和解してヨリを戻したので、アベルとトーマスの孫はどこにも行かない。ジェマは祖母として孫を再び抱くことができたのに、タラとジャックスの復縁を知らなかったので、ついカッとなって殺してしまったのだ。更に悪いのは、殺人現場に警察署長エリが現れ、ジェマの殺人を目撃してしまった。すると偶然居合わせたジュースがその署長を射殺してしまう。ジャックスとタラの復縁を知ったジェマは後悔の念で体が震えてしまうのだ。自分が犯した取り返しのつかない嫁殺しをジャックスに秘密にすることにした。そこでジュースは一緒になって秘密を守ろうとする。しかし、裏切り者のジュースはクラブの仲間から追われる逃亡者となってしまう。ジェマも秘密を守るためジュースの逃亡を助ける。

  一方、ジェマたちが殺人現場を後にしたところで、ジャックスはタラの惨殺死体を見つけるのだ。血まみれのタラを抱くジャックスの姿が痛々しい。せっかくまっとうな人生を送ろうと決意した矢先に、こんな残酷な結末を迎えるとは想像していなかった。号泣するジャックスが哀れでならない。復讐に燃えるジャックス。愛する妻を殺されたジャックスは抜け殻となるも、タラを殺した者への復讐心で体がいきり立つ。

  ジェマという女はどうしてこんなにトラブルばかり起こすのか分からなくなる。ジェマは息子ジッャクスに、タラを殺したのは彼が昵懇にしていた支那マフィアのリンが雇っている部下の一人だ、という嘘を囁く。ジャックスは策略を用いてその支那人部下を捕まえてしまう。暗いキッチンでその支那人を縛り上げ、じっくりとリンチを加えながら殺してゆくジッャクス。支那人の体をナイフで刻んだら、その傷口に塩を入念に塗り込む。もがき苦しむ支那人を充分i痛めつけてから、トドメの一撃を加えて殺してしまうのだ。復讐を終えたのに、荒寥(こうりょう)たる虚しさしか残らない。  

  最愛のタラを殺されたジャックスは支那マフィアのヘンリー・リンと黒人ギャング組織のボスであるアウグスト・マーカスを一気に打倒しようと策略を練った。しかし、リンら支那人ギャングは、ジャックスが囲っている売春宿の女たちを鏖(みなごろし)にしてしまう。惨殺屍体の山を見て、ジャックスは呆然としてしまうのだ。そこで、ジャックスは支那人ギャングを騙して、まんまと罠にはめたのだが、リンを殺す前に警察が彼らを逮捕してしまい、リンは刑務所に逃れることができた。

  問題は狡猾な黒人ボスのマーカスである。ジャックスらはマーカスが、ある教会を使って資金洗浄をしようとする情報を掴んだ。その教会の牧師ジョナサン・ハデムはある依頼ですでにジャックスとクラブの者が殺していたのである。表は善人面の牧師が、裏では淫乱生活を送っていたので、ジャックスらが射殺して屍体をもっていた。そうとは知らぬ牧師の妻レティシアと義理の息子グラントはジャックスに協力することになった。ジャックスは彼らがマークスに脅かされて、書類にサインを強要されたとの話をでっち上げる。そうして牧師の遺体をマーカスが所有する工事現場に埋めたのである。そうすれば警察の捜査が始まったとき、マーカスが牧師を殺して自分の所有地に隠したことになる。牧師の未亡人を恐喝したマークスは、遺体が発見され逮捕されるという筋書きをジャックスはつくった。

  ジャクスはレティシアとグラントをクラブの隠れ家に避難させると、マーカスに対して遺体の写真や強要された書類を見せつけて、彼を追いつめようとした。ところが、ジャックスはマーカスを甘く見ていた。前々からジャックスが陰謀を練る策士だと見抜いていたマーカスは、ジャックスより一枚上手であった。( ここからはシーズン7第7話 「Greensleevs」を参照)

  ジャックスがマーカスとの交渉を持ちかけたとき、マーカスはその交渉の場に現れなかった。じつは、マーカスの護衛部隊(security team) が既に、クルマを一人で運転していたクラブ・メンバーのボビーを拉致していたのだ。護衛部隊リーダーのモーゼスが、ジャックスとクラブ・メンバーが待つ会談の場所に小包をもって現れた。そしてマーカスは来ないことを告げると、ジャックスらにその小包を手渡してその場を去ったのである。その包みをジャックスらが開けると、中には電子タブレットが入っており、その映像を再生した。

  クラブのメンバーらは画面に映し出されるボビーを目にした。捕まったボビーは縛り付けられ、右目をえぐられている。ボビーの地底から発せられるような呻き声が響く。右目からは血が流れ、ボビーは地獄の苦しみを味わう。これではまた、オピーのリンチを見ているようなジャックス、チブス、ティグである。彼らの心臓はちぎれそうだった。またもや仲間が残酷な目に逢ってしまったのだ。ジャックスは小包に入っていた小箱を開ける。するとボビーの摘出された眼球が入っていたのである。愕然とするジャックス。彼はマーカスを甘く見ていた自分を責めた。自分の方が賢いと高をくくっていたのである。

  マーカスの護衛隊を率いるモーゼスは傭兵部隊に所属していた元軍人で、拷問には馴れていた。ジャックスとの交渉には応じない。牧師の遺体を埋めた場所を吐けとボビーに要求する。しかし、ボビーは屈しない。ジャックスはボビーを救出したいが、監禁場所がどこかつかめないでいた。マーカスに遺体場所を教えねばならぬ期限が刻一刻と迫っている。計画を断念してマーカスに屈服することはできないジャックス。しかし、要求に応じなければボビーの命が危ない。クラブのリーダーとして仲間を統率して守るはずのジャックスが、反対に仲間を危険に晒しているのは皮肉である。マーカスの脅迫は、ジャックスの家族にまで及んだ。ジェマが家で飼っている鳥は殺され、ベッドの中に置かれれていたし、息子アベルの部屋には、ぬいぐるみがナイフで壁に突き刺さっていた。ジャックスはもうマーカスに手も足も出ない。時間だけが無為に過ぎている。

  建物の屋上で挫けそうになるジャックスをチブスが励ましていた時、マーカスの要求した期限が過ぎてしまった。ティグがまた例の小包を抱えて屋上にやってきた。モーゼスは部下に命じてボビーを押さえつけさせ、ボビーの左指をナイフで切断したのである。小包の中にあるボビーの指をジャックスは見ることとなった。もうジャックスには堪えられない試練である。

 サンズ・オブ・アナーキーも最終シーズンに入り、サム・クローの運命は果たしてどうなるのかファンには楽しみである。ジャックスがクラブのためにしていることが、次々と裏目に出るのである。リーダーというものは、常に孤独であり、部下の命が掛かった決断を下さねばならない。たんにボス面をして威張っているのはバカ猿だ。予期せぬ結果にも責任を持たねばならず、辛い局面でも逃げることはできないのだ。重責を担う者には嘆く時間すら無いのだ。どんな小さな集団であっても、指導的立場にある者には、ぜひ見て貰いたい作品である。




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