利益が薄い自動車販売

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(左 : 次世代のEVスーパーカーとなる「NIO-EP9」 / 左 : フェラーリのコンセプト・カー)

  昔、トヨタ自動車のTV広告に「FUN TO DRIVE, TOYOTA」というキャッチコピーがあった。おそらく、「トヨタのクルマを買って、ドライヴを楽しんでください!」というメッセージなんだろうが、現在、日本の購買者は「運転を楽しむ」というより、度重なる増税で「ゼイ、ゼイ」と喘息を患う状態となっている。というのも、自動車を購入した時だけでなく、走行・維持するだけでも、相当な金額を払っているからだ。以前なら新車を買えば「自動車取得税」を払うことになっていた。しかし、消費増税でそれが廃止(令和元年)になっても、今度は「環境性能割」という新たな税が導入され、一瞬だけ喜んだ庶民は「そんなぁぁ~」とガッカリして糠喜びに終わった。聞くところによれば、燃費性能に応じて0%~3%が課税されるそうだ。

  とにかく、クルマの購入時には“ちゃんと”10%の消費税が吸い取られるので、無力な一般人は泣けてくる。例えば、本体価格が300万の自動車を買ったら、ちゃっかり30万円の消費税が附いて、330万円も払う破目になるのだ。税金をむしり取られる「お客様」からすれば、「俺がいったい、何か悪い事をしたというのか? これって、贅沢への罰金じゃないか !」と言いたくなる。しかも、ディーラーは昵懇の信販会社とグルになっているから、お客に月賦支払いを勧めボロ儲け。何しろ、販売店のディーラーはカード会社からのバークマージンが懐に入るからニッコリ。結局、損をするのは購入者だ。サラリーマンだともっと悲惨で、自家用車を通勤に使っても、「必要経費」として認められないという。それゆえ「税控除」は無し。クルマなんてちょっと乗れば新車でも直ぐ値打ちが下がるのに、税制上は「資産」と見なされ、仕事で使う「経費」と認められないのだ。でも、実際はドンドン目減りする「消耗品」でしかない。なら、役所に訊きたいが、10年後に“どれほど”の「売却益」をもたらす「資産」となるのか?

  自宅にかかる固定資産税も同じ塩梅で、30年から40年くらい住んでしまうと、その「資産」とやらは、“市場価格”で「ゼロ円」、ないし解体費用がかかる「マイナス資産」となってしまう。それなのに、税務署員の“査定”では、「500万円です」とか「900万円の価値があります!」と言われてしまうのだ。つまり、税金を取るための「方便」だろう。また、一般国民は固定資産の金額が算定される「ポイント」についてもよく分かっていないのだ。家屋が木造か鉄筋コンクリート製かで税率が変わることくらいは知っているが、家の中にある「モノ」までが税金の対象になっているとは夢にも思わない。例えば、玄関の扉とか障子、風呂場や台所、冷暖房器具、フローリングの床などがポイント化され、家屋にかかる税金の基礎となっている。しかし、大学生でも父親に尋ねることはないから、世帯主がどんな仕組みで税金を払っているのか分からない。というより、こうしたカラクリに気づいていないのだ。

  話を戻す。自動車の走行や維持にも多額の費用がかかる。排気量にょって変化するが、自動車税も悩みの種だ。

                          2019年9月までに購入          2019年10月以降に購入

軽自動車                          1万800円                   1万800円
排気量 1000cc超から1500cc以下                      2万9500円                               2万5000円
              1500cc          2000cc                           3万9500円                                    3万6000円
              2000cc           2500cc                          4万5000円                                    4万3500円
              2500cc           3000cc                5万1000円                                     50,000円
              3000cc           3500cc                           5万8000円                                    5万7000円

  自動車税に加え、購入時からの経過年数によって変化する自動車重量税もある。さらに、年々上昇する燃料にもガソリン税や軽油税が課せられ、その上、消費税まで掛かってくるから二重課税となっている。もっと厭なのは、2年ごとにやってくる車検だ。日本各地を廻って年間10万kmないし30万km以上も走行する営業車と、日曜日にしか乗らない高齢者の骨董自動車が同等に扱われ、無理矢理にでも数万円がフッ飛んでしまうのだ。車種にもよるが、だいたい5万円から10万円くらいかかるんじゃないか。

  歐米諸国にも車検制度はあるが、その金額はかなり低い。例えば、フランスだと車検手数料は60ユーロ(約7千900円)で、ドイツだと83ユーロ(約1万1千円)、ブリテンでは54ポンド(約9千800円)、ベルギーでは40ユーロ(約5千280円)、アメリカだと州ごとに違うが、NYでは20ドルくらい。こうして比べてみれば、日本の車検料は異常に高いことが判る。自賠責保険も入っているから高くなるんだろうが、一般国民はソニー損保とかチューリッヒの自動車保険にも入っているから、あと数万円くらい余計に払っていると思う。細かい事になるが、よく車検の時に「発煙筒」の買い換えを勧められるが、4年ごとに有効期限が切れる発煙筒は本当に必要なのか? 確かに、線路でクルマが止まった時には必要だけど、発煙筒を一度も使わずに死んだ人は結構多い。

   ここでは関係ないけど、昔、筆者は運転免許書き換えの時、警察署で渡される「交通規則のパンフレット本」について文句を言ったことがある。窓口の女性に「毎回毎回、新しい教則本が必要なのか?」と詰問したら、彼女は返答に困っていた。筆者は印刷業者と警察の癒着を知っていたので、「全国のドライバー1人1人が、同じ教則本を精読しているのか? あなたの親戚の従兄弟や叔父叔母、友人はどうなんだ?」と県庁でも確かめたことがある。もし交通規則に変更があれば、1枚のコピー用紙を渡せばいいじゃないか。どうして、毎回毎回、1冊の本を渡すのか不思議である。

  とにかく、車検って1951年に出来た制度だから、当時の日本車と現在の日本車と一緒にするのは間違っている。だいたい、2、3年で故障するホンダ車とかトヨタ車なんてあるのか? 昔は、坂道を走っている時にエンストする自動車もあったというが、今そんなクルマを販売したら赤っ恥だ。令和の国産車で、冬になったらエンジンを温めるために、鍵を廻す時に「チョーク」を引くとか、パワー・ステアリングが無いからハンドルが重い、なんてクルマを販売したら満座の席で笑われるぞ !

  日本経済は凋落の一途を辿っているが、一時は隆盛を極めた自動車産業だって安泰ではない。いくらトヨタ自動車が好調とはいえ、電気自動車(EV)の登場となれば、低価格路線で強さを見せる支那企業が優勢となる。例えば、日本車にとって、48万円から50万円台で購入できる、上汽通用五菱の(ウーリン)の小型EV「宏光」とか、BTD(比亜迪)のSUV車である「ダイナスティー(王朝)」は、なかなか魅力的な商品で、日本の企業でさえ購入を検討てしまうほどだ。特に、利幅が薄い運送業界の中堅企業だと、支那製のミニヴァンとか軽トラックを大量に買って経費を抑えようと考えても不思議じゃない。実際、業界大手の佐川急便は、配送用の軽自動車7,200台をEV車に換えると発表し、広西汽車集団が小型のEV車を供給するみたいだ。確かに、電気モーター車は比較的簡単に作れるので、ガソリン・エンジン車の場合と違って、物凄い技術力を必要とする訳じゃないから、支那製でもOKとなる。

  国内外でトヨタやホンダが販売する自動車は多い。トヨタが発表した2021年3月の生産・販売・輸出実績の報告によると、2021年3月の国内販売は、前年同月と比べて6.4%増の19万1,000台、海外販売は57.8%増の79万1,000台となっている。これだけ聞くと「すごぉぉ~い !」と思ってしまうが、思慮深い人なら「1台当たりの販売利益はどれくらいなんだ?」と尋ねてくるだろう。なるほど、販売台数よりも、利幅の方が重要だ。確かに、外国で数百万台のクルマを輸出できたとしても、1台当たりの利益率が低ければ、「骨折り損のくたびれ儲け」となってしまうだろう。それもそうで、黒鉛を3kg売ったとしても、EX/D.E.F/FL(上等・無色・傷無し)のダイヤモンドを300カラット(60g)売る方が遙かに利益が高い。同じ元素で構成されるのに、結合が違っているだけで価値が全く違うんだから妙なものである。(ダイヤモンドの価値は4つの「C」で決まるという。つまり、透明性clarity, 色colour, 削りcut, 重量caratである。)

  GMやフォードといった大手企業を尻目に、スーパーカーを専門とするフェラーリ社は異なった戦略を取ってる。以前、フィアット社が発表したデータによると、2019年、フェラーリ社は1台の販売する毎に9万4千ドルを稼いでいたそうだ。("Ferrari earns as much as profit selling 1 car as Ford does selling 908", Hindustan Times, 29 April 2020.) もし、BMWが同じ利益を得ようとすれば、同社のクルマを30台売らねばならない。そして、ボルボ(Volvo)だと45台、 PSA(プジョー・シトロエン)なら65台、「メルセデス・ベンツ」で知られるダイムラー社だと67台、トヨタ自動車では44台といった具合だ。しかし、米国のフォード社はもっと大変で、908台も販売しなければならない。ホント、業界屈指のフェラーリ社は羨ましくなるほどの利益を上げている。

John Elkann 5(左  / ジョン・エルカン )
  ただし、フェラーリ社が稼ぐ収入のうち、30%は他の項目が占めている。例えば、「マセラッテ(Maseratti)」社に自社のエンジンを提供して5千800万ユーロを得ているし、様々なグループのスポンサーになったり、異分野での商売で1億2千800万ユーロを得ていた。("Ferrari averages more than $ 100,000 profit per car", Motor, 9 May 2019.) 時代の流れを見越してか、フェラーリ社もEV事業に本格参入するそうだ。CEO代行のジョン・エルカン(John Philip Jacob Elkann)氏によれば、2030年までにハイブリッド車ではなく、完全な電気自動車を生産するらしい。(Neil Winton, "Ferrari Profits Slipped In 2020, But Should Remain Strong As Electric Threat Looms", Forbes, February 3, 2021.)

  これは筆者の個人的な意見なんだけど、やはりフェラーリ社の「ラ・フェラーリ」とか「スパイダー」はガソリン・エンジンを搭載したマニュアル車でなきゃ。エンジンを廻したときの重低音はドキドキする。アクセルを吹かした時の昂奮は忘れられないし、カーブにさしかかった時のスリル感やギア・チェンジの醍醐味は堪らないじゃないか。オートマチック車に馴れた人には分かりづらいけど、マニュアル車にはマニュアル車にしかない独特の“味わい”がある。

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(左 :  ラ・フェラーリ  / 右 : フェラーリ・スパイダー  )

  ちなみに、フェラーリ社を統括するジョン・エルカンはフィアット社の会長も務め、有名な「アニェリ(Agnelli)ファミリー」の一員だ。彼はマルゲリータ・アニェリ(Margherita Agnelli)の息子で、祖父は「法律屋(L'Avvocato)」の渾名を持つジョヴァンニ・アニェリ(Giovanni Agnelli)ときている。爺ちゃんのジョヴァンニは、フィアット社の筆頭株主でもあったが、一般的にはイタリアのサッカー・チーム「ユヴェントス(Juventus)」のオーナーとして知られている。このジョヴァンニの父親はエドワルド2世(Edoard Agnelli)で、祖父は一族を有名にしたジョヴァンニ・アニェリ(Giovanni Agnelli)だ。アニェリ財閥の基礎を築いた大御所のジョヴァンニは、「フィアット(FIAT/ Fabbrica Italiana Automobili Torino)」社を創業した一人としても知られている。

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(左 :  娘のマルゲリータ・アニェリ  / 祖父のジョヴァンニ・アニェリ / 曾祖父のエドワルド・アニェリ2世  /  右 : 創業者のジョヴァンニ・アニェネリ )

  とまぁ、ジョン・エルカンはフェラーリ社を支配する華麗なる一族の出身だ。しかし、一般の日本人なら「どうして氏族名が“アニェリ”じゃないの?」と疑問に思ってしまうだろう。実は、この若社長、母親の血筋でフェラーリの支配者になっていたのだ。彼の母親マルゲリータはジョヴァンニの長女であるが、ジャーナリストで小説家のアラン・エルカン(Alain Elkann)と結婚したため、息子のジョンは父親の「エルカン」を名乗っている。母親の信仰を受け継ぎ、カトリック教会で洗礼を受けた「お坊ちゃま」であるが、その体にはユダヤ人の血が流れている。

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(左 :  父親のアラン・エルカン  / 中央 : 息子のジョン  / 右 : 母親のマルゲリータ・アニェリ  )

  父親のアランはニューヨークで生まれたアメリカ系ユダヤ人。その父親であるジャン・ポールはフランス系ユダヤ人で、母親のカーラがイタリア系ユダヤ人であるため、アランは世間の人々から「イタリア系アメリカ人」と呼ばれている。でも、その実態は、歐洲からやって来たユダヤ移民の息子でしかない。それにしても、ヨーロッパを代表する「フェラーリ社」と「フィアット社」の経営者がユダヤ人なんて、あまりにも酷い。西歐社会の上流階級には、ユダヤ人の遺伝子が大量に混ざっている。ヨーロッパ人のように見える老舗企業の御曹司や貴族の若旦那でも、父親か母親の血筋で「ユダヤ人」となっている場合が多い。

  ちなみに、アランにはラポ(Lapo Edovard Elkann)という息子もいるが、彼はスキャンダルを起こしたのでアニェリ家から叩き出されてる。また、マルゲリータの兄エドワルド・アニェリ3世(Edoardo Agnelli)も「困ったちゃん」で、カトリック信徒であったのに、イスラム教に改宗したというバカ息子。彼はプリンストン大学を卒業すると、前々から興味があった神秘主義に惹かれてインドへと赴く。その後、イランへ渡りスンニ派のイスラム教徒になったらしい。名前も「ハシャム・アジズ(Hasham Aziz)」に変えたというから、両親のみならずアニェリ一族の親戚もビックリ。この碌でなしは“まとも”な職業には就かず、一族のコネでサッカー・チームの役職に就いただけ。ところが、ヘロイン所持で捕まってしまうのだ。でも、有力者のお坊ちゃんだから、不可思議な力が働き、起訴は取り下げられたという。

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(左 : ラポ・エルカン   / 中央 : エドワルド・アニェリ  /  右 : イランのイスラム教徒と一緒のエドワルド )

  しかし、エドワルドが心を入れ替えることはなく、彼はイランで革命家のホメイニ師と出逢う。この偉人に感激したのかどうか知らないが、エドワルドはシーア派に鞍替えし、またもや名前を変えて、今度は「マフディー(Mahdi)」と名乗った。もう、銀座のホステスじゃあるまいし、寄り添う団体で名前を変えるなんて、彼の家族はどう思ったのか? 日本でもそうだけど、「問題児」というのはロクな最期を迎えることが出来ない。「マフディー」となったエドワルドは、2000年11月にイタリアのトリノへ赴き、橋から飛び降りて自殺する。享年46。自殺の理由は定かではない。しかし、80mも落下すれば、かなり痛いぞ。あの世で感想を訊きたい。


 後編へ続く。
  

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