揺れ動くフランス国民

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(左: エマニュエル・マクロン  /  右: マリーヌ・ルペン)

  いよいよフランス大統領選挙の第二幕が近づいてきた。フランスの次期国家元首に選ばれるのは、リベラル・グローバリズムの権化たるエマニュエル・マクロン(Emmanuel Macron)なのか、それともポピュリスト・ナショナリズムを掲げるマリーヌ・ル・ペン(Marine Le Pen)なのか、誰にも分からない。ただ、フランス国民は両極端の選択肢に直面しているようだ。マクロン氏はEUへの残留に賛成で、国境を越えた資本や労働の自由を堅持したいと望んでいるらしい。如何にも、ゴールドマン・サックスとロスチャイルドの手先が口にしそうなセリフである。一方、ル・ペン女史は「フランス第一主義」を叫んで、祖国の精神と文化を守ろうと訴えていた。彼女は父親から組織を禅譲されたが、国粋主義剝き出しの看板では一般受けしないと考えたのか、支持層を広げるために、女性の権利保護や失業対策、ユダヤ票への配慮などを盛り込んでいる。ちなみに、国民戦線副党首であるルイ・アリオ(Louis Aliot)氏は、彼女の私的伴侶(パートナー)で、アルジェリア系ユダヤ人というから、ル・ペン家に纏わり付いていた反ユダヤ主義の印象を少しだけ緩和したようだ。

  マスコミの下馬評によれば、中道左派のマクロン氏が優勢で、大半の評論家は有権者の6割が彼に投票するだろうと考えられている。対するル・ペン候補は、その過激思想の背景も相俟って、4割ほどの票しか獲得できないだろうと見られていた。ただ、二回目の選挙でどの集団が分裂し、如何なる裏切り者が出るか分からないので、一概にル・ペン候補が不利とは言えまい。保守派のフランソワ・フィヨン(François Fillon)に投票し人がル・ペンに靡くかも知れないし、表面的には左翼のジャン・リュク・メランション(Jean-Luc Melanchon)を支持していた人でも、マクロンが嫌いという理由だけで彼女に投票するかも知れないのだ。さらに、マクロンが当てにした浮動票や無党派層の中に、投票所に行かない怠け者や白紙投票をするへそ曲がり、口先だけの支援者がいたりするから、思ったほどマクロン氏の票が伸びない場合だって考えられる。だから、決戦投票前に色々言っても、結局は「捕らぬ狸の皮算用」となってしまうのだ。

  日本人の我々にはどうでもいいんだけど、今回の選挙で特徴的なのは、両候補者を支持する人々の温度差である。なるほど、マクロン氏は若くて知性的な経済通なんだろうけど、今ひとつパンチに欠けるというか、新鮮なのにインパクトの弱い候補者である。オランド大統領の経済閣僚を務めていたんだから、少しくらい社会党支持者の間で人気があってもよさそうなのに、「何が何でもマクロンに!」といったラヴ・コールが乏しいのだ。ちょっと醒めたフランス人だと、「あの野郎は自国の女(ル・ペン)を蹴って、他国の女(メルケル)にすがりつくつもりなんだ。まぁ、フランス女の尻より、ドイツ女の膝枕が好きなんだろうな。姐さん女房が好みだしねぇ」と冗談を言ったりする。とにかく、フランス人の行動は予想できない。国家の政体だって、恐怖政治から独裁制、帝政が崩壊して王政復古になったと思ったら、帝政に逆戻り。戦争に敗れて再び共和政に戻るが、内紛が絶えず、第三、第四、第五共和政とクルクル変わって、猫の目だって一緒に廻って船酔いしそうだ。こんな移り気のフランス国民だから、マクロン氏だって気が気じゃない。

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(左:  ル・ペン / 右: メルケル首相 )

  他方、ル・ペン候補には熱心な支援者が結構いる。父親の代からの支援者に加え、野蛮な移民やイスラム教徒の流入で、国民戦線の支持者に鞍替えした人も多いという。フランス人というのは、上から下の者まで偽善に満ちており、口では「自由、平等、博愛」と言うが、その実態は、自分が自由に振る舞い、平等なのは同じ階級の者で、明言せぬが白人のみ。「博愛」といったところで、それは「同志」に向けられた限定的な友情で、へんてこりんな顔をした「部外者」や「外国人」は別。たとえ、レセプションで歓迎の抱擁をしても、大切な自宅には招かない。ル・ペン氏の支持者は「極右」と評されるが、その用語が適切なのか、甚だ怪しい。だって、フランスという国家を護ることが「右翼」なら、「よそ者」や「浮浪者」、「違法移民」を自宅から追い出す世帯主も「極右」になってしまう。たいいち、左翼メディアの思考に従えば、好中球や好酸球といった白血球だって、異質な物を排除しようとする「保守派」で「攻撃的」な「極右」となってしまうじゃないか。

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(写真  /  現代の多彩な「フランス人」)

  こうした奇妙な思考形態を持つ点では、日本人もフランス人と同じである。外人とか「見知らぬ者」を取り除いたり、突き放したりするのは、ごく自然な反応である。例えば、家族だけてハワイ旅行や外食に出掛ける「家族主義者」は、ことごとく排他的で、自己中心的な人々である。もし、その辺をうろつく在日鮮人が「俺も一緒にハワイに行きたい」と頼んでも、「テメーなんかを連れて行くか、このドアホ !」と叱りつけるだろう。こういう馬鹿の処理には、鼻の孔(あな)に鉛筆を突き刺して、思いっきり引きずり回すのが一番だ。また、もしも不法移民の支那人が「ワタシも寿司を食いたいアルヨ!」とすがりつき、「お前たち、家族だけでご馳走を楽しむのは、日中友好に反するゾォ~」と“いちゃもん”をつけてくるなら、洗濯機の中に放り込んで、図々しさを洗い流してやればいい。「極右」というレッテルは、「極左」が常識人にこすりつける鼻糞と同じだ。フランスの事情に詳しいとされる産経新聞の山口昌子などは、国民戦線の議員やそのメンバー、および非党員の支持者を「極右」と評するが、どんな立場からそう呼ぶのか明らかにはしないから、我々は注意して彼女の意見を聞いた方がいい。この手の左巻きジャーナリストは、憧れの朝日新聞に入りたかったが、採用試験に落ちたので、しぶしぶ格下の産経新聞に入社したとも考えられるからだ。特別論説委員だった千野境子は更に酷いぞ。

力強い王様が大好きなガリア人

  現在のフランスは廃墟の上に建てられている。元々フランスはゲルマン系のフランク族がガリア人と融合することで誕生した王国だ。しかも、カエサルに征服されたケルト人は荘厳なローマ文明を吸収して、ガリア・ローマ人に大変身。貴族階級のガリア人たちはローマ化して、「カエサル」とか「ユリウス」、その後は「アウグストゥス」などのローマ人的名前をつけることが流行になっていた。旧い名家に生まれた者でさえ、もうガリア人の祖先を自慢しなくなり、その代わり、「ヴィーナス」や「ヘラクレス」の子孫だ、と言い始めたんだから呆れてしまうじゃないか。また、ガリア人の女を娶り、ケルト人たちと混淆するようになったフランク人貴族も、ゲルマン語をすっかり忘れて、母親が話すラテン語を喋っていたんだから、フランス人は本当にローマ人が好きだった。よくフランス人が「ローマ帝國の継承者」とか、「カトリック教会の長女」という言い方を口にするのも、こうした歴史があるからだろう。

  今の我々は共和政のフランスしか見ていないけど、かつてフランスは世襲王家を戴く君主国だった。右も左もフランス国民の多くは共和政を讃美し、何かにつけては「フランスの偉大さ(la grandure de la France)」を口にするが、その「偉大さ」も今では随分と霞んでいる。日本人の子供だってクスクス笑って、「何これ?(Qu'est-ce que c'est?)」と馬鹿にするだろう。フランスの知識人は斜(はす)に構えて、王室が無い「共和国(res publica)」や大衆参加の「代議制民衆政体(démocratie représentative)」を自慢するけど、フランスが輝くのは「たいてい」と言っちゃなんだけど、絶対的とも言える王様がいるときだった。イスラム教徒を駆逐したカール・マルテルを始めとして、ザクセン人を殺しまくったカール大帝(シャルルマーニュ)、プランタジネット家をフランスから追い出したフィリップ・オーギュスト、フランスの統一をもたらしたアンリ4世、領土拡張が趣味だったルイ14世、とフランス人は威厳に満ちた大様が大好きだった。あのコルシカ生まれの砲兵将校ナポレオン・ボナパルトだって「フランスの英雄」なんだから。ロシア遠征で惨敗を喫しても、過去の戦歴に痺れてしまって、未だに讃美者がいるから困ってしまう。

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(左: カール・マルテル  /  カール大帝 / フィリップ・オーギュスト  /  右: ナポレオン・ボナパルト )

  大革命でフランスが共和政になったが、その指導者で一番の人気者といったらシャルル・ド・ゴール将軍を挙げる人が多い。今でも、タカ派や保守派に「ゴーリスト」を名乗る人は結構いて、豪胆な指導者のもとで「フランスの栄光」を取り戻そうとする。結局、王様みたいな大統領とか国父と呼べる皇帝が欲しいんじゃないか。民衆から選ばれた“ちんけ”なユダヤ人のサルコジとか、斜陽族の集まりと化した社会党の“死骸”オランドじぁ、“パッ”としないよねぇ~。国王ルイ14曰く、「フランス王は神と剣のみに由来する」そうだ。いやぁ~、すごい。さすが太陽王だけあって、神々しくて眩しい。この王様は王太子への教訓として次のような言葉を述べたという。

  人々に王を与えたもの(神)は、人々が王を神の代理人として尊敬することを望まれ、王にのみ、人々の行為を吟味する権利を保留しておかれた。臣民として生まれた者は誰でも、無分別に服従することこそ、神の望まれるところなのである。(ユベール・メチヴィエ 『ルイ14世』 前川貞次郎 訳 白水社 1959年 p.33)

  フランスは太古の昔から分裂傾向が激しく、ローマ帝國が瓦解した後、ガリアでは諸王国が乱立し、蛮族のモザイクになってしまったくらいだ。(アンドレ・モロワ 『フランス史』 上巻 平岡・他訳 新潮社 昭和31年 p.36) フランス人が懐かしむカロリング帝國は、比類無き強大な権力と卓越した政治手腕を持つカール大帝が君臨したからで、もしルイ16世のような王様が後継者になったら帝國の維持は絶対に無理だ。たぶん、敬虔で立派な騎士だったフィリップ3世(Philippe le Hardi)でも難しいだろう。とくにかく、フランスでは国王の家臣とか官僚が幅を利かせ、議会を開いても各人が好き勝手なことを言い出すから、討論は停滞して結論は出ない。グズな政治家や軍首脳のせいでフランスがドイツに占領され、亡命生活という苦い経験を味わったド・ゴール将軍は、議会政治の非効率性や因習的宿痾に嫌気が差していた。フランスの命運を担う元首は、無責任な議員や気紛れな民衆から推戴されるのではなく、天命を受けて民を導く者でなければならない。フランスの英雄は投票用紙の束からでなく、ほとばしる愛国心と非凡な才能に突き動かされて自ら現れるのだ。

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(左: ルイ14世  /   中央と右: シャルル・ド・ゴール )

  ド・ゴールは人民投票で選ばれたとはいえ、その気概は君主に近く、共和国大統領は分割できぬ国家権能を有する唯一の人物と見なしていた。彼は1964年1月31日にこう述べている。

  事実、大統領は我々の憲法によれば、国民の命運に責任を負うために、国民自身によって地位につけられた、国民の人物であります。・・・危急の場合、大統領はあらゆる必要な事を行う責任を取らねばならない。かかる大統領は明らかに、国家権限を保有し、代表すべき唯一の者であります。(フランソワ・モーリヤック 『ド・ゴール』 岡部正孝 訳 河出書房新社 昭和41年 p.215)

  フランスの存亡と自分の運命を結びつけるド・ゴールは、祖国の統治を担うのは自分しかいないと確信し、「私こそフランスだ!」と喝破していたそうだ。(上掲書 p.47) フランスを体現すると豪語した将軍は、君主制の伝統を尊重していたのか、数々の発言が王侯貴族風であった。民衆に媚びるオランド大統領の口からは、こんな言葉は出てこないだろう。いわんや、マクロン氏の口から出たら滑稽だ。もし、彼がド・ゴール将軍を真似て、こうした虚勢を吐いたら、フランス人の左翼でも「国際金融業者の下僕である!」の間違いじゃないのか、とせせら笑うだろう。大統領や首相といった最高行政官は、ローマの執政官みたいに威厳がなくちゃ格好悪いし、外国の手先とか根無し草のユダヤ人じゃ厭だよねぇ。

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(左: ニコラ・サルコジとフランソワ・オランド  /  右: 閲兵式でのド・ゴール将軍 )

  フランスの政治は複雑で不確定要素が多いから、筆者としてはマクロンが大勝するのか、ル・ペンが逆転するのか分からない。偉い学者や評論家によれば、マクロン候補がリードしているというから、たぶん彼が大統領に当選するんだろう。もし、ル・ペン氏が僅差で勝利となれば、彼女のファンは大喜びで、世界中のマスコミは大騒ぎとなるに違いない。しかし、どちらが当選してもフランスは大揉めになるだろう。予想通りマクロン氏が大統領に就任すれば、閉塞感や暗い雰囲気が蔓延したままで既成の政治が行われるし、ル・ペンが選ばれても移民の群れを押し返す事は困難だから、支持者の失望が募るばかりだ。しかも、フランスのEU離脱となれば、EUそのものの存在が危うくなり、ドイツ主体の経済聯合になってしまうだろう。ただし、英国のテレザ・メイ首相にしたらその方がいい。

  オランドが去ってマクロンが大統領になるフランスって、何となく陰鬱で袋小路に入っているように見えるから、関係無い日本人でもフランス国民が哀れに思えてくる。日本人は皇室があって本当に良かった。どんなに愚劣な宰相が選ばれても、国家元首は天皇陛下だから、ちょっとだけ救われた気分になる。フランス人は口が裂けても言わないだろうが、悠久の歴史を誇る皇室を目にすれば、「俺たちもブルボン王朝があったらなぁ」と私的につぶやくんじゃないか。でも、皮肉が得意な日本人だと、「大丈夫だよ。フランスには強いサッカー・チームがあるんだからさ!」と励ますだろう。今じゃ「フランスの栄光」なんてサッカーの国際試合にしかないんだから。
 



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