加工食品を食べないことがベスト

  年末から正月にかけてマクドナルドの異物混入問題がマスコミを賑わせている。チキン・ナゲットにピニールの切れ端が混じっていた、とかフライド・ポテトに人の歯が入っていたとか、まるで笑えないフォーチュン・クッキーみたいだ。(おみクジが入ったクッキーで、支那料理店で出される。)今頃になってファスト・フードに驚いているが、多少なりとも加工食品や“ジャンク”・フードの製造過程を知っている日本人なら、さして目新しい事件ではない。むしろ、胸が悪くなるような素材や製造工程に無知な国民が、あまりにも大勢いることの方が問題である。

  以前、米国のABCテレビが「ピンク・スライム(pink slime)」と呼ばれる、ハンバーグ用の挽肉加工品を取材し、その驚くべき製造過程を暴露した。よくファスト・フード店で、ハンバーガーを注文すると、丸く型どった冷凍の生肉を鉄板で焼いているのを、一般人でも知っているだろう。このピンク・スライムは、精肉店で客に見せて販売できない屑肉を集めて、グラインダーで作られるのだ。肩や背骨の削ぎ落とし肉や固いスジ肉、捨てるような臓器をまとめて挽肉にするのだ。グラインダーからパイプに送られてくる混合肉に、アンモニア・ガスを振りかけてバクテリアなどを殺菌消毒する。こうして化学処理をした練り物の出来上がり。このピンク色でスライム状の捨て肉を手頃なサイズに固めて、冷凍パッケージすれば、あとは各店に配送するだけだ。(Jim Avila, 70Percent of Ground Beef at Supermarkets Contains ‘Pink Slime’, ABC New, March 7, 2012) この「はんぺん」みたいな練り物を見たら、とても食欲がわくとは思えない。廃棄するはずの肉を化学薬品で変身させ、ハンバークの素にするのは、企業からすれば合理的であり、利潤の高い製造方法である。一般人は怒るだろうが、消費者の健康より、株価の上下の方が大切なのだ。

  マグドナルトのフライド・ポテトは、大人だけではなく、子供にも人気がある。しかし、一般客はどうして旨いのか気にしない。ジャガイモだから安心とは限らないのだ。フライド・ポテトの危険性は、その揚げ油である「パーム油」にあった。1971年、アール・バッツがニクソン大統領によって、農務長官に任命された。彼は政府の規制を撤廃し、生産者の市場を広げて、大規模な穀物輸出を成立させたのである。国による穀物貯蔵というシステムに終止符を打ち、生産者がいつでも好きな時に好きな場所で売れるようにした。農作物生産者たち収入も増え、同時にインスタント食品メーカーも、市場に出回る過剰トウモロコシを喜んだ。安くなった原材料で、各メーカーはこぞって新商品を開発したのである。

  また、以前まで戦略物資だった砂糖は高値であったが、その値段もだいぶ安くなったのである。それは日本人が高果糖コーンシロップ(HFCS)を発明したお陰であった。ショ糖よりも六倍甘くのに安いトウモロコシから作られるので、糖分の高い製品を生産するときのコストが大幅に削減できた。この果糖を使うと、加工食品の見た目も良くなり、一石二鳥である。だが、ショ糖やブドウ糖は体内で複雑な分解過程を経て肝臓に達するが、果糖はその過程を経ずにほとんどそのままで肝臓に蓄積されるのだ。甘味料のほとんどを果糖から摂取すれば、代謝の過程で多量の過程が体内に入り込むのである。こんなことが科学者の間で話題になっても、食品業界と癒着する政治家や官僚にかかれば、果糖は他の糖とたいして変わらない。大問題とはならず、たんに量の問題だ、とされてしまった。御白洲(公聴会)では、ちょっとだけの摂取なら問題なし。これにて一件落着だ。(グレッグ・クライツァー 『デブの帝国』 竹迫仁子 訳 バシリコ 2003年p.20)  

  こうした食品業界の中で注目されたのが、「パーム油」であった。バッツ長官が自由貿易を推進し、パーム油の生産・精製を行っているマレーシアから、安くて大量のパーム油が米国に輸入されるようになった。パーム油の原料となるアブラヤシは、もともとイギリス人支配者がブランテーション向けの作物として広めたのである。貧しいマレー人によって、大量に生産されるこの一次農産品は、現地政治家の出世をも左右するようになったという。このパーム油は化学的に見たら普通の植物油よりも牛脂に近く、精製が難しい。アメリカの輸入業者は、それを「車軸グリース」と呼び、ライバル業者は「樹木ラード」と呼んだのである。(p.25) 1970年代半ば、その樹木ラードは技術進歩のお陰で、活用範囲の広い商業用油脂となった。ポテトを揚げるにも、マーガリン、クッキー、パン、パイを作るにも、インスタント食品を製造するにも適していた。まさしくパーム油革命だ。

  パーム油は安定した油脂なので、その油を使った製品はスーパーの棚に永久陳列できる。しかも、舌触りが良くなるので、メーカーは益々パーム油を多く使うことになった。そうなれば高カロリー食品になるのであるが、当時は二次的問題であった。一番重要なのは、パーム油の価格が、信じられないくらい安かったし、一年を通して価格が安定していたことだ。それというのも、アブラヤシは一年中生い茂るからだ。パーム油は分子構造がラードと似ているため、他の植物油よりも味が良かった。しかも、飽和脂肪酸を多く含むので、パーム油支持者は、密かにそれを「植物油の顔をした牛脂」と呼んでいたのである。

  アメリカの健康医療専門家らは、既に飽和脂肪酸が心血管組織に悪いことを知っていた。飽和脂肪酸は動脈を詰まらせ、血圧を上昇させ、摂取すると早死にする確率が高くなる。農業問題の公聴会で、ある委員は「パーム油はラード(豚脂)よりも飽和脂肪酸を多く含む油脂です」と証言した。しかし、医学会の権威は誰一人として公聴会に出てきて、パーム油に反対を表明しなかった。パーム油なんて小さな問題に関わりたくなかったし、仕事が多すぎる食品医薬局にとっては些細なことであった。それに農務省は業界団体にベッタリで、パーム油支持に回っていたのだ。国民の健康問題より、農産物の国際市場や業界の利益が大切だったのだ。

ビッグ・サイズで売れ

  ファスト・フード業界では、こんなパーム油で揚げたポテトを、消費者により多く売り、利益を拡大するための戦略が取られた。マクドナルド中興の立役者、デイヴット・ウォーラスタインは、マクドナルドでフライド・ポテトのスーパー・サイズを導入したのである。マクドナルドの重役になる前、彼は映画館の経営に携わっていた。映画館は鑑賞券で大きな利益を上げるわけではない。館内で売るドリンクやスナック菓子、ポップコーンの方が利幅が大きいのである。ウォーラスティンはある日気がついた。客はポップコーンの袋を二つも買いたくないが、実は二つくらい買いたい。二つ買うのは恥ずかしいか、本音では二袋分食いたいのだ。そこでウォーラスティンは、ポップコーンの容器を大きくして、値段を少しだけ上げて販売してみた。すると一週間後ポップコーンの売り上げだけではなく、利ざやの大きいコカ・コーラの売り上げも伸びたのである。

  ウォーラスティンはマクドナルドで同じ事を試みようとした。1970年代半ば、同社は客の財布の紐が堅くなり、客足も遠のき、収益が落ちていた。同社の創業者レイ・クロックは当初反対したが、何とか説得して、ジャンボ・サイズのポテトを販売したのである。結果は大成功。このビッグ・サイズ戦略は、他のメニューにも適応されるようになった。しかし、マクドナルド社の中間管理職は、この販売方式を「ディスカウント」としか見なさず、イメージ・ダウンになるのではないかと懸念していた。

  そこに、アラバマ州バーミンガムで、フランチャイズ権を購入したマックス・クーパーが登場し、マクドナルドに多大な貢献をしたのである。顧客減少に苦しむマクドナルドは、コスト削減や商品値下げの限度に達していた。クーパーは収益性の高いドリンクとポテトに注目し、それを収益性の低いハンバーガーと組み合わせれば、売り上げを伸ばすことが出来る、と踏んだのである。経営陣を説得する以前から、彼は後に「バリュー・セット」と呼ばれる商品を売り出していたのである。これがジャンボ・サイズの原形である。「ビッグ・マック・セット」、「フィシュ、フライド・ポテト、ドリンクにパイ」、「独立記念日バリュー・コンボ」の広告を流したのである。売り上げは飛躍的に伸びた。

  「バリュー・セット」の発案者はペプシ・コーラ社のジョン・マーティンであった。彼は経営難のタコベル(メキシコ料理のタコスのファスト・フードチェーン)を立て直したやり手であった。彼は客足が遠のいているのは、リピーター率低下に原因があると解った。顧客にとっては味や見た目ではなく、価格と価値(バリュー)が来店のキー・ポイントであった。客の多くが、「より安く、より多く」を求めていたのだ。日本マクドナルドでも一時期、格安ハンバーガーを販売し、大勢の客が殺到することがあった。日米で客の性格と思考は同じである。1988年にマーティンは全米で「バリュー・セット」を展開して、劇的な効果をあげた。彼はタコベルを再生させたのである。(p.41) 当初は無視していたマクドナルドも、次第にこの販売方式を取り入れて、独自のバリューセット作戦を開始したのである。

下層民ほどよく太る

  ジャンク・フード店で外食したり、ジャンボ・サイズ・メニューを注文するような人は、下層階級に多い。ファスト・フード文化の普及で、国民的肥満が社会問題になった。しかも、問題が厄介なのは下層白人ばかりではなく、ヒスパニックや黒人の子供にまで及んでいるからだ。甘味料満載なうえに、高カロリーで塩分の多いジャンク・フードを、下層民ほど多く食べている。マクドナルドは土曜の午前中に放送される子供番組で、集中的広告を流し、子供の集客にターゲットを絞ったのだ。テレビで洗脳された子供は、親に店へ連れて行ってくれとせがむようになるだろう。また、親子揃ってテレビを観ながらポテト・チップスを食べているのだから、尚更下層階級は太ってしまう。貧困層、黒人、ヒスパニックは、白人よりもテレビ視聴時間が長いだけでなく、運動する時間が短い。その原因は、家庭の躾や肥満意識の希薄さもあったが、貧民は危険地帯に住んでいるから、環境が野外で運動する機会を阻害していたのである。治安が悪い地区に住む親としては、近所で子供が遊んでいる時に、銃で撃たれたり、強姦されたり、誘拐されるのでは、といった心配が常にある。それに街頭にはストリート・ギャングや素行の悪い不良がいるから、子供が誘惑されたり、非行に走ったりするかもしれない。(p.106) だから、室内で遊んだり、テレビを観ていた方が安心できるのだ。

  テレビCMでジャンク・フードを食べる子供は、低所得者家庭に多いのはよく解る。彼らは健康よりも、安いものをたくさん食べることで幸せを感じるのだ。下層階級の黒人やヒスパニックには信じられないくらいのデブがいる。子供の頃からジャンク・フードを食べているから、脳がそれに馴れていて大人になっても食べ続ける。子供が生まれたら、子連れでファスト・フードに出かけてしまう。こうして親子代々のデブという悪循環かできる。しかも、意思が弱くて低能だから、医者が注意しても従わない。中流階級の西欧系白人には、痩せていたり、スポーツで体形を保っている人が多い。しかも、禁酒・禁煙している人や、ベジタリアンまで居るのだ。健康に関しても階級格差が顕著なのが米国である。悲しいのは、肥満による成人病が下層階級の特徴になって、固定化するのである。それに、デブな下層民ほど医療費がかさむのに、保険の掛け金が払えない。日本では格差社会と騒いでいるが、貧富の格差が固定し、特定の人たちが下層民の悪循環に陥るかも知れない。日本もアメリカ社会と同じ轍(てつ)を踏むことになるだろう。マクドナルドの食品に異物が混入していたことよりも、いまだに多くの日本国民が、ジャンク・フードという病気の素を口にしていることの方が、深刻な問題である。



人気ブログランキングへ