「沙漠の薔薇」がテロリストの妻に

  極道者は邪悪であるが馬鹿ではない。日本の外務大臣はいくら国内で有力政治家と崇められていても、国際社会では洟垂(はなた)れ小僧である。山口組幹部の方がよっぽど頭が切れてドスが効いているから、腹黒い外国の政治家や軍人と対等に渡り合えるだろう。公然と暴力団を頭脳明晰・大胆不敵と褒めるわけにはいかないが、現実的に考えれば政治家よりヤグザの方が頭がいい。1月にフランスでテロ事件が起きて、中東アジアのイスラム国テロリストが、またもやマスコミで話題になった。欧米諸国はシリアの内戦に深入りしたくはないが、イスラム国のテロリストが歐洲で暴れることには、何とか手を打たねばならぬと感じている。ところが、欧米メディアのシリア政府非難は、何となく胡散臭いのだ。どうも誰かに唆(そそのか)されている感じがする。

  ヤクザなら「誰か裏で“絵”を描いているんじゃねえか?」と疑うだろう。狐よりも用心深く、鷹のように鋭い目をもつ、狡猾な悪人は簡単に踊らされない。我が国の外務省に山口組三代目組長の田岡一雄がいればなぁ。それが無理だとすれば、せめて安藤昇がいてくれたら、どんなに心強かったことか。(安藤は映画界でも有名だったインテリ・ヤクザ。) 極道は自分の利益を徹底的に優先する。他の組が用意した甘い汁でさえ、すぐに舐めようとはしないし、噂に惑わされず挑発にも乗らない。自己の損害は最小に抑えて、利益は最大限に広げる。他人が漁夫の利を得ることを許さない。恐ろしいくらいのリアリスト。外交官採用試験は元暴力団員による訓練を必修にしたらどうか。そうだ、創価学会に仲良しの後藤組を紹介してもらおう。

  シリア内戦を論ずる前に、ちょっとアサド大統領について述べたい。現在のシリア大統領バシャー・アル・アサド(Bashar Al-Assad)は、もともと眼科医を目指していて、ダマスカス大学やロンドンで医学を勉強をしていたのである。本来、兄のバシル(Basil)が父ハーフィズ・アル・アサド大統領の後継者だった。しかし、そのバシルが交通事故で亡くなったため、弟のバシャールが大統領になったわけだ。彼は医学の研修で英国に留学した際、ロンドンで西欧風に洗練されたシリア系ブリテン女性と出逢ったのである。将来シリアのファースト・レディーとなるアスマ夫人は、心臓外科医のファワズ・アクラス(Dr. Fawaz Akhras)のもとに生まれた。シリア系移民の両親は、家族の会話でアラビア語を喋っていたという。シリアの文化を温存する家庭で育ったが、彼女はロンドン西部のアクトンにあるアングリカン教会系の学校に通った。裕福な家庭のお嬢様は友人から「エマ」と呼ばれ、キングズ・カレッジに進み、優秀な成績(A-Level)で卒業されたらしい。大学でコンピュータ・サイエンスを専攻した才女は、ドイチュ・バンクやJ.P.モルガンに勤めてエコノミストに変身する。ロンドンの街中を颯爽と闊歩するバリバリのキャリア・ウーマンであった。(Margarett Driscoll, The London girl with a plan to save Syria, The Sunday Times, December 7, 2008)

  アサド家の御曹司は異国の地でエマと出逢って結婚したのである。この英国婦人は、ブリテン国籍を保持したまま、シリア大統領夫人アスマ・アル・アサド(Asma Al-Assad)となり、三人の子供をもうけた。西歐世界に精通する学者肌のアサド大統領は、美貌を誇るアスマ夫人とヨーロッパの王室みたいな家庭を宣伝したのである。日本人だって彼女を見たら、「えっ ! これがムスリム教徒のプリンセスか?」と目を疑うだろう。そんなこと言ったら、ヨルダンのヌール王妃(Queen Noor)やラニア王妃(Queen Rania)にも驚いてしまうが。エレガントでファッション・モデルみたいなアスマ夫人は、ベールを被った中東アジアのオバちゃんと同日の談ではない。こんな大統領夫人を目にしたら、シリアの娘たちは益々中東のイスラム国が嫌になって、ロンドンかパリを目指して勉強してしまうだろう。美しく生まれたイスラム教徒の娘なら、チャドルやブルカなんか被って顔を隠したくない。できるなら美人コンテストにでも出場して自分の体を自慢したいのだ。イスラム教国でも、ペルシア人女性にはアーリア系美人がいたりするので、欧米に脱出したい娘が結構多いのである。もっとも、頑固な父親が反対するので中々実現しないのだが。


  パパラッチを擁する欧米のメディアが、こんな美豹のファースト・レディーを放って置くわけがない。華麗な衣装に身を包むシンデレラは、フッション雑誌にも数多く取りあげられて、『ヴォーグ(Vogue)』誌は彼女を“沙漠の薔薇(Desert Rose)”とさえ呼んだのである。しかし、一見するとヨーロッパのビジネス・ウーマンらしく思えるが、彼女の家庭ではアラビア語が日常的に使われ、宗教もイスラム教スンニ派であった。つまり、典型的な欧米化したイスラム教徒移民の二世で、シリア文化を家庭で保持しながらも、友人たちとはイギリス文化で交際する二重性格を持っていたと言うことだ。結婚をしてシリア人に戻ったが、自分の運命を夫の祖国に委ねようとは思っていないらしい。ちなみに、アサド大統領はイスラム教でも特殊な宗派である、「アラウィー派」シーア信徒である。シリアには結構な信徒がいるが、イスラム世界では少数派であるそうだ。アスマ夫人はシリアのみならず、中東アジア全体を信用していない。彼女の思考は依然としてヨーロッパ的だ。事実、彼女はブリテン生まれのブリテン国民であるから、当然英国パスポートを持っている。結婚したからといってブリテン国籍を捨てなかった。(Nesrine Malik, Syria's first lady has a UKpassport─that doesn'tmake her good, The Guardian, 7 February 2012) 国家元首の妻が外国籍を有するなんて変だが、混乱が予想される中東アジア国から、将来亡命することだって頭の隅に置いていただろう。優秀なキャリア・ウーマンなら当然考えそうなことだ。

  嫌な予想は当たることが多い。シリアで内戦が勃発してしまった。魑魅魍魎(ちみもうりょう)が跋扈(ばっこ)する中東アジア地域には、プロやアマチュアのテロリストがうじゃうじゃいる。古代文明の発祥地では、いつだって暴力の嵐が巻き起こるのだ。支配者がちょっと甘くなれば、すぐ統治機構に不満をぶつけて、流血の対立にまで発展してしまう。「肚を割って話せば分かる」という日本式の解決法は通用しないのだ。武力弾圧なんて治安維持の定番メニューである。平穏な統治が続くと思われていたシリアで突然、反政府組織が出現してしまい、アサド夫妻は一気に悪者扱いになった。たとえば、アメリカ国務長官のジョン・ケリーは、アサド大統領をアドルフ・ヒトラーやサダム・フセインと同列に並べたのである。しかし、ケリーは以前アサド夫妻と和気あいあいと食事をするくらい仲が良かった。(Anthony Bond and David Martosko, John Kerry's cosy dinner with Syria's ‘Hitler’, Daily Mail, 2 Septmber 2013) このユダヤ系国務長官は、イスラエルの政治家と見間違うほど、米国のイスラエル・ロビーから支持されていから、反シリアに豹変しても不思議ではない。むかし、サダム・フセインと仲良しだったドナルド・ラムズフェルド国防長官を想い出せば分かるだろう。

  ユダヤ人に牛耳られている欧米メディアも、手のひらを返したように一斉に反アサドキャンペーンを張った。アスマ夫人のブリテン国籍だって剥奪されるかも知れない。反シリアを掲げる議員が騒ぎ出したのである。英国議会でもこの問題が議論され、公共の利益に沿えば、彼女からブリテン国籍を取り上げるかもしれぬ、という選択肢もあるらしい。内務大臣のテレサ・メイは今のところ法律を適用するつもりはないらしい。もし、アスマ夫人が二重国籍をもつテロリストに該当すれば、移民帰化法で国籍剥奪が可能となる。しかしなんだねぇ。「沙漠の薔薇」から「テロリストの妻」に転落するとは。アスマ夫人が回顧録でも出版すれば、そうした波瀾万丈の人生はいずれ映画化にでもなるんじゃないか。その作品をユダヤ系ハリウッド・プロデューサーが手掛けるとなれば、皮肉なものであろう。

証拠がつかめない政府

  マスコミによる情報操作は毎度のことで珍しいことではない。シリアで化学兵器が使用されたとなれば、欧米メディアのカーボン・コピーたる日本の報道機関も、独自取材のふりをして和訳ニューズを伝える。どうせ視聴者は中学生程度の知識しか持っていないのだから、お金と時間を掛けて取材をすることは馬鹿らしい。2013年8月に首都ダマスカス郊外のゴータ(Ghouta)で、シリア政府軍が反乱軍に対して化学兵器を使ったといニュースが流れた。英国の統合諜報機構(Joint Intelligence Organization)によれば、その化学兵器攻撃はアサド政権によるもので、すくなくとも355名の人々が死亡したという。しかし、デイヴッド・キャメロン首相はその情報がどこから来たのか、攻撃の内容を詳細に語ろうとはしなかった。オバマ大統領は機密情報に基づく報告を議会に提出したらしいが、具体的な戦闘状況をアメリカ国民に公表することはなかったのである。ただ、合衆国政府はアサド政権内の通話を盗聴して事件の真相(?)を掴んだらしい。

  化学兵器が実際に使用され、毒ガスによる死亡者が出たならば、科学的調査をするか、少なくとも専門が攻撃を分析せねはならない。諜報員からの内部情報だけでは、本当にアサド政権が仕掛けたのかどうか確信できないだろう。米国のCBS局でさえ、化学兵器が使われた証拠がないと報道しているのだ。国境無き医師団は355名が殺され、3千人以上がサリンのような神経ガスに曝されたような症状を示している、と報告していた。だが、どの調査機関もグータでサリンが使われた痕跡を発見できずにいる。(Tucker Reals, Syria chen\mical weapons attack blamed Assad, but where's the evidence?, CBS News, August 29, 2013) 国連の査察団はアサド政権の要望で反乱軍が毒ガスを使ったかどうかを調査していたのだ。だから、英国の統合諜報機構も簡単に結論を出せずにいた。その報告書によれば、シリア政府は毒ガス攻撃の用意をしていて、カズマスクまで準備していたと述べるが、はっきりと化学兵器の使用があったと明言できなかったのである。推測だけで物的証拠がなかったのだ。

  専門家はどう分析したのか紹介したい。ホワイト・ハウスでアドヴァイザーを務めたダン・カゼタ(Dan Kaszeta)は、化学・生物・放射能の専門家で、攻撃の録画映像を検証した。しかし、彼は神経ガス攻撃による典型的な症状、つまり通常観られる激しい嘔吐を発見することが出来なかったという。別の化学兵器専門家である英国のクランフィールド大学のスティーヴン・ジョンソン(Stephen G. Johnson)も、なぜ被害者がもっと吐いていないのか、不思議でならなかった。フィンランドの化学兵器専門家であるパウラ・ウァニネン(Paula Vanninen)も、AFPのインタヴューを受けたとき、同じことを指摘していたのである。更に疑問なのは、現場に派遣された調査団の医師が問題の被害者が収容されている医療施設に入れないため、神経ガスに冒された3,600人の患者を診察できないという。(Gareth Porter, How Intelligence Was Twisted to Support an Attack on Syria, Truthout, 3 September 2013) オバマ政権は焦った。ケリー国務長官はようやく国連査察団が攻撃現場に入れるよう手配したが、やたらと規制や指図がうるさかったという。

ヤラセが横行する中東地帯

  合衆国政府はしばしば極秘作戦や隠蔽工作を行うので、慎重なアメリカの知識人や軍人には、自国の政権に猜疑心を抱く者が多い。グータでの毒ガス攻撃報道だって怪しいものだ。ジョージ・W・ブッシュは、イラクのサダム・フセインが大量破壊兵器を隠し持っているという口実で戦争を始めたが、結局化学兵器は見つからず、情報じたいがガセネタであった。英国諜報局を率いていたリチャード・デアラヴ(Richard Dearlove)は、当時トニー・ブレア首相にブッシュ大統領は大量破壊兵器とテロリズムを絡めて軍事行動を正当化します、と報告していたのだ。シリアの件でも、誰かが化学物質の詰まった容器をシリアに持ち込んで、シリア政府軍が使用したようにみせかけた、という情報すらある。シリアには西側諸国に支援された反政府部隊がトルコで訓練を受けて、シリアに投入されたらしい。CIAの情報局員がその部隊を指揮して、シリアの内戦を拡大させ、合衆国軍が空爆をするようし向けることが任務となったりする。こうした警告はジャーナリストのヨタ記事ではなく、退職した諜報分析官や軍人から成る退役諜報専門家団(Veteran Intelligence Professionals for Sanity)の警鐘によるものである。

  だいたい、アサド政権が西歐諸国からの批判を招くような軍事行動をわざわざ取るのか? サダム・フセインが化学兵器を隠匿しているという憶測だけで、イラクはあっけなく叩き潰されてしまったのだ。ハンブルク大学の中東専門家であるマーガレット・ヨハンセン(Margaret Johansen)も、現政権の立場からして化学兵器を使用する理由が見つからない、と新聞のインタヴューで答えている。(Murad Makhmudov and Lee Jay Walker, Expert Cast Doubt About Syria Chemical Attack,Assyrian International News Agency,August 22, 2013) 欧米から支援されている反乱軍に毒ガスなんか使用したら、アサド政権打倒の大義名分を与えてしまうではないか。アサド大統領やシリア軍幕僚だって馬鹿ではない。これくらいの推測は容易に出来たはず。グータの件はシリア攻撃の口実を作るためにアメリカかイスラエルが仕組んだプロパガンダ工作の一環かも知れない。有名な元CIA分析官でオサマ・ビン・ラディン追跡を指揮したマイケル・ショウアー(Michael Schuer)は、イスラエルが米国をシリア攻撃に巻き込む肚ではないか、と疑っている。彼は「我々は外国政府に取り込まれている、と発言しているのだ。彼はイスラエル・ロビーが合衆国の官界と政界に甚大な影響力を行使していることを指摘している。こんな公然の秘密を堂々と批判するショウアー氏はユダヤ系アメリカ人である。だから、反ユダヤ主義者の烙印を押されずに、マス・メディアに登場できるのだ。しかし、こんな状態もおかしなことだが。

  テレビや新聞だけを観ている日本人は、中東アジアで実際何が起こっているのか理解できない。欧米の現地特派員が伝える情報だって、間接的に入手したものがほとんどで、事件の核心に迫る取材なんて実際不可能だ。せいぜい軍隊に護られた同行取材が精一杯で、危険地帯には突入できないし、ゲリラやテロリスト情報だって本当か嘘か区別がつかない。反政府テロリストやアルカイーダで関する情報など信頼できるはずないだろう。「テロリスト嘘つかないアルヨ」という答えを得ても、そもそもイスラム・テロリストが正直者である確証は無い。彼らが渡すビデオ映像だってどんな意図があるのか分からないし、その映像に実際のテロリストが映っているとは限らない。イスラエルが仕込んだアラブ人ゲリラか、アルカイーダを裏で操るモサドの子分かも知れないのだ。

  中東アジアのような利権絡みの無法地帯では常識が通用しない。CIAがテロリスト組織に潜り込んで米軍を攻撃するよう指示して、自作自演を仕組む場合だってある。何かと言えば文句を垂れるアメリカの輿論を動かすために、八百長テロを計画することだってあるし、場合によっては数名のアメリカ兵を犠牲にしてまで極秘工作(black operation)を仕掛けることだってあるのだ。イスラエルやCIA、グローバリスト組織は傭兵会社を使って、米軍に攻撃を加えることだってやりかねない。単純な頭のイスラム教徒を唆(そそのか)してテロ活動を煽り、資金をこっそり与えてやれば、喜んで聖戦(ジハード)に邁進するのだ。歴史を振り返ればいくらでも例が見つかるだろう。シリア内戦も歴史を鳥瞰(ちょうかん)すれば大きな計画の一齣(こま)であることが分かる。イスラエルの壮大な計画が裏にあるのだ。ヤクザならユダヤ人が描く“絵”に気づくだろう。知らぬは一般人のみ。対テロ戦争で生け贄となるアメリカ兵はもっと哀れだ。チェスの駒みたいにこき使われて、簡単に使い捨ての部品になってしまう。祖国に尽くしているつもりでも、実際はイスラエルや金融グローバリストのために殉死したことが分からない。「大イスラエル(Greater Israel)」構想なんて聞いたこともないアメリカ兵には豪華な葬儀が待っている。(これについては次回で述べるつもり。)アーリントン墓地に眠ってから気づいたって遅いのだ。日本人はお金を巻き上げられて茫然とするだけだろう。我々に必要なのは、渡る中東は鬼ばかり、と認識することだ。つづく。

  
 
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