黒木 頼景
成甲書房
プーチンはロシアの皇帝
YouTubeに「林原チャンネル」というのがあって、様々な知識人が登場し独自の見解を述べている。その中に、馬渕睦夫大使が単独で「ロシアを語る」という番組があるんだが、最近、馬渕大使はロシアの現状とプーチンの統治を取り上げ、日本人が持っている誤った認識について触れていた。ところが、馬渕大使の話を聞いていると、いろいろな点で疑問が生じ、どうも納得できない。ロシアに詳しいはずの外交官が、ロシア人への認識を歪めているので何とも不可解だ。
まづ、第15回の「グローバリズム勢力と戦うプーチン」について紹介したい。馬渕大使によると、「ロシアは信用できない」という認識は誤ったイメージに基づいているという。そして、現在のロシアは共産主義時代のソ連と違って世界の覇権を求めていないらしい。馬渕大使は北方領土問題にも言及し、マスコミが四島一括返還にこだわるのは無茶で、二島の「引き渡し」にこそ現状打破のチャンスがあるという。だから、ロシアに対して従来の敵意を持ち、「また日本人を騙すんじゃないか?」と疑念を抱くのは、マスコミによる意図的な誘導だと判断している。
では、本当にロシアは欧米諸国並みに信用できる相手なのか? 馬渕大使は日本とロシアの交渉が上手く行き、平和条約の締結を以て二島の返還がなされると予想している。が、筆者は賛成できない。なぜなら、ロシア人には「力の強い者が全てを奪う」という原則があり、「約束はいつでも反故にできる」という文化があるからだ。いくら日本に経済的余裕があるからといって、軍事的優位に立つロシアが軍事小国の日本に譲歩することなどあり得ない。ロシアは歯舞・色丹の返還を"ちらつかせる"だけで、両島の主権を譲渡する気など更々無く、経済的支援と技術をもらったら難癖をつけて日本人を追い返すつもりだろう。日本人はお金を巻き上げられて終わりだ。たとえ、日本側がロシア政府に対し、「話が違うじゃないか!」と抗議したところで、ロシア人は気にもとめず、「だから何だ?! 文句あんのか! ほら、かかって来いよ!」と脅迫し、ご自慢の軍隊を仄めかすはずだ。こうなれば、自衛隊だけの日本は泣き寝入りするしかない。
「プーチン大統領はグローバリストに立ち向かうナショナリストである」というのが、馬渕大使のレクチャーにおける十八番(おはこ)となっている。プーチンはロシアの資源や国富を簒奪しようとしたグローバリスト勢力、すなわちユダヤ系オリガルヒ(新興財閥)を退治したので、ロシアの愛国者であるらしい。なるほど、プーチンは石油に群がるユダヤ人起業家や、マスメディアを支配しようとするユダヤ人を駆逐し、ロシアをグローバリストから守ったのだろうが、それはロシア国民を思ってのことではなく、自分の縄張(シマ)をユダヤ人や外国人に渡さない、という決意を示しただけだ。(オリガルヒについては以前の記事を参照。)
プーチンというのは一応、人民投票で選ばれた大統領だが、その本質からして、巨大マフィアのドン(首領)と考えた方がいい。日本で言えば、支那人マフィアを払いのけるヤクザの組長みたいなものだ。暴力団の親分は、たとえ新宿や神戸から支那人を一掃しても、愛国的ナショナリストではないし、褒めるほどの侠客でもない。プーチンはグシンスキー(Vladimir Gusinsky)やホドルコフスキー(Mikhail Khodorkovsky)を駆逐したが、大富豪のローマン・アブラモヴィッチ(Roman Abramovich)やアレクサンダー・アブラモフ(Alexander Abramov)はプーチンの子飼いになっている。天然ガスを輸出する国営のエネルギー企業「ガスプロム・ネフチ」はプーチンの元同僚だったアレクセイ・ミレル(Alexei Miller)が運営しているし、石油大手の「ロスネフチ」は以前の部下であるイゴール・セチン(Igor Sechin)が社長になっているのだ。
マスメディアだって実質上プーチンの支配下にある。「第一放送局(Channel One / 元の「ロシア公共テレビ局)」や「VGTRK」、「REN TV」、「RIA Novosti」が政府から独立し、プーチン批判を展開するなんて無理。夢物語だ。ほとんどのニューズ番組は、大統領とロシア軍の賛美が普通で、プーチンがどんな不正を犯しているのかを取材するドキュメント番組など最初からボツ。企画すらされず、提灯番組ばかり。ロシアのテレビ局はプーチンが軍隊を視察する場面とか、執務室で軍人に囲まれ、兵器開発に耳を傾ける姿をよく流している。つまり、各テレビ局は「偉大なる国父」を見せつけているというわけ。滑稽なのは、プーチンがロシア正教会を訪れ、司教の前で「敬虔な信者」を演じる事だ。信仰心など微塵も無いのに、国民や軍人のモラルを高めるため、善良なキリスト教徒を装っているんだから、観ている方が白けてくる。
馬渕大使は、中東で繰り返される「カラー革命」にも言及し、欧米のグローバリストはプーチンを失脚させるために色々な陰謀を仕掛けていると説明する。確かに、ウクライナの「オレンジ革命」やチュニジアの「ジャスミン革命」、グルジアの「バラ革命」、キルギスタンの「チューリップ革命」などは誰が仕掛けたのか判らない。CIAや英国のMI6、イスラエルのモサドが裏で画策したとも考えられる。ロシア国内の反プーチン運動だって、その資金源を調べれば、欧米の組織にたどり着くこともあるから、表面の騒動だけでは抗議活動の本質は解らない。ただ、「国際金融組織やグローバル勢力と戦うナショナリストのプーチン」という図式だと、プーチンの正体を見誤ることになる。なぜなら、プーチンがどれくらい国民の利益を考えて対抗しているのか、その真意が明らかになっていないからだ。
第16回の放送で、馬渕大使は「ディープ・ステートがつくったソ連と現在のロシアの違い」というタイトルを掲げ、ソ連時代と現在のロシアは違うと述べていた。大使によれば、「ロシア革命」なるものは、実質的に「ロシア系ユダヤ人による革命」であるという。確かに、ボルシェビキの指導層を見れば、矢鱈とユダヤ人が多いことに気づく。長いこと賤民だったユダヤ人には、迫害者たちへの恨みが深い。彼らは喜んでヨーロッパやロシアの破壊活動に従事するから、左翼活動家には自然とユダヤ人が多くなる。しかも、一般のロシア人は凡庸だから、才能あふれるユダヤ人にはかなわない。これはレーニンも認めている。ということで、共産主義革命を指導する連中にユダヤ人が多くても不思議じゃない。
しかし、どれほどユダヤ人が革命を扇動し、大量虐殺を命じたからといって、それを実行したのはロシア人尖兵だったから、やはりロシア人には暴力を何とも思わない性質がある。ロシア人に関しては日本人でも意見が分かれており、残酷だと評する者もいれば、「人なつっこい」と感じる者もいる。昔、ロシアの革命を目にした黒田乙吉(大阪毎日新聞記者)によれば、ロシア人は残忍な一面を持っているそうだ。特に彼の注目を惹いたのは、タムボフ県で起きた暴動である。ここでは一千人以上の百姓が一団となって地主の邸宅十五カ所を襲い、殺人、劫掠、放火などを恣(ほしいまま)にしたそうだ。驚くのは、犠牲者になった地主の中に、民衆から生き神の如く崇められていた人物がいたことである。それはともかく、恐怖心に駆られた地主たちは、続々と都会を引き上げたが、運悪く捕まる者もいたそうだ。慈善家として知られた某地主は、百姓や兵卒に捕まり、目玉を抉られ、胸を刺されるというリンチを受けたらしい。
(写真 / 貧しい生活を送るロシアの民衆)
平和な環境で何千年も過ごしてきた日本人には、漆黒の大陸で暮らすロシア人の精神は謎のままである。ロシアの犯罪を調べた倉井五郎は、あるウクライナ人の教授から聞いた話を伝えている。この教授によれば、ロシア人はヨーロッパ人にとってもパラドックスの塊で、極端に相矛盾した行動が絡み合っているという。例えば、ロシア人は時に優しく、相手が寒そうにしていれば、最後のシャツを脱いで与えてしまうこともあるそうだ。しかし、気分が変われば五分後にその相手を殺して、全てを奪ってしまうらしい。くだんのウクライナ人教授は、東歐や南歐のインテリとも議論したことがあるらしく、皆がロシア人の矛盾性を認めたそうだ。例えば、革命家は気高い精神と美しさを持つが、その同じ人物が独裁者や官僚となるや、驚くほどの残酷さを示す。農民も同様に複雑怪奇で、極端な勤勉さと呆れるような怠惰が混ざっている。また、ロシア人には超人的な忍耐と野獣のような無謀さがあるらしい。彼らには真理に対するひたむきな憧憬がある一方で、堂々と嘘をつく性格もあるのだ。
ロシア文学者で陸軍士官学校の教授を務めていた昇曙夢(のぼり・しょむ / 直隆)も、ロシア人の謎めいた性格を述べていた。ロシア人には粗野と柔和、親切と獣的冷酷が混在していおり、西欧人がとてもロシア人とは一緒になれないと断念するのは、こうした両極端が併存しているからだ。日本人がロシア人を見ていて厭になるのは、その犯罪が桁違いに残酷なところである。ロシア人のやり口は手荒い面があると思えば、豪放でズボラだったり、陰険で巧妙だったりする。筋を通す日本人からすれば、何とも理解しがたい。日本の犯罪者なんかロシア人と比べたら月とスッポンだ。日本人が高級時計や指輪を嵌めているカモを見つけたら、職人技でかすめ取ろうとするが、ロシア人なら鉈(なた)を使って指や手首ごと切り落として盗んでしまうだろう。民族によって発想は違うものである。
馬渕大使のプーチン評論には、同意できる点と反論したくなる点がある。大使によれば、プーチンの「新しい理念」は人道主義に基づく普遍的価値と、歴史の試練に耐え抜いたロシア的価値の統合にあるそうだ。馬渕大使には悪いけど、プーチンじゃなくとも、ロシアの政治家に人道主義なんて考えは無い。もっとも、人道主義を利用した政治プロパガンダや詐欺的外交ならある。プーチンが口にしたことを鵜呑みにするなんて愚かだ。ロシア人は謀略の天才で、昔、CIA長官だったジェイムズ・アングルトン(James Jesus Angleton)を手玉に取り、米国の諜報機関を麻痺させたことがある。まんまと奸計に引っかかったアングルトンは誰も信じなくなり、疑心暗鬼の権化となってしまった。
もう一つ、筆者が馬渕大使の見解に賛成できない点がある。それは、ロシア人が国土に対する執着心が強く、集団主義を取りがちな傾向を持つから日本人と似ているという意見だ。土地に対する愛着が強いのは、何もロシア人や日本人に限ったことではなく、ドイツ人やイギリス人、イタリア人、スペイン人だって郷土愛が強い。馬渕大使は西欧人の個人主義を念頭に置いているんだろうが、イギリス人やアメリカ人だって集団主義の利点を解っている。意外にも、上流階級のイギリス人は「チーム・プレイ」を重んじ、危機に際しては徹底した団結を図ることが多い。彼らはパブリック・スクール時代にラグビーやボートの経験を積んでいるから、普段でも以心伝心に通じ、仲間の結束が固いことでも有名だ。
ロシア人の民族性を語る馬渕大使の思考には大きな缼点(けってん)がある。大使によると、ロシア正教が性善説を取っているので、欧米人よりも日本人に近いというのだ。しかし、これはロシア理解の初歩すら掴んでいないと言えよう。教会内での言動と、外に出た時の行動は別なのだ。なるほど、礼拝に訪れるロシア人は素朴で善良に見える。だが、ロシア人の心には得体の知れない深い闇がある。それに、いつ豹変するかも判らない恐怖感さえあるのだ。また、ロシア人の無政府主義的傾向と専制主義の伝統を考えれば、「善良なロシア人」というイメージはおかしなことになる。
昔、東京外語大の志水速雄(しみず・はやお)教授がロシア人の性格について述べていた。例えば、一人のロシア人を善良と考え、それを「プラス1」と勘定しよう。ロシアが1億4千万の民衆で構成され、みんなが善人なら、各人の善良性を足して1億4千万の「善」があることになる。しかし、これは現実的ではない。国家を含め人間の組織は、メンバーの足し算ではないからだ。むしろ、掛け算となる。だから、国民の九割がプラスでも、残りの人間がマスナスなら、出来上がる組織全体はマイナスになってしまう。数学だとマイナス掛けるマスナスはプラスになるけど、極左のロシア人と兇悪犯のロシア人を掛けても親切なロシア人にはならない。逆に、典型的なロシア人になったりするから、ロシアというのは日本人の理解を超えている。
志水教授によれば、ロシア人の素朴さや善良さが無政府主義の原因であり、ロシアの専制政治は無政府状態への「突っかい棒」になっているという。( 志水速雄『日本人はなぜソ連が嫌いか』山手書房、昭和54年、p.255.) 確かに、普段は忍耐強く愚鈍なまでに従順な民衆でも、ある事を切っ掛けに爆発し、手がつけられぬほど暴れ回ってしまうから、ロシアを統治する者は強権を用いなければならない。それに、ロシア人はモンゴル人から熾烈な政治手法を受け継ぎ、ドイツ風の官僚制度を輸入しているから、支配者は物凄い弾圧政治を行っても平気である。ロシアでは貴族と農民は別人種と言ってよい。例えば、ドイツからやって来たエカチェリーナ2世にとったら、ロシアなんか野蛮国でしかなく、庶民などは野獣(けだもの)と違いが無い。
馬渕大使はロシアの民族性ばかりでなく、対露外政についても幻想を抱いている。大使が二島返還論を支持しているのは、日本がロシアを味方につけ、支那と対峙させるためだという。もし、日本が四島一括返還にこだわれば、ロシアが支那と結びついてしまうというのだ。しかし、これはおかしい。当ブログで以前指摘したが、ロシアと支那は軍事面で連携し、経済交流も盛んである。エネルギーを輸入せねばならぬ支那は、ロシアからの石油やガスを購入しているから、プーチンにとって支那人は得意先になっている。しかも、モスクワが対支那包囲網を構築しようとする動きは無い。馬渕大使は支那人が国境を越えて、続々とロシア領に侵入しているというが、クレムリンは支那移民排斥の方針を取ってるのか? 確かに、支那人による浸透を懸念するロシア人は多い。だが、クレムリンは支那を潰すというより、裏から支えている節がある。なぜなら、「トラブルメイカー」がいた方がアメリカの軍事外政を攪乱できるからだ。合衆国政府の矛先がモスクワに向くより、北京に向けられた方がいいし、米国と支那が喧嘩して共倒れになればもっと良い。たとえ米国が勝っても、何らかの損害を受けるから、ロシアとしては両方を焚きつけた方が得である。
狡猾なプーチンなら、支那人に困っている振りをして安倍総理に共闘を持ちかけ、そのついでに経済援助をもらって、ロシア社会に使うことを考えるはずだ。どうせ、ロシア人は日本から搾るだけ搾って、食い逃げするつもりなんだから。馬渕大使はロシアが近代化を成し遂げた日本を手本にして、スラヴ的伝統と西歐的伝統の統合を図っていると解説する。でも、ロシア人が日本人を本気で見習う事なんてあるのか? どちらかと言えば、お人好しの日本人を騙して経済援助をクスねようと考えるのが普通のロシア人だ。ロシア人が見習うとすれば、日本から多額のODAを引き出した支那人の方だろう。それに、ロシアの経済発展が日本の利益になるとは思えない。日本政府はロシアが経済的に停滞し、軍事予算が減少するようロシアを貧乏にさせるべきだ。
インターネット番組に出演する馬渕大使には、保守派のファンが多くいるけど、果たして彼らの何割が大使の見解を真剣に考えたことがあるのか? なるほど、グローバリストや国際ユダヤ人に対する馬渕大使の批判は優れていると思うが、ロシアに関する認識は甘いと言わざるを得ない。本来、馬渕大使は外務官僚の誰がロシアに靡いているのか、買収されているかも知れない怪しい人物の言動を炙り出し、一般国民にそっと教えるべきなのに、そこを避けている。だから、「やはり古巣には触れることができないのか」と落胆するファンもいるんじゃないか。日本人はプーチンの思惑より、国内にはびこるロシアの手先に注意すべきである。鈴木宗男や佐藤優なんかは下っ端の協力者だから判りやすい。もし、日本に防諜組織があれば、もっと大物を捕まえることができるだろう。しかし実際は、ロシア専門家に裏切者がいて、政府を操っているんだから、情けないというか哀しくなる。プーチンに送った秋田犬がロシアの秘密を嗅ぎ回ってくれればいいけど、あいにく日本の犬は主人に忠実だから無理だろう。だって、日本の政治家がロシアの忠犬なんだから。
プーチンはロシアの皇帝
YouTubeに「林原チャンネル」というのがあって、様々な知識人が登場し独自の見解を述べている。その中に、馬渕睦夫大使が単独で「ロシアを語る」という番組があるんだが、最近、馬渕大使はロシアの現状とプーチンの統治を取り上げ、日本人が持っている誤った認識について触れていた。ところが、馬渕大使の話を聞いていると、いろいろな点で疑問が生じ、どうも納得できない。ロシアに詳しいはずの外交官が、ロシア人への認識を歪めているので何とも不可解だ。
まづ、第15回の「グローバリズム勢力と戦うプーチン」について紹介したい。馬渕大使によると、「ロシアは信用できない」という認識は誤ったイメージに基づいているという。そして、現在のロシアは共産主義時代のソ連と違って世界の覇権を求めていないらしい。馬渕大使は北方領土問題にも言及し、マスコミが四島一括返還にこだわるのは無茶で、二島の「引き渡し」にこそ現状打破のチャンスがあるという。だから、ロシアに対して従来の敵意を持ち、「また日本人を騙すんじゃないか?」と疑念を抱くのは、マスコミによる意図的な誘導だと判断している。
では、本当にロシアは欧米諸国並みに信用できる相手なのか? 馬渕大使は日本とロシアの交渉が上手く行き、平和条約の締結を以て二島の返還がなされると予想している。が、筆者は賛成できない。なぜなら、ロシア人には「力の強い者が全てを奪う」という原則があり、「約束はいつでも反故にできる」という文化があるからだ。いくら日本に経済的余裕があるからといって、軍事的優位に立つロシアが軍事小国の日本に譲歩することなどあり得ない。ロシアは歯舞・色丹の返還を"ちらつかせる"だけで、両島の主権を譲渡する気など更々無く、経済的支援と技術をもらったら難癖をつけて日本人を追い返すつもりだろう。日本人はお金を巻き上げられて終わりだ。たとえ、日本側がロシア政府に対し、「話が違うじゃないか!」と抗議したところで、ロシア人は気にもとめず、「だから何だ?! 文句あんのか! ほら、かかって来いよ!」と脅迫し、ご自慢の軍隊を仄めかすはずだ。こうなれば、自衛隊だけの日本は泣き寝入りするしかない。
「プーチン大統領はグローバリストに立ち向かうナショナリストである」というのが、馬渕大使のレクチャーにおける十八番(おはこ)となっている。プーチンはロシアの資源や国富を簒奪しようとしたグローバリスト勢力、すなわちユダヤ系オリガルヒ(新興財閥)を退治したので、ロシアの愛国者であるらしい。なるほど、プーチンは石油に群がるユダヤ人起業家や、マスメディアを支配しようとするユダヤ人を駆逐し、ロシアをグローバリストから守ったのだろうが、それはロシア国民を思ってのことではなく、自分の縄張(シマ)をユダヤ人や外国人に渡さない、という決意を示しただけだ。(オリガルヒについては以前の記事を参照。)
プーチンというのは一応、人民投票で選ばれた大統領だが、その本質からして、巨大マフィアのドン(首領)と考えた方がいい。日本で言えば、支那人マフィアを払いのけるヤクザの組長みたいなものだ。暴力団の親分は、たとえ新宿や神戸から支那人を一掃しても、愛国的ナショナリストではないし、褒めるほどの侠客でもない。プーチンはグシンスキー(Vladimir Gusinsky)やホドルコフスキー(Mikhail Khodorkovsky)を駆逐したが、大富豪のローマン・アブラモヴィッチ(Roman Abramovich)やアレクサンダー・アブラモフ(Alexander Abramov)はプーチンの子飼いになっている。天然ガスを輸出する国営のエネルギー企業「ガスプロム・ネフチ」はプーチンの元同僚だったアレクセイ・ミレル(Alexei Miller)が運営しているし、石油大手の「ロスネフチ」は以前の部下であるイゴール・セチン(Igor Sechin)が社長になっているのだ。
マスメディアだって実質上プーチンの支配下にある。「第一放送局(Channel One / 元の「ロシア公共テレビ局)」や「VGTRK」、「REN TV」、「RIA Novosti」が政府から独立し、プーチン批判を展開するなんて無理。夢物語だ。ほとんどのニューズ番組は、大統領とロシア軍の賛美が普通で、プーチンがどんな不正を犯しているのかを取材するドキュメント番組など最初からボツ。企画すらされず、提灯番組ばかり。ロシアのテレビ局はプーチンが軍隊を視察する場面とか、執務室で軍人に囲まれ、兵器開発に耳を傾ける姿をよく流している。つまり、各テレビ局は「偉大なる国父」を見せつけているというわけ。滑稽なのは、プーチンがロシア正教会を訪れ、司教の前で「敬虔な信者」を演じる事だ。信仰心など微塵も無いのに、国民や軍人のモラルを高めるため、善良なキリスト教徒を装っているんだから、観ている方が白けてくる。
馬渕大使は、中東で繰り返される「カラー革命」にも言及し、欧米のグローバリストはプーチンを失脚させるために色々な陰謀を仕掛けていると説明する。確かに、ウクライナの「オレンジ革命」やチュニジアの「ジャスミン革命」、グルジアの「バラ革命」、キルギスタンの「チューリップ革命」などは誰が仕掛けたのか判らない。CIAや英国のMI6、イスラエルのモサドが裏で画策したとも考えられる。ロシア国内の反プーチン運動だって、その資金源を調べれば、欧米の組織にたどり着くこともあるから、表面の騒動だけでは抗議活動の本質は解らない。ただ、「国際金融組織やグローバル勢力と戦うナショナリストのプーチン」という図式だと、プーチンの正体を見誤ることになる。なぜなら、プーチンがどれくらい国民の利益を考えて対抗しているのか、その真意が明らかになっていないからだ。
第16回の放送で、馬渕大使は「ディープ・ステートがつくったソ連と現在のロシアの違い」というタイトルを掲げ、ソ連時代と現在のロシアは違うと述べていた。大使によれば、「ロシア革命」なるものは、実質的に「ロシア系ユダヤ人による革命」であるという。確かに、ボルシェビキの指導層を見れば、矢鱈とユダヤ人が多いことに気づく。長いこと賤民だったユダヤ人には、迫害者たちへの恨みが深い。彼らは喜んでヨーロッパやロシアの破壊活動に従事するから、左翼活動家には自然とユダヤ人が多くなる。しかも、一般のロシア人は凡庸だから、才能あふれるユダヤ人にはかなわない。これはレーニンも認めている。ということで、共産主義革命を指導する連中にユダヤ人が多くても不思議じゃない。
しかし、どれほどユダヤ人が革命を扇動し、大量虐殺を命じたからといって、それを実行したのはロシア人尖兵だったから、やはりロシア人には暴力を何とも思わない性質がある。ロシア人に関しては日本人でも意見が分かれており、残酷だと評する者もいれば、「人なつっこい」と感じる者もいる。昔、ロシアの革命を目にした黒田乙吉(大阪毎日新聞記者)によれば、ロシア人は残忍な一面を持っているそうだ。特に彼の注目を惹いたのは、タムボフ県で起きた暴動である。ここでは一千人以上の百姓が一団となって地主の邸宅十五カ所を襲い、殺人、劫掠、放火などを恣(ほしいまま)にしたそうだ。驚くのは、犠牲者になった地主の中に、民衆から生き神の如く崇められていた人物がいたことである。それはともかく、恐怖心に駆られた地主たちは、続々と都会を引き上げたが、運悪く捕まる者もいたそうだ。慈善家として知られた某地主は、百姓や兵卒に捕まり、目玉を抉られ、胸を刺されるというリンチを受けたらしい。
(写真 / 貧しい生活を送るロシアの民衆)
平和な環境で何千年も過ごしてきた日本人には、漆黒の大陸で暮らすロシア人の精神は謎のままである。ロシアの犯罪を調べた倉井五郎は、あるウクライナ人の教授から聞いた話を伝えている。この教授によれば、ロシア人はヨーロッパ人にとってもパラドックスの塊で、極端に相矛盾した行動が絡み合っているという。例えば、ロシア人は時に優しく、相手が寒そうにしていれば、最後のシャツを脱いで与えてしまうこともあるそうだ。しかし、気分が変われば五分後にその相手を殺して、全てを奪ってしまうらしい。くだんのウクライナ人教授は、東歐や南歐のインテリとも議論したことがあるらしく、皆がロシア人の矛盾性を認めたそうだ。例えば、革命家は気高い精神と美しさを持つが、その同じ人物が独裁者や官僚となるや、驚くほどの残酷さを示す。農民も同様に複雑怪奇で、極端な勤勉さと呆れるような怠惰が混ざっている。また、ロシア人には超人的な忍耐と野獣のような無謀さがあるらしい。彼らには真理に対するひたむきな憧憬がある一方で、堂々と嘘をつく性格もあるのだ。
ロシア文学者で陸軍士官学校の教授を務めていた昇曙夢(のぼり・しょむ / 直隆)も、ロシア人の謎めいた性格を述べていた。ロシア人には粗野と柔和、親切と獣的冷酷が混在していおり、西欧人がとてもロシア人とは一緒になれないと断念するのは、こうした両極端が併存しているからだ。日本人がロシア人を見ていて厭になるのは、その犯罪が桁違いに残酷なところである。ロシア人のやり口は手荒い面があると思えば、豪放でズボラだったり、陰険で巧妙だったりする。筋を通す日本人からすれば、何とも理解しがたい。日本の犯罪者なんかロシア人と比べたら月とスッポンだ。日本人が高級時計や指輪を嵌めているカモを見つけたら、職人技でかすめ取ろうとするが、ロシア人なら鉈(なた)を使って指や手首ごと切り落として盗んでしまうだろう。民族によって発想は違うものである。
馬渕大使のプーチン評論には、同意できる点と反論したくなる点がある。大使によれば、プーチンの「新しい理念」は人道主義に基づく普遍的価値と、歴史の試練に耐え抜いたロシア的価値の統合にあるそうだ。馬渕大使には悪いけど、プーチンじゃなくとも、ロシアの政治家に人道主義なんて考えは無い。もっとも、人道主義を利用した政治プロパガンダや詐欺的外交ならある。プーチンが口にしたことを鵜呑みにするなんて愚かだ。ロシア人は謀略の天才で、昔、CIA長官だったジェイムズ・アングルトン(James Jesus Angleton)を手玉に取り、米国の諜報機関を麻痺させたことがある。まんまと奸計に引っかかったアングルトンは誰も信じなくなり、疑心暗鬼の権化となってしまった。
もう一つ、筆者が馬渕大使の見解に賛成できない点がある。それは、ロシア人が国土に対する執着心が強く、集団主義を取りがちな傾向を持つから日本人と似ているという意見だ。土地に対する愛着が強いのは、何もロシア人や日本人に限ったことではなく、ドイツ人やイギリス人、イタリア人、スペイン人だって郷土愛が強い。馬渕大使は西欧人の個人主義を念頭に置いているんだろうが、イギリス人やアメリカ人だって集団主義の利点を解っている。意外にも、上流階級のイギリス人は「チーム・プレイ」を重んじ、危機に際しては徹底した団結を図ることが多い。彼らはパブリック・スクール時代にラグビーやボートの経験を積んでいるから、普段でも以心伝心に通じ、仲間の結束が固いことでも有名だ。
ロシア人の民族性を語る馬渕大使の思考には大きな缼点(けってん)がある。大使によると、ロシア正教が性善説を取っているので、欧米人よりも日本人に近いというのだ。しかし、これはロシア理解の初歩すら掴んでいないと言えよう。教会内での言動と、外に出た時の行動は別なのだ。なるほど、礼拝に訪れるロシア人は素朴で善良に見える。だが、ロシア人の心には得体の知れない深い闇がある。それに、いつ豹変するかも判らない恐怖感さえあるのだ。また、ロシア人の無政府主義的傾向と専制主義の伝統を考えれば、「善良なロシア人」というイメージはおかしなことになる。
昔、東京外語大の志水速雄(しみず・はやお)教授がロシア人の性格について述べていた。例えば、一人のロシア人を善良と考え、それを「プラス1」と勘定しよう。ロシアが1億4千万の民衆で構成され、みんなが善人なら、各人の善良性を足して1億4千万の「善」があることになる。しかし、これは現実的ではない。国家を含め人間の組織は、メンバーの足し算ではないからだ。むしろ、掛け算となる。だから、国民の九割がプラスでも、残りの人間がマスナスなら、出来上がる組織全体はマイナスになってしまう。数学だとマイナス掛けるマスナスはプラスになるけど、極左のロシア人と兇悪犯のロシア人を掛けても親切なロシア人にはならない。逆に、典型的なロシア人になったりするから、ロシアというのは日本人の理解を超えている。
志水教授によれば、ロシア人の素朴さや善良さが無政府主義の原因であり、ロシアの専制政治は無政府状態への「突っかい棒」になっているという。( 志水速雄『日本人はなぜソ連が嫌いか』山手書房、昭和54年、p.255.) 確かに、普段は忍耐強く愚鈍なまでに従順な民衆でも、ある事を切っ掛けに爆発し、手がつけられぬほど暴れ回ってしまうから、ロシアを統治する者は強権を用いなければならない。それに、ロシア人はモンゴル人から熾烈な政治手法を受け継ぎ、ドイツ風の官僚制度を輸入しているから、支配者は物凄い弾圧政治を行っても平気である。ロシアでは貴族と農民は別人種と言ってよい。例えば、ドイツからやって来たエカチェリーナ2世にとったら、ロシアなんか野蛮国でしかなく、庶民などは野獣(けだもの)と違いが無い。
馬渕大使はロシアの民族性ばかりでなく、対露外政についても幻想を抱いている。大使が二島返還論を支持しているのは、日本がロシアを味方につけ、支那と対峙させるためだという。もし、日本が四島一括返還にこだわれば、ロシアが支那と結びついてしまうというのだ。しかし、これはおかしい。当ブログで以前指摘したが、ロシアと支那は軍事面で連携し、経済交流も盛んである。エネルギーを輸入せねばならぬ支那は、ロシアからの石油やガスを購入しているから、プーチンにとって支那人は得意先になっている。しかも、モスクワが対支那包囲網を構築しようとする動きは無い。馬渕大使は支那人が国境を越えて、続々とロシア領に侵入しているというが、クレムリンは支那移民排斥の方針を取ってるのか? 確かに、支那人による浸透を懸念するロシア人は多い。だが、クレムリンは支那を潰すというより、裏から支えている節がある。なぜなら、「トラブルメイカー」がいた方がアメリカの軍事外政を攪乱できるからだ。合衆国政府の矛先がモスクワに向くより、北京に向けられた方がいいし、米国と支那が喧嘩して共倒れになればもっと良い。たとえ米国が勝っても、何らかの損害を受けるから、ロシアとしては両方を焚きつけた方が得である。
狡猾なプーチンなら、支那人に困っている振りをして安倍総理に共闘を持ちかけ、そのついでに経済援助をもらって、ロシア社会に使うことを考えるはずだ。どうせ、ロシア人は日本から搾るだけ搾って、食い逃げするつもりなんだから。馬渕大使はロシアが近代化を成し遂げた日本を手本にして、スラヴ的伝統と西歐的伝統の統合を図っていると解説する。でも、ロシア人が日本人を本気で見習う事なんてあるのか? どちらかと言えば、お人好しの日本人を騙して経済援助をクスねようと考えるのが普通のロシア人だ。ロシア人が見習うとすれば、日本から多額のODAを引き出した支那人の方だろう。それに、ロシアの経済発展が日本の利益になるとは思えない。日本政府はロシアが経済的に停滞し、軍事予算が減少するようロシアを貧乏にさせるべきだ。
インターネット番組に出演する馬渕大使には、保守派のファンが多くいるけど、果たして彼らの何割が大使の見解を真剣に考えたことがあるのか? なるほど、グローバリストや国際ユダヤ人に対する馬渕大使の批判は優れていると思うが、ロシアに関する認識は甘いと言わざるを得ない。本来、馬渕大使は外務官僚の誰がロシアに靡いているのか、買収されているかも知れない怪しい人物の言動を炙り出し、一般国民にそっと教えるべきなのに、そこを避けている。だから、「やはり古巣には触れることができないのか」と落胆するファンもいるんじゃないか。日本人はプーチンの思惑より、国内にはびこるロシアの手先に注意すべきである。鈴木宗男や佐藤優なんかは下っ端の協力者だから判りやすい。もし、日本に防諜組織があれば、もっと大物を捕まえることができるだろう。しかし実際は、ロシア専門家に裏切者がいて、政府を操っているんだから、情けないというか哀しくなる。プーチンに送った秋田犬がロシアの秘密を嗅ぎ回ってくれればいいけど、あいにく日本の犬は主人に忠実だから無理だろう。だって、日本の政治家がロシアの忠犬なんだから。
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諸外国でもロシア工作員がマルチアカウントを作って草の根工作をしていますが、馬渕の動画には毎回のように発生していますね。
下の方にあるしょうもないコメントもその一味でしょう。データとっておくことをお勧めします。
水島聡といい、こういう偽装愛国者のロシア工作員に騙されるのは戦前から全く進歩していませんね。