岩波書店と社会党が友だちの小川和久

  産経新聞は雑誌『正論』とも関連していて、表向きは保守思想を表明している。しかし、編集委員や論説委員には朝日新聞と同類の人物がいるのだろう。朝日の入社試験に落ちた人物が産経に入ったのかも知れない。小川和久はテレビ番組に出ると、ソフトな語り口で軍事ニュースを解説するから、一般視聴者は温厚で知的な軍事アナリストという印象を持ってしまう。だが、彼の思想や発言を検証すると、朝日新聞やNHKの御用評論家であることが分かる。

  軍事アナリストを自称する小川氏が、陸上自衛隊生徒教育隊に入ったのは、愛国心からではなく経済的苦境からであった。金銭的余裕があれば自衛隊には係わらぬ人生を送ったであろう。彼が自衛隊生徒の頃は、マルクスの『共産党宣言』やレーニンの『国家と革命』、サルトルやボーボワールの実存主義の書物、『朝日ジャーナル』を読んでいたという。。(小川和久 聞き手/坂本衛 『日本の戦争力』 2005年 p.281) 若い頃から左翼主義の書籍に慣れ親しんでいたようだ。同志社大学では神学部に入り、佐藤優と同じく黒ヘル学生だった。いまでも小川氏は自慢げに「黒ヘル」学生だったことを公言している。

  軍事アナリストを自称している小川氏だが、その知識や見解には怪しい点がある。たとえば、2001年の9/11テロ事件で、民間旅客機がハイジャックされ、世界貿易センタービルに突入したことを小川氏は解説している。彼はテロリストがハイジャックに成功すれば、特定のビルに突っ込むことは難しくない、と述べている。

  パイロットは乗客の人名が第一で、まさか自爆するつもりとは思ってませんから、テロリストの要求通りに飛ぶでしょう。世界貿易センターまであと数キロというところで、パイロットを拘束して殺害し、後は操縦桿を握っているだけで突っ込むことができます。(小川和久 聞き手/坂本衛 『日本の戦争力』 アスコム 2005年 p.151)

飛行機操縦の素人が貿易センターに旅客機を突入させるのは無理だ。ベテランのパイロットでもまずビルに照準を合わせて突っ込むことは出来ない。日本航空を訪問して、フライト・シュミレータでやってみれば分かるだろう。小川氏はペンタゴンに突入した旅客機についても、建物に接近したときにテロリストが操縦桿を奪って、それを前に押すだけで突入できた、と解説している。馬鹿じゃないか。そんなアクロバット飛行を民間旅客機が出来るわけないだろう。地面すれすれを飛べるような代物だと小川氏は思っている。映画と現実の区別がつかないのだ。それなら航空自衛隊のエース・パイロットで再現できる自衛官はいるのか? 元戦闘機パイロットの佐藤守空将でさえ無理だ。こんな頭で軍事アナリストとは。小川氏は日本でしか通用しない軍事評論家である。  

  田母神俊雄・元航空幕僚長が「日本は侵略国家であったのか」という懸賞論文を発表したとき、小川氏はテレビで田母神俊雄閣下を「アホなんです」と冷ややかに愚弄していた。(たしか『たかじんのそこまで言って委員会』だったと思う) 小川氏は、田母神氏を社会人としてのトレーニングがないまま指揮官になり、自衛隊でしか通用しない価値観がシャバ(一般社会)で通用すると錯覚したのだろう、と酷評している。小川氏曰く、

  田母神氏のような直情径行の場合、同僚や部下は自分と違った価値観が示されたとしても、黙って受け入れたり、お追従笑いと拍手で迎えたりする。内輪ボメと手前味噌の世界である。かくして、自分の見解は正しく、発言しなかった過去の幕僚長は馬鹿か臆病者であり、自分の主張は国民に広く受け入れられるものだと錯覚に陥る。この構造を変えない限り、第二、第三の田母神氏が出てくるのは避けられない。(小川和久 「田母神論文を生み出した自衛隊の構造的問題」 『中央公論』 2009年1月号 p..212)

  シヴィリアン・コントロールを持ち出した小川氏は、空幕長が政府見解を否定する見解を述べたから国益を損ねたと非難している。彼は日本に単純思考のタカ派が台頭している印象を世界にばらまき、周辺諸国のみならず、日本の右傾化に神経を尖らす同盟国・米国の不信感と警戒心をかき立てかねないから問題なのだ、と述べている。(p.211) 小川氏はよほど支那や朝鮮が心配なのだろう。その他の外国は別段問題にしていなかった。米国はあんな懸賞論文くらいで目くじら立てない。そもそも日本政府が異常な自虐史観をもっているのだから、そっちの方が問題である。自衛隊で下っ端だった小川氏は、脚光を浴びた航空幕僚長の論文が素人レベルなのをいいことに、こき下ろして気分がよかっただけだろう。

左翼憲法史観の持ち主

  軍事評論家を見極めるとき、その人物がどのような國體観(こくたいかん)を持っているかを知ることは大切だ。日本が侵略国家だという史観が小川氏の根底にある。彼は、「日本は侵略戦争を永久に放棄する」または「日本は侵略戦争を絶対にしない」という意味のことを明記する必要があるでしょう。・・・「侵略戦争」の定義は安全保障基本法のほうに正確に記し、そちらにも侵略戦争をしないことを書き込むことです。( 『日本の戦争力VS.北朝鮮、中国』 p.176) 憲法にわざわざ「侵略戦争はしません」という条項を書く必要はない。こんな条項を盛り込むと、議会で開戦を討論するとき邪魔にしかならない。合衆国憲法でそんな条項は記述されていない。憲法には「国軍を有する」とだけ記せばよいのだ。基本的人権条項が無いのも、同様の理由からである。

  小川氏は日本が何としても先制攻撃を出来ないようにしたいのだろう。憲法に「戦力投射能力を備えた軍事力は持たない」と書き込めばいちばんわかりやすい、と言いながら将来の世代を未来永劫縛ってはならない、とも言う。そのあたりは国民の意識が成熟していく中で定まるであろう、と述べている。(上掲書 p.177) このような言い方は、左翼がとりあえず自衛隊に攻撃能力を持たせないための応急処置である。もちろん未来になっても容認しないのだ。

  普通の日本人は現憲法を「マッカーサー憲法」と呼ばなくなった。この占領軍御法度集は左翼にとって都合が良かったから、平和憲法として支持された。ソ連軍が侵攻しやすいように日本に国防軍を持たせないためである。左翼は憲法改正すら反対なのだ。小川氏は言う。

  憲法解釈を次々と変えていき、日本国憲法をなし崩し的に侵犯することは、日本の国益を損ねる問題につながります。ですから憲法というものは、国民が正々堂々と正面から改正の議論を進めるべき正確のものだと思います。(『日本の戦争力』 p.278)

国民が参加する改正議論にすれば、左翼マスコミの反対論で憲法9条が維持できると踏んでの提案である。政府は現憲法などさっさと捨てて、大日本帝国憲法を復活しますと宣言すれば筋が通るのだ。あとは修正を加えていけばいいだけである。マッカーサー憲法廃止は東大憲法学者らが必死で阻止しているだけだ。学界の大御所らが日本弱体化を狙って、国軍廃止と皇室撲滅を熱望していたのである。日本の国益を考えての行為ではない。

  聞き手の坂本氏から、日本人がなぜ憲法や法律を金科玉条とし固定化してしまうのか、との問いには、「日本は民主主義国家になったことがないから、あるいは日本には民主主義が根づいていないからだと思います。」と述べている。(p.280) 明治になって近代憲法が必要になったとき、伊藤博文がプロシアあたりから持ってきて「これでいく」と上から押しつけました。これが日本最初の憲法である大日本帝国憲法です。その次が現行の日本国憲法ですが、これまた戦争に負けて再出発するとき、マッカーサーあるいはGHQ、つまりアメリカが「これでいったらどうだ」と持ってきてくれたわけです。(p281)

  西歐世界で憲法を民衆参加で作ったことはない。こんなの常識だ。合衆国憲法だって少数の制定者(framers)が叡智を集めて作ったのである。しかも、それは歴史的生成物のイギリス國體(こくたい)に基づいていたのである。まあ、こんな國體史(constitutional history) は小川氏の知能では理解できまい。

日本軍の本質は侵略者

  小川氏は自衛隊の海外派兵に批判的である。一見すると自衛隊のイラク派遣に反対する正論を吐きながら、小川氏の本音は別のところにあった。派遣反対の理由は、日本の世論がマスコミによって煽動されて軍隊が戦地へ派遣されるから、というものでる。小川氏は、「シベリア出兵」という歴史の教訓を持ち出し、国民世論が軍部を干渉戦争に送り出し、既成事実の蓄積によって軍部台頭の道が開けたことを指摘する。(小川和久 「『シベリア出兵』の愚をくり返すな」 『世界』 1993年12月号 p.139) マスコミ批判と言うよりも、日本の軍事行動抑止を狙った言論であろう。軍事アナリストを自称する小川氏は邦人救出で自衛隊に固執するな、と説く。邦人救出のために自衛隊法を改正することは、もともと動機が不純であり、PKOに自衛隊を出したいための口実だから、と言う。彼が考えるプランは海上保安庁を使うことらしい。(小川和久 「『平和国家モデル』のすすめ」 『月刊社会党』 1994年12月号 p.41)でも、外国なら紛争地帯での国民救出には、まづ軍隊を使うだろう。危険地域だからこそ、戦闘のプロを派遣するのではないか?

  社会党的「平和論」を語る小川氏は、日本の核武装にも反対である。日本が核武装を決断すると「世界から経済制裁を受けるぞ」、「ウラニュウムの輸入が出来なくなり、原発が操業停止状態になる」、「国際的孤立になる」と脅しをかけるのだ。(『日本の戦争力VS.北朝鮮、中国』pp.71-72) つまり日本を自立した強国にせず、支那や朝鮮に対して卑屈なままにしておきたい左翼の殺し文句である。日本はさっさと核拡散防止条約(NTP)などは脱退しなければならない。核武装したインドが現在悲惨な状態にあるのか? 支那の脅威になって北京政府にとっては厄介な国になったが、そのせいでインド経済が崩壊することはなかったし、外国からも一目置かれている。しかも将来大国になるとも評されている。米国やヨーロッパ諸国はインドと国交断絶をしているのか?

  岩波の『世界』が論文を掲載してくれる小川氏は、北朝鮮の暴走を防ぐ方法を二つ呈示している。(pp.234-240) ひとつが日米同盟なのは分かるが、もうひとつが「国連軍」なんて馬鹿らしい。朝鮮有事とは、北鮮だけが暴走するのではない。背後の支那が承認せねば出来ないだろう。北朝鮮は支那のコントロール下にあるし、支那に不利ならば絶対許さない。しかも、北鮮誕生の母なるロシアが決定権をもつからだ。ロシアの戦略に入っている北鮮軍が勝手に軍隊を動かせない。金聖柱を金日成に仕立てたロシア人が、金王朝を自由にはさせない。金正恩が何かしようとしても、常に支那人やロシア人の干渉が入るからだ。北朝鮮攻撃のための国連軍なんか、国連常任理事の支那とロシアが賛成するはずがないだろう。

社会党が喜ぶ歴史観

  小川氏の歴史観は社会党に近い。アジア諸国(特に支那人や朝鮮人)の信頼を醸成するために、国民全体の戦争責任を明示せよ、と説くのだ。戦争のの原因はもとより戦犯についても責任の所在を明らかにしない、日本人の思考停止を非難している。小川氏は「天皇に戦争責任があるのは当たり前です」と喝破する。(「『平和国家モデル』のすすめ」 p.47) 再び繰り返さないよう歴史上に明記すべきだという。皇室をなんとしても潰したい左翼知識人は、昭和天皇に責任をかぶせる論理をよく用いるのだ。法的にはできなくても、倫理的に問い詰めて、大元帥陛下の最高責任を追及するのである。立憲君主制を頑なに守った陛下は、議会の決定や軍部の作戦に介入することは出来なかった。

  日本罪悪史観に染まっている小川氏は、日本人による支那や朝鮮に対する謝罪が足りないらしい。アジアの周辺諸国では大半の国民が納得していないので文句が出てきていると述べる。小川氏はまた、「慰安婦問題」が日本の国益を損ねていると言う。お金目的の慰安婦は居たが、一部に強制的に連行されて慰安婦になった女性がいるから、だという。

  この問題を解決するためには、「国家と国民あげて誇り高く謝罪と償いを行い、今後、世界でこうしたことが起きないよう、日本は先頭に立って行動する」と宣言することが基本となります。これなら「言い訳」とはとられません。歴史を踏まえて前に進む考え方ただと評価されます。繰り返してきた無様な謝罪外交とも縁を切ることができます。(小川和久 『14歳からのリアル防衛論』 PHP研究所 2010年 p.242)

金銭目的の売春婦になんで国家賠償が必要なのか?日本政府が強制連行を謝罪して、世界から賞賛されるなんてことは絶対にないだろう。小川氏は軍隊の性処理のために、韓国やフィリピンの慰安がいた実態を述べている。日本に抗議する慰安婦を見て、一部の者から「あれは偽物でお金ほしさにやっているだけだ」という声があるとしても、小川氏は「多少、偽物が混じっていてもいいじゃないですか」と述べている。(p.243) 偽ものだらけの慰安婦なのに、その老婆にお金を払えと主張している。なら、小川氏が自分の財布からお金を出したらどうだ?小川氏は日本が二度と戦争の悲劇を繰り返さないために、日本は強制連行によって心身に被害を受けた女性に対して、国家・国民をあげて謝罪をし、償いを行え、と提唱している。(p.244) 慰安婦強制などなかったのに、あったかの如く扱って謝罪しろ、と説教するのだ。しかも、この本は14歳の日本人にも語りかけているのである。産経新聞は中学生に嘘を教える者を講師にする塾をどう思うのか。ついつい「責任者出てこい!」と言いたくなる。



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