スターの光輪を放つ最後の俳優

Tamura 216 俳優の田村正和が4月3日に亡くなった。享年77。数々のドラマや映画に出演した田村氏は、平成の時代にも活躍したが、本質的には昭和の大物であった。しかも、男の色気とオーラを放つ稀有な二枚目。もちろん、他にも男前の役者は彼方此方に居たけど、“銀幕のスター”と言えば田村正和を思い出す。彼は手の届かない藝能人を貫いていた。普通の俳優は気軽にバラエティー番組に出演し、如何なる趣味を持ち、どんな邸宅に住んでるのかさえ公開する。ところが、田村正和はどんな私生活を送っているのか謎のまま。一般人には分からない。映像の中でしか出逢えない「別世界の人物」という“神秘さ”を保っていた。

  一般人が「田村正和」の名を聞けば、TVドラマの『古畑任三郎』とか『ニューヨーク恋物語』、あるいは最後の作品となった『眠狂四郎』、あるいは映画になった『子連れ狼 その小さき手に』くらいだろう。『ニューヨーク恋物語』はヒットしたこともあって田村氏の代表作とされるが、筆者にはそう思えない。第一、配役が酷かった。「田島(田村)」に恋する「茅野」役が岸本加世子なんだからガッカリだ。しかも、NYの証券会社に勤めるキャリア・ウーマンの「相川」約が桜田淳子。何か、創価学会や統一教会が裏で動いていたのか、と思ってしまう人選だ。しかし、もっと厭なのは、相川のルームメイトに鮮人女優の李惠淑(り・けいしゅく)が起用されていた事だ。朝鮮贔屓のテレビ局だから仕方ないけど、「どれだけ朝鮮人が好きなんだよぉ~」と呆れてしまう。

Sato Tomomi 001( 左 / 佐藤友美 )
  筆者がキャスティングを決めるプロデューサーなら、「茅野」役には篠ひろ子か佐藤友美、かなり昔になるけど中島はるみ、あるいはニューヨークという設定を考えて、セーラ・ローウェル(Sarah Vera Lowell)に声を掛ける。中島氏とローウェル氏は、「Gメン'75」で有名になった女優で、その後の作品には恵まれなかったけど、なかなか魅力的な人だった。令和の高校生は知らないと思うけど、佐藤氏は1983年に放送された『金曜の妻たち』で人気を博した女優である。彼女は「大人の女性」といった雰囲気を漂わせていた。それゆえ、不幸になる美人や危険な香りを放つ悪女を演じさせたらピカイチだ。現在のTVドラマは、即席麺のような低予算作品か、藝能事務所の宣伝フィルムだから、起用される役者はアイドル歌手上がりの小娘か、「俳優」の名札を附けて演技する素人ばかり。これでは、高校の学芸会と変わりがない。


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(左 : セーラ・ローウェル  / 右 : 中島はるみ )

  コメディー・ドラマで好評だった田村氏ではあるが、松本清張のドラマにもちょくちょく出演しており、『砂の器』とか『黒革の手帖』、『疑惑』が有名だ。筆者からすると『黒革の手帖』が一番印象的で、主役の山本陽子が実に良かった。彼女はまさしく銀座の美人ホステスといった感じで、度胸の据わった悪女が似合っている。また、共演者にも実力を備えた俳優が起用されていたから、全体的に「締まり」があった。老獪な医者や政治家をやらせたら絶品の小沢栄太郎や三國連太郎が脇を固めていたのだ。「昔は良かった」と言いたくないけど、プロが“当然の如く”出演していた昭和のドラマが懐かしい。事務所のゴリ押しで大根役者がキャスティングされる平成や令和のドラマとは大違いだ。

Yamamoto 003( 左 / 山本陽子 )
  名監督のアルフレッド・ヒッチコックも強調していたが、映画においてキャスティングは最重要課題である。なぜなら、誰を主役にし、どんな役者を共演者にするかで、作品の評価や印象が著しく異なってしまうからだ。田村正和はまさしく「スター」と呼ぶに相応しく、彼の名前だけで客を惹き付けることができた。令和の20代や30代の女性には、大原麗子と共演した『くれない族の反乱』は馴染みがないだろう。しかし、このTVドラマが放送された1984年は、今の日本と大違い。景気の点でも格段の差があった。時はバブル景気真っ盛り。若い女性のみならず、中高年の御婦人たちも、クールな田村正和の主演作となれば、「きゃぁぁぁ~」と黄色い声を上げていた。民主党政権時代のTBSやフジテレビは、「ペ・ヨンジュン」とかいう南鮮人男優を持ち上げ、矢鱈と「今、韓流ドラマが大人気です !」と宣伝していたが、ホントに「韓流ブーム」なんてあったのか? 「ヨン様」か「ペー様」か知らないけど、あんなのは“八百長ブーム”としか思えない。電通社員の女房だって、朝鮮ドラマをどれほど観ていることか。亭主が一生懸命「宣伝」していても、女房は「アホらしい」と思っていたりして・・・。

  不倫ドラマというのは、いつの時代にもあるが、『くれない族の反乱』が設定する物語は、パートのオバちゃん達からすると夢のような世界である。大原麗子が演じる「中野和子」は、既婚者なんだけど、亭主と諍いが絶えない主婦。家庭生活に不満と嫌気が差した和子は、外で働く知人に触発され、自分もパートタイマーになって働こうと決心する。そこで、彼女はパートタイマーの派遣社員となり、百貨店の地下にある食品売り場で働くことに。幸運なことに、そこの部署を担当するのは、「佐伯亮一(田村正和)」というベテラン社員。この佐伯も既婚者なんだが、妻の「曉子(永島暎子)」とは別居状態となっていた。

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(左 : 大原麗子  / 右 :  大原氏と田村正和)

  専業主婦だから無理もないが、慣れない仕事に悪戦苦闘する和子に、主任の佐伯はとても親切。そして、女房と疎遠になり、孤独感を抱く佐伯は、いつしか和子に特別な感情を抱くようになる。和子の方も親身になってくれる上司に段々と惹かれて行く。私生活でトラブルを抱える和子は、その苦悩に耐えきれず、涙を浮かべながら佐伯の胸に飛び込む。佐伯も和子を受け容れる。こうして二人は「上司と部下」という垣根を越え、やがて恋愛関係へと落ちてゆく。夫を持つ女性が不倫関係にのめり込むのは良くないが、相手が田村正和だと何となく赦せちゃうから不思議だ。茶の間でドラマを観ている奥様たちは、自分と大原麗子を重ね合わせ、「いいわねぇ~」と羨ましさでいっぱいだった。一般の亭主は泉谷しげるか板東英二みたいな“中年男”なんだから現実は厳しい。日曜日になれば、家でゴロゴロしている大きな子供と同じだ。会話といったら「母さん、お昼は何?」と尋ねるくらい。もっと残念なのは、「母さん、この間の“あれ”何処にしまってあるの?」といった意味不明の質問だ。固有名詞を言わずに会話が成立するんだから、日本の夫婦は超能力者である。こんな日常生活だから、一般の主婦が「せめて1時間くらいは現実を逃れたい !」と思ってもしょうがない。

  このドラマを毎週観ているパートのオバちゃん達は、「いいなぁ~、私にもあんな上司がいたらなぁ~」と溜息をつく。確かに、現実の職場では係長や部長といったら、石光研か角野卓造みたいなオッさんばかり。他の部署に行っても蟹江敬三か名古屋章みたいな上司が関の山だだろう。佐藤慶さんのような遣り手の専務とかは居そうだけど、藤竜也とか竹野内豊みたいな課長は居ないぞ。ましてや、田村正和みたいな二枚目が、食品売り場の主任なんて有り得ない。普通は、立川志の輔みたいな現場主任だ。売れ残りを気にする中間管理職は、オバちゃん達に発破をかけながら大忙し。惣菜コーナーを仕切っている「場違いなオッちゃん」は、大抵ベテラン社員だ。ちなみに、このドラマは東急百貨店が協力していた。

若い娘に恋をする社長

  現在はインターネットで過去のドラマを視聴できるようになった。しかし、奇妙なことにフジテレビが1986年に放送した『女は男をどう変える』は、フジのドラマなのに同社の「FOD(オンデマンドのドラマ配信サイト)」で観ることができない。もしかすると、著作権の問題で「お蔵入り」なのかも知れないが、「大人の事情」で「幻の作品」となるのは実に残念だ。

  あまり有名じゃないけど、『女は男をどう変える』は軽いタッチの恋愛ドラマだった。主役の三上和之(田村正和)は、「カナリヤ製菓」の二代目社長。六年前に妻を亡くし、一人息子の卓也と二人暮らし。ただし、家政婦の「秀子(山口美也子)」が和之に惚れ込み、女房みたいに振る舞っている。カナリヤ製菓には亡き妻の母親である「松代(鈴木光枝)」が、会長職を務めており、隠然とした権力を誇っている。だから、娘婿の社長、つまり「婿殿」でしなかい和之は、この義母に頭が上がらない。ただし、会社では専務の「伊原(中条静夫)」がいて、色々と助けてくれる女房役だ。この伊原には妻の「静代(白川由美)」と中学生になる娘の「リカ」がいる。ところが、彼には結婚前に付き合っていた女性がいて、彼女との間に娘をもうけていた。それが「三宅まり江(鳥居かほり)」という19歳の隠し子だ。

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(左 : 「まり江」役の鳥居かほり  /  右 : 「三上和之」役の田村正和)

  40代の鰥(やもめ)となった三上和之には、「七浦ユキ(かとうかずこ)」というガールフレンドが居た。しかし、ある時、和之はエアロビックスのインストラクターを務める「まり江」に出逢ってしまう。彼は天真爛漫の若い女性を目にして心がときめく。まぁ、40代の中年男性が19歳の娘と恋仲になるんだから、現実の一般女性は「えぇぇ~、気持ち悪いぃ~!」と眉を顰めるが、見つめる男性が田村正和なのでOKとなる。(「セクハラ」は相対主義に基づいており、訴えるか否かは相手の男次第。) しかし、専務の伊原は焦ってしまう。もし、娘のまり江が社長の和之と結婚すれば、部下の伊原は社長の義父となってしまうからだ。それに、伊原は女房の静代に「まり江」の存在を明かしていないので、益々「困った、どうしよう?!」と焦ってしまう。ゆえに、伊原は何としても二人の仲を裂こうとする。

  一方、まり江に出逢った和之は、年の差を気にしながらも、若くて美しいまり江に惹かれて行く。まり江の方も魅力的な和之に好意を抱き、二人は屋台のフランス料理店でディナーを楽しむ。(この「シェフ」を演じていたのは漫談師の「でんでん」。) 子持ちの中年男が、20歳前後の若い娘と密会できるなんて、現実のオヤジさん達にとっては羨ましい限りだ。普通は会社に美人秘書がいても、アンタッチャブルの存在である。肩に触れただけでも訴訟騒ぎなんだから、「チャオチュール」を目の前にぶら下げられた猫と同じだ。中年の「オジ様」といっても、相手が田村正和なんだから、19歳のまり江だって気にならない。むしろ、周囲から邪魔されるほど、まり江の恋心は強くなる。彼女も現実をよく弁えており、「叶わぬ恋」と自分に言い聞かせるが、自分の本心を抑えれば抑えるほど、その心は和之に傾いてしまう。

  伊原から妨害を受ける和之の方も、段々とまり江に対する気持ちが強くなる。そして、「結婚」という考えが脳裏から離れない。和之は本能に従い、仕事の合間を縫ってまり江とデートを重ねる。やはり、若い娘と付き合うと心が弾むものだ。たとえ、業務が忙しくても、どうにかこうにか時間を作る。身体は40代でも気持ちは高校生。(相手が可愛い女性だと精神に張りが出る。元「クラリオン・ガール」でも、蓮舫みたいな女性じゃ気分が沈むよねぇ~) まり江と和之は結婚寸前となるが、父親の伊原は諦めず、会長の松枝に泣きつき、和之の結婚に反対してもらうよう頼んだ。会社の実権を握る松枝は、和之を呼びつけ、社長の椅子を棄ててまり江との結婚に踏み切るのか、それとも彼女と別れて社長に留まるのか、という究極の選択を迫る。すると、和之は自らの覚悟を義母に告げた。社長の地位を棄てて、まり江を選ぶ、と。これには義母の松枝も唖然とする。

  一方、和之の「窮状」を知ったまり江は、身を引いて和之を助けようとする。彼女は速やかに住んでいるアパートを引き払い、家具が無くなった部屋に別れの手紙を残す。管理人から置き手紙を受け取った和之は、「もう二度と会いたくない」という趣旨の文面を目にするが、それがまり江の“本心”でないことは一目瞭然だ。行方をくらましたまり江は、愛する和之から遠ざかろうと、友人を頼って米国へ留学しようと決心する。しかし、その心は未だに和之のもとに。まり江は酒を飲み、友達と遊んで忘れようとするが、一向に忘れることができない。そうした中、和之と付き合っていた七浦が、偶然まり江をディスコで発見する。和之の気持ち知る七浦は、和之に電話を掛け、二人を再開させようと図る。七浦に呼び出され、ファミレスで話を聞く和之は、まり江の居場所をしろうと必死で問いかける。すると、七浦はまり江が何処に居るかを告げた。彼女の答えを聞いた和之は、後ろを振り向き、ウェイトレスとして働くまり江に目を丸くする。

  “いつも”のフランス料理店にまり江を連れて行った和之は、彼女と向かい合い、その本心を質そうとした。好きな人を前にして、まり江は色々な“理由(いいわけ)”を口にする。「三上さんは、女の人にモテるし、いずれ私に飽きてしまうから・・・」と呟く。しかし、和之は動じない。じっと彼女を見つめて、「それから」と問いかける。まり江は続けて、「卓也さんも厭がるだろうし、私も母親になる自身は無いから・・・」と。それでも、和之は納得せず、「それから」と問い質す。まり江は湧き上がる感情を押し込めることに必死だ。「私もまだ若いから、他の男の人と出会えるかも知れないし」と述べた。彼女は思いつく限りの「理由」を口にするが、その声は震えており、今にも泣き出しそうな表情であった。まり江を見つめる和之は、彼女の本心を分かっている。彼は「嘘だろう」と優しく語りかけた。それでも、まり江は頑なに否定し、「嫌いになった理由」を述べようと努力する。

Tamura 001(左 /  結婚式を挙げるシーン)
  まりえ江の“演技”に心を痛める和之は、「もう分かっているんだ。我慢しなくていい」といった表情で、「おばあちゃんに“別れろ”と言われたんだろ !」と温かく問いかける。しかし、まり江は辛抱強く「違います」と言い放った。しかし、彼女の目には涙が浮かんでいる。自分のせいで和之が社長を解任されてしまう、と怯えるまり江は、毅然とした態度で狂言を演じようとするが、湧き上がる涙を抑えることができない。和之は見え透いた演技を続けるまり江を抱きしめ、「もう充分に君の心遣いが分かったから」と慰める。和之に抱きしめられたまり江は、それでも「嫌いになったから」と言い続け、心の緊張が解けたのか、和之の胸で涙を流す。こうしてお互いの愛を確かめた二人は、教会で結婚式を挙げることとなり、参列したみんなから祝福を受ける。

  いやぁぁ~、分かっちゃいるけど、一途な「まり江(鳥居)」と、それを包み込む「和之(田村)」のシーンは印象的だ。ドラマを観ている奥様たちは、許されぬ愛に苦しむ「まり江」に同情し、そんな彼女をギュっと抱きしめる正和様にうっとり。あのキラキラ光る眼差しで見つめられたら、奥様たちのハートは蝋燭(ロウソク)のように溶けてしまう。「正和ファン」の御婦人たちは、「私もあんな恋をしたいなぁ~」と空を見上げる。隣で一緒に観ているワンちゃんも、何かあるのかと天井を見上げるが、期待したビーブジャーキーは一つも無い。ゴールデンレトリバーみたいな犬だと、寂しい奥様を慰めてくれるから結構貴重な存在だ。ネコちゃんの場合だと、御主人様が悲嘆に暮れても、股を広げて毛繕い。それでも、寄り添って寝ているから嬉しくなる

  一方、亭主は夜になっても帰宅せず、赤提灯で飲んだくれ。昼行灯(ひるあんどん)の上司は、従順な部下に説教を垂れて大満足。毎回毎回、昔の武勇伝を聞かされる若者は堪ったもんぢゃないが、「これも中高年の老害」と諦め、50回聞いた“自慢話”でも「そうなんですかぁ~」と頷く。まあ、上司だって分かっているけど、若い部下に話を聞いてもらえるから、ついつい甘えてしまうのだ。なぜなら、まっすぐ家に帰っても、食卓にはお茶漬けくらいしかないんだから。ところが、愛犬のワンちゃんには、栄養バランスを考えた「モグワン(¥3960)」とか「オリジン(¥6,480)」が与えられ、健康管理はバッチリ。立ち食い蕎麦が昼飯のサラリーマンは羨ましくなる。テレビ局の街頭インタヴューで、通りすがりの御婦人が「どうしてご主人と一緒に暮らしているんですか?」と質問された時、「人類愛かしら・・・?」と笑顔で答えていた。案外、こうした意見が現実なのかも・・・。

  中高年夫婦について述べると、つい思い出してしまうのだが、『女は男をどう変える』には印象的なエピソードが他にもあった。例えば、和之の息子である卓也が同級生と一緒に雑貨店に入った時、万引き容疑で補導されたことがある。その場には、伊原の娘であるリカもいたんだけど、卓也とリカは窃盗事件に無関係だった。警察から通報を受けた和之と伊原夫人の静代は、直ちに警察署へと駆けつける。署内で卓也と接する和之は、何も咎めず息子を連れて帰ろうとする。この態度に静代は唖然とした。普通の父親なら、「何してんだ、この馬鹿野郎 !」と殴るところだが、和之は冷静に対処し、反省する卓也を引き取ったのだ。和之には息子が事件に巻き込まれただけ、と分かっている。だから、くどくど言わずに卓也と一緒に帰宅したのだ。静代は息子に対する和之の信頼と親子の愛情に驚き、「三上社長、さすがだわぁ~。素晴らしい」と感動する。

  一方、静代は警官から「お嬢さんは既にご主人が引き取りました」と告げられ、「どうなったのか」と心配しながら帰宅する。静代が家に着いてリカを見つけると、そこには亭主の伊原がいて、厳しく娘を叱りつけていた。夫が娘を連れ帰ってから、延々と説教をしていたと分かった静代は、「あぁぁ、もう厭、ウチの人ったら・・・」と嘆く。三上社長はグチャグチャ言わず、黙って息子を引き取ったのに、自分の亭主は小姑みたいに娘を責め立て、ネチネチと説教三昧。男らしい三上社長と女々しい伊原専務を目にして、静代は夫の人選を間違ったと落胆する。静代(白川由美)の呆れ顔は今でも印象に残っている。やはり、二枚目は寡黙でなきゃ。

自分のスタイルを貫徹した名優

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(左 : 『乾いて候』で「腕下主水」役を演じた田村正和  / 右 : 「徳川吉宗」役の兄、田村高廣と共演する弟の正和 )

  とにかく、田村正和は売れっ子俳優だったから、彼の出演作は本当に多い。大半の国民はヒット作の『古畑任三郎』を思い出すが、筆者は「時代劇の方が似合っていたのかも」とつい思ってしまう。中村梅之助と共演した『若さま侍捕物帖』(昭和53年)は、ギャク漫画みたい時代劇なんだが、若々しくて俊敏な田村氏を観ることができるので結構楽しい。当時は何らかの「決めゼリフ」を以て、悪徳商人や悪代官を成敗するのが流行であったから、「若様」を演じる田村氏も、独楽(コマ)を投げつけて斬り殺す、という役柄であった。それでも、江戸っ子を演じる田村氏には魅力があり、短気でも人情味があり、正義漢に燃えるサムライ役は、田村氏にピッタリだ。育ちは京都でも、田村正和には江戸っ子の方が似合っている。

  田村氏が出演した時代劇で一番記憶に残っているのは、舞台にもなった『乾いて候』だろう。田村氏は「徳川吉宗(田村高廣)」に仕える「腕下主水(かいなげ・もんど)」を演じていた。その役目は将軍様の「お毒味役」で、料理の腕も超一流。ただし、将軍に仕える要職といっても、彼は吉宗が昔、ある女に産ませた隠し子。この主水は命懸けで将軍を守り、暗殺を目論む刺客や忍者とも闘うが、どこか暗い影を引き摺っていた。何と、彼はちょっとした毒でも嗅ぎ分けられるよう、小さい頃から色々な毒を飲まされて育っていたのだ。こうした痛ましい過去を背負ったお毒味役であっても、彼は天下無双の剣豪で、容姿端麗の一匹狼。子連れ狼の如く、冥府魔道を歩んでいるようだが、決して孤高の鷲ではない。天下一の色男には自然と女が寄ってくる。(小池一夫先生の原作だからしょうがない。) 主水は女に対して冷淡なのに、惚れた女は冷たくされても附いてくる。

  『乾いて候』は1983年に「スペシャル版」の時代劇として放送されたが、田村三兄弟が出演する時代劇ということもあって話題となり、単なる特番として終わらなかった。好評を博した『乾いて候』は1984年に再び「スペシャル版」が制作され、同じ年に連続ドラマとなった。この「腕下主水」は田村氏の“嵌まり役”になったようで、TVドラマが終わっても人気が衰えず、引き続き舞台でも演じられていた。チケットの売れ行きは好調で、劇場へ足を運んだ奥様たちは、刀を持って悪人を斬りつける正和様に大興奮。いくら演技力があっても、無骨な若山富三郎(兄)や勝新太郎(弟)じゃ無理だよねぇ~。やはり、演劇ファンの奥様たちは、ハンサムな俳優でなきゃ「お金」を払わない。新撰組でも、人気が高いのは近藤勇じゃなくて土方歳三や沖田総司の方だ。(そう言えば昔、草刈正雄が沖田総司を演じていた。)

Shino Hiroko 00021(左  / 篠ひろ子 )
  有名な阪東妻三郎の三男として生まれた田村正和であったが、その「阪妻」さんは9歳の時に他界したので、あまり多くの想い出は無かったようだ。しかし、父親の遺伝子は確実に受け継がれ、息子の正和は二枚目役者として不動の地位を築く。世間ではちょっとコミカルに描かれた『カミさんの悪口』が好評だけど、篠ひろ子さんと共演したドラマなら、個人的には『妻たちの危険な関係』(1986年)の方がいいと思っている。驚いたことに、演出を担当した人物の中に、「チャンネル桜」の水島総社長と同じ名前があった。日テレのドラマだから、たぶん水島社長だろう。『熱中時代』でも脚本を書いていたから、おそらく、田村氏のドラマでも制作に携わっていたのかも知れない。ちなみに、筆者がもう一つ覚えているのは、風見律子が唄っていた主題歌の『アヴァンチュリエ』である。これは如何にも80年代の音楽といった感じで、英国のフュージョン・バンド「シャカタク(Shakatak)」が作りそうな楽曲であった。

Tamura 8832 令和でも「大物俳優」というのがいると思うが、筆者は「昭和の化石」みたいな日本人なので、誰が人気役者なのか分からないし、たとえ分かっても興味が無い。田村正和のドラマには駄作もあったが、彼が出演するというだけで作品に注目が集まったし、その存在感は他に類を見なかった。かつて田村氏と共演した秋野暢子が述べていたけど、田村氏の瞳に見つめられると釘付けになったらしい。藝能人でも緊張するくらいだから、田村氏には他人を圧倒する本当の魅力があったのだろう。彼には断固としたポリシーがあったようで、芝居に対する情熱は人並み以上で、リハーサルの前には既に台本が全て頭に入っていたという。だから、田村氏は滅多にNGを出さなかった。完璧主義者の名優は、時流に合わせて髪型を変えることもせず、あの長髪をずっと保っていた。1970年代のスタイルを第21世紀まで続けていたのに、ちっとも「変」じゃなく、むしろ憧れファッションであったから、二枚目俳優というのは尋常じゃない。

  確かに、田村氏は凄かった。弟の田村亮が述べていたけど、兄の正和は職場や私生活でも、自分のスタイルを貫き通していたという。台本を読んでいる姿でさえ、映画のワン・シーンのようであったから、田村正和は紛れもなく本物のスターだ。もしかすると、彼は生涯を通して「田村正和」を演じていたのかも知れない。田村氏は40代の頃から「引き際」を考えていたようで、2018年の『眠狂四郎』で自分の限界を悟ったようだ。声に張りが無くなっていたから、正和ファンにもそれとなく判っていた。どんな名優にも終わりは来る。田村氏の訃報が報道された時、「巨星墜つ」と思った人は多かったんじゃないか。しかし、田村正和という俳優が亡くなっても、彼の作品は輝き続ける。永遠の二枚目スターを惜しむファンは多い。が、そのファンが望むのは、彼の作品を全て視聴できる時代だ。たぶん、令和の時代でも新たなファンが誕生するんじゃないか。
  

  

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