怪しい身分の上院議員

  米国では2016年の大統領選挙に向けて、各候補者が名乗りを上げてきた。今度の選挙では共和党が政権奪還を目指し、本腰を入れてきた点で注目に値する。日本人に投票権は無いが、合衆国大統領は我が国の安全保障に多大な影響を及ぼすので、高みの見物というわけにはいくまい。民衆党ではヒラリー・クリントンが出馬宣言を行ったが、彼女の賞味期限は切れているように思えてならない。確かに、女性初の大統領で盛り上がるかも知れぬが、共和党が黙っちゃいないだろう。8年間も我慢したのだから、また4年間ホワイト・ハウスで民衆党大統領を見るのは忍び難い。選挙予想は競馬の予想と同じで、当たり外れがどうなるか分からないし、政界では予想外のハプニングすら起きるから、今からどうこう言うのは愚かしいかも知れぬ。ただ、今回の共和党候補には、いかがわしい経歴を持つ人物が出馬するので注意したい。

  嘘には二種類あって、暴露される嘘と封印される嘘がある。前者は、たとえば、激しい選挙で対立候補が相手にダメージを与えるためにほじくり出す、隠しておきたい過去などである。後者は暴こうとしても、どこからか圧力がかかって邪魔されるため、表面に浮上せず永久に闇の中にあるもの。それでも掘り出そうとすると、発掘人が抹殺されて地中か海底に埋められてしまう。新鮮な勢いで上院議員に当選したマルコ・ルビオ(Marco Rubio)は、政敵から潰される危機に陥った。彼の過去と出自が問題となったのだ。大票田フロリダ州で連邦議員となったルビオ氏は、オバマ大統領が再選された時に、次の大統領選挙で共和党の候補者になるのではと噂されていた。若くて新鮮な上院議員は、ヒスパニック系アメリカ人でもあったからだ。2008年の選挙で、黒人のオバマが大統領になった時の共和党は、本当に惨めであった。対立候補がジョン・マッケインでは、正直ダメだ、と選挙のプロでなくても思っていた。

Rahm Manuel 2David-AxelrodZbigniew Brezezinski









(左:ラーム・エマニュエル/中央:デイヴィッド・アクセルロッド/右:ズビグニュ-・ブレジンスキー)

  筆者も、共和党候補者の顔ぶれを見て、一瞬でオバマ当選を確信したものだ。これは単なる自慢ではない。なぜかといえば、黒人オバマにイスラエル・ロビーのユダヤ人下院議員ラーム・エマニュエル(Rahm Emanuel)が附き、選挙参謀にユダヤ人のデイヴィッド・アクセルロッド(David Axelrod)が派遣されていたからだ。しかも、CFR(外交評議会)の重鎮で、ロックフェラー家の子飼い学者ズビクニュー・ブレジンスキー(Zbigniew Brzezinski)が後見人になったからである。ブレジンスキーはかつて素人政治家のジミー・カーターの教師役を務めていたからだ。彼が背後に回ったということは、カーターの時と同じく、軍事外政に疎い大統領を操る勢力が附いたことを意味していた。しかも、有力な財団もオバマにお金を賭けていたから、選挙前に大統領が事実上決まっていたのだろう。オバマを支援していた財団については、いずれ別の機会に述べてみたい。新聞が述べないけど、米国には巨大勢力が本当に存在するのだ。

Hidaka Yoshiki(左/日高義樹)
  オバマ当選が容易に予測できたのは、共和党にやる気が見られなかったからである。2016年まで待とう、とする雰囲気が濃厚だった。しかし、日本では脳天気な評論家がいたから驚く。元NHKワシントン特派員で、ハドソン研究所に属する日高義樹などは、マッケイン候補の圧勝だ、と雑誌『Voice』に書いていた。あぁ~ぁ。「やっちまったよ !」と筆者は思ったものだ。「なんでマッケインが勝つんだ? 共和党の選挙参謀が匙を投げているのに」とつぶやいてしまったくらい。NHKという“ぬるま湯”に長年浸かっていた日高氏には、アメリカ政治の分析など無理。ヘンリー・キッシンジャーの隣でうなづくだけの助手がふさわしい。松本竜介みたいなもんだ。(註/亡くなった漫才師。譬えが古くてゴメンなさい。) 手島龍一も似たり寄ったりで、テレビに出演しているようだが、どうせ米国のテレビを観て仕入れた情報を語っているだけだろう。ワシントン特派員とは現地で、地元新聞を読んで翻訳する役目の人を指す。つまり、パート・タイムの学生がするような仕事を、豪華な部屋でこなすと特派員と呼ばれる。つまり、フジテレビの『なるほどザ・ワールド』で案内をする女性藝人みたいなもんだ。(あっ、これも古かった。今はどんな番組があるのかなぁ? )

  話を戻すと、2016年大統領選挙は共和党の番だと意気込む政治家がいても当然。アメリカ国民はオバマの8年間ででうんざりしている。かつての熱狂は冷めたスープかピザみたい。しかし、オバマ・ショックの後遺症は、共和党に甚大な影響を与えたのである。つまり、共和党でさえ、すでに西欧系白人の勢力が不充分、というより衰退したことを示したからだ。全米選挙で有色人票の大半を獲得した民衆党に共和党は勝てない。しかも、大統領選挙で共和党候補者は、マサチューセッツやニュー・ヨークとった東部の州を最初から捨てているのだ。どうせお金を注ぎ込んで選挙活動したって勝てない。それなら選挙資金を節約して南部と西部に集中して、大票田州を獲得しようと考えている。ジョージ・W・ブッシュの選挙参謀だったカール・ローヴ(Karl Rove)は、無駄な選挙活動をしなかった。眠っていた票の掘り起こしで、ジョージ・Wを大統領にしてしまったのだ。米国ではどんな有権者を獲得するかの研究が熱心に行われている。国家の命運なんかどうでもいい。まづ選挙に勝つことが優先。勝てば官軍だ。マルコ・ルビオはキューバ系アメリカ人であることを看板(売り)にして大統領になろうと目論んだのである。

  かつては西歐人の新興国家であったアメリカ合衆国は、いまや有色人種に埋没する白人国家になってしまった。帰化したヒスパニック層の出生率が上昇していることに加え、中南米から不法入国者が後を絶たない。あちこちでスペイン語を話す浅黒い労働者や学生、女子供が普通に暮らしているのだ。ATMで現金を引き出そうとしたら英語かスペイン語を選択する表示が現れる。政治家のテレビ宣伝でもスペイン語で訴えかけるのが当り前になってしまった。80年代くらいまでは考えられぬことである。マイアミを舞台にしてTVドラマも多い。たとえば、人気ドラマの『デクスター(Dexter)』では、ヒスパニックの俳優がヒスパニック系刑事の役を演じて、時折スペイン語を交えたセリフを吐く。超ヒットドラマ『ブレイキング・バッド(Breaking Bad)』では、アリゾナ州を舞台設定にし、ヒスパニック系人物がたくさん出ていた。『CSI: マイアミ』まで出現し大人気。『マイアミ・バイス』が放送されていた1980年代とは大違いだ。スペイン語が第二公用語になるかもしれない。

Marco Rubio 1Castro 1Fidel Catro









(左:マルコ・ルビオ/中央:チェ・ゲバラとカストロ/右:フィデル・カストロ)

  「お涙ちょうだい」演説や「私もあなたと同じ」という戦法は、政治家がよく使う手口だ。マルコ・ルビオは労働者階級の両親が、キューバから米国へ移住してきた時の苦労話をして、ヒスパニック有権者の同情と共感を引き出して当選してきた。ルビオ議員は両親がフィデル・カストロ(Fidel Castro)政権下のキューバを脱出した点を強調していたのだ。(Sen. Marco Rubio, Marco Rubio: My family's flight from Castro, POLITICO, October 21, 2011) しかし、この逃避行物語が捏造じゃないか、との疑惑が浮上したのである。大手新聞社のワシントン・ポスト紙が、ルビオ家の秘密を暴露してしまった。ルビオ議員の両親、父親のマリオ(Mario)と母親のオリア・ガルシア(Oria Garcia)は、息子のマリオ6歳を連れて1956年5月27日に米国に渡ってきた。母方の祖父ペドロ・ヴィクター・ガルシアも同じ頃渡米していたという。(Manuel Roig-Franzia, Marco Rubio's compelling family story embellishes facts, documents show, The Washington Post, October 21, 2011) 日本人でも気付く人が多いだろうが、カストロがバチスタ政権をクーデタで倒したのは1959年の元旦だ。映画『ゴッド・ファーザー Part 2』を観た人は、バチスタが統治していた頃のキューバを覚えているだろう。ドミニカへ亡命したバチスタに代わって、共産主義者のカストロが天下を取ったのは誰でも知っている。ルビオ議員の両親は、カストロの共産主義政権を嫌って、アメリカに亡命したのではなかった。

  コーネル大学のマリア・クリスティナ・ガルシア氏によれば、カストロ政権以前(1950年代)にやって来た人の大多数は、政治的理由ではなく、経済的動機から移住してきた、とのこと。したがって、2006年のフロリダ州選出下院議員時代に発言した内容はおかしい。彼はフィデル・カストロという悪漢が政権を取り、彼の両親を含めた大勢のキューバ人が逃れてきたのだ、と述べていた。彼の発言のいかがわしさは他にもある。彼の父親マリオからの伝聞だろうが、その信憑性が疑わしい。苦労人の父マリオは6歳の時に母を亡くしたが、葬儀の時でさえハバナの街頭でコーヒーを売っていたという。貧しさの程が分かる。こうした父親の貧しい子供時代を保守派評議大会で述べていた。母親の葬式なのに働かねばならぬとは、彼の貧しさには心を打つものがある。それから7ヶ月後、上院議員選の最中に、その最愛の父が他界したのだ。その時、公開レターの中で、ルビオ氏は父が9歳の誕生日に母(マルコの祖母)を亡くしたと述べてしまった。あれ ?! 命日が変わっている ! もし、父親が小1(6歳)という年齢を小4(9歳)に間違えたら妙だ。大切な母親が亡くなった年を3年もズレて覚えているなんて冗談だろう。母親の命日を間違えていたとは、一体どういうことか? 怪しいぞ。何か話を膨らませているか、修正しているんじゃないか?

  嘘がバレ始めて他人から追求されると、政治家は曖昧な回答を口にするようになる。2010年、Foxテレビの番組で、司会のショーン・ハニティーが尋ねると、ルビオ議員は両親がいつ米国に到着したのかを曖昧にし、話をはぐらかした。ルビオ氏の事務所からの説明によれば、彼の両親は当初、米国に永住するつもりはなく、いずれキューバに戻る腹だったという。彼の母オリアは子供二人を連れて里帰りしたこともある。また、父マリオも荷物を纏めて帰国しようとしたことがあるらしい。公式記録によれば、父親は5日ほど帰郷し、母親は2ヶ月と3週間の里帰りだった。最後にキューバに戻り、米国に再入国したのは1961年3月である。彼らはカストロ政権下の共産主義で悲惨なキューバに落胆し、米国永住を決めたらしい。注目すべきは、ワシントン・ポスト紙が暴露記事を掲載すると、すぐにルビオ氏は自分のサイトに記されている経歴をアップデート(つまり修正)したのだ。(Nia-Malika Henderson, Marco Rubio updates his Senate Web site biography, The Washington Post, October 23, 2012) 慌てて書き直したことは簡単に想像できよう。やはり、いかがわしい過去があったということだ。

  移民社会になると帰化人の2世3世の出生が問題になる場合がある。とくに米国では戸籍制度がないから、不法移民が増加すると怪しい出自の子供が現れてくる。入国してからの両親がどのような法的身分なのか不明なため、ルビオ上院議員の米国籍に疑惑が持たれてしまった。彼の両親は1956年5月27日に入国し、その15年後に次男マルコ・ルビオ議員が生まれている。彼の誕生日は1971年5月28日だ。公式記録によれば、彼の両親は1975年9月9日に帰化申請をし、長男マリオの帰化申請も同時に行っていた。世帯主の父マリオが帰化する際、すでに在住していた義理の姉妹に保証人となってもらっていたという。(Alex Leary, Documents give shape to Marco Rubio's family history but raise new questions, Tampa Bay Times, October 25, 2011) そうすると妙だ。なぜルビオ夫婦は1961年に再入国してから約15年間も帰化申請をためらっていたのか? もちろん、キューバへ戻るつもりだったから、米国籍取得をしなかったと言えよう。だとすれば、マルコ・ルビオ議員が生まれた1971年では、まだルビオ夫妻は外国人であったはず。したがって、ルビオ議員は在米キューバ人のもとに生まれた子供となり、アメリカ人ではなくキューバ人となってしまう。ちょうど在米日本人夫婦に子供ができても、その子が日本人であるのと同じ理屈だ。オバマ大統領の出生に続き、また有力議員の国籍問題が持ち上がってしまった。不法移民が余りにも多すぎる社会の病理が露出したわけだ。民衆政治(デモクラシー)を統治原理とするのに、その構成員たる国民や為政者にいかがわしい人物が多いとは、嘆かわしいというより末期的症状に瀕している。

John McCain(左/ジョン・マッケイン)
  こんな脛に傷を持つマルコ・ルビオ上院議員は、なんと移民改革法を議論する八人衆(Gang of Eight)の一人なのだ。その八人衆には大物議員が含まれている。まづ2008年に共和党大統領候補にもなったジョン・マッケイン(John McCain)上院議員だ。彼はベトナム戦争で捕虜となった海軍パイロットで、帰国すると有名軍人の息子であることも要因となって上院議員になれた。レーガン大統領の流れを汲む共和党保守派の振りをしているが、実際は民衆党寄りのリベラル派議員である。あの偽善的大物議員エドワード・ケネディーや、ユダヤ系上院議員ジョセフ・リーバーマンと親しかったくらいだ。ちなみに、マッケインがベトナムの捕虜収容所で拷問されたというのは怪しい。海軍大将の息子だから鄭重に扱われたと考えた方が良い。腹黒いソ連や支那の軍事顧問は、こういった坊ちゃんを「仕込んで」帰国させ、裏で脅したり支援したりして利用するのだ。マッケインがベトナム人にやたらと寛容で、怨恨がないのは不思議だ。絶対に隠したい何かを持っているんじゃないか? 謀略の天才たるロシア人や支那人を見くびってはならない。日本人は甘いのだ。 


Charles SchumerRobert Menendez(左:チャック・シューマー/右:ロバート・メネンデス)
  次ぎに呆れるのは、ニューヨーク州選出のチャールズ・シューマー(Charles Schumer)上院議員である。このシューマーというユダヤ人は、合衆国の代議士というよりイスラエルの手先と考えた方が適切なくらいのシオニスト議員である。本国イスラエルから派遣されたニューヨーク支店長みたいなもんだ。AIPAC(強力なイスラエル・ロビー団体)の寵児たるシューマーは、ニューヨークのユダヤ人から支持されているから、移民賛成派であることは間違いない。自らが難民や移民の過去を持つユダヤ人は、白人国家を維持しようとする西欧系アメリカ人を毛嫌いしている。そのくせ外人排斥を国是とするイスラエルについては沈黙するのだ。二重思考と二枚舌はユダヤ人の特徴である。(になみに、シューマーは元下院議員で、日本人の英語発音をからかった(「ジャングリッシュ」を馬鹿にしたイタリア系アルフォンソ・ディマート上院議員を破って上院に乗り込んだ人物である。) 狡猾なシューマーは、ヒスパニック系上院議員のロバート・メネンデス(Robert Menendez)を引き込み、移民賛成派を増やしたのだ。(Ryan Lizza, Getting to Maybe, The New Yorker, June 24, 2013) メネンデスの両親はキューバからの移民で、マルコ・ルビオと同じである。彼はドリーム法(Dream Act)の積極的支持者である。この法案は簡単に言うと、不法入国の親のもとに生まれた子供に免罪符を与え、米国に帰化することを許そうとする趣旨。これでは泥棒の息子に、盗品を所持することを許すようなものだ。盗んだ物を犯罪者の親から相続するなど言語道断。謝罪して返却し、南米のどこかにある祖国に帰るべきだ。恨むなら合衆国政府ではなく、密入国者の両親か祖父母にしろ。これが当然の筋だ。

Lindsey Graham 2Chuck Hagel








(左:リンゼイ・グラム/右:チャク・ヘーゲル)

  ユダヤ人シューマーの隣には、共和党の有力議員リンゼイ・グラム(Lindsey Graham)がふんぞり返っている。サウス・カロライナ州選出のグラムは、ユダヤ・イスラエル・ロビーの飼い犬として有名だ。お金持ちのユダヤ人団体に魂を売った共和党員であることは、チャク・ヘーゲル(Charles Timothy Hagel)上院議員を詰問した時の事を思い出せば分かる。国防長官に指名される前、ヘーゲル氏は米国の外政に甚大な影響をふるうイスラエル・ロビーを批判し、「私は合衆国上院議員で、イスラエルの政治家じゃないぞ」と発言していたのだ。だから彼はユダヤ人から目の敵にされていた。それを承知で、グラムはヘーゲルの任命を吟味する公聴会で、ヘーゲルに「イスラエル・ロビーに飼われている議員とは誰ですか?」と白々しい質問を投げかけて、ヘーゲル氏をイジメていた。こんなテレビ放送を観たアメリカ人保守派は、「グラム、テメエだろ ! 」と罵倒したくなる。「お前がユダヤ人どもの飼い犬じゃないか。何とぼけてんだ。ふざけんじゃねぇ」と激怒するだろう。このグラムはゲイ(同性愛者)の容疑が濃厚で、政界ではあの「オカマ野郎」と陰口をたたかれているのだ。(Olivia Nuzzi, Why I Call Lindsey Graham Ambiguously Gay, The Dayly Beast, March 14, 2014/ Lauren Fox, Lindsey Graham Challenger Calls Senator Ambiguously Gay, US News & World Report, March 13, 2014) ヘーゲル国防長官がベトナム戦争に従軍した合衆国陸軍の軍曹であったことは皆が知っている。この立派な軍人を、イスラエルに媚びて御機嫌を取るゲイのグラムが追い詰めたのだ。陸軍のみならず海兵隊の屈強な軍人は腸(はらわた)が煮えくりかえる思いだったろう。ホモ野郎に仲間が攻撃されたのである。この悔しさを現在の日本人は理解できるのか?

chuk Hagel 3Chuck Hagel 5







(左:若き日のヘーゲル軍曹/右:アメリカ兵を訪問するヘーゲル長官)

  こうした議員たちの中に混じって、移民の息子マルコ・ルビオは、共和党内のヒスパニック党員を引き留めたり、党員以外のヒスパニック有権者を取り込むために、ドリーム法をちょっとくらい賛成したらどうか、と呼びかけていた。共和党保守派のティー・パーティー(Tea Party)に擦り寄って、保守派の星みたいに振る舞っているが、移民反対の西欧系保守派からは嫌われているのだ。ルビオは不法移民や有色移民に反対する共和党内の仲間より、血統で繋がっている同類のヒスパニックの方に支持を求めている。アングロ・アメリカ人はしょせん赤の他人で、本当の仲間でないことを自覚しているのだ。大統領選に出馬するなら、理念よりも遺伝子で選んでくれるヒスパニック有権者に媚びた方が得策。オバマを見れば分かる。黒人有権者は、彼が黒人だから投票したのだ。黒人が多いフィラデルフィアの選挙区では、98パーセントがオバマに投票したらしいから、人種の繋がりとは恐ろしい。日本人は確と肝に銘ずべし。オバマの外交政策なんて一つも知らないけど、黒人が大統領になれるから、というので投票した黒人が沢山いた。つまり、黒人の大多数が血統的仲間を選んだということである。これだって人種主義だ。黒人だからレイシストに非ず、というのは間違いである。

ヒスパニックになったワスプ

  アメリカ合衆国は現代のローマ帝國である。圧倒的な軍事力と天下を牛耳る金融力、そしてに世界中で流通するドル紙幣に加え、その文化や言語が僻地でも知れ渡っているのだ。ローマ人が持っていなかった海軍力と空軍力、そして核兵器を見れば、アメリカ人はローマ人よりも偉大な世界の支配者に思えてならない。ローマ史の碩学ヨヘン・ブライケン(Jochen Bleicken)は、ローマ帝國について述べている。

  紀元二世紀中葉以降、地中海沿岸地帯に住むすべての者にとって、あらゆる国民、あらゆる都市がローマに服属しているばかりではなく──属州としてローマの直接支配に服していない場合でも、──元老以下の意向に従わざるをえないことは、明白であった。ローマの商人はどこに出かけて取引をする場合でも故国ローマ市の力に物をいわせることができたし、ローマの元老院議員はどんな国に行っても、その国が自由を保持していた当時の王や土侯が受けていたのと同様の表敬を受けていた。ローマが世界を支配していることは、誰の目にも明らかであった。(J. ブライケン 『ローマ共和政』 村上淳一/石井紫郎 訳 山川出版社 1984年 p.243)

  世界を最先端兵器で支配する米国は、他国を服従させたり、同盟を結んで傘下に納めている一方で、国内に異民族が流入するという必然的な問題に悩んでいる。エトルリア系とサビーニ系のローマ人が蕃族侵入に頭を痛めたのと同様に、アングロ系と西欧系アメリカ人は野卑なヒスパニック移民に対して有効な手が打てない。大軍団を率いたペルシア人やエジプト人なら撃退できるが、丸腰の中南米人には発砲できず、せいぜい拘束して留置所に投げ込むことしか出来ない。拘留所が満員になれば、重犯罪者をのぞいて釈放するしかないのだ。釈放され国境の外に放り投げても、すぐ河や草原を渡って再入国するのが中南米人である。イタチごっこより質(タチ)が悪い。イタチは福祉をよこせ、とせがまないだろう。移民が増えれば異人種婚が増えて、混血児が生まれてくる。古代なら人種や容姿を気にしなかったが、現代では肉体的特徴や遺伝子情報に人々が気付いてしまった。混血児にはアイデンティティー(自己識別)という悩みがつきまとう。アメリカ本土で生まれても、肉体は両国の国境を跨(また)いでいるのだ。

Kennedys 3Kennedys 2





(左: ジョセフ・ケネディー夫妻と子供たち / 右: ジョン・F・ケネディーと家族)

  現代アメリカ史ではケネディー家がアメリカの王室みたいに持て囃されるが、政治権力の観点から見れば、ブッシュ家の方が圧倒的に王族に近い。華麗なる一族のジョン・F・ケネディーは確かに、若い共和国の大統領としてふさわしいかも知れぬが、各国が権謀術数をめぐらす世界政治においては蟷螂(とうろう)の斧しか持っていない。せめて匕首(あいくち/dagger)くらい懐に隠しておかなきゃ。ブッシュ家は東部エスタブリッシュメントの一員で、ブッシュ王朝の初代大統領ジョージ・“ポピー”・ハバート・ウォーカーは、もしかしたら闇の政治組織に入れたのかも知れない。父親のプレスコット・ブッシユ(Prescott Sheldon Bush)は、イェール大学の有名な秘密結社「スカル・アンド・ボーンズ」のメンバーだし、ハリマン社に就職できた。あの鉄道王の息子アヴェル・ハリマンが所有している会社である。その後、ブラウン・ブラザーズ・ハリマン(Brown Brothers Harriman & Co.)社の共同経営者となって、資本を貯めて上院議員になれた。

Edward Harriman 3Averell_Harriman 2Pamela B D ChurchillRandolph Churchill








(左:エドワード・ハリマン/アヴェル・ハリマン/パメラ夫人/右:ランドルフ・チャーチル)

  ここでちょっとハリマンに触れておく。ウィリアム・アヴェル・ハリマン(William Averell Harriman)といえば、アメリカの政財界で知らぬ者がいないほど有名で、民衆党の大御所的存在だった。我々もよく知っている鉄道王エドワード・ハリマン(Edward Henry Harriman)の息子で、トルーマン政権下でソ連への大使となり、のちにニューヨーク州知事となった人物である。三番目のパメラ(Pamela Beryl Digby Churchill)夫人は、あのウィンストン・チャーチル首相の息子ランドルフ(Randolph)と離婚した女性である。本当に権力者の閨閥(けいばつ)はすごい。我が国の歴史書でも言及されているが、日露戦争のあと満洲の権益と鉄道敷設をめぐって日本は、父のエドワードと揉めててしまった。小村寿太郎が反対していたので、伊藤博文や桂太郎、井上馨ら元勲も、つい押し切られてしまったらしい。「覚えておけよ。後悔するぞ」と言われたとかいないとか。案の定、日本人は満洲で米国と摩擦を起こし、あの時ハリマンと一緒に満鉄を開発しておけば良かった、と後悔したのはご存じの通り。ハリマン家のユニオン・パシフィック(Union Pacific)社は、英国のロスチャイルド家と繋がっていて、アメリカでの鉄道経営を行っていたのである。アメリカ大陸とユーラシア大陸を結ぶ鉄道網を完成させ、太平洋を横断する海運業と併用すれば、世界を結ぶ一大輸送システムが出来上がるわけだ。いやはや、ユダヤ人は昔からグローバリストであった。

Bernard Baruch 2Jacob Schiff 2Ernest Cassell 1Edward VII








(左:バーナード・バルーク/ヤコブ・シフ/アーネスト・カッセル/右:国王エドワード7世)

  両家の間を仲介していたのが、バーナード・バルーク(Bernard Baruch)とヤコブ・シフ(Jacob Schiff)である。ユダヤ人のバルークは国内に六つあるタバコ会社を合併させ、一つのトラスト企業(Consolidated Tabacco Company)に纏めてしまうほどの、敏腕ビジネスマンにして政商であった。ウォール街の大物であったバルークは、ウドロー・ウィルソン大統領とフランクリン・D・ローズヴェルトの補佐官を務め、彼らを背後で操っていたみたいだ。もう一人のヤコブ・シフ(本名Jakob Heinrich Schiff)は、我が国の戦時国債を買ってくれたユダヤ人銀行家で、伊藤博文や高橋是清が大変感謝したという。(ただし、これには裏があるが、ここでは述べない。まったく日本人はお人好しで、甘い考えを持っている。) シフは米国に於けるロスチャイルド家の代理人。彼は英国の高名なユダヤ人銀行家アーネスト・カッセル(Sir Ernest Cassel)と親しかった。(カッセルはカトリック信徒に改宗したが、周囲の者はユダヤ人と見なしていた。) 当時、カッセルはエドワード7世と昵懇で、アスキス首相やチャーチル首相とも仲良しだったというから、相当な権力と人脈をもつ人物だ。歐洲の王様や封建領主は、度々ユダヤ人を財務顧問官にしたり、お金を借りたりしていたのだ。王侯貴族には金融知識が乏しく、ユダヤ人への警戒心がほとんどなかったので、国益を売り渡していることに気付かぬ者が実に多かった。封建君主はコツコツお金を貯めるとか、倹約に努めるとかしないんだよねぇー。困った人たちだ。

Robert Lovett 2Ben BernankeJanet YellenAlan Greenspan 5








(左:ロバート・ロヴェット/ベン・バーナンキ/ジャネット・イエーレン/右:アラン・グリーンスパン)

  ハリマン・ブラザーズ社はブラウン・ブラザーズ社と合併して、ブラウン・ブラザーズ・ハリマン(BBH)社となり、そこには後に国防長官となるロバート・ロヴェット(Robert Lovett)が勤めていた。ロヴェットはイェール大学の「スカル・アンド・ボーンズ」のメンバーであり、父のロバートはユニオン鉄道の会長を務めていたのである。(イエール大学のOBネットワークはすごい。有名人や有力者がいっぱい居る。) BBHには、もう一人有名人がいる。連邦準備制度の理事長アラン・グリーンスパン(Alan Greenspan)はBBH出身者で、ユダヤ人銀行家の一員であった。FRBはユダヤ人だらけで、ベン・シャローム・バーナンキ(Ben Shalom Bernanke)やジャネット・イェーレン(Janet Yellen)を観れば、FRBはユダヤ人が支配していることが分かるだろう。ちなみにこのイェーレンは有名なシンクタンク、外交評議会(CFR)のメンバーだった。ユダヤ人は権力構造の中で、あちこち要職を渡り歩いているのだ。有名理事長グリーンスパンは、NBCの大物アンカーであるユダヤ人女性アンドレア・ミッチェル(Andrea Mitchell)と結婚し、パワフル・カップルと評されていた。まさしくユダヤ人のビジネス界とメディア界の合併だ。こうしてみれば、ユダヤ人は上層部で結束していることがよく分かるだろう。米国や歐洲の人脈図を説明すると、たいへん長くなるので、ここら辺で終わりにする。

andrea mitchell 2Alan Greenspan & Andrea








(左:NBCのアンドレア・ミッチェル/右:アランとミッチェル夫妻)

  次男のジョージがニクソン政権で権力の中枢に潜り込み、フォード政権下でCIA長官となった。当時、ドナルド・ラムズフェルド(Donald Rumsfeld)はホワイト・ハウス首席補佐官で、しばらくしてから国防長官に就任した。空席になったポストにデック・チェイニー(Richard Cheney)が後釜として坐り、まんまと首席補佐官になったわけだ。レーガン政権でジョージが副大統領となったら、やり手のジェイムズ・ベーカー3世(James Baker III)が首席補佐官や財務長官になっていた。みんなでつるんでいたというわけ。

 BushJames Baker IIIDick_Cheney








(左:ジョージ・H・W・ブッシュ/中央:ジェイムズ・ベーカー/右:ディック・チェイニー)

  人気者のレーガン大統領のお陰で、副大統領から大統領になれたジョージ・ブッシュはたった一期だけしかホワイト・ハウスに住めなかった。そこで、飲んだくれのアル中息子ジョージ・ウォーカーを更生させて、南部の要であるテキサス州知事にしたのだ。頭は凡庸だが愛嬌がある。有権者も東部インテリ風の親父(オヤジ)より、自分たちと同じくらい「お馬鹿」ぶりを見せる息子に好感を持った。悔しさをにじませる父親は、ありったけの権力をふるってドラ息子を二代目大統領にしてしまった。アル・ゴアとの接戦で、投票の再確認作業がフロリダ州で行われた時、盟友ジェイムズ・ベーカーが登場して、共和党選挙対策部の指揮を執った。敏腕弁護士らしくベーカーは、そうとう強引な手を使ったみたいだ。しかし、選挙は勝てばいいのだ。投票用紙の再確認で、どんな不正が行われたのかは、実際のところ分からない。ともかく、選挙参謀のカール・ローヴが福音派キリスト教徒の保守派票を掘り起こしたり、石油カルテルの重鎮たちを総動員して、アホ息子をホワイト・ハウスまで担いで行った。ボロ神輿(みこし)、担(かつ)ぐなら、軽くてちょっとパーがいい。9/11テロという八百長臭い手段を用いて、オヤジのやりかけた中東戦争をスケール・アップしてしまった。イラクを叩き潰す口実として、9/11事件は都合が良かった。あれがアルカイーダによる本当のテロだと思う人は脳天気。あの青山繁晴でも信じているのだ。アメリカ人が彼に見せた写真など、簡単に捏造できる代物である。我々が観たテロの映像だって、何らかの画像処理が施されているかも知れない。アメリカには大衆操作や宣伝・心理戦の専門家がいて、学者をも騙すことができる。(この話はまた別の機会に説明します。) 要は、9/11テロ作戦がジョージ・W・ブッシュとチェイニーのもとで処理されることが、前もって計画書に織り込まれていたのだろう。だから、証拠隠滅がスムーズに運んだわけだ。でも、9/11テロはどんなトリックが使われたのか? とても興味深い。

  中東アジアの勢力図を書き換えるという壮大な計画は、アメリカ一国だけでは無理のだ。西欧諸国を利用するイスラエルが主導権をとって推進した、偽装テロ作戦かも知れない。ブッシュ大統領の背後には、ユダヤ人の「ネオ・コン」グループだけではなく、イスラエル・ロビーが附いていた。ジョージ・Wが確固たる政治基盤を持てたのも、父親がユダヤ人と結託したからであろう。「新世界秩序(New World Order)」を公言したのは、グローバリストの世界が到来したことを宣言したのかも知れない。巨大な国際組織をもつイスラエルと癒着したブッシュ家には、政治資金が表と裏から流入する。内外のマスコミや国際組織、国内の文化・学問に関する機関、などが支持母体となるのだ。鬼に金棒どころか、核兵器か巨大彗星を備えたようなもになる。英国がユダヤ人に支配されたように、米国もユダヤ人に牛耳られ、その異人種勢力とワスプ(WASP)のブッシュ家は組んだのである。だからジョージ・ハーバートの次男ジェブ・ブッシュ(John Ellis ‘Jeb’ Bush)は、どんな批判があろうとも共和党大統領候補の筆頭になっているのだ。いわば2016年の大統領選挙も出来レースとなっているのかも知れない。もちろん、選挙において、一寸先は闇だから断定は出来ない。しかし、アメリカ政治の裏は本当に汚いのは確か。

Jeb Bush 2 3Barbara Bush 3










(左:ジェブとコロンバ・ブッシュ夫妻/中央:ジョージ・プレスコット・ブッシュ/右:バーバラ・ブッシュ)

  選挙資金で圧倒的優勢を誇るジェブ・ブッシュには、もう一つ切り札がある。それは女房と子供だ。ジェブは学生時代メキシコで知り合ったコロンバ・ガルニカ(Columba Garnica de Gallo)を好きになり、あろうことか彼女と結婚したのだ。東部の上院議員家庭に育ったジョージ・ハーバートからすれば、メキシコの貧乏娘が義理の娘になるとは夢にも思っていなかったに違いない。良妻賢母のバーバラ夫人はピアース(Pierce)家の令嬢で、プレスコット・ブッシュの次男ジョージとは似合っていた。バーバラ夫人の父親はマッコール社の経営者で、その家系は入植時代のトマス・ピアース(Thomas Pierce)にまで遡る。貧乏移民でごった返す米国で、植民地時代の先祖がはっきりしている家族は少ない。南北戦争時代に移住した白人だって大したものだから、それ以前の家系を辿れるのは自慢になる。それにトマス・ピアースの子孫には、フランクリン・ピアース(Franklin Pierce)大統領がいるのだ。したがって、バーバラ夫人は名家の令嬢だった。彼女は南欧系や中南米系の母親とかなり違う。たとえば、長男ジョージは野球少年で、試合でホームランを打ったことがあった。イタリア人やメキシコ人の少年なら、母親に自慢し、母親も諸手(もろて)を挙げて褒めるだろう。しかし、バーバラ夫人は、ジョージのヒットやホームランよりも、チームの仲間はどうだったのかを尋ねたのである。リーダーとしての資質は仲間への配慮にある。自分の自慢話は二の次だ。こんな事は、ラテン系の家庭では考えられない。メキシコ人の息子なら「ママ、ホームラン打ったよ」と自慢し、母親は「さすがママの子だわ。うちの子天才かしら」とベタ褒めになる。冷静に子供と対話する英国系の親子と多い違い。ここが厳格な英国系の家庭とだらしない南欧系の家庭の差であろう。

Jose Maria Garnica & Second wifeColumba 18 years old









(左:コロンバの両親/右:コロンバ)

  こんな名門ブッシュ家の嫁が、下層ヒスパニック家庭で育った小娘じゃ、両親兄弟親戚もビックリだろう。政治が上手な貴族でも、性欲というか、女の趣味がズレている者がいる。彼女の父ホセ・マリア・ガルニカ(Jose Maria Garnica Rodriguez)は、カルフォルニアに出稼ぎに行った筋肉労働者である。しかも、コロンバが3歳の時家を出ているのだ。(Traci Carl, Jeb Bush's father-in-lawhopes to reconcile with daughter,The Florida Times-Union, February 14, 2001) 両親は別居状態でも、子供たちは父親に会うためカルフォルニアを訪れていたらしい。なんか移民家族の典型的な話を聴いているようだ。娘がブッシュ家の御曹司と結婚した時には、ホセは腰が抜けるほど驚いたことだろう。自分の年収の何千年分も持つお金持ちに娘が嫁いだのだから。玉の輿はオヤジの心を捉えた。娘と和解したいと申し出たらしい。ちょっと調子が良すぎるだろ。

  夫婦関係には他人では判らぬことが多々ある。恋人時代には女が趣味を男に合わせることがあるが、結婚すると亭主が女房に合わせるようになる。力関係が結婚を境に逆転するのだ。ジェブがどうか、分からない。しかし、彼がコロンバ夫人に色々と合わせていることは確かだ。彼女は結婚当初、ブリティシュ・アクセントどころか、英語もままならなかった。少女時代には可憐な乙女も、中高年になると「オバタリアン」に変身する。日本のオバタリアンは世界最強だ。あるテレビ局員が街頭で、亭主との生活をどう思うか中年女性に尋ねた。すると、ある女性は離婚もせずに一緒にいる理由を述べた。「う~ん。人類愛かなぁ」と答えていた。えぇっ ! 「夫婦愛」じゃなくて「人類愛」が絆となっているのか !! 日本の亭主は沈んでしまうじゃないか。まあ、ジェブも似たようなもので、自分は二重文化(bicultural)の持ち主と語っていた。アングロ系とラテン系の文化を兼ね備えているという意味だろう。ブェブがスペイン語を学習して、夫人と会話をしているのである。コロンバ夫人は、未だに家庭で話す言葉はスペイン語である。頑固なメキシコ人を観ているようだ。三人の子供たちは英語とスペイン語を話すという。

Bush, Columba 3Bush Noell 2Bush, John Ellis







(左:コロンバ夫人/中央:長女ノエル/右次男:ジョン・エリス・ブッシュ)

  ジェブの変貌は何も結婚ばかりが原因ではなく、政治的野心からの転向でもある。ジェブはアングロ・スコット人が多い故郷テキサスを去り、ヒスパニック住民で溢れるフロリダ州マイアミに住居を構えた。アングロ・プロテスタントのブッシュ家は、英国風の家系らしく、同家は監督教会(エピスコパリアン/Episcopalian Church)に通っていたのだが、ジェブは女房の信仰、つまりカトリック信徒に改宗したのである。(David Frum, Is Jeb Bush a Republican Obama ? , The Atlantic, February 4, 2015) でも、アングリカン教会じたいが、プロテスタントというより、教皇抜きのカトリック教会みたいなものだから、心理的抵抗は少ない。だって、ヘンリー8世は兄アーサーが亡くならなければ、聖職者になるはずであった。みんな平等のプロテスタント教会なんて嫌である。ジェブがヒスパニック文化に傾倒するもは、子供たちの存在も大きい。長男のジョージ・プレスコットは、こんにち政界に入っているが、小さい頃は人種的特徴でからかわれたらしい。第7生の時に行われた野球の試合中、スタンドの誰かが彼を「スピック(spic)」と馬鹿にしたという。「スピック」とは「ヒスパニック」を縮めた言い方で、「ジャップ」と同じだ。ジェブは妻がメキシコ人なので、息子の肌が浅黒いことを、黒人が大半を占める教会の集会で語っていた。(Manuel Roig-Franzia & Peter Wallsten, Hispanic consciousness lends weight to Jeb Bush as GOP eyes 2016 presidential race, The Washington Post, April 24 2013) 浅黒い息子について語ることが黒人やヒスパニック有権者の同情を引くことになると計算しての発言だろう。しかも、娘のノエル(Noelle)は、薬物所持で逮捕歴があるし、次男のジョン・エリス(John Ellis)は恋人の自宅に侵入した廉で逮捕歴がある。外国で買い物をしすぎたコロンバ夫人は、税関で不審に思われるといった失態を犯している。これは白人社会ならマイナス要因となるが、ヒスパニック社会では、逆に親近感が湧く。ヒスパニック家庭では家族の誰かが前科者だったり、服役していたりするからだ。不良になった子供に悩む親だって珍しくない。強盗や殺人犯になってもおかしくない子供を抱えているからだ。ジェブは米国の人種構成が激変したことを見据えて、それにふさわしい態度を取っている。

Bush Family 4












(上写真/ブッシュ家)

  今や共和党を構成する西欧系白人の力は昔ほどではない。マルクス主義や左翼思想で、西欧系白人であることを堂々と自慢できなくなったアメリカ人は、同種族で一致協力するという団結心を悪と考えてしまう。自らの国家を放棄して、異なる人種の混淆社会が善であると仕込まれているのだ。一部のアメリカ白人はこうした愚行に気付いているのだが、大半の西欧系白人は条件反射的に否定してしまう。現在、共和党が人種で分裂しているのだ。共和党には、コリン・パウエルやコンドリーザ・ライスのような黒人も存在するが、民衆党にオバマが登場したら、同種族のオバマに投票してしまった。政党より人種を選んだのである。白人党員は彼らを裏切り者とは呼べなかった。「やっぱりね」と心でつぶやくだけ。ユダヤ人は共和・民衆両党を超えて、ユダヤ人として行動する。ユダヤ人の利益になればどちらの政党でも構わない。心のふる里イスラエルが一番大切。ヒスパニック党員は、移民政策でほとんど民衆党と一緒である。白人(グリンゴ)どもより、同胞の方がソリが合う。したがって、合衆国建設の理念と西歐白人の血統を大切にしたい伝統重視派は、共和党内部で少数派になってしまうのだ。したがって、有名なパトリック・ブキャナン(Patrick Buchanan)らの、保守本流の白人愛国者は党内で孤立してしまう。これが共和党の致命的病理である。大統領選挙となれば、黒人やヒスパニック党員の票も計算しなければならず、彼らに媚びる政策を打ち出さねばならない。すると、西欧系党員が反発してソッポを向いてしまう。民衆党はほくそ笑んでいる。

Jeb Bush & Columba(左/ブッシュ夫妻)
  こうした状況を充分理解てしているジェブは、移民政策でも柔軟路線を取っている。貧困に苦しむ子供たちや、祖国で迫害されて逃げてくるヒスパニック移民に対して助けになるような移民法案を掲げているのだ。もちろん、密入国は犯罪であるから糾弾されねばならない。しかし、家族を愛するがゆえに米国に来る移民を何とか助けようじゃないか、と提案しているのだ。移民は法を破ったかも知れない。だが、それは重罪に非ず。「愛の行為(act of love)」である。(Ed O'Keefe, Jeb Bush : Many illegalimmigrants come out of an ‘act of love’, The Washington Post, April 6, 2014) ヒスパニック有権者たちは、パチパチパチと拍手喝采。「わーい、いい人だなぁ」と称賛の渦。愛する子供たちのためにあえて法を犯す移民たちを正当化しているのだ。嬉しいじゃないか。貧乏移民の気持ちをよく分かってくれる旦那だ。それにカミさんと息子は浅黒いヒスパニックだし、何となく親近感が湧く。ヒスパニックが多いフロリダ州で、ジェブが知事を目指したのも、将来この州が重要な決戦地になると見越しての行動であった。2期も知事を務めたジェブはフロリダ州を押さえた。もう一つの大票田テキサスは、家族揃って押さえているから、残りの南部は手に入ったも同然。あとはカルフォルニア州と中西部を獲得すれば、大統領の椅子が転がり込む。ブッシュ家の野望はもう少しで達成される。

  最近の米国政治では中南米系の有権者を無視できない。オバマの勝利もヒスパニック票が、かなり貢献していたからである。全米規模で行われる大統領選挙となれば、どうしたってヒスパニック有権者を意識した政策を掲げてしまうのだ。ヒスパニックの多いカルフォルニア州で勝つには、何としても中南米系団体の支持が必要だ。したがって、共和党の理念に反する要求だって呑まねばならぬ時がある。そうすると、ますます白人保守層が離れてゆく。これが共和党候補者のジレンマである。有色国民に一歩づつ譲歩することで、気がつくと白人国家でなくなっている。これは日本人が肝に銘じる教訓だ。支那人や朝鮮人の支持を得たいがために、彼らに譲歩した政策を重ねると、いつのまにか従来の日本とは違った国家になるかも知れない。日本人の日本ではなく、アジア人と共存する日本となり、やがて“日本人も”棲息する島国となってしまうだろう。つまり、支那人、朝鮮人、フィリピン人、タイ人、と同等の民族となり、日系日本人は単に原住民と識別されるのだ。いずれ「日本国民党」とか「大和民族党」というエスニック政党が出来るかも知れない。「まさかねぇ」、と高を括っている日本人は、テレビ局を見てみよ。少数派でも共産主義者と朝鮮系社員が権勢をふるい、勝手な番組を制作しているじゃないか。朝鮮人や支那人の藝人を出演させて、日本人視聴者に違和感を持たせぬよう仕組んでいる。何度も見せれば大衆は慣れてくる。もう不思議と感じない。昭和40年代ないし50年代のテレビ番組を思い出せば、あまりの変わりよう驚くだろう。

  ローマ帝國が衰退したのは、戦争で負けたからではない。ローマを構成する市民の質が変化したからである。祖先が誰だか分からぬ隣人が普通のこととなり、かつて貴重だったローマ市民権は、誰もが持っている通行証くらいになってしまった。アフリカ系のカラカラ帝が、ローマ人の祖先を敬って、「ご先祖様に申し訳ない」と泣くはずがない。米国でも、独立戦争時代の祖先を持つ西欧系アメリカ人は少数派になり、国境をくぐって潜り込んだ下層民が国民権を取得しているのだ。元泥棒が有権者になって、イギリス系入植者の子孫と同等になっている事はおぞましい。ジェブ・ブッシュにとって重要なのは、西歐人の合衆国を守ることではなく、自分とブッシュ家の権力基盤を永遠のものとすべく、何としても最高権力を手に入れることである。天上のブッシュ家からすれば、地上のドヤ街でうごめくヒスパニック移民と、勢力を失った白人保守層は同じ一票乞食。とうなろうが知ったことではない。ウォール・ストリートのユダヤ人の方がよっぽど有り難い仲間だ。「わが友アメリカ人よ(My fellow Americans)」と呼びかける相手は、巨額の政治献金をしてくれる国際ユダヤ人かグローバル企業でしかない。アングロ・アメリカは既に、半分くらいラテン・アメリカになっているのだ。ジェブは「ミスター・プレジデント」ではなく「セニョール・プレジデント」と呼ばれるんじゃないか。




人気ブログランキングへ