悲劇の結末はやはり悲しい

  サンズ・オブ・アナーキー(Sons Of Anarchy)のシーズン7が終了した。モーター・サイクルのクラブをテーマにした犯罪アクション・ドラマだが、そこに親子、夫婦、友情を絡ませ、暴力シーンと並立させる手腕はたいした物だ。原作者のカート・サターにとって間違いなく代表作であろう。日本ではこの種のドラマは望めない。優秀な脚本家がいないし、役者は素人ばかりで、リアリティーのない設定と大根役者の棒読みセリフでは無理だ。常に日本人の何割かは、必ずアメリカ・ドラマに夢中になる理由が分かる。細部まで良く練られた脚本は、大人の視聴者を納得させるものだ。

  最終シーズン7の解説はこのブログの「サンズ・オブ・アナーキー(4)」で半分くらい触れた。クラブ・メンバーのボビーがアウグスト・マーカスに拉致されて、拷問されたエピソードは覚えているだろう。ジャクスらクラブの仲間は、ボビーを拷問にかけたマーカスの傭兵どもに復讐を果たす。その傭兵らを待ち伏せした罠にはめて、リーダー格の傭兵をジャクスは生け捕りにした。彼がボビーにしたように、右目をくりぬき、左指を切断した後で殺したのである。

  一方、クラブを裏切ったジュースは逃亡を謀るが、ジャクスとクラブ・メンバーに捕まってしまう。そこでジャクスはジュースに取引を持ちかける。刑務所に入って、妻のタラを殺した支那人のリンを暗殺するよう命じたのである。この命令を実行するために、刑務所で隠然たる力をもつ白人至上主義者の囚人トュリーに協力を求める。しかし、トュリーは男色で、ジュースの体を求める。このおぞましい要求に応えることで、ジュースはリンを殺し、クラブの武器の情報を漏らした人物を特定する。それは何と腐敗警官でジャクスの後ろ盾をしているチャールズ・ブロスキーであった。

  ジャクスは支那人マフィアのリンが妻タラを殺したと思っていたが、実は母のジェマが殺したことをある時知るのだ。息子のアベルが弟トーマスを抱く祖母ジェマを見かけたときのこと。ジェマが母であるタラを殺したことをを赤ん坊のトーマスに謝っている。それをアベルは立ち聞きしたのである。母をなくして落ち込むアベルを見かねて、ジャクスはアベルの実母はいつも世話をしてくれるウェンディーであることを告げるのだ。そしてベッドでアベルを寝かしつけるジャックスは、息子の口からジェマが殺したかも知れぬ話を聞くのである。ジャックスは驚愕し、困惑する。しかし、刑務所のジュースを詰問して真相を聞き出す。やはり母ジェマがタラを殺したのだ。

  自分の母が罪を逃れるため嘘を付き、クラブを復讐の殺人に巻き込んでしまったことを後悔するジャックス。しかも、他のモーター・クラブの総長をジャクスは殺していたのである。ジャクスは仲間に母ジェマが嘘を付いていたことを打ち明ける。母のジェマは逃亡して父親の養護施設を訪れる。痴呆症を患っている父に最後の別れを告げに行ったのである。だが、ジェマの居場所がジャクスにバレてしまい、ジェマを心配するウェインは先回りしてジェマを連れ去ろうとする。しかし、父親の実家を去ろうとしないジェマは、ウェインの言うことを聞かない。そこにジャックスが現れ、ウェインにどくよう命じるが、彼は立ち去ろうとしない。そこでジャックスはウェインを撃ち殺す。ジェマは庭のバラ園に佇み、ジャックスは母の背後に立つ。ジャックスは拳銃の引き金を引こうとするが、何度もためらう。しかし、遂にジェマの後頭部に弾丸を撃つのだ。

  クラブの仲間を危険に晒したジャックスは、落とし前をつけねばならぬ。そこでジャクスは自分の計画を腹心のチブスにだけ前もって話しておくのだ。衝撃と悲しみで動揺する副総長のチブス。自分で始末をつけることを決意したジャックスは息子のアベルとトーマスをきつく抱擁し別れを告げる。何も解らぬ二人の息子はいつもの通り、父に別れを告げるのだ。胸が張り裂けそうな最後の別れである。

  タラを殺したのはジェマであるとジャックスは郡検事に告げ、裁判所前でマーカスを殺し、店でブロスキーを射殺する。これでクラブへの危険は取り除かれた。すべてを片づけた後に、ジャックスはクラブの一人一人に別れを告げる。彼らの総長が死を覚悟していることを誰もが知っているのだ。ジャックスは父ジョンが所有していたバイクに跨り、道へ乗り出す。ジャックスの後ろ姿をクラブの仲間は見送るのである。胸が締め付けられるシーンである。

  殺人の指名手配を受けたジャックスは、道路でわざと巡回中の警察官に見つかり、追跡されるようにする。多くのパトカーかジャックスを追跡する。しばらく道路を走りながら、バイクに乗ったジャックスは、対向車線からやって来る一台のトレーラーを見る。走りながら両手を広げたジャックスは目を閉じながら、そのトレーラーに突っ込んでゆく。短くても充実した人生だったのか。最終回を見終わるとジャクスやクラブ・メンバーが繰り広げた数々の場面が甦ってくる。悲劇の結末は分かっているが、ジャックスの死が無性に悲しい。


  


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