教科書に載せて全日本人に知らせたい現代史 支那人の卑史 朝鮮人の痴史
黒木 頼景
成甲書房


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今では制作されないタイプの時代

  現在、衛星放送のBS朝日で『必殺仕置屋稼業』が再放送されている。筆者は過去に何度も観たことがあるので、今更「もう一度」でもないのだが、何となく懐かしくなって“つい”観てしまった。個人的な評価を下すなら、必殺シリーズの中で最高傑作は、山崎努が「念仏の鉄」を演じた『新・必殺仕置き人』なんだけど、沖雅也が「市松」を演じた『必殺仕置屋稼業』(1975年放送)も見逃せない。沖雅也は他の必殺シリーズにも登場していて、本作の前である1973年には「棺桶屋の錠」として『必殺仕置人』、1978年に再び起用されて『必殺からくり人・富嶽百景殺し旅』に出演していた。しかし、沖雅也といったら、何と言ってもニヒルな「市松」で、一番よく似合っている。出演当時、沖はまだ23歳か24歳くらいであったのに、ベテラン俳優も真っ青の演技を披露していた。今の若手俳優であんな演技力と存在感を見せる役者は滅多にいないだろう。

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(左: 「中村主水」役の藤田まこと  /  右: 「市松」を演じる沖雅也)

  『必殺仕置屋稼業』は一応、「中村主水(もんど)」を演じた藤田まことが主役みたいなんだけど、物語で異彩を放つのはやはり「市松(いちまつ)」だ。定町廻り同心を務める「八丁堀」こと中村主水は、銭湯の釜焚きを生業(なりわい)とする捨三(すてぞう)を乾分(こぶん)にして「仕置人」を裏稼業にしていた。ある日のこと。主水は人混みの中で、偶然にも竹串を使う市松の殺しを見てしまう。間髪を入れず「殺し屋」の後を追う主水だが、市松の方がすばしっこく、あっけなく巻かれてしまうのだ。奉行所で昼行灯(ひるあんどん)を装う主水は、自分の正体を知る髪結いの「おこう」と出逢ってしまい、彼女から殺しの依頼を受けるが、用心深さゆえに白を切って断ってしまう。だが、おこうは諦めず、執拗に主水を「裏稼業」へと引き戻そうとする。彼女は依頼人である「おいと」に主水を会わせ、無惨な死を遂げた姉の「おみよ」の恨みを晴らしてくれるよう頼んだ。それでも、主水は首を縦に振らず躊躇する。

  ところが、依頼人の「おいと」は絶望のあまり井戸に身を投げ亡くなってしまうのだ。主水はおこうに連れられ、雨が激しく舞う土砂降りの中、おいとの葬儀を目にすると、「仕置き」を引き受けることにした。だが、そこには主水を狙う市松の姿もあった。おこうと別れた主水は、帰る途中に待ち伏せていた市松と出逢う。市松に気付いた主水は静かに口を開く。

  「お前を捜していたんだ」

暗やみを背にする市松は穏やかな表情を浮かべながら口を開いた。

  「死んでもらおう。俺の仕事を見た奴は、生かしておく訳にはいかねぇんだ」と笑みを浮かべる。その時、彼の瞳孔が豹のように、ほんの僅かだけ大きくなった。

  一方、この言葉を聴く主水の顔は「仕置人」の表情になっていた。市松に振り向く主水は「その前に、人ひとり殺しちゃくれねぇか」と頼む。

  すると口元を緩めた市松は表情を和(なご)ます。

  「尻(ケツ)っぺたに十手(じゅって)を挟んだ殺し屋とは呆れるなぁ、ふぅふ」

その表現を耳にした主水も笑い返す。市松は「引き受けた !」とあっさり諒承する。しかし、その瞬間、彼の顔は氷のように冷たくなった。

  「おめぇを冥途に送った後にな」

そして再び笑顔に戻る市松。白い歯を見せる市松は「またな」と穏やかに言い残し、その場を去る。市松の捨て台詞を耳にした主水は緊張と安堵が入り混じっていた。主水は一人闇夜に佇(たたず)む。

  さすが、沖雅也はすごい。映像を観ていない人には分かりづらいだろうが、役者として彼の表情と口調は一流だ。笑みを浮かべながら平然と殺しの予告をするなんて、観ている者の心臓に響くというか、全身が興奮してゾクゾクする。冷徹な殺し屋は怒鳴ったりしない。平常心を保ちながら、残酷な事を述べるから「凄味」があるのだ。当時の沖雅也が22、3歳の若造なんて思えない。現在の若手俳優で彼のような風格を持つ奴がいるのか? 新しい「必殺仕事人」で主水役と似た同心を東山紀之が演じていたけど、アホらしくて見ていられなかった。本人は「演技派」を気取っているんだろうが、どうみても今風の「兄ちゃん」にしか見えない。何も時代劇に出なくったって、現代劇にでも出ればいいじゃないか。(もしかしたら、所属事務所の命令だから断り切れなかったのかもね。筆者には裏事情が分からないので、彼を一概に酷評することはできないが、「適役」じゃないことは確かだろう。)

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(左: 「仕置き」の時の市松  / 右: 主水を刺し殺そうとする市松 )

  必殺シリーズには印象的なシーンが幾つもあるけど、主水が市松と対決するシーンは名場面の一つとなっている。二人が別れてからしばらくして、市松の住処(ヤサ)を見つけた主水は、彼に再会して話をつけようとする。が、市松の姿はそに無い。しかし、まだ座布団は暖かい。主水は市松がそれほど遠くには行っていないと察知する。追跡しようと家を出た主水。すると、隠れていた市松が主水に襲いかかり、彼の背後を取って竹串をその首筋に刺そうとした。羽交い締めにされた主水は動けず、市松は主水の十手を弾き落とす。主水の右手を封じ込めた市松は、背後から語りかける。

  「旦那。こっちから足運びましたのに。死んでもらう前に聞いておこうか。殺しの相手は誰ですかい?」と尋ねた。

  「廻船問屋、近江屋利兵衛だ」と伝える主水。

  「安心しな。仕事は綺麗に仕上げてやる」と、まるで「冥土の土産」のように言い渡す市松。

しかし、主水は死を覚悟するも、その言葉には力があった。主水は静かに語りかける。

  「おめぇも、そう死に急ぐことはねぇじゃねぇか」と市松に向かって説く。

主水の言葉を聴く市松は、彼の刀が自分の脇腹に向けられていることに気付いた。相討ちとなる場面を想像した市松は焦る。すると主水はつぶやくように語りかけた。

  「どっちに転んでも、あまりいい籤(くじ)じゃねぇなぁ。だが、殺しの数は俺の方が上だぜ !」と余裕を見せつける。

  「刀、引いてくれや」と市松は囁く。だが、主水は譲歩しない。主水は言う。

  「ダメだ。俺はカカァ始め、人さま信用しねぇことにしてるんだ」と。

  「わかった。おめぇさんの話に乗った」と市松。小さくうなづく主水。

  だが、市松は次のセリフを吐く。

  「しかし、おめぇさんを殺(や)るのを諦めた訳じゃねぇぜ」

  「わかった」と返事をする主水。羽交い締めを解かれると、主水は反転し市松の正面に身構えた。そして、市松の住処を滑るように後にした。

  主水との刺し違えに冷や汗を掻く市松。緊張がほどけた市松は額の汗を拭った。

  いいねぇ。この緊張感。二人の殺し屋が共倒れ寸前なんて、見ている方が緊迫するじゃないか。殺気が漲る市松に対して、主水もベテランの意地を見せつける。しかも、彼の言葉がいい。女房の「りつ」を始め、誰も信用しない主水。一見すると臆病のようにみえる「八丁堀」は狡猾で用心深い。何度も修羅場をくぐり抜けた仕置人は、仲間でさえ心を許さず、細心の注意を払うことが本能となっている。『必殺仕置屋稼業』の全編を通じて、主水は市松を本気で信用することはなかった。忠実な捨三でさえ、いつ自分を裏切るか分からない、と思っているくらいだ。猜疑心に基づく仲間意識という矛盾に満ちた世界を主水は生きている。裏稼業の人間は一つ間違えば、役人に捕まり、熾烈な拷問を受け、挙げ句の果てに「獄門さらし首」というのが定番だ。仕置人は毎回、銭を貰って地獄の縁(ふち)を歩いているようなものである。だから、仕置人を眺める視聴者は、闇の世界で生きて行く男たちの非情さと、晴らせぬ恨みを晴らしてやろうとする情熱に感動するのだろう。平成の時代劇では甘ったるい人間関係ばかりだ。これでは“大人”の視聴者は馬鹿らしくて観ていられない。世間で辛い思いを噛みしめる中高年の視聴者は、映像の中にもっと残酷で厳しいドラマを欲しているのだ。(平成の「仕事人」では残酷な拷問シーンが無いのも、うるさい視聴者への対策なんだろう。制作スタッフが女子供からの抗議を恐れているのか、どうも及び腰である。)

豪華な脇役が支えた名作

  『必殺仕置屋稼業』には他にも印象的なキャラクターが登場する。頼み人の仲介役を務める「おこう」もその一人だ。「おこう」役は中村玉緒が演じているんだけど、これが意外といい。若い頃の中村玉緒は初々しくて素晴らしい。オバタリアンになった現在の姿しか知らない高校生は、「えっっ~ ?! これが“あの”ダミ声で笑うオバはんなの ?」と驚くんじゃないか。(亡くなった勝新太郎が惚れたのも分かる気がする。それにしても、女優はバナナと同じく賞味期限切れが早いよなぁ。ただし、同級生と比べると段違いだから、一概に「劣化が激しい」とは言えまい。) ドラマの中で玉緒は上方訛りの髪結いを演じていて、それがとても良く板に附いている。新版の仕事人では和久井映見が「繋ぎ役」を演じていたけど、中村玉緒と比べれば明らかに「格」が違う。『必殺仕置人』では野川由美子が仕置人の仲間になっていて、彼女が演ずる「鉄砲玉のおぎん」がまたハマリ役というか、ドラマの中に自然と溶け込んでいた。粋のいい「おぎん」を演じる野川由美子は、まさしく江戸時代に生きていた江戸っ子みたい。度胸と愛嬌があって、啖呵を切れば立て板に水。役者はこうでなきゃ。観ていて気持ちががいい。

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(左: 主水に仕置きを依頼する「おこう」  / 右: 「鉄砲玉のおぎん」を演じる野川由美子 )

  市松とは対照的なのが、もう一人の仕置人である破戒僧の「印玄(いんげん)」だ。温厚そうな新克利(あたらし・かつとし)が演じていてたが、それでも結構似合っていた。 この「印玄」は生臭坊主で、女の裸が大好き。お経の読み方もいい加減。だが、殺しとなれば人格が違ってくる。その怪力を用いてターゲットを抱え上げ、屋根の上に連れ出すと、その背中を押して地面に突き落とすという具合だ。風呂釜に薪をくべる捨三と親しい印玄は、彼の代役を喜んで引き受けたりする。そんな殺し屋坊主は人情に厚かった。ある依頼で市松が「卯之吉」という若者を殺した時だ。彼の父である睦屋佐兵衛(むつみや・さへえ)は裏稼業の人間で、市松とも知り合いである。この佐兵衛は息子を殺した者全員に復讐したくて、仕置人を見つけ出そうとした。そこで佐兵衛は殺しを依頼した親子を探り出し、彼らを脅して仲介役が「おこう」であることを突き止めた。捕まったおこうは佐兵衛の手下により激しい拷問を受けてしまう。しかし、彼女は中々口を割ろうとはしない。

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(左: 「印玄」役の新克利  /  右: 「捨三」役の渡辺篤史)

  一方、おこうが捕まったことを知った主水は、捨三の風呂場でどうするか考えていた。主水の側では市松と印玄も頭を抱えていた。主水は、拷問に掛けられたおこうが地獄の責めに耐えきれず、仲間のことを喋るんじゃないか、と心配していた。そこで市松や印玄彼女をは助けよう、と提案する。だが、成功する見込みが無いと判断する主水は渋った。市松は侮蔑の眼差しで、てめぇの身が可愛いだけだろう、と主水を非難した。しかし、主水は顔が割れていないことを利点と考えている。自分が奉行所の内情を知る同心だから、お前達も安心して裏の稼業が出来るんだ、と反論した。こうした口論が交わされる間も、おこうへの拷問は続いていたのだ。

  佐兵衛とは旧知の仲である市松を怪しんだ主水は、市松が自分たちを売り渡すんじゃないかと疑り、印玄に市松を見張るように言い付けた。そして、場合によっては奴を殺(や)っちまえ、と命じていたのだ。案の定、佐兵衛は市松の前に現れ、命だけは勘弁してやるから仲間を教えろと迫った。それでも、佐兵衛の手下に囲まれた市松は、明言を避けながら、その場を上手く切り抜けることが出来た。遠くに隠れて一部始終を目撃していた印玄は、市松の後を追うも直ぐに見つかり、市松から「八丁堀の指図か? 」と尋ねられる。図星で戸惑う印玄。見透かされた印玄はお茶を濁すも、「俺はお前を信じている」と市松に伝えた。嘘が苦手の印玄は正直に語り、市松はあっさりとその場を去った。

  おこうを見棄てることが出来ない印玄は、風呂場で主水に「おこう救出」を告げ、もし失敗したら後を任せる、と言い残し、佐兵衛の屋敷に向かう。市松も印玄と同行し、天井からロープで吊されているおこうの前で、まず市松が佐兵衛に話をつけ、おこうの身代わりを申し出る。すると、一瞬の隙を突いて市松が手下の一人を竹串で刺す。佐兵衛たちがどよめいていた時、天井に隠れていた印玄がおこうのロープをたぐり寄せ、彼女を抱えて屋根から抜け出そうと図った。しかし、佐兵衛の手下が追ってくる。おこうを抱えた印玄は反撃できない。追っ手が匕首(あいくち)で印玄の脇腹を刺すが、それでも印玄は抵抗できず、おこうのロープを握って、下で待つ市松に渡そうとする。ゆっくりとおこうを下に降ろす間も、印玄は何度も腹を刺され血が吹き出る。やっと、彼女を市松に預けると、印玄は佐兵衛の手下を強引に捕まえ、一緒に地面へと落ちることにした。屋根から飛び降りた二人は即死。壮絶な死を遂げた印玄を前にして「印玄 !」ぶ市松。仕置人の無惨な最期を目にした市松の声が、やけに物悲しい。

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(左: 「おこう」を演じる中村玉緒 / 右: 絶命する印玄 )

  市松はやっとのことで「おこう」を主水のもとへと運ぶが、容赦無い拷問でおこうは虫の息だった。薄れ行く意識の中、顔面蒼白のおこうは主水に対し、「仕置人を辞めたらあきまへんで」と懇願する。主水に抱きかかえられたおこうは、死ぬ間際に初めてその恋心を打ち明けたのだ。彼女は密かに主水に心を寄せていた。仕置き料をコツコツと貯めていたのは、いつか主水と所帯を持ちたいと考えていたからだろう。佐兵衛に捕まる前、彼女は主水に「あんな女房と別れなさいな。私が面倒みるさいに」と冗談交じりで話していたことがある。主水と夫婦になりたいと願っていたおこうの気持ちがいじらしい。だが、その夢も現実の前では儚かった。おこうは主水の腕の中で絶命する。印玄が命懸けで助けたおこうが死んでしまうなんて。印玄の死は何だったのか、と言いたくなる。

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(左: 西尾三枝子  /  右: 大滝秀治)

  TVドラマの醍醐味は、練りに練られた脚本と中心的人物の活躍にあるが、脇を支える役者の存在も見逃せない。1970年代の必殺シリーズには、素晴らしい演技を披露する名脇役が揃っていた。『必殺仕置屋稼業』には、悪役が十八番(おはこ)となっている男優の今井健二が出ていたし、渋さが光る美川陽一郎、『あしたのジョー』で丹下段平の声優を務める藤岡重慶、ゴロツキを演じさせたらピカイチの石橋蓮司、『傷だらけの天使』で知られる岸田森などが登庸されていた。脇役がうまいと主役が栄えるし、ドラマ全体に締まりが出てくる。若い頃の大滝秀治もゲスト出演しており、彼の眼光は鋭く、悪徳商人が良く似合っていた。また、あの頃は女優陣も魅力的で、妖艶な西尾三枝子も出ていた。(今では、人気番組だった『サインはV』も忘却されたドラマだ。)

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(左: 佐藤慶  /  左: 今井健二)

      しかし、何と言っても嬉しいのは、『新・必殺仕置人』の最終回で有名な、佐藤慶がゲスト出演していたことだ。今から考えると、本当に豪華な俳優陣を起用していたんだなぁ、と感心する。NHKの大河ドラマなんかアイドル藝人の紹介番組みたいなもので、とても硬派な時代劇とは思えない。2017年のBS版『水戸黄門』では、武田鉄矢が水戸光圀役を務めるそうだが、こんなの東野英栄郎の頃を知っている視聴者からすればパロディーだ。江戸時代にタイムスリップした金八先生にした方がいいんじゃないか。いくら有名俳優だからといっても、「適材適所」っていうものがあるだろう。

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(左: 石橋蓮司  /  右: 岸田森)

市松の潤んだ瞳

  必殺シリーズには常連俳優も多く、津川雅彦もその一人だ。彼は『必殺仕置人』のみならず、『必殺仕置屋稼業』にも出演しており、市松の父親「市造」と仲間であった「鳶辰(とびたつ)」を演じたことがある。殺し屋稼業を営む鳶辰は市松にとって「伯父貴(オジキ)」みたいな存在で、時々彼の依頼で仕事を請け負うこともあったらしい。しかし、鳶辰は金の為に「市造」を裏切って死に至らしめた過去を持つ。そして、再び彼は配下の殺し屋「源次」を罠に掛け、彼を死に追いやってしまった。つまり、鳶辰は殺す相手に源次が来ることを事前に知らせ、その代わりに大金を頂いていたのである。このカラクリを知った市松は愕然とする。足を洗ったはずの源次は市松の親友であったからだ。源次の女房「おみつ」は、主水たちに恨みを晴らしてくれるよう頼む。仕置きの依頼を知った市松は、「なぜ俺に頼まねぇんだ」と彼女に問い掛けるが、おみつは市松にも足を洗って欲しかった、と告白する。ところが、そのおみつも亭主の位牌を前にして自害してしまうのだ。

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(左: 折り鶴附の竹串が首に刺さった「鳶辰」を演じる津川雅彦  /  右: 鳶辰を殺した直後の市松)

  頼み料をおこうからもらった主水と印玄は、鳶辰を仕置きに掛けるが、その死んだ「鳶辰」は影武者だった。主水の前に現れた本物の鳶辰は拳銃を持っている。主水危うし。捨三が主水の前に立って守ろうとするが、鳶辰は「無駄だ」と言い放つ。ところが、主水に狙いをつける鳶辰に背後から折り鶴が飛んできた。市松が竹串に折り紙を結びつけて、遠くから投げていたのだ。鳶辰の首に刺さった竹串と、その流れ出る血を吸って赤くなる折り鶴は印象的だった。市松は伯父と慕う鳶辰を、自ら手に掛けて殺してしまったのだ。市松にとっては父と親友の仇討ちになるはずだが、どこからともなく悲しみが込み上がってくる。

  鳶辰を殺した市松は、無言のまま竹藪の中に消えて行く。命拾いした主水は、市松を追いかけ感謝を述べた。ところが、主水に背を向ける市松の目には、うっすらと涙にならぬ涙が浮かび、彼の瞳は潤んでいた。いくら悪人とはいえ、鳶辰は市松にとって肉親のような存在である。胸が張り裂けるほど辛い。しかし、主水に振り向く市松は、仕置人の顔に戻っていた。市松は主水にカネを要求する。主水は「おこうからお前の分はもらっちゃいねぇんだ」と伝えるが、市松は「そんなこと、俺の知ったことじゃねぇ」と突っぱねた。主水は絶体絶命のピンチを救ってくれた市松に「嫌」とは言えない。そこで渋々、仕置料の二両を手渡す。小判を摑んだ市松は、「二両か。安い命だな」とせせら笑う。「何を !!」と怒る主水だが、市松はさらりと受け流す。また危ない時があったら助けてやる、と傲慢な態度を示すから、主水や捨三も頭にくる。だが、市松は気にせず、夜の闇に消えて行く。

  このシーンを演じる沖雅也の表情が実にいい。主水たちには涙を見せず、プロの「仕置人」として“ちゃっかり”と料金を請求するんだから大したものだ。観ている者にも冷徹なプロ意識が伝わってくる。だが、市松には冷酷な殺し屋という裏の顔がある一方で、子供と戯れる時の心優しい青年という一面もある。彼が竹とんぼを子供たちに作ってやって、一緒に遊ぶ姿は微笑ましい。闇夜に潜む仕置人の面影すら無いのだ。もしかしたら、悪人と善人を兼ね備えるところに市松の魅力があるのかも知れない。

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(左: 市松を演じる沖雅也  /  右: 最終回で左遷される中村主水)

  それにしても、他の凡庸な俳優だと、市松が口にするセリフは似合わない。沖雅也演ずる市松が述べるからこそ“自然”に聞こえるのだ。日本では「能無し藝人」でも、「二枚目」とか「可愛い」という理由で「タレント」なる英語で呼ばれたりする。所属事務所の「力」で俳優としてデビューできるが、本当に能力や特技があるのか定かではない。しかし、沖雅也には本当にキラリと光る才能があった。彼の演技は天性のものだろう。市松の喋り方とか表情は、練習で表現できるものではない。平成の男優に彼のような人物がいるのか? 筆者は藝能界に詳しくないから断定できないが、その数はたぶん多くはないだろう。とにかく、仕置きを行う時の市松は素晴らしい。光と影のコントラストを重視する必殺シリーズの撮影技法には惚れ惚れする。暗闇から浮き出た市松の顔が、ほのかな光に照らされて、これまた美しい。市松が鋭く磨いた竹串を悪党の首筋に、素早く的確に“ブス”っと刺す瞬間など最高だ。派手な斬り合いより、この方が妙にリアリティーがある。

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(左: 「やいとや又右衛門」 を演じた大出俊 /  右: 「念仏の鉄」を演じた山崎努)

  「昔は良かった」と愚痴をこぼすのは嫌だけど、昭和40年代から50年代にかけてのTVドラマには、制作者の意気込みと気魄が滲み出ていた。もちろん、視聴率を無視していた訳ではないが、それ以上に「良い作品」を世に出そうと必死だったのだろう。『必殺仕置屋稼業』のカット割りとか撮影テクニックに目を凝らすと、まるで映画を一本観ているような気がする。たぶん、監督や脚本家を始めとする制作スタッフが努力を惜しまず、真剣に取り組んでいたからだろう。現在のTV用時代劇だと、作り手が「低予算だからねぇ」とか「事務所のゴリ押し役者がいるからさ」という言い訳を設けて、不甲斐ないドラマの正当化を図っている。こんな下らないドラマなんか、DVD化して一体どれだけの人が観るのだろか? 1970年代の必殺仕置人は何度も再放送され、今でも根強いファンを持っている。人気の高い山崎努や大出俊、緒形拳などの演技は、今でも観賞に耐えうるし、まったく色褪せてない。近い将来、必殺シリーズが復活するかも知れないが、もう感動するような役者は採用されないだろう。もしかしたら、ジャニーズ事務所の若手俳優が登用されたりして・・・。そうなれば、「仕事人」という番組自体が視聴者からそっぽを向かれ、局の重役が闇に葬ってしまうかも。だって、テレビ局の社長は「大鉈(おおなた)をふるう」という必殺技を持っているからね。




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