オリジナル9の過去

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(写真  /  SAMCROのメンバー)

  アメリカの人気TVドラマ『サンズ・オブ・アナーキー(Sons of Anarchy)』が日本でも好評を博しているようだ。当ブログも初期にこのドラマを紹介したことがある。ところが、配給元のFOXによるホーム・ページを閲覧して驚いた。一応、ドラマの粗筋や登場人物の説明があるけど、物語の根源となる昔のエピソードが記されていないのだ。『サンズ・オブ・アナーキー』は第二世代の活躍や悲劇を描いているのだが、第一世代である「オリジナル・メンバー」を知らないとドラマの醍醐味が半減するる。たぶん、ドラマ紹介のウエッブ・ページを作成した人物は、上司から渡された資料を日本語に訳しているだけなんだろう。作品に興味の無い担当者が、しぶしぶドラマの説明をしていれば、読んでいる方だって面白くない。大企業は零細商店とは違って、適当なセールスでも大丈夫なんだろう。商店街の小売業者なら、必死になって目玉商品を宣伝し、汗だくになってお客様にご説明申し上げるのにねぇ。フォックス社で働く担当者は、殿様商売をしているんだろう。

charlie hunnam 9Clay Morrow 1(左ジャックス・テラー  / 右クレイ・モロー )
  それはさておき、シーズン1からファイナル・シーズンまでのストーリーを説明する訳にも行かないから、詳細はレンタルDVDでも観てもらうしかない。(興味がある方は当ブログのPart1Part2Part3Part 4の記事を読んでね。) ただし、大筋を言うなら、物語はカルフォルニア州にあるチャーミング(元は「レッドウッド」)が舞台となる。「サンズ・オブ・アナーキー」というバイク・クラブを構成する面々は、表向き修理工場を営むが、裏商売として銃器の密売を行い、生計を立てている。主人公のジャックス・テラーはクラブの創設者ジョン・トマス・テラー(John Thomas Teller)の息子で、当初はクラブの副総長。後に総長へと昇格する。シーズン1での総長は「オリジナル9(創設時の九名)」の最年少メンバーであったクレイ・モロー(Clarence `Clay' Morrow)である。他のメンバーを紹介すると、まず「オリジナル9」の古株で、ジョンの親友であったパイニー・ウィンストン(Piermont `Piney' Winston)を挙げねばなるまい。彼はジャックスの親友オピィ(Opie Winston)の父親である。つまり、親子二代にわたって、テラー家とウィンストン家は仲良しというわけだ。

Chibs 2Tig 4








(左: チブス  /  右: ティグ)

  主要メンバーにはジャックスの良きアドバイザーで、冷静沈着なアイリス系のチブス(Filip `Chibs' Telford)がいる。そして、チブスと雙壁をなすが、ちょっとクセのあるティグ(Alex `Tig' Trager)。ジャックスの母親のジェマ(Gemma Teller Morrow)は、男優りのゴッド・マザーといった風格で、外見的には強靱だが、内面的にはちょっと脆いところがある。彼女は若い頃、亭主であるジャックスの父親ジョンを見限り、現在の総長クレイと懇ろになり、ついには夫婦となる。野心家のクレイはジョンのバイクに細工を施し、事故死を仕組んで成功してしまうのだ。最終回にジャックスが跨がる水色のバイクは、父親の形見となった愛車のバイクである。

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(左: ジェマ・テラー  / 中央と右: 「タラ」を演じたマギー・シフ )

  物語でジャックスと結婚するのは、高校生の時に恋人だったタラ・ノウルズ(Tara Knowles)である。彼女は地元を出て大学に進み、外科医となってチャーミングに戻ってはた。ところが、そのタラに惚れた変態刑事がいつも追い回すので、ジャックスはこのストーカーをタラの前で撃ち殺してしまう。ここで警察に連絡せず、二人はベッドを共にするんだから、タラの方も尋常じゃない。たぶん、恐怖心と開放感から、性的に興奮したんだろう。再会の末に結婚する二人の間には、トマスという次男が生まれた。長男のアベルは、昔付き合っていたウェンディーとの間に出来た子供である。ただし、このウェンディーは母親失格で、妊娠中にもかかわらずシャブを打っていたんだから呆れてしまう。激怒したジャックスは、麻薬中毒のウェンディーからアベルを取り上げて、自分で育ててしまうのだ。といっても、実質的には祖母のジェマが我が子のように育てていたのである。したがって、ジェマのアベルに対する愛情は半端じゃなかった。とにかく、タラは義理の息子を育てながら、ジャックスの次男を産んだことになる。

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(左: ウェンディー  / 中央: タラと息子のトマス  /  右: アベルを抱くジャックス)

  肝心の「オリジナル9」に話を戻す。なぜ、ジョン・テラーは「サムクロウ(SAMCRO)」と呼ばれるモーターサイクル・クラブを創設したのか? それは彼がベトナム戦争に従軍した頃に遡る。時は1960年代後半。リンドン・ジョンソン政権のもと、アメリカはベトナム戦争の泥沼に陥り、徴兵された多くの若者が劣悪な戦場で命を落としていた。ジョンは合衆国陸軍第25歩兵師団に配属されていた。戦場を生き延びたジョンは地元に戻るが、世間は帰還兵に冷たく、彼は自由を求めて「ヘルズ・エンジェルズ」みたいなグループを作る。これが「SAMCRO」と呼ばれるモーターサイクル・クラブの始まりだ。(ちなみに、「SAMCRO」は「Sons of Anarchy Mortorcycle Club Redwood Origianl」の略で、ジョンたちは「チャーミング」という新しい街の名前が嫌で、昔ながらの「レッドウッド」を用いていた。) 当時のマスコミは、戦況が悪化するベトナム戦争を否定的に報道し、国内で厭戦気分を煽っていたし、徴兵を恐れる大学生は抗議活動をするか、カナダに逃れるしかなかった。国務長官になったユダヤ人のジョン・ケリーは、ベトナム反戦運動の代表格として有名だ。(元々はユダヤ風の「コーン(Cohn)」という氏族名であった。) 安全な米国に留まり、テレビ画面を通してしかベトナム戦争を知らないアメリカ国民は、村人や女子供を撃ち殺すアメリカ兵を「赤ん坊殺し」とか呼んで罵り、祖国の為に闘った軍人として尊敬しなかったという。それゆえ、こうした仕打ちに耐えられなかったジョンは、自分らしく誰にも指図されない、自由な人生を送ろうと決意したのである。

John Teller 1John Teller 2Piney 3Opie 4






(左2枚: ジョン・テラー  /  パイニー  /  右: パイニーの息子オピィ )

  ジョンがクラブを創設すると、ベトナム戦争に従軍した親友のパイニーが加わった。彼はジョンの死後、クラブの副総長となるが、それは親友の息子ジャックスが大人に成長するまでの間、クラブを守る為である。ジャックスが成長して「サムクロウ」のメンバーになると、その地位に執着することなく、副総長の席をジャックスに譲ってしまったから、本当に偉い。この禅譲により、ジャックスは誰の反対もなく、若くして副総長になれた。しかし、ドラマの中でパイニーは総裁のクレイに無惨にもショットガンで殺されてしまう。クレイは自分が犯した裏切りをパイニーに知られたため、パイニーを生かしておくわけには行かなかったのだ。

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(左: レニー・ジャノヴッツ  / 中央: レニーとジャックス /  右: キース・マッギー)

  三人目は、「ヒモ」と呼ばれたレニー・ジャノウィッツ(Lenny `The Pimp' Janowitz)である。彼もまたベトナム戦争の帰還兵で、ジョンの副官的存在であった。彼は銃器取締局(ATF)の捜査官を三人も殺してしまったため、「ストックトン州立刑務所」に投獄されてしまったのだ。ジャックスや他のクラブ・メンバーが刑務所で時折面会する、あの奇妙な老人がレニーである。彼は咽頭癌を患ったため、その声帯を失い、器具を使って喋るしかない。何ともまぁ印象的だ。このレニーは娼婦を扱う事に長けていたから、ジャックスたちがポルノ映画会社を運営してお金を稼ごうとした時、レニーに相談したのはこういう背景があったからである。この事情を知らないと、『サンズ・オブ・アナーキー』を観ていても、レニーが何者なのか判らない。

Trinity Ashby 2Maureen Ashby 1Father Kellan Ashby 1








(左: トリニティー・アシュビー  / 中央: モウリーン・チシュビー  /  右: ケラン・アシュビー神父)

  四番目はアイルランド出身のキース・マッギー(Keith McGee)である。彼は創設メンバーであるが、アイルランドのベルファストへ渡って「SAMCRO」の支部を作ることにした。ジャックスたちは銃器の仲卸をしていたが、その供給先がベルファスト支部の連中で、IRA(アイルランドのテロ組織)と繋がってているという設定だ。シーズン3で「サムクロウ」のメンバーがアイルランドに渡るエピソードがあり、ジャックスと美しいトリニティー・アッシュビー(Trinity Ashby)が、もう少しのところでベッドインする場面がある。このトリニティーはモウリーン・アシュビー(Maureen Ashby)の娘で、モウリーンはベルファスト支部の姉御といった感じの存在だ。それもそのはずで、彼女はマッギーの女房である。ベルファストの武器密売組織は、「キング」と呼ばれる大御所たちによって運営されているが、その内の一人が何とカトリックの神父ときている。日本なら驚天動地の設定だが、イギリス人の支配に喘ぐアイリス人だと、IRAに陰で協力しそうな神父がいても不思議ではない。アイルランドの悲しい歴史が分からないと、米国に移民したアイリス人の心情に共感できないし、イングランドとの軋轢も理解できないから、ちょっと勉強しておくとドラマが一層おもしろくなる。(チューダー朝とスチュアート朝のアイルランド支配やストラフォード伯爵トマス・ウェントワース、ウィリアム・ペティWilliam Pettyに関しては、別の機会で述べてみたい。 )

Sons of Anarchy Original 9













(写真  /  「オリジナル9」のメンバー)

  ドラマでは密売組織のケラン・アシュビーという神父が登場するが、彼はモウリーンの兄である。そして、驚くことにトリニティーはジョンの隠し子であった。どうやら、ジョンがベルファストに来た時、モウリーンと情事を持ってしまい、妊娠した彼女が不貞を告げずにトリニティーを産んでしまったらしい。だから、もうちょっとでジャックスは異母妹と肉体関係を持ってしてしまうところだった。まったく、親子は似るというが、息子のジャックスと同様、父親のジョンも女に目が無かったらしい。ちなみに、ジョンには子供が三人いて、トリニティーはジャックスの妹だが、彼には夭折したジョン・ウェイン・テラーという兄がいた。ドラマの設定では、1990年病気により6歳の生涯を閉じたことになっている。

Kurt Sutter 1Chico VelleneuvaWally Grazer 1Otto Moran








(左: 「ビッグ・オットー」を演じた原作者のカート・サッター  /  チコ・ヴィラヌヴァ /  ウォリー・グレイザー /  右: オットー・モラン)

  五番目はウォリー・グレイザー(Wally Grazer)で、1968年にメンバーとなった。彼は元々流れ者だったようで、1984年に東海岸へ移動し、ニュージャージー支部の総長になった。しかし、13年後、イタリア人との抗争で背中を撃たれて死亡したそうだ。六番目は、トマス・ホイットニー(Thomas `Uncle Tom' Whitney)で、ウォリーの紹介でクラブに入ったという。ところが、彼はクラブの内情をチクったので、1995年に囚人のレニーが服役中のトマスを抹殺したそうだ。七番目はチコ・ヴィラヌヴァ(Chico Villanueva)で、クラブで初のヒスパニック・メンバーである。彼はサムクロウと「マヤン(Mayan)」という南米系のバイク・クラブへの橋渡しだった。しかし、チコはマヤンたちの待ち伏せに遭って殺されてしまう。その時、チコと一緒だったのが八番目のメンバーたるオットー・モラン(Otto `Lil Killer' Moran)であった。オットーは助かるが、目を負傷する。彼は小柄だったが、大男を素手で殴り殺したことがあるという。刑務所に服役している「ビッグ・オットー(Big Otto)」ことオットー・ディラニー(Otto Delaney)とは別人である。ちなみに、この「ビッグ・オットー」を演じているのは、原作者で脚本家のカート・サッター(Kurt Sutter)である。九番目が現在の総長クレイ・モローで、ジョンが死亡した後、クラブの総長になった。彼はパイニーとマッギー、そしてジョンを殺し、最後は裏切者としてジャックスに殺されてしまうのだ。

ユダヤ人無政府主義者からのインスピレーション

Emma Goldman 2(左  /  エマ・ゴールドマン)
  タイトル自体が「アナーキー」となっているので、物語の中でも「無秩序」や「権威への反撥」に言及がある。このドラマの中で特徴的なのは、主人公のジャックスが父の形見の中から、直筆の手記を見つけ、時折暇を見つけては読みふけるというシーンだ。これは父のジョンが感じたことや学んだこと、さらにクラブや人生哲学について語り、それらを綴った随筆集みたいなものである。とりわけ、彼は束縛されない「自由」について書いたことがある。これはシーズン1、エピソード4の「SAMCRO支部の誕生(Patch Over)」で知ることができる。ある支部の設立でネヴァダ州に向かったジャックスは、亡き父が生前見たという壁の落書きを確かめるため、州境にある橋の下を訪れてみた。父親のジョンは16歳の時、エマ・ゴールドマン(Emma Goldman)からの一節が書かれた壁を見て衝撃を受けたそうだ。その壁には赤い文字で以下の抜粋が記されていた。

  アナーキズムが意味するものは、宗教的支配から人間の心をの解放することだ。財産に支配されることから人間の体を解放すること、政府の拘束と軛(くびき)から自由になることである。実際の社会的富を創り出す目的で自由に個人を集め、それに基づく社会秩序がアナーキズムなのだ。<Emma Goldman, Anarchism and Other Essays (New York : Mother Earth Publishing Association, 1911), p.68.>

  読者は「え~ぇ、また、ユダヤ人なのぉ~?」とウンザリするかも知れないが、歐米社会では共産主義者や社会主義者、無政府主義者、極左分子にユダヤ人の占める割合が非常に多い。エマ・ゴールドマンとはリトアニアから米国へやって来たユダヤ移民で、札付きの極左活動家であり、手のつけられぬフェミニストでもあった。1917年のスパイ防止法(Espionage Act)により、彼女の過激思想や扇動活動が問題視され、ついには逮捕されるという事態になった。ゴールドマンは裁判で有罪となり、国外追放の処分を受けたことでも有名だ。当時は共産主義の脅威が生々しく、国家への不服従や反軍思想は社会への挑戦と思われていた。まぁ、共産主義者の割合が飛び抜けて高いユダヤ人だから仕方ないが、無政府主義を標榜するアナーキズムは、まことにユダヤ人らしい発想である。彼らにしたら、長年自分たちをいじめてきたヨーロッパ文明とその社会秩序は憎しみの対象でしかない。よって、暴力を用いてぶっ壊していい。キリスト教徒がユダヤ教徒を迫害してきたんだから、キリスト教文化を根底から覆すことは、積年の恨みを晴らすことになる。それに、どうせ他人の国家なんだから、思う存分暴れてメチャクチャにしたってユダヤ人は困らない。西歐諸国に暮らすユダヤ人に真の保守派が居ないのはこのためである。「ネオ・コンサーヴァティヴ」は「保守」という言葉を貼り付けた左翼運動で、本質的にはイスラエルを支援するための隠れ蓑に過ぎない。

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  実際の社会では「アナーキズム」などトンデモない考えだ。しかし、それは西部とか南部のアメリカ人が「なぜアメリカ合衆国を好きなのか」という疑問への鍵となりうる。というのも、米国へ渡ってきたヨーロッパ人、特に南歐や東歐からの移民は、その大抵が貧民、食いっぱぐれ、持て余し者、厄介者、碌でなし、能無し、半端者であった。本物の紳士や貴族は本国で必要とされる人材だ。確固とした財産や地位を持っているのに、わざわざ平民になってアメリカへ向かう理由はない。移民は祖国で辛いことばかり。上流階級に馬鹿にされたり、抑圧されたりと、屈辱的な扱いを受けてきたし、出世したくても身分秩序と民族差別が壁となる。これだから、夢を断念せざるを得ないこともばしば。それなら、嫌な過去と祖国を棄てて新天地へ、と考えても当然だ。アメリカでは実力次第で裕福になれるし、貴族や領主に平伏す必要も無い。努力を積み重ね、そこに幸運が加われば、上院議員とか高級軍人にだってなれる。歐洲の賤民にしたら、みんなが対等の自由人というのは感激に値する。他人に頼らない代わりに、自分勝手に生きることができるんだから最高だ。

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(写真  / ヴェトナム戦争に従軍したアメリカ兵 )

  合衆国政府から「使い捨ての駒(expendable pawn)」にされた下層白人が、国家への忠誠心に嫌気が差したり、自分の好きなように生きたいと願ってもおかしくはないだろう。ジョン・テラーの場合、「兄弟」と思えるような仲間と共にバイクを乗り回すことが無上の喜びなのだ。そして、ジョンは“真の”デモクラシーでSAMCROを維持しようと考えた。つまり、何か問題があれば、各自が自分の思うところを述べ、率直な議論の後で裁決をとる。みんなが平等だから、遠慮無く本音を語っても安心だ。米国を根底から揺るがしたベトナム戦争は、議会の討論も無いまま始められ、実際に血を流したのは発言権の無い兵卒だった。宣戦布告さえ無かったのに、米国史上最悪の戦争となってしまったんだから、彼らの怒りは治まらない。陸戦のプロでもないCIAが準軍事作戦と称して軍事顧問団を派遣し、共産主義勢力への代理戦争を本格戦争に拡大させてしまい、結局アメリカの一般国民が尻ぬぐいをした、というのがベトナム戦争の実態である。マックスウェル・テイラー将軍(Gen. Maxwell Davenport Taylor)が本音で何を考えていたのか分からないが、将軍の政治的野心や統合参謀本部との軋轢、マクナマラ国防長官の判断ミスは深刻な結果をもたらすことになった。

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(写真  / SAMCROの会議)

  ゲルマン人の社会には、「バンド・オブ・ブラザーズ(Band of Brothers)」という意識が強い。戦争で生死を共にする仲間との絆を何よりも大切と考えるからだ。『サンズ・オブ・アナーキー』の中でも示されているが、クラブのメンバーは互いに命懸けで助け合い、彼らの兄弟愛は凡てのものを越えていた。クラブへの忠誠心がすべてであるから、裏切者には死刑しかない。総長のクレイがジャックスに殺されたのも、自分の利益の爲にクラブを裏切ったからである。ちょっとしたことだけど、ドラマの中には印象的なシーンがあった。何らかの事件が起こると、総長のクレイが会議室にメンバーを集め、円卓を囲む各人がクラブの問題を話し合うのだ。例えば、抗争相手との決着をどうつけるとか、あるいは銃器の密売方法をどのようにするのか、なかでも凄いのは裏切ったメンバーの処刑について賛否を問う場面である。自分の生き方は自分で決める、というのがクラブのルールになっていた。腹を割った話し合いが済むと票決を取り、メンバーは多数決の意見に従う。各メンバーが「アイ(Aye / 賛成)」あるいは「ネイ(Nay / 反対)」と口にして、総長のクレイが木槌を叩いて決定を宣言するところなど、ゲルマン人のデモクラシーを彷彿とさせるシーンで非常におもしろい。

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(写真  /  ジャックスとタラ)

  自由は経済的裏付けがあって成り立つ。ただ自由を求めて生きるなら簡単だ。乞食にもできる。しかし、好きなバイクに跨がり、愛する女と結婚し、可愛い子供を育てる、といった本当に自由な人生を送りたければ、その生活を支える金銭が必要なのだ。ドラマの中では、ギャングの抗争に危険と嫌悪を感じたタラが、夫のジャックスにクラブを棄てて、別の土地に移り、子供たちと一緒に平和な暮らしをしようと提案したことがある。しかし、その為には充分な資金がなければならない。外科医のタラは自分が何とかすると言い聞かせるが、ジャックスは「女房に頼る亭主にはならない」と言って断った。そこで、一攫千金を狙ったジャクスは、今まで避けてきた麻薬密売にも手を染めてしまうのだ。しかし、却ってトラブルが増大し、クラブを去ることすらできなくなってしまう。事態の悪化に失望したタラは、ついにジャックスとの離婚を決め、子供たちを連れて逃げようとする。最終的に、ある事が切っ掛けでタラは義母のジェマに殺されてしまう。血みどろのタラを抱きかかえるジャックスの姿が痛々しかった。

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(左: ジャックスと子供たち  /  右: 殺されたタラを抱きかかえるジャックス)

  日本のギャング・ドラマだと、暴力や恋愛のシーンはあるが、家計を支える苦労話とか子育ての難しさ、夫婦間のいざこざなどのストーリーはあまり見られない。『サンズ・オブ・アナーキー』は犯罪集団の悲劇と思われがちだが、随所にアメリカ社会の問題がちりばめられていているので、とても興味深い。筆者はFOX社から一銭も貰っていないけど、日本での公開前からこの作品に注目していた。FOX社の日本支店も、少しは自社製品を勉強してから宣伝してもらいたいものだ。組織が大きくなると「お役所仕事」になるのは、民間企業も同じである。スピン・アフ作品となる「オリジナル9」の制作日程は未だに不明だが、もし公開となれば再び記事を書いてみたい。
  



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