恐ろしい科学技術

  以前、このブログで米国のTVドラマ・シリーズで『ジ・アメリカンズ(The Americans)』という作品を紹介したことがある。現在、第五シーズンが放映されているのだが、このスパイ・ドラマでは、ソ連の工作員夫婦たるエリザベス(ケリー・ラッセル)とフィリップ(マシュー・リス)が、あるウィルスを巡って暗躍することになっているのだ。米国政府がソ連経済を崩壊させるため、穀物を枯らすウィルスを開発したとの情報がソ連首脳を震撼させ、対外工作部は、米国に潜伏するエリザベスとフィリップに生物兵器のサンプルを奪取するよう命令を下したのである。ドラマの中ではそのウィルスは穀物を全滅させるものではなく、アフリカの飢餓を救う研究であることか判明したから一段落となっていた。

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(左: 「ジ・アメリカン」のポスター  /  右: ケリー・ラッセル)

  このドラマは冷戦時代の後半、すなわちレーガン政権時代が舞台設定になっていて、ワシントンの政府がソ連を食糧供給の面で苦しめようと画策したことが分かる。共産主義政権に対しては全面核戦争の脅しより、食糧不足による「揺さぶり」の方が効果的であるというのだ。確かに、クレムリンに従順なロシアの庶民も、マーケットにパンが無くなれば叛乱を企てる。食い物に関する恨みは恐ろしい。ゴルバチョフ時代にアル中対策としてウォッカの制約を試みたが、結局みんなの不満が爆発して取り止めになった。あんな寒いロシアでお酒を禁じたら庶民が暴動を起こすだろう。大統領になったボリス・エリツィンだってお酒を断念できず、晩年になると単なる酔っ払いになっていたから、ロシア人に禁酒法は無理である。まぁ、とにかくパンとバターとウォッカはロシアの必需品だから、その供給不足はクレムリンにとって西側の中距離核ミサイル配備よりも怖かった。

  戦争というのは何も銃弾やミサイルだけで行うものではなく、金融制度や貿易、食糧、資源、環境、謀略工作などを組み合わせて遂行するものである。したがって、西歐各国は他国からのコントロールを受けないためにも、命綱の資源を確保すると共に、国の基本となる食糧の自給を維持するために邁進するものだ。一次産業たる農業は環境保全の面ばかりではなく、国家の伝統や宗教とも密接に繋がっているから、保守派の国民は農民と農地の保護を「国防」と位置づけなければにならない。我が国の神道は自然崇拝にもとづくから、宗教防衛にもなるだろう。よく知られているけど、伊勢神宮の式年遷宮に用いられる檜(ヒノキ)は国産でなければならない。いくら安いからといって、東南アジアからの材木じゃ嫌だし、朝鮮で作ったベニア板など言語道断だ。紀州の大杉谷とか尾張の木曾谷で生育した檜は、日本の国土から栄養を吸収するだけではなく、先祖の霊魂をも宿す真正な木材である。古代ギリシアでは亡くなった親を畑に埋めたが、それは自分の土地が先祖の血と肉からなるものと信じていたからだ。したがって、猛毒の除草剤を撒いて苗を植えるなんて冒瀆だろう。神聖な神社を建てる時にも、神聖な樹木を用いるのが常識である。だから、農政はゼニ・カネの問題より、固有文化の存続に係わる国家の「大事」なのだ。

Roundup 2Monsanto herbicide 1








  売国奴が溢れる国会で、またもや反日政策が実行されている。すなわち、「主要農作物種子法」の廃止である。低脳議員たちは農業の自由化、民間企業の参入、地方経済の活性化などのお題目を並べて廃止の正当化を図っているが、要するに巨大企業のハンドラーが放った日本人エージェントの手先になっただけ。情けないけど、国会議員の大半は事情が分からない馬鹿と、多勢にくっついて「おこぼれ」をもらう浅ましい下郎であるから、グローバル企業の策略にホイホイと乗っかってしまうのだ。昔の士族だと幼い時から未来の統治者たる自覚を涵養されていたし、そうなるように教育を施されていた。だかから、立ち居振る舞いはもとより、忠君愛国を実践するのが当り前だった。自分の生命よりも名誉を重んじたから、国家の經綸が優先され、わざとじゃなくても失敗すれば切腹を受け容れたのだ。ところが、現代の国会議員だと幼い頃から日教組教育を受け、頭は受験勉強で老朽化、倫理道徳は試験科目に無いから無視。我が国の根幹を成す皇室と神道に関しては「極右科目」ということで無知。権限最大、責任最小が議員のモットーなので、無責任というより破廉恥になっている。彼らは「種子法の廃止が自由経済への前進だ」と思っているから、「それでいいんじゃない」といった程度の認識しかない。アホらしいけど、手放しで賛成を表明したのだ。大切な決議で「うん」と言うだけなら、「ワン」と吠える仔犬でも代役が務まるだろう。これじゃぁ、仔猫だって鼻で笑ってしまい、「ニャンとも言えない!」と呆れるぞ。

  ここで私的な感想を述べさせてもらえば、筆者が農業問題に関心を寄せたのはかなり古い。覚えている方もいるだろうが、1980年代に竹村健一が農業の過保護廃止と自由貿易による米価の引き下げを訴えていた。彼は半分自民党の代弁者だったから、筆者は話半分に聴いていたが、自由競争で日本の個人農家が国際競争に勝って、繁昌できるのか甚だ疑問だった。だいたい、日本の農民でセスナ機を使って農薬を散布しているのか? それに、穀物を大量に生産して国際市場を席捲することなど、夢物語にしか思えない。もそも日本の農業は大陸型ではないのだ。極端な譬えで言えば、日本の稲作は手間の掛かる藝術作品で、米国の穀物栽培は廉価な工業製品である。

  これは米国の食堂で出される料理を「堪能」すれば分かるはずだ。例えば、アメリカの野菜は素材の味がしないので、ドレッシングをかけて食べるしかない。日本とは常識が逆で、ドレッシングが「主体」で、トマトやキュウリが「添え物」なのだ。食パンでも同じで、サイズが大きい割に値段が安いけど、小麦本来の味と薫りが無いので、ピーナツ・バターをたっぷり塗って、甘い穀物製品にしてから食べる。また、野球場の外で売っているホット・ドッグも驚異の食物で、ソーセージの材料となっている肉には何が使われているのか判らない。正体不明な上に、ケチャップも怪しい原料で出来ている。トマトのはずが「トマト」ではなく、「赤いスライム」といった感じだ。筆者は米国で数名の友人に「ソーセージの中味は何の肉?」と尋ねたことがある。しかし、彼らはその質問に当惑し、友人の一人は「ウサギの肉かなぁ?」と自信なさげに答え、もう一人の友人は「馬の肉なんじゃないか」と笑いながら話していた。つまり、誰も中味を知らなかったのだ。まぁ、ウンコになれば同じだからねぇ~。

Jeffrey Smith 1(左  /  ジェフリー・M・スミス)
  アメリカ人の無神経さには独特のものがあった。例えば、「チューブ入り」のチーズをかけてホット・ドックを食べているアメリカ人も居たから、筆者は目眩がしたことを覚えている。チーズって固形物だと思っていた筆者が「時代遅れ」だったのかも知れない。ただ、その原料となるミルクはホルモン注射で“大量”に“安く”作ったものだろう。なぜなら、アメリカの企業はコスト削減が鉄則だから、できるだけ材料を安く抑えることはよくある。ちなみに、筆者は1990年代にジェフリー・M・スミス博士(Dr. Jeffrey M. Smith)の警告を聴いていたので、「セイフウェイ」などの食料品店で1ガロン・ミルク(3.7リットル容器入りの牛乳)を買えなかった。スミス博士は『偽りの種(Seeds of Deception)』を出版した著名な学者なので、理系の日本人なら知っているだろう。スミス博士の名を聞いたことがなくても、「ボヴァイン成長ホルモン(Bovine Growth Hormone / rBGH)」を注射された牛なら聞いたことがあるはずだ。たぶん、週刊誌でも報道されたんじゃないか。日本だとこうした「丈夫な」牛から取れたミルクを、我が子に飲ませる母親はいないはずだ。

  また、街角のデリ(デリカッセン/ 食糧雑貨店)で売られている、ポピュラーな「ターキー・ハム」サンドウッチだって、本当の七面鳥とは思えなかった。たぶん、屑肉を圧縮して作った整形肉だろう。昔、日本でもファミリー・レストランに「サイコロ・ステーキ」というメニューがあったけど、こんな合成肉を注文する親子が実際にいたのだ。アメリカでも「いかがわしい肉」が普通で、脂ぎったベーコン焼きや、正体不明の冷凍ハンバーグ、化学製造のチキンナゲットがメニューに載っており、みんな平気で食っていた。アメリカ人って、値段が安くてボリュームがあれば満足なので、プラスチックのハンバーガーでもケチャップを山ほどかければ、一気に食べてしまうんじゃないか。支那人はダンボールを細かく刻んで、「おいしい肉団子があるヨ!!」とお客に販売したから、あながち不可能でもあるまい。もう一つ言えば、アメリカのダイナー(大衆食堂)で出されるコーヒーは薄くて不味い。なんか「茶色の液体」を飲んでいるようで、ちゃんとした「薫り」が漂う日本のプレミアム・コーヒーが懐かしくなる。米国の食事に関しては驚きの事例が尽きない。

世界市場を支配するジャイアント・コーポレーション

  種子法の廃止については「チャンネル桜」の討論会に出ていた三橋貴明が詳しく説明していたので、筆者は別の点を述べてみたい。でも、ちょっとだけ何が問題なのか述べてみたい。

  米国には世界を股にかけた「農業ビジネス」を行う企業があって、「モンサント(Monsanto)」「カーギル(Cargill)」「アーチャー・ダニエル・ミッドランド(ADM / Archer Daniel Midland)」「バイヤー(Bayer)」「バンギ(Bunge)」などが有名である。もっとも、「バンギ」はヨハン・P・G・バンギ(Johann Peter Gotlieb Bunge)がアムステルダムで創業した会社だからアメリカ企業とは言いづらい。「バンギ」にいついて紹介すると、孫のエドワード(Edouard)が本社をベルギーのアントワープに移し、彼は兄弟のアーネスト(Ernest)を伴ってアルゼンチンやブラジルに進出したそうだ。彼らは南米で成功を収めた後、北米に移ったという経緯がある。たぶん、日本だとADMの知名度は低いと思うけど、米国では結構知られたた巨大企業である。TV広告も頻繁に流れていたから在米日本人なら馴染みの会社だろう。筆者も米国で「ディス・ウィーク」とか「ミート・ザ・プレス」を見ていた時、ADMが番組スポンサーになっているのに気がついた。「日本だとADMみたいなスポンサーは無いよなぁ」と思ったことがある。日本の番組なら「旭化成」とか「クボタ」、「ヤンマー」くらいじゃないか。

  日本の報道番組が、「バイオ農業ビジネス」に関心が無いのはいつものことだから驚かないけど、その実害には注目せねばなるまい。種子法廃止で遺伝子組み換え作物や除草剤が脚光を浴び、多くの日本人が目覚めたことは良いことだ。大まかに言って問題となっているのは、雑草を枯らす除草剤とそれに耐えるようデザインされた遺伝子操作の種子であろう。例えば、雑草剤の「グリホサート(glyphosate)」などは、素人にだって有害だと解る。ちなみに、これはアミノ酸系の「グリシン(glycine)」と「ホスホン酸(phosphonate)」が組み合わさって出来た名前である。一般には「ラウンドアップ(Roundup)」という名称で流通している「モンサント」商品である。この非選択性除草剤を畑に散布すれば、雑草を一括して排除出来るという。そして、遺伝子操作を受けた穀物だけは、この枯れ葉剤に耐えうるという仕組みになっている。だから「合理的」で「効果的」。こうした穀物は、「ラウンドアップに駆逐されない種子」という謳い文句で、「ラウンドアップ・レディーRoundup Ready」と名づけられ、一般に販売されているのだ。こうした科学技術により、農民は雑草をむしる手間が無くなった耕作地で、「素晴らしい」米、麦、大豆、トウモロコだけを収獲できるという。夢のような科学製品だが、悪夢が「おまけ」に附いていた。

Roundup 1Roundup 3







  何と言っても、自然界は甘くはなかった。この除草剤に耐えうる雑草が出て来たのだ。そこで、モンサントなどの会社は更に強力な除草剤を開発するが、こんどは穀物もその「毒」に対抗せねばならぬから、またもや遺伝子をいじくらねばならない。この悪循環がつづくと、サリンやVXガス並の猛毒にも耐えうる「スーパー種子」が誕生し、グロテスクな「キマイラ(畸形動物)」と同じ類いの植物を作ることになる。最先端科学のバイオ産業は儲かるからいいけど、「それを食べる人間はどうなんるだ?」という疑問が湧いてくるだろう。それにしても、枯れ葉剤の攻撃に耐えて、それに負けない性質を備えるんだから、雑草って驚くほどしぶとい。猛毒に耐えて更に強くなる雑草は、踏まれても「めげない」ブスみたいだ。「悪い虫」がつかない穀物なんて、男が寄りつかない女性みたいだから、高校生の諸君は口が裂けても、「まるで田嶋陽子みたい」なんて言っちゃいけないよ。もう、世間知らずの小学生じゃないんだから。

  バイオ企業は遺伝子組み換え穀物の長所を宣伝しているが、虫も食べない野菜や穀物なんて「安全」なのか? 個人的な話で恐縮だけど、筆者は約20数年前、ある農家のオッちゃんと色々雑談したことがある。その時、農薬について現場の「生々しい」話を聞いて気分が悪くなった。内容は公開できないけど、農薬が大量に保存された納屋の中で実情を聴くと納得が行くものである。印象的だったのは、そこのおばあちゃんが“可愛い”孫の為に無農薬野菜を独自に作っていたことだ。家族と他人は「別」ということなんだろう。でも、ちゃんとした「味」のする野菜っていいもので、スーパー・マーケットで販売される大量生産品とは違っていた。まぁ、虫も避けるトウモロコシを消費者が食べているんだから、人間の抵抗力は並外れているんだろう。

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(左: 死んだ蜂の写真   /  右: ジル・エリック・セラリーニ)

  しかし、か弱いミツバチは生き残れなかった。2012年、ポーランドでは大量の蜂が死んでしまったという。モンサント社の「MON810 GM」穀物とか、殺虫剤、除草剤などの影響により、害虫と一緒に大切な蜂までもが駆逐されてしまったのだ。3月には1500名もの養蜂家が抗議デモを起こして大騒ぎになった。(Ray Ananda, Poland's Monsanto Action Lays 1000s of Dead Bees on Government Steps, Food Freedom, 25 March 2012.) 古代からミツバチは重宝され、苺の受粉にまで利用されるんだから、農家にとっては貴重な生物である。アニメ・ファンだって、「ミツバチ・ハッチ」が何万匹も死んだら悲しいだろう。こうした遺伝子組み換え生物(Genetically Modified Organism / GMO)の被害は世界各地で報告されているし、深刻な社会問題となっている。興味のある人はフランスのジル・エリック・セラリーニ(Gilles-Eric Sélalini)博士の告発を調べてみればいい。一般の日本人には、博士の「なぜグリホサートはラウンドアップとの問題にならぬのか」という論文が、要点を纏めているので解りやすい。("Why glyphosate is not the issue with Roundup", Journal of Biological Physics and Chemistry, Vol. 15, 2015.) 高校生の読者は理科の先生に頼んで教えてもらってね。たぶん、セラリーニ博士による爆弾発言を詳しく説明してくれるから。

Rats 1Rat 2








(写真  /  腫瘍ができたネズミ )

  遺伝子操作の種子や除草剤の有害性については、あまたのレポートがあるので、一般国民でもちょっと記事を検索すれば解るだろう。問題なのは、こうした惨状を知らない政治家、知っていて隠蔽する売国議員や企業から雇われている科学者、スポンサーだけが「お得意様」の大手マスコミなどが存在する事だ。例えば、イブラヒム博士とオカシャ博士によって、「不都合な研究結果」が公表されているのに、日本の大手新聞社は一面で取り上げなかった。(Marwa Ibrahim and Ebtsam Okasha, "Effect of Genetically modified corn on the jejunal mucosa of adult male albino rat", Experimental and Toxicologic Pathology, Vol. 68, 2016を参照。)  彼らはネズミに遺伝子組み換え穀物を長期間与えて、どのような影響が出るのか実験してみたそうだ。すると、このネズミには大きな腫瘍が出来てしまい、その衝撃映像は全世界に発信され、大きな話題になったらしい。お腹が大きく膨れあがったネズミを見れば、誰だって遺伝子組み換え作物や除草剤の危険性に気づくじゃないか。

shanthu shantharam 1(左  /  シャヌー・シャンタラム)
  しかし、大手企業に雇われた「お抱え学者」は、違った意見を持っていた。例えば、ブリテンのインド系科学者であるシャヌー・シャンタラム(Shanthu Shantharam)教授は、遺伝子組み換え作物の安全性を述べていたが、どうも密かにGMOの製造会社とつるんでいるらしい。(Colin Todhunter, Genetically Modified Food and Crops. Behind the Mask of Pro-GMO Neoliberal Ideology, Global Resaerch, March 11, 2017) 一見すると、独立・中立を保っている科学者でも、裏で関連企業と癒着している場合もあるし、何らかの見返りを求めて媚びを売っている場合もあるのだ。例えば、潤沢な研究費を“間接的”にもらえたり、どこかの研究所に“移籍”できたり、と様々な「賄賂」があったりする。また、大手企業は「広告塔」を雇って宣伝に努めたりするから、我々は用心せねばならない。例えば、元「世界銀行」のコミュニケーション部門に所属していたヴァンス・クロウ(Vance Crowe)氏は、モンサント社に雇われて「ミレニアル・エンゲージメント(Millenial Engagement)」の責任者になって、若者にGMOの安全性を訴えていたのだ。曰わく、モンサントは全人類に尽くし、世界各国で食糧の供給に貢献しているんだってさ。「本当かよ!」と疑いたくなる。

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(左: ヴァンス・クロウ  /  右: バーバラ・マコルスキー)

  本来、政治家は国民の健康や食糧の安全性に目を光らせるべきなのに、何も勉強しないで役人に丸投げなんだから、税金泥棒の非難を免れない。米国ではちょっと知られた政治家に、メリーランド州選出の上院議員でバーバラ・マコルスキー(Barbara Mikulski)というオバちゃん議員がいた。彼女はポーランド移民の孫で、曾爺さんは地元ボルティモアのハイランドタウンでパン屋を営んでいたそうだ。それなら、ちょっとくらい小麦や穀物に関心があっても良さそうなものだが、議会でHR933(俗に言う「モンサント保護法」)が通過した時、彼女はそれを食い止めなかった。普段は環境保全や消費者保護を口にしていたのに、この時はアメリカ国民に背を向け、バイオ・テック企業に靡いてしまったのだ。マコルスキーのオバはんは、後に後悔していると告白したが、既に遅かった。まぁ、父親がアルツハイマー病を患っていたから、製薬会社や化学製造会社と昵懇になっていたんだろう。彼女は長年勤めた上院を引退して、悠々自適の隠居生活を送っていてるそうだ。「秕政のツケは国民に」、という典型例である。

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(左: ロイ・ブラント  /  右: ロイとアビゲイル・ブラント夫妻)

  だが、連邦議会にはもっと悪い奴が居た。その筆頭は共和党のロイ・ブラント(Roy Dean  Blunt)上院議員だ。彼は下院議員上がりだが、要職(Majority LeaderとWhip)を歴任したことがあり、保守派グループの「ティー・パーティー(Tea Party)」にまで属していたのである。こうした保守を騙って民衆を裏切る政治家は実に多い。モンサントの飼い犬になったブラントのお陰で、政府や裁判所は遺伝子組み換えの種子が有害と判っても、その販売を差し止めることが出来なくなってしまった。そして、彼の再婚相手(2番目の妻)であるアビゲイル・パールマン夫人は、ワシントンでも指折りの企業ロビーストである。彼女は大手食品メーカーの「クラフト(Kraft)」社やタバコ企業の「フィリップ・モーリス」社のロビーストを務めていたのだ。公式には「関与していない」との話だが、選挙中に
「大企業」と夫の関係をを支える妻としては頼もしい。夫婦共々、巨大企業と癒着して儲けていたんだから、何も知らないアメリカの有権者は憐れだ。

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(左: アビー・マーティン  /  右: フィオナ・ブネース)

  専門家でもない筆者がこれをよく覚えているのは、RTテレビのアビー・マーティン(Abby Martin)が真っ赤になって怒っていたからだ。彼女はブラント議員が大嫌いで、吐き捨てるように彼の行動を非難していた。RTという、このロシア系宣伝放送局は、米国のマスコミが取り上げない不都合なニューズを放送するので、時々だけど有益となる。それに、中年のオッさんより、美人キャスターの方かいい。BBCのイヴニング・ニューズだって美しいフィオナ・ブルース(Fiona E. Bruce)の出番だと嬉しくなる。あの独特なブリテン・アクセントで喋る英語が魅力的だ。テレビ画面を見ながら飲むコーヒーが旨い。でも、インド人やアフリカ人のアンカーだと気分が暗くなる。ブリテンのテレビ番組なんだから、イギリス人の方がいいよねぇ。

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(左: エイミー・ウォルター  / 中央: キャスリン・ハムとエイミー  /  右: タマラ・キース)

  そう言えば、このHR933を問題なく容認して、気軽に署名したのが、あの人権派と呼ばれたバラク・オバマ大統領である。呆れてしまうけど、左翼のマスコミはトランプだと猛攻撃するくせに、黒人の大統領には甘かったのだ。公共放送のPBSテレビによく出てくる「クック・ポリティカル・レポート(Cook Political Report)」のエイミー・ウォルター(Amy Walter)や、その相棒たるNPRラジオのタマラ・キース(Tamara Keith)は、オバマを徹底的に批判したのか? この極左コメンテーターの二人はオバマを陰ながら応援していたから、「公共放送」であっても番組が左に傾いていた。ここでは関係無いけど、筆者は初めてエイミー・ウォルターを見た時、「レズビアンじゃないか?」と直感的に疑ったことがある。自慢じゃないけど当たっていて、彼女はキャスリン・ハム(Kathryn Hamm)という同性愛活動家と「パートナー」になっていたのだ。彼女の発言や雰囲気から「レズビアン」と判るなんて、我ながら洞察力の鋭さに嬉しくなった。話を戻すと、テレビ番組のコメンテーターはオバマを頻りに賞讃していたが、彼の行った功績など皆無に等しく、どちらかと言えば有害な政策の方が多かった。でも、「黒人」だから何をやっても「偉大な大統領」になるんだろう。肌が黒いだけで「偉大」になるんだから、これって、人種偏見じゃないのか?

  政府の要人と業界の手先が「つるむ」ことは、米国でも日本でも同じである。日本のマスコミは米国の政権が交代した時、名前と顔くらいしか紹介しないけど、本来なら各長官の素性や支持者、裏の繋がりくらいは暴露すべきだろう。平民の筆者だってオバマの暗い過去を書いたんだから、高給取りのテレビ局員はもっと詳細な経歴報道をしてもいいはずだ。ということで、バイオ企業と繋がっていた有名人をちょっとだけ紹介したい。

  まず、意外なのは元国防長官のドナルド・ラムズフェルド(Donald Rumsfeld)が、大手製薬会社の「サール(G.D.Searle)」で最高経営責任者(CEO)になっていたことだ。この会社はモンサントに併合されたことがあり、現在は大手製薬メーカーの「ファイザー(Pfizer)」に買収されて、そこの子会社になっている。サール社は経口避妊薬とか睡眠薬、人工甘味料の販売を行っているから、知っている人も多いだろう。ただし甘味料の「ニュートラ・スウィート」は販売中止となった。おそらく、健康にとって有害だったのだろう。

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(左: ドナルド・ラムズフェルド  / クラレンス・トマス  / マイケル・テイラー /  右: マイケル・カンター)

  また、最高裁判事のクラレンス・トーマス(Clarence Thomas)は、以前「モンサント」の顧問を務めていたという。食糧と薬を扱うFDAで副長官を務めていたマイケル・テイラー(Michael Taylor)も、モンサントの顧問弁護士だった。さらに、ウィリアム・ラッケルズハウス(William D. Ruckelshaus)元司法副長官でさえ、モンサントの重役を務めていたのだ。政府の機関には他にもモンサントの手下がいて、具体名を挙げれば、マイケル・カンター(Michael Kantor)、アン・ヴェネマン(Anne Veneman)、ルフス・エルサ(Rufus Yerxa)、リチャード・マホーニー(Richard Mahoney)などがいたのだ。まぁ、巨額の利益を上げる企業だから、自分の配下を官庁に派遣するなんて造作もないことだろう。社長のヒュー・グラントなんか、一人で1300万ドルもの大金をつくってしまうんだから、研究者や弁護士、政治家が近寄ってくるのも当然だ。

  もっと凄いのは、食物市場をうごかすメガ企業の「カーギル」であろう。一般的には大企業としか知られていないけど、このカーギルは家族経営のプライベート企業なのだ。普通の人は「えぇぇっ!」と声を上げてしまうが、誰だって巨大な国際企業が一族経営なんて信じられないだろう。このファミリー企業は約1300億ドルから1400億ドルくらいの年商があって、14万3千人の雇用を創り出し、67ヶ国で幅広いビジネスを展開しているそうだ。創業者のウィリアム・ウォレス・カーギ(William Wallace Cargill)は、スコット系アメリカ人の家庭に生まれ、七人兄弟の三男だった。1865年(慶應元年)頃に、彼は兄弟を伴い、ミネソタ州で小さな穀物問屋を開業したそうだ。彼は相当な切れ者だったらしく、会社を大きくして二人の子供に事業を託したという。1909年にウィリアムが亡くなった時、会社の資産は200万ドルくらいであったらしい。今のレートで換算すれば、110億ドル(1兆2千100億円)に相当する金額であるそうだ。

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(左: ウィリアム・ウォリス・カーギル  / 中央: エドナ・カーギル / 右: ジョン・マクミラン・シニア )

  父の事業を継承した息子のオースティン(Austen Cargill)は、やはり息子のジェイムズと娘のマーガレットに株を引き継がせた。ウィリアムの娘であるエドナ(Edna)が、ジョン・マクミラン・シニア(John MacMillan, Sr.)と結婚したので、カーギル一族にはマクミラン家の子孫が役員になっている。二人の間には息子のカーギル・マクミラン・シニアとジョン・マクミラン・ジュニアが生まれていた。マクミラン家はもともとスコットランドから渡ってきた一族で、祖先のダンカン・マクミランは1815年に、アメリカではなくカナダへ移住したそうだ。三代にわたって商売人として成功を収めたマクミラン家は、ジョンの世代でカーギル家と結びついたのである。たぶん、ジョン・マクミラン・ジュニアの息子がホイットニー・ダンカン・マクミラン(Whitney Duncan MacMillan)と名づけられたのは、祖先のダンカンに因んでのことだろう。現在のカーギル社は6家族によって17名の理事会を構成しているそうだ。

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(左: ジョン・マクミランジュニア  / 中央: オースティン・カーギル /  右: ホイットニー・マクミラン)

  それにしても、日本人は何故か他国の惨状を参考にしないから、本当に脳天気である。アメリカの現状を見れば、国民が家畜のようになっているのが判るのに、それを無視して同じ轍を踏もうとする。アメリカ人は遺伝子操作された穀物や、遺伝子組み換えの飼料で育った肉を食べて満足しているが、人体にどんな影響があるのか不安でならない。米国では安くて保存の利く食糧が歓迎され、素材の風味が悪ければ、化学調味料で味付けをして、「美味しい」料理に変えてしまうのだ。たとえ、そうした廉価な食事で肥満になっても、医療が充実しているので表面的には困らない。でも、安い料理を食べて高額医療を払っているんだから、差し引き「損」になっているはずなのだが、そこは陽気なアメリカ人、そんなことを考えない。政府の医療政策が間違っているから国民が苦しむ、と考えてしまうのだ。それよりも、日本料理のような健康食を摂って、病気にならず、丈夫な体にする方がよっぽどマシなのに、それすら理解できないんだから手の施しようがない。

  安倍政権も米国の売国議員と同じで、僅かな利益の爲に国民の健康と未来の子供を犠牲にしてしまった。これは安倍首相だけが愚劣なのではなく、国会議員と一般国民に国家意識が無いからだ。保守派の知識人だって何を守っているのか判らない人が多い。抽象的に言論を弄ぶだけで、具体的に何なのかをはっきりさせないところが欠点なのだ。ロシアのプーチン大統領は、ロシアは西歐諸国と違って健康的で高品質の食糧を生産するんだと意気込んでいた。「ロシアは食糧の輸入国ではなく、輸出国なのだ」と宣言していたそうだ。(Putin wants Russia to become world's biggest exporter of Non-GMO food, RT, 3 December 2015) つまり、グローバル企業の餌食にならないぞ、と釘を刺していたのだろう。いゃ~、冷徹な元諜報員は悪党の手口を判っている。「悪人は悪人を知る」ってことだ。

  筆者は評判の悪い人種論や民族の遺伝を論じてきたが、それは国民意識を喚起するためである。だいたい、人間の種を守らない国民が穀物の種を守る訳がないだろう。日本の国土に遺伝子組み換え作物が持ち込まれれば、日本固有の米や大豆にGMOの花粉が附着し、品質が変わってしまうのだ。一度失われた国民の財産は取り戻せない。これでは祖先に申し訳ないし、子孫に対しても無責任である。次回は人間篇を述べるけど、我々は嫌な事実に目を背けず、未来のために覚悟を決めるべきである。




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