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マイアミ・バイスで一躍スターに

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(左: ドン・ジョンソン / 右: ダコタ・ジョンソン)

  1980年代に大ヒットした米国ドラマに『マイアミ・バイス(Miami Vice)』という作品がある。日本のテレビ局でも放送されたから覚えている方もいるだろうし、放送を見逃した人でもDVDで観たことがあるだろう。この作品は極秘捜査を行う刑事の物語で、白人警官のジェイムズ・“ソニー”・クロケット刑事をドン・ジョンソン(Don Johnson)が演じ、彼の相棒である黒人刑事のリカルド・“リコ”・タブスをフィリップ・マイケル・トマス(Philip Michael Thomas)が演じていた。二人はメトロ・デイド警察署の潜入捜査官で、マイアミにはびこる麻薬の密売人や売春組織、武器ディーラーなどを摘発するため命を懸けている、という設定だ。ドラマが「クール」で人気を博したのは、軽快な音楽をふんだんにBGMとして挿入していたことや、「ヤク」の売人に扮したソニーがフェラーリのデイトナ・スパイダーやテスタロッサを乗り回していたことからも分かる。

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(左: フェラーリとジョンソン / 中央: マイアミのリゾート地 / 右: 水着姿の美女)

  『マイアミ・バイス』はそれまでの刑事ドラマと一風変わっていた。まず、寒そうなニューヨークやシカゴを避けて、南米みたいな常夏のリゾート地であるマイアミを舞台にし、如何にも怪しそうなヒスパニックの犯罪者がうようよしている風土を描いていたからだ。この点を後の人気ドラマ『CSI : マイアミ』が受け継いでいた。とにかく、果てしない欲望と一攫千金の夢に満ちているマイアミには、正体不明の大金持ちと絶世の美女がたくさん集まるから、当然きらびやか世界がちりばめられており、広いプールを備える豪邸には酒とギャンブルの享楽が控えている。しかも、パーム・ビーチに行けばビキニ姿の女性があちこちにいるから、何となく気持ちがウキウキするじゃないか。開放的な光景と淫乱な悪の巣窟が一体化しているのがマイアミだ。

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  この作品を指揮したのは売れっ子監督のマイケル・マン(Michael Mann)である。彼は映画版の『マイアミ・バイス』でも監督を務め、その他、ダニエル・デイ・ルイス主演の『ラスト・オブ・モヒカン』や、トム・クルーズ主演の『コラテラル』、アル・パチーノとロバート・デ・ニーロが共演した『ヒート』を手掛けたことでも有名だ。彼は『マイアミ・バイス』以前に、TVドラマ『スタスキー&ハッチ』の脚本も書いたことがあるそうで、二人組の刑事を描くことに慣れていたのかも知れない。でも、『マイアミ・バイス』の方がより多民族主義の色彩が濃厚だった。ソニーとタブスの同僚刑事には、ソニーと時折恋人となるキューバ系のジーナ(プエルトリコ系のサンドラ・サンチアゴ)がいたし、女刑事のトゥルーディー(オリヴィア・ブラウン)は黒人、ボスのロドリゲス主任はヒスパニック、後釜の主任となるカスティロ(エドワード・ジェイムズ・オルモス)警部はメキシコ系だ。さすが、ユダヤ人のマン監督はちゃんと「人種的配慮」を怠らなかった。シカゴ出身のユダヤ人監督にとっては、人種混淆のマイアミは理想の楽園である。

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(左: TV版「マイアミ・バイス」のレギュラー出演者たち / 右: 映画版「マイアミ・バイス」)

潜入捜査官が陥る恐怖

  『マイアミ・バイス』には様々な名場面があったが、その中で一つ選ぶとすれば、シーズン1の第2話『闇の奥(The Heart of Darkness)』というエピソードを挙げてみたい。物語はソニーとタブスがある撮影現場にいるところから始まる。ここでは未成年の少女を使ったポルノ映画が撮影されていたのだ。彼らは組織犯罪の大物サム・コヴックスに“渡り”をつけてもらうために、撮影所でジミーという監督に接触していたのである。このジミーは16歳のペニー・マックグローという少女をたらし込んで、ポルノ女優に仕立て上げた「スケコマシ」で、ゴウィクスに辿り着く糸口となる下っ端だった。ところが、ジミーは直接ボスと繋がっておらず、彼はソニーとタブスに「まずアーティーに会えよ」と告げたのだ。(「アーティー」を演じていたのは、人気コメディー・ドラマ『メアリード・ウィズ・チルドレン』で「アル・バンディー」の役を務めたエド・オニールEd O'Neillだった。ちなみに、共演者は『サンズ・オブ・アナーキー』で「ジェマ」を演じたケイティー・サガール。)

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(左: ドラマで共演したエド・オニールトとケイティー・サガール / 右: ケイティー )

  そこでソニーが「アーティー」の素性を調べたところ、彼はFBIの潜入捜査官であることが判明した。警察署に戻ったソニーとタブスは、主任のロドリゲスから未成年のポルノ女優ペニーが麻薬の過剰摂取で死亡した、と聞かされて驚く。カンザスから家出同然の形でマイアミにやって来たペニーは、単なる田舎娘だった。最初モデルという「餌」で誘惑され、次第にポルノ映画へと引きずり込まれたのである。そして、ジミーにより手込めにされ、麻薬を常習するようになって、コヴィックスの会社が所有する邸宅でラリっていたら、思わぬ最期を遂げるという結末だった。これはフィクションだけど、実際よくある話だ。彼女の死には不審な点があり、殺人の可能性も濃厚だった。

Miami Vice Ed O'Neill(左 / 「アーティー」役のエド・オニール)
  長いこと犯罪組織に潜入するアーティーは、FBIとの連絡が疎遠になっていた。そこで、ソニーとタブスはアーティー、則ち「アーサー・ローソン」刑事の自宅を訪ね、彼の妻に夫のことを訊いてみた。すると意外なことに、ローソン刑事は自ら積極的に潜入捜査を志願していたのだ。ローソン夫人はソニーとタブスに夫を連れ戻してくれるよう頼んだ。彼らは再びアーティーと会い、コヴィックスを逮捕しようと持ち掛けるが、アーティーは未成年ポルノくらいいの案件では駄目だ、もっと大きな容疑で奴を検挙し、一生牢屋に閉じ込めてやるんだ、と言い張って提案を聞かなかった。そこで、彼らは架空の取引を捏造し、メキシコへ逃亡を図るコヴィックスを捕まえることにした。ソニーとタブスは囮捜査を計画し、タブスが隠しマイクを腹に巻き付け、コヴィックスと接触することにしたのだ。

  取引場所にアーティーとコヴィックスが乗ったリムジンが現れ、ソニーとタブスは車に乗り込むが、車内で取引の会話をしている最中、ダブスの隠しマイクが音を発したので、二人が警官であることがバレてしまった。実は、ド素人の技術屋が適当な装置をタブスに附けたので、集音器からラジオの音楽が流れてしまったのである。リムジンは港に向かい、そこでソニーとタブスは処刑されることになった。コヴィックスはアーティーに拳銃を与え二人を殺せと命じるが、アーティーはその拳銃をソニーに投げ渡し、激しい銃撃戦が起こる。最終的にアーティーがコヴックスを射殺し、一連の事件は幕を閉じた。

  犯罪現場を後にしたアーティーは事情聴取に応じるため、古巣のFBIに戻って行った。一方、ソニーとタブスは同僚たちと酒場に向かい、捜査終了後の息抜きをしている。そこへロドリゲス主任が暗い表情で、ソニーの坐っているカウンターにやって来た。主任は「アーティーが事情聴取の休憩中に、トイレの中で首を吊って自殺したぞ」と告げたのである。ソニーとタブスは戸惑いを隠しきれない。たぶん、二人には潜入捜査官が陥りやすい「快楽」を知っていたのだろう。つまり、ミイラ取りがミイラの棺に魅せられてしまったという事である。ギャングの生活は豪華で刺戟的だ。例えば、庶民とは違っていつも分厚い札束を手にしているから、テイラー・メイドの上等なスーツで身を包み、腕には高級時計をはめる日常を楽しめる。黒塗りのリムジンで盛り場に行けば、皆が一目置くし、妖艶な美女が近寄ってくるんだから、もう堪らない。まるで王侯貴族にでもなったような気分だ。

  ところが、潜入捜査が終われば、元の平凡な刑事暮らしが待っている。昼飯はチリソースがかかったホット・ドッグか、コレステロールが溜まりそうな安くて甘いドーナッツ。自宅に帰ればオバタリアン化した女房しか待っていない。家のローンを抱えた公務員には贅沢は敵だから、羽織る背広は安物だし、酒はビールくらいで中古車に乗っての節約生活。きらびやかなギャングの暮らしとは大違い。アーティーが捜査から手を引くことを躊躇(ためら)ったのも分かる。最初は捜査の“ハズ”だったのに、最後はその生活に溺れていたのだ。だから、普通の生活に戻れないアーティーは自ら命を断ったのであろう。とても哀しい結末である。

楽しい年末を過ごす藝人一家

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(写真 / 若い頃のドン・ジョンソンとメラニー・グリフィス)

  『マイアミ・バイス』で一躍トップ・スターになったドン・ジョンソンは、『ワーキング・ガール』や『ミルク・マネー』に出演したメラニー・グリフィス(Melanie Griffith)と二度結婚し、後に女優となるダコタ(Dakota Johnson)という娘をもうけた。ドン(22歳)が最初にメラニーと結婚した時、彼女はまだ15歳の少女だった。(1976年頃だったという。) でも、ドンのようなハンサム青年が近づいてきたら、大抵の乙女は一目惚れになってしまうんじゃないか。ドンを目にすれば、胸の鼓動が高まっても当然である。若々しい当時の二人を撮影した写真を見ると、本当に幸せそうだ。まるで恋愛映画の一場面を観ているような気分になる。しかし、二人の関係は長続きせず、僅か6ヶ月の結婚生活で幕を閉じた。子供同士の共同生活だったのかも知れない。

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(左: メラニー・グリフィス / 中央:  スティーヴン・バウアー / 右: 若い頃のドン・ジョンソン)

  別れた二人はそれぞれの独特な人生を歩んだ。ドンは1981年に女優のパティ・ダーバンヴィル(Patti D'Arbanville)と再婚し、彼女は息子のジェシー・ウェインを身籠もった。しかし、この結婚も1985年に破局を迎え、ドンは離婚することになる。一方、メラニーは『ボディー・ダブル』でホリー役を演じ、ようやく一人前の女優となった。その後、ハリソン・フォードと共演する『ワーキング・ガール』で注目され、念願のハリウッド・スターに上り詰めた。彼女は1980年に再婚しており、相手はキューバ系ユダヤ人男優のスティーヴン・バウアー(Steven Bauer)。二人はアレクサンダーという息子をもうけている。だが、この結婚も上手く行かなかった。1989年に二人は離婚。

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(左: 若い頃のドン・ジョンソンとメラニー・グリフィス / 中央: ドンとメラニー / 右: 娘のダコタを抱く父のドン・ジョンソン)

  仕事の面ではそこそこの経歴を積むメラニーは、1989年に元夫のドン・ジョンソンと“ヨリ”を戻す。大人になった二人は再婚を果たし、メラニーはドンとそっくりなダコタを出産し、この娘は成長して三代目の女優となった。というのも、メラニーの母親は、あの名女優ティピ・ヘドレン(Tippi Hedren)であるからだ。北歐系のティピは清純派の別嬪(べっぴん)で、美女に聡(さと)いアルフレッド・ヒッチコック監督が夢中になった女性でもある。彼らの関係は小説となり、それを基にした『ザ・ガール : ヒッチコックに囚われた女(The Girl)』というドラマが制作され、女優のシエナ・ミラー(Sienna Miller)がティピを演じていた。(ミラー氏は如何にも中年上司が憧れそうな美脚をもつ女性だから、北歐美女の「ティピ」役に適任である。) たぶん、今でもヒッチコックの名作『鳥』を観る日本人は多いだろう。でも、筆者はティピがショーン・コネリーと共演した『マーニー』を推薦したい。(『007』のジェイムズ・ボンドとは違ったコネリー氏の演技が観られて嬉しいし、彼が主演した映画『薔薇の名前』も併せて観ると、一層良いかも知れないよ。)

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(左: アルフレッド・ヒッチコック / 中央: シエナ・ミラ ー/ 右: ティピ・ヘドレン)

  母親を越える大女優とはなれなかったが、2世女優のメラニーは順調にキャリアを積んでいて、1990年にはトム・ハンクス(Tom Hanks)主演の『虚栄のかがり火(The Bonfire of the Vanities)』に出演し、1993年になると『ボーン・イェスタデー(Born Yesterday)』でビリー・ドーン役を務め、夫のドンと共演を果たしている。1994年には『ミルク・マネー』で主演を務め、有名俳優のエド・ハリス(Ed Harris)と共演することができた。(ハリスはショーン・コネリーとニコラス・ケイジが共演した『ザ・ロック』で、叛乱軍の指揮官を演じた事で人気を博した。) ところが、またもやドンとメラニーの関係は亀裂をきたし、1996年彼らは再び離婚する。

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(左: メラニートアントニオ・バンデラス  / 中央: メラニーと赤ん坊ののダコタ / 右: 成人したダコタ)

  以前から飲酒や麻薬に溺れるようになったメラニーは、更生施設に入って治療に専念するようになった。健康を取り戻したメラニーは映画の共演を切っ掛けとし、メキシコ系男優のアントニオ・バンデラス(Antonio Banderas)と1996年に再婚する。彼らの間には娘のステラ(Stella)が生まれるが、その夫婦生活も10年くらいが過ぎると危機に瀕するようになった。他人には詳しい理由は分からないけど、とにかく彼らは2015年に離婚したそうだ。我々が注目すべきはステラの容姿で、父親の遺伝子が違うと、これ程までに姉妹の差ができるのか、という点である。露骨な言い方になるが、同じ母親の子宮から生まれたのに、金髪の二枚目スターであるジョンソンの精子で生まれたダコタは、北歐系の血を引く美人女優となれた。一方、黒髪のヒスパニック男優バンデラスの精子で生まれたステラは、母親の面影を少しは残すが、祖母のティピから受け継ぐ遺伝子には恵まれず、平凡な容姿で姉のダコタと比べると明らかに見劣りがする。

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(左: 祖母のティピ・ヘドレン / 娘のメラニー・グリフィス /  孫娘のダコタ・ジョンソン/ 右: 孫娘のステラ・バンデス)

  メラニーの娘二人は、それぞれ三代目の女優となったが、妹のステラは優れた作品に出逢うことがなく、未だに三流役者のままである。実力社会のハリウッドでは、平凡な容姿の女優だと地道に演技力を磨くしかない。片や、姉のダコタは映画『フィフテイー・シェイズ・オブ・グレイ(Fifty Shades of Grey)』で、いきなり主役に大抜擢されたのだ。これはベストセラーになった官能小説を基にして制作された映画である。当初、人気俳優のチャーリー・ハナム(Charlie Hunnam)が共演者になると噂されたので、映画ファンの間でそうとう盛り上がった事がある。最終段階でアイルランド出身の男優ジェイミー・ドーナン(Jamie Dornan)に替わってしまったが、もし『サンズ・オブ・アナーキー』で一世を風靡したハナムが役を射止めていたら、日本の女性ファンも大感激したことだろう。やはり、エロティックな映画には美男美女が出演しなきゃ、劇場に行こうとは思わない。母親のメラニーが聞けば気分を害するけど、今のところステラには大役が回ってきそうにないから、ちょっと可哀想である。役者となる子供を産む女性は、父親となる男性の遺伝子を良く考えるべきだ。

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(左: ジェイミー・ドーナンとダコタ  / 中央: チャーリー・ハナム /  右: ダコタ・ジョンソン)

ヤク中のドラ息子が黒い娘の父親に

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(左: 祖母のティピと幼い頃の母メラニー /  右: 孫娘のダコタ)

  離婚や再婚を繰り返したドン・ジョンソンとメラニー・グリフィスだが、両者ともすっかりお爺ちゃんとお婆ちゃんになっていて、年末には高齢のティピを囲んで家族団欒を楽しんだそうだ。肉親なんだから当り前だけど、名女優のティピと娘のメラニー、そして今や人気女優となったダコタの三人が並ぶと圧巻だ。とりわけ、ダコタは祖母と同じ種族で、ティピの美しさを損なわずに受け継いだ孫娘。本当に貴重である。だいたい、サラブレッドの馬だって血統を大切にするんだから、高級なホモ・サピエンスの「人間」はもっと「種の保存」に敏感となるべきだ。

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(左: 初婚の時のドンとメラニー / 中央再婚したメラニーとアントニオ・バンデラス / 右: メラニーと一緒のステラとダコタ)

  母親の違う子供を持つドン・ジョンソンは大変だけと、二枚目俳優だから、女性遍歴が豊富なのもしょうがない。息子や娘と過ごすドン・ジョンソンは幸せそうだ。彼が休暇を過ごしていた頃、丁度別のニュースが話題となった。『フォレスト・ガンプ』や『アポロ13』、『ダ・ヴィンチ・コード』で有名なトム・ハンクスに三番目の孫ができたというのだ。再婚相手のリタ・ウィルソン(Rita Wilson)との間にもうけた息子の「チェト」(チェスター・ヘイズ / Chester Haze)が父親になったのである。普通なら大喜びの祖父母は小さな孫と一緒にクリスマスを過ごすものだが、トムとリタの顔は冴えない。というのも、この孫娘は確かに息子と似ているが、肌は浅黒く容姿はアフリカ人的なのだ。それもそのはずで、チェトが同衾(どうきん)した相手はティファニー・マイルズ(Tifferny Miles)という黒人女性だったのである。

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(左: トム・ハンクスとサマンサ・ルイーズ  /  右: トムとリタ・ウィルソンと息子のチェト)

  トム・ハンクスには最初の夫人サマンサ・ルイーズとの間に生まれた、コリン(Colin Hanks)と娘のエリザベスがいる。コリンは父と同じく俳優となり、人気ドラマ『デクスター』で殺人鬼を演じていたから、覚えている方も多いだろう。しかし、1987年にトムはサマンサと離婚し、映画プロデューサーを務める役者のリタ・ウィルソン(Rita Wilson)と結婚した。彼女の本名は「マルガリータ・イブラヒモフ(Margarita Ibrahimoff)」といって、ブルガリア系イスラム教徒の父親とギリシア系のキリスト教徒を母親に持つアメリカ人女優である。こうした出自であったから、リタは続編映画『マイ・ビッグ・ファット・グリーク・ウェディング/ パート2』の共同プロデューサーになったのだ。(この映画の第一作目はギリシア系アメリカ人女性がギリシア風の結婚式を挙げる際、ギリシア系の親戚が集まってきて騒動が起きるというコメディー作品であった。低予算映画だったのに、意外なヒット作になったので続編が作られたというわけ。) 彼女との結婚を機に、トムはギリシア正教に改宗したそうだ。でも、彼は同性愛者の結婚を熱心に応援する一面を持っているから不思議なものである。

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(左: コリン・ハンクス  / リタ・ウィルソン/ チェト・ヘイズ / 右: トルーマン・セオドア )

  トムはリタとの再婚で二人の息子をもうけた。チェスターが兄で、トルーマン・セオドアが弟である。再婚で腹違いの子供たちを養うトムだったが、そのトム自身が腹違いの兄弟と一緒に暮らした過去を持っていたのだ。トムの両親は彼が幼い頃離婚してしまい、父親のアモスが姉のサンドラと兄のラリー、そして弟のトムを引き取って育てたらしい。末っ子のジムだけが母親のジャネットと暮らしていたそうだ。しかし、男やもめのアモスは寂しかったのか、後に支那系アメリカ人女性と結婚し、三人の子供をもうけたという。トムはこの腹違いの支那人兄弟と一緒に少年時代を過ごしていたそうだ。離婚や再婚が当り前となっているアメリカ人の家庭は、本当に複雑である。

  有名藝人は裕福なので我が子に最高の教育を授けようと、学費を惜しまず高級な私立学校を選ぶが、そこに通う子供が優等生になるとは限らない。トム・ハンクス夫妻も有名私立にチェトを通わせたが、彼は学問に熱心な生徒にはならなかった。チェトが興味を持ったのは数学とか物理ではなく、ヒップ・ホップ・ダンスとかラップ音楽であった。せっかく大金を注ぎ込んだ息子なのに、卒業したら「ラッパー」になるなんて、親としては頭が痛い。これならブロンクスかボルティモアの黒人街で遊ばせたのと同じだ。しかも、この放蕩息子は酒浸りになるし、さらに進んでコカインにも手を出す始末。有名人にありがちな馬鹿息子の典型だ。これだけでも父親のトムは目眩がするのに、麻薬でラリったチェトは行きずりの黒人女と安易なセックスをしてしまい、彼女を孕(はらせ)ませた、というのだ。この黒人女性がティファニーで、彼女は昨年4月に娘を出産したという。

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(左: ティファニー・マイルズと娘 / 中央: 拳銃を手にするチェト・ヘイズ/ 右: コリン・ハンクスとサマンサ夫妻)

  本来、孫の誕生は吉報なのに、祖父のトムにとっては「青天の霹靂」であった。そりゃそうだ。長男のコリンはサマンサ・ブライアントと結婚し、同じ種族の娘オリビアとシャーロットをもうけていた。だから、お爺ちゃんのトムは大喜び。でも、三番目の孫娘は黒人女との間にできた子供で、チェトは父親といっても結婚している訳じゃない。トムは「素晴らしい」と赤ん坊を褒めていたが、どう考えても一晩の淫行で「出来ちゃった」予想外の孫なのだ。トムの友人だって表面では祝福を口にしているが、腹の底ではどう思っているか分かったもんじゃない。黒人との混血児を目にして、「わぁぁ ! 可愛い!!」とお世辞を述べるのは、ちょっと辛いぞ。でも、役者仲間が多いから演技には事欠かないだろう。

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(左: コリン・ハンクスと娘のシャーロット / トム・ハンクスと孫のオリヴィア/ ティファニーと娘 / 右: チェトの刺青)

  それにしても、麻薬中毒になった問題児の息子がやっと更生したと思いきや、どこの誰かも分からぬ黒人女と一夜を共にして子供を作ってしまうとは、60歳を越えたトムにとって更なる頭痛の種である。まぁ、モノは考えようだ。同性愛者の結婚を推進してきたトムなんだから、チェトが中高年のオッさんを花婿(花嫁?)として、実家に連れてこなかっただけでも幸せだ。敬虔なキリスト教徒のリタ夫人だって、まさか息子の“おぞましい”結婚式を教会で挙げるわけにも行くまい。彼女の父親はイスラム教からギリシア正教に改宗した人物だから、たぶんゲイ・カップルには嫌悪感を持っているはずだ。自分の孫が男と結婚するなんて許せないだろう。チェトの相手が黒人でも、一応「女性」なんだから、行きずりの恋でも諦めがつくんじゃないか。

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(写真 / 「フォレスト・ガンプ」の一場面)

  第三者には関係無いけど、浅黒い孫を抱いたトムはどんな顔をするのだろうか? 以前、彼は『フォレスト・ガンプ(Forrest Gump)』に出演し、素晴らしい評価を受けた。名場面の一つに、フォレストがバス停で黒人女性に話しかけるシーンがある。彼はチョコレートを食べながら、彼女にも「一ついかが?」と勧めていた。そして、フォレストはアラバマ訛りで、こう独り言を口にする。

  ママがいつも言っていたけど、人生はチョコレートが詰まった箱のようなものなんだって。食べるまで、それが何なのか分からないんだってさ。(Mama always said life was like a box of chocolates. You never know what's gonna get.)

  実生活でも、トムは人生で何が起こるのか、起こってみるまで分からなかった。たぶん、チョコレート色の孫を持つなんて想像していなかったんじゃないか。それでも、毒入りチョコ、つまりコカイン・ベイビー(生まれながらの麻薬中毒)じゃないだけ“まし”と考えるべきだ。「ちびまる子ちゃん」に出てくるお爺ちゃんは、アカデミー賞をもらったことはないけれど、“同じ種族”の孫と一緒に暮らせたんだから、凡庸でも幸せ者である。もしかしたら、アカデミー主演男優賞を2回も受賞したトムは、まる子ちゃんのお爺ちゃんを羨むかもね。




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