右翼の反ユダヤ主義者と罵られたバノン

  ベン・シャピロやマスメディアから叩かれるバノンとは、一体どのような人物なのか? 彼はカトリック信仰をもつアイリス系労働者階級の家庭に生まれ、その両親はケネディー大統領を支持する民衆党員であったらしい。ヴァージニア工科大学を卒業したバノンは、補助技術官として駆逐艦に搭乗し、4年間太平洋で勤務したのち航海士となったようだ。この頃、バノンの人生を変える転機が訪れた。1979年、イランのテヘランで人質事件が発生し、アメリカ大使館員が革命派に拘束される事態が起きたのである。当時、バノンは北アラビア海で待機していたという。兇悪事件の発生を受け、ジミー・カーター大統領は軍を使って人質救出を試みたが、その作戦は期待に反して失敗に終わってしまった。この無様な失態は日本でも大々的に報道されたので、レイム・ダックとなったカーターを覚えている方もいるだろう。民衆党員家庭に育ったバノンだが、この屈辱的結果を目の当たりにして、彼はロナルド・レーガン大統領の支持者になったという。

  当初は「人権外交」を“売り”にしていたカーターだが、理性もへったくれも無い暴力の嵐が吹きすさぶ中東アジアで、厳しい現実に直面したから、圧倒的な武力で挑まなければ事態は解決できぬと分かったはずだ。(彼は名門アナポリス出身の海軍士官で、原潜に搭乗する技術屋だったが、どちらかと言えば、稼業の農園業に向いている人物であった。カーターは日曜に近くの教会で牧師を務める方が似合っていて、実際、彼はジョージアにある教会の説教壇に立っていた。) カーター支持の南部民衆党員も、バノンと同じ失望と幻滅を味わったので、「強いアメリカ」や「キリスト教に基づくモラルの復興」、「スタグフレーションの解決」を掲げるレーガンに魅了され、大勢の民衆党員がこぞって共和党に乗り換えるようになった。しばらくして、バノンはペンタゴン(国防総省)勤務となり、海軍作戦本部長の特別補佐官になったという。しかし、彼はそれで満足せず、職務の合間を縫って夜のジョージタウン大学に通い、国家安全保障を専攻して修士号を取得したそうだ。

  バノンは実に精力的な人物で、軍隊で一生を終えることを潔しとせず、ウォール街での人生を始めようとしたそうだ。しかし、金融業界で働くには学位が必要だということで、ハーヴァード・ビジネス・スクールに入学したという。刻苦勉励はバノンのモットーらしく、この疲れを知らぬ青年は目出度く経営修士号(MBA)を得た。ところが、ウォール街の金融業者は、三十歳前後の元軍人には冷たく、バノンは就職浪人になりかけていた。彼は投資金融会社の「ゴールドマン・サックス」にも職を求めたが、重役たちは渋い顔をしたらしく、不採用に傾いていたそうだ。ところが、同社のジョン・ワインバーガーとロブ・カプランの二人がバノンを気に入り、ゴールドマン・サックスに迎え入れたという。こうして銀行家となったバノンは、メディア界やエンターテイメント業に興味を覚え、映画スタジオなどの買収や仲介に取り組んだそうだ。

  それでも、バノンが求めていたものは企業の買収劇ではなく、社会問題を取り扱う政治劇、すなわちドキュメンタリー映画の制作であった。2001年の9/11テロに触発されたバノンは、『悪に直面して(In he Face of Evil)』というレーガン大統領に敬意を示すドキュメンタリー作品を世に送り、この作品が切っ掛けとなってピーター・シュワイツアー(Peter Schweizer)という政治学者と知り合うようになった。彼は続けて、共和党保守派の「ティー・パーティー」を称える『アメリカの為の闘い(Battle for America)』、金融崩壊の原因を辿った『ジェネリーション・ゼロ(Generation Zero)』、副大統領候補になったサラ・ペイリンを描く『不敗の人(The Undefeated)』などを手掛けたという。こうした一連の政治ドキュメンタリーを制作したバノンは、独自のウエッブ・サイトを創設しようと模索していたアンドリュー・ブレイトバートと親しくなる。ところが、誰も予期せぬ不幸が起きてバノンの人生がまたもや変転することとなった。まだ43歳と若かったアンドリューが2012年に急死となったのだ。バノンはブレイトバート・ニューズを引き継ぎ、同サイトを統括する責任者に就任したのである。(Joshua Green, This Man Is the MOst Dangerous Political Operative in America, Bloomberg Newsweek, October 8, 2016)

  政界での新人であるドナルド・トランプを演出する選挙参謀になったバノンは、トランプに共感を抱きそうな潜在的支持層を取り込もうと考えた。これはジョージ・W・ブッシュの選挙参謀長を務めたカール・ローヴが取った手段と似ていて、鋭いローヴはクリントン政権下でしょげていた福音派キリスト教徒を鼓舞して、眠っていた保守票を大幅に掘り起こしたのである。方向性は違うがバノンも“埋もれた”保守派の票をかき集めようとしたのである。彼の標的はオバマ政権に怒りを覚える愛国派の白人層であった。2008年に多民族・多文化主義を前面に押し出す主流メディアが、こぞってチンピラ議員のバラク・フセイン・オバマを「人種統合の英雄」に祭り上げた。黒人であるが故にオバマを「有能」と見なす左翼白人と、白人をやっつけたい有色系国民が澎湃として投票所に殺到したので、一部の西歐系アメリカ人は苦々しく思っていたのである。

  「黒人ごときが栄光ある合衆国大統領になるなんて !」と憤る一方で、「遂にこの日が来たか !」と落胆する愛国的白人は、表面にこそ現れなかったものの、全米各地に存在していたのである。やはり、アメリカの最高指導者は威厳のある西歐系白人でなきゃ。レーガン大統領を敬愛するアメリカ白人なら、静かに心の底で賛同するはずだ。何と言っても、勲章をもらう軍人にしてみれば、尊敬できる立派な大統領からシルヴァー・スター勲章とかパープル・ハート勲章をもらいたい。重厚な雰囲気を醸し出すレーガンなら嬉しいけど、正体不明のマルキスト黒人で、一時的とはいえイスラム教徒に育てられた、「フセイン」というミドル・ネームを持つオバマなんかに表彰されたって嬉しくない。彼の名前を聞いて、イラクのサダム・フセイン大統領を思い出す軍人も多いはずだ。この点に関しては、日本人だって分かるんじゃないか。もし、敗戦後であっても帝國陸海軍の元将兵が勲章を頂くなら、大元帥陛下の昭和天皇か今上陛下というのが筋で、福田康夫とか鳩山由紀夫じゃ不愉快だから、「いや、結構。いらないよ!」と言下に断るだろう。自衛官だって勲章をもらうのが、菅直人からじゃ涙が出てくる。(誤解しないと思うけど、「嬉し涙」ではなく、「情けない」とか「悔しい」といった感情からの涙だよ。) やはり、いやしくも日本の軍人なら、叙勲式には天皇陛下がいらっしゃらないと、晴れの舞台と思えないし、だいいち胸がときめかない。蓮舫が自衛隊の最高司令官じゃ冗談にもならないぞ。支那人による叙勲なんて漫画でもあり得ない。

  八年にも及ぶオバマ政権で、愛国派の白人には不満のガスが充満していた。そこに、既成の政治家を押しのけて、全く政治経験の無いトランプが舞い降りてきて、「ヒスパニック移民の中には強姦魔や殺人鬼、強盗犯が多いんだ! 奴らを追い出せ!」と叫んだものだから、鬱積していた保守派の庶民は拍手喝采。これは、アマチュアの野球選手が、初出場のロヂャー・スタジアムで、いきなり大ホームランを打ったようなものだ。エスタブリッシュメントの政治家では決して言えない「タブー(禁句)」を堂々と口にしたんだから、不法移民に憤っていた白人がどれほと喜んだことか。しかし、CBSやABC、NBC、CNNといった左翼テレビ局は、有名な不動産王が信じられない暴言を吐いたと、蜂の巣を突いたかのように大騒ぎ。NBCに至っては、番組に出演していたトランプを即刻、光よりも、スーパーマンよりも、バックス・バニーやウッド・ペッカーよりも早く馘首。 (でも、瞬間移動が得意なサイボーグ009よりかは遅いかな。) それでも、保守的なアメリカ国民は動揺しなかった。却ってトランプ支持者を刺戟して、左翼メディアに反撥を覚える有権者を増やしてしまったのだから逆効果だ。

Ben Sales 1(左 / ベン・セイルス)
  でも、こんな事で挫けないのがアメリカの左翼である。トランプ当選を受けた後でも、いや、クリントン敗北という屈辱を嘗めたせいで、ますます過激にトランプを攻撃するようになった。そこで、彼の側近に目を附け、「バノンは人種差別主義者で、その上反ユダヤ主義者なんだぞ!」と宣伝していたのだ。案の定、ユダヤ系のベン・シャピロがトランプ陣営のバノンを批判するや、直ぐさま同胞のユダヤ人ジャーナリストたちが集中攻撃を仕掛けてきた。例えば、ベン・セイルスは有力なユダヤ人圧力団体である「名誉毀損防止同盟(ADL)」を率いるジョナサン・グリーンブラット(Jonathan Greenblatt)会長を尋ね、トランプが反ユダヤ主義に加担しており、「アメリカの中核的価値にとって敵である」とのコメントを引き出していた。(Ben Sales, Stephen Bannon: 5 things jews need to know about Trump's chief strategist, The Jewish Daily Forward, November 14, 2016) まったく、どの顔(ツラ)下げてこんな事を言えるんだ? 「アメリカの中核的価値(core American values)」にとっての脅威なら、真っ先に「ユダヤ人」じゃないか。日本に置き換えてみれば、辻元清美が国会で安倍総理に対して「日本の国防を蔑ろにしている」と非難するようなものだ。まともな日本国民ならテレビ画面に向かって、「お前が言うな!! ボケ、カス、マヌケ !!」と激怒するだろう。

  セイルスの同僚記者であるジョナサン・サルナも、トランプ攻撃に参戦し、不法移民排斥を目指す次期大統領を貶めている。彼は緊急移民法(Emergency Immigration Act)を以てロシアやポーランドからのユダヤ移民を邪魔した、1920年代のウォーレン・ハーディング大統領とトランプをダブらせているのだ。(Jonathan D. Sarna, That Other Time Jews Were Hated in America ─ and 3 Lessons To Learn from It Now, The Jewish Daily Forward, November 15, 2016) 現在のユダヤ系アメリカ人は承知できないだろうが、第20世紀前半のアメリカ国民はユダヤ移民なんて大嫌いで、自国がおぞましい容姿をした異民族に汚染されることを望んでいなかった。だから、特に人種差別主義者でもない白人でも、東歐やロシアからやって来るユダヤ移民には眉を顰めたし、異邦人の入国を制限する法律に反対しなかったのだ。今では公言できないけど、当時のアメリカ人の方がよっぽど「健全」だった。少なくとも、自分の祖国を異人種から守るという気概を持っていたのだから。

  マスコミ界にはユダヤ人ジャーナリストが雲霞の如く存在しており、「反ユダヤ主義」を耳にするや、大勢のユダヤ人記者がサメの如く群れてくる。例えば、「ワシントン・ポスト」紙のダーナ・ミルバンクは、「はっきり言おう。ドナルド・トランプは頑固者でレイシストだ」と書いていた。(Dana Milbank, Trump brings bigots out of hiding, The Washington Post, December 18, 2016) 彼はあるツイッターに「ミルバンクは反白人の寄生者で、頑固なユダヤ人至上主義者(kike supremacist)だ」と書かれ、「侮辱された」と怒っていた。この「カイク(kike)」というのは、ユダヤ人を指す侮蔑語である。昔、米国に来たユダヤ移民はエリス島で審査を受け、書類に記入するよう求められたが、文盲が多かったので、チェック項目に「X」ではなく「O」と記したそうだ。「X」はキリストが磔になった十字架を意味したので、ユダヤ人はこれを避けるため小さな丸を書いたのである。この小さな丸は「カイクル(kikel)」と言われたので、アメリカ人はユダヤ人を「カイク」と馬鹿にして呼ぶようになったそうだ。よく映画でネオ・ナチもどきの悪漢が、壁に「kike」と書いたりするけど、日本人はこの落書きを目にしても意味が分からない。我が国における英語教育の欠点である。

  ユダヤ人記者は同胞のジャーナリストに同情する心を持っているようで、ジャック・ジェンキンス(Jack Jenkins)はトランプ旋風で傷ついたユダヤ人仲間をいたわっている。ユダヤ人ジャーナリストのジュリア・ヨッフェ(Julia Ioffe)は、トランプのメラニア夫人について記事を書き、トランプ支持者から相当なバッシングを浴びたらしい。ネットにはアウシュヴッツのユダヤ人のように囚人服を着たヨッフェの合成写真が出回ったそうだ。(Jack Jenkins, The Surge of Trump-Fueled Anti-Semitism is Hitting Jewish Reporters who Cover Him, Think Progress, May 27, 2016) 『アトランテック』誌のジェフリー・ゴールドバーグ(Jeffrey Goldberg)も被害に遭ったようで、「トランプが当選したら、お前なんか強制収容所送りだ」との電子メールを受け取ったらしい。『シンク・プログレス(ThinkProgress)』記者のブライス・コヴァート(Bryce Covert)も侮辱的ツイッターを目にしたそうで、ユダヤ人の出自や家族のことまで馬鹿にされたそうだ。こうした脅迫や中傷メッセージを耳にすれば、日本の一般人は彼らを気の毒に思ってしまうが、アメリカにはこの手の「嫌がらせメール」なんて珍しくない。トランプ支持者だって左翼分子やクリントン応援団から、様々な侮辱的メッセージやネガティヴ宣伝を受けたのだ。選挙が白熱していたんだから当然だろう。

  日本と同じくアメリカの左翼ジャーナリストも所属する組織は違えど、その毛根は地下で絡み合い、驚くほど固く結びついている。ユダヤ人ジャーナリストのマシュー・ローザは同類のユダヤ人、ビル・クリストル(William Kristol)がブレイトバートのサイトで「裏切り者のユダ(renegade Jew)」と呼ばれていたぞ、と騒いでいた。(Matthew Rozsa, Steve Bannon runs an anti-Semitic website, is a misogynist and will be one of Donald Trump's senior advisers, Salon, November 14, 2016)   とは言っても、共産主義者から保守派に転向したユダヤ知識人のデイヴッド・ホロウッツ(David Horowitz)もクリストルを批判していたんだから、あながち反ユダヤ主義者の誹謗中傷とは言えまい。ワシントン・ポスト紙でコラムニストを務めるアン・アップルバウム(Anne Applebaum)は「ポーランドのユダヤ人」と嘲笑されたそうで、ローザ同様ベン・セイルスも憤っていた。反トランプを鮮明にしていたABCはこの中傷表現を取り上げ、同局と提携するNHKもつい最近この件を報道していたから、覚えている日本人視聴者も多いだろう。

  ただ、我々はABCに注意せねばならない。同局は有名な極左組織たるSPLC(南部救貧法律センター)を訪れ、そこの古株重役マーク・ポトク(Mark Potok)にインタヴューを行っていたのだ。PBS(米国の公共放送局)もポトクをゲストに招いて、トランプ批判を手助けしていた。ポトクは筋金入りの左翼ユダヤ人で、ちょっとでも反ユダヤ主義社のアメリカ人を見つけては一人一人非難し、KKKの人口が減ってきていても、組織を存続させるために無理矢理と言って良いほどの手段で、「極右白人」の数を増やしていたのだ。しかし、この「水増し詐欺」は保守派から暴露されてしまったから、傲慢なポトクはしばし沈没。現在SPLCの代表を務めているのは、これまた極左ユダヤ人のリチャード・コーエン(Richard Cohen)ときているから、もう何を言っても無駄である。

  米国の左翼メディアは反トランプ・キャンペーンを継続するために、裕福で有力なユダヤ人を味方に付けようと必死だった。そこで、彼らはバノンと別れた元女房のメアリー・ルイーズ・ピカード(Mary Louise Piccard)を引き込むことにした。法廷でバノンと泥仕合を演じたメアリー夫人は、亭主が反ユダヤ思想の持ち主であると語っていたそうだ。(Jesse Singal, Yes, Steve Bannon Asked Why a School Had So Many Hanukkah Books, New York Magazine, November 15, 2016) 例えば、彼らの娘が通うウェストランド・スクールには、図書室にやたらとハヌカ(Chanukah / Hanukkah)に関する本が多かったので、バノンは教師に理由を尋ねたという。(ちなみに、「ハヌカ」とは紀元前にユダヤ人たちがマカベアの叛乱を起こし、イェルサレムの神殿をセレウコス朝から奪還できたことを祝うユダヤ教の祭りである。) こんなクレームはキリスト教徒の親なら当然だ。多文化主義を子供に植え付ける左翼教師たちは、西歐系白人による建国を憎んでいるから、その西歐的アメリカ文化を中和(破壊)するために、黒人や南米人、あるいはアジア人の文化を導入するのである。特に、ユダヤ教の書籍を購入すれば、裕福なユダヤ人父兄の評判が良くなるので、積極的に本棚へと並べているのだ。

  日本の学校で言えば、文化祭で日本の子供に暗い朝鮮のアリラン(朝鮮民謡)を歌わせたり、運動会で「男寺党(ナムサダン)」の格好をさせて、「チャンゴ(杖鼓)」や「プク(太鼓)」「チン(大きなドラ)」を演奏させるようなものだ。もし、こんな姿にさせられた我が子を見たら、日本人の保護者は激怒するに違いない。事によれば、校長や教頭は責任を取らされて辞任だろう。したがって、バノンがユダヤ人に媚びた学校を批判しても致し方あるまい。アメリカはイギリス系キリスト教徒が建てた国家なので、国語の時間にはシェイクスピアやドライデン、ジョン・ミルトン、エドマンド・スペンサー、ジョン・ダンといった英国人の古典を学ぶのが基本で、アメリカ人作家ならF.スコット・フィッツジェラルド、T.S. エリオット、ラルフ・W・エマーソン、ヘンリー・ジェイムズ、ウィリアム・フォークナーといったところじゃないか。でも、最近だとリベラル派の教職員が、黒人活動家のウィリアム・デュボワ(W.E.B.Du Bois)とか、ブッカー・T・ワシントン(Booker T. Washington)、フレデリック・ダグラス(Frederick Douglas)なんかをゴリ押しするから、白人の保護者たちは目眩がしてくるだろう。

 Du Bois 2 Washington 1Frederick Douglas 2koreans 41






(左: W.E.B.デュボア / ブッカー・T・ワシントン / フレデリック・ダグラス / 右: 昔の朝鮮人)

  普通の学校なら、クリスマスや復活祭(イースター)、感謝祭(Thanksgiving Day)が主な祝日である。まぁ、カトリックの学校だと聖灰水曜日(Ash Wednesday)を祝うし、アイリス系カトリック信徒にとって聖パトリック日(St. Patrick's Day)は特別だ。プロテスタン教会にはない「聖灰水曜日」とは、四旬節の初めに行われるカトリック教会の祭日で、額に灰で十字を描いたりする。毎年日付が変わるので、日本人には分かりづらいが、今年2016年は2月10日であった。筆者が米国にいた時、朝ぼけっとしながら親しい神父に会うと、その額に灰を見つけたので、「あっ ! 今日は聖灰の水曜日だ」と気づいたことがある。日本モードの気分でいると、うっかりすることがたまにあるものだ。万霊祭(All Saints' Day/ 11月1日)とか「聖ジョージの日(St. George's Day / 4月23日)なら覚えるのが楽なんだけどね。ちなみに、来年の聖灰水曜日は3月1日となっている。

  脱線したので話を戻す。離婚調停における元夫人の証言によって、バノンが反ユダヤ主義的思想の持ち主なんじゃないか、という疑惑が深まったことがある。というのも、娘が別の学校、つまりアーチャー女学校(Archer School for Girls)に通っていた時、父親のバノンはそこの「質」に不満を持っていたそうだ。彼はユダヤ人の生徒が多い学校に娘を置くことに反対していたらしい。それに、こうした学友と一緒にさせることで、娘が「泣き言を口にするガキ(whiney brats)」になるんじゃないか、と心配したそうだ。(Elizabeth Chuck, Ali Vitali, Andrew Blackstein and Katie Wall, Trump Campaign CEO Steve Bannon Accused of Anti-Semitic Remarks by Ex-Wife, NBC News , August 27, 2016) バノンがこうした発言を本当にしたのか、実際のところ第三者には分からない。離婚した女房の一方的な証言だから、どの様な状況や文脈でそう発言したのか定かではないし、夫人が発言を歪めて伝えていたとも考えられるからだ。

  ただ、もし彼がそう発言したとしても、当然なのかも知れない。アメリカにも左翼家庭が異常に多くて、特に裕福なリベラル派の親に育てられた子供だと、米国の人種差別的社会や白人中心の歴史について批判的な態度を取るし、そうしたポーズを見せびらかす事が知的な証拠と思っている。なかでも、ユダヤ人家庭の子供だと、フランクフルト学派のような「批判哲学」を親から仕込まれているので、何かにつけ西歐的アメリカの文化や伝統に「ケチ」をつけるのだ。ことさら反ユダヤ主義的な人物でなくとも、祖国を愛する西歐系アメリカ人だと、「そんなに不満なら、家族揃ってイスラエルに移住しろ !」と言いたくなる。他人の国に寄生して、そこの伝統的風習を貶すことは、ユダヤ人にとっては普通のことで、彼らは旧約聖書時代から「反抗」や「革命」が大好きなのだ。(このユダヤ的伝統を説明すると長くなるので省略する。これに関してはE.Michael Jones博士が詳しい。) バノンが夫人に文句を述べたのは、ユダヤ人と左翼的アメリカ人の気質を熟知していたからだろう。

ユダヤ人スタッフで満ちていたトランプ陣営

  ベン・シャピロや彼と同類ジャーナリストであるデイヴッド・バーンスタイン(David Bernstein)などは、根拠が薄いのにバノンを「反ユダヤ主義者」だと思っている。しかし、バノンの交友関係をのぞいてみると、どうも首を傾げたくなる。まず、有名なユダヤ人コメンテーターのパメラ・ゲラーが、ブレイトバート・ニューズに、バノンを擁護する記事を寄稿したのである。(Pamela Geller, As a Jew I stand with Steve Bannon, Breitbart, 15 November 2016) 彼女は著名なシオニストであるが、左翼のユダヤ人団体には批判的で、ADLやSPLCによるバノン叩きに公然と反論を試みていた。また、BBCのインタヴューでも、彼女はバノンを掩護していたという。

  バノンがユダヤ人全般に敵意を持っているいうのは信じ難い。日本人でもトランプ陣営に多くのユダヤ人が居ることに気づくだろう。例えば、トランプの娘イヴァンカ(Ivanka)はユダヤ人のジャード・クシュナー(Jared Kushner)と結婚し、正統派ユダヤ教に改宗したけどバノンと仲が良い。ドナルド・トランプ自身、この娘婿を高く評価しており、クシュナーの手腕と才覚に頼っている部分がある。トランプに19年も仕えた法律顧問のジェイソン・グリーンブラット(Jason Greenblatt)も正統派ユダヤ教徒で、AIPAC(米国・イスラエル問題会議)との太いパイプを持っているらしい。また、トランプ陣営でグリーンブラットと雙壁をなすのはデイヴィッド・フリードマン(David Friedman)だろう。彼は対イスラエル関係についての助言者で、親子代々共和党との関係を持っていた家庭の出身である。しかも、その父親は保守的なラビ(ユダヤ教徒の導師)であるらしく、以前、ロナルドレーガンを迎えた晩餐会を主宰したことがあるという。

  トランプ陣営の台所を預かった側近に、スティーヴン・ムチン(Steven Muchin)というアドヴァイザーがいる。彼は元ゴールドマン・サックスの重役で、トランプとは15年来の付き合いであるという。彼の父親もゴールドン・サックスに勤めていたというから、金銭感覚に優れているのだろう。ムチンは金儲けが得意なようで、トランプの選挙資金を集めたほか、選挙前には「ラット・パック・デューン・エンターテイメント」という会社を設立していたのである。この娯楽制作会社はヒット映画を手掛けており、代表作にジェイムズ・キャメロン監督の「アバター(Avatar)」や、ナタリー・ポートマン主演の「ブラック・スワン(Black Swan)」あるそうだ。

  トランプを金銭面で助けた別の側近に、ルイス・アイゼンバーグ(Lewis Eisenberg)というユダヤ人がいて、以前は「グラナイト・キャピタル・インターナショナル・グループ」で投資部門の主任を担当していたそうだ。しかも、彼は共和党ユダヤ人連合(RJC)の理事を務めており、ユダヤ人との架け橋を築いたほか、トランプの資金集めにも貢献したそうだ。ユダヤ人団体とのパイプ役を務めた、もう一人の人物と言えば、マイケル・グラスナー(Michael Glassner)が挙げられよう。彼は2008年にジョン・マッケインの陣営に加わり、副大統領候補のサラ・ペイリンに仕えたという。もっと遡れば、ジョージ・W・ブッシュの大統領選挙や上院議員のボブ・ドールが大統領選に出馬した時も選挙を手伝ったそうだ。グラスナーがイスラエル支持者というのは有名で、AIPACの南部支部で政治局長を務めたくらいだから、ユダヤ人とのコネクションが強くても当然である。(Josefin Dolsten, Meet the Jews in Donald Trump's inner circle, The Jewish Daily Forward, November 14, 2016)

  こうして具体的に見てみると、トランプ陣営には要職を占めるユダヤ人が多く、「ユダヤ人嫌い」のバノンとも仲良くしていたことが分かる。バノンが気に入らなかったのは、ユダヤ人という種族全体ではなく、アメリカの文化や社会を誹謗するリベラル左派のユダヤ人であった。しかし、アングロ・アメリカを取り戻したい愛国者にしたら、希望の星であるドナルド・トランプにも、グローバリストのユダヤ人と同類の異人種が取り憑いているんから、どうしたって心が晴れない。大統領選挙という国家的お祭りで彼らがどう踠(もが)いても、ウォール街の金融業者やリベラル派の大富豪が張り巡らした“網”の中、つまり巨額な資金と強固な人脈という枠組みの中で悶絶しているだけなのだ。第20世紀初頭くらいまでは、ユダヤ人の権勢は全米を掌握するものではなかったが、ロシアでのポグロムやドイツでのホロコーストによる移民や難民が増加するにつれ、合衆国内にユダヤ人の基盤が出来てしまった。彼らはその長い迫害史の中で、「親族の結束」や「民族の団結」の重要性を悟り、この意識を遺伝子に刻み込むことで生存と繁栄を勝ち得てきたのである。

  考えてみればユダヤ人とは恐ろしい民族である。肉体を使って決闘すればアングロ・サクソン人に負けてしまうのは明白なので、人道主義や反戦平和を提案し、相手の精神を腐らせてから乗っ取りを謀るのだ。事実、米国や英国へ移住した“みすぼらしい”ユダヤ人は、現地人が真似できない勤勉さとガリ勉を積み重ね、次第にメディア界、アカデミック界、ジャーナリズム界、エンターテイメント界、さらに金融・官僚・産業・政治の世界へと浸透したから、ある意味すごい。サマー・キャンプや親睦パーティーで人生を楽しむ現地人の子供は、がむしゃらに勉強するユダヤ人の子供と競争すれば負けるに決まっている。貧しくとも文明国に潜り込めば成功を掴めると確信しているから、ユダヤ人は嫌われても続々と西歐世界にやって来るのだ。彼らは何はさておき、蜂か蟻のように働いてお金を貯めれば、寄生先の異教徒を支配できると分かっている。どれほど馬鹿にされようが必死で蓄財に励み、同胞の人脈を駆使して政治や経済を牛耳り、マスメディアを独占して現地人を見返してしまうのだ。これに異を唱える者は、精神的な集団リンチを加えられ、「ネオ・ナチ」とか、「反ユダヤ主義者」という烙印を尻に焼き付けられてしまう。一般の日本人は気づかないが、アメリカやヨーロッパの一般国民だけでなく知識人までもが、ユダヤ人が構築した思考の枠組み(framework)の中で暮らしているのである。

後編に続く。



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