菅政権の背後で動く政商

  利権と欲望が渦巻く政界には、色々な怪しい商人が潜り込んでいる。その中の一人が「大樹グループ」を率いる矢島義也(やじま・よしなり)だ。(本名は「義成」) このグループには、「大樹ホールディングス」や「大樹リスクマネージメント」、シンクタンクの「大樹リサーチ&コンサルティング株式会社(大樹総研)」などがあり、「戦略コンサルティング」とか「フェロー派遣サービス」、「政策の研究・提言」を業務にしているそうだ。でも、それは「表の顔」に過ぎない。

矢島義也(左  / 矢島義也 )
  矢島氏は政界と財界で蠢(うびめ)くブローカーのような側面を持っている。前の記事で紹介した「JCサービス」の中久保正巳代表と細野豪志議員を繋いだのも矢島氏だ。『週刊新潮』(2020年10月15日号)の記事で知られているように、「JCサービス」は矢島氏の影響下にある企業で、同社は委託業務費などの名目で、大樹総研に約5億円を支払っていた。永田町界隈の噂によれば、以前、東京地検特捜部がJCサービスに対し、本格的な捜査を始めたところ、突然、継続するはずの捜査が中止になったという。真相は闇の中だが、一説によれば、当時、官房長官を務めていた菅義偉が動いたんじゃないか、と囁かれている。

  なぜなら、矢島氏と菅総理は個人的に親しく、菅氏は大樹総研の忘年会にも顔を出したり、一緒に食事をするという間柄なのだ。共同通信の論説副委員長を務めていた柿崎明二(かきざき・めいじ)が、菅内閣で首相補佐官になったのも、矢島氏が絡んでいたという。彼は毎年「大樹会」を開催するが、その際、マスコミ陣の中心をなしていたのが柿崎氏であった。テレビのワイドショーでは、菅総理と柿崎氏が同じ「秋田出身」だから、と説明されていたが、実際は、矢島氏の助言があったからだろう。「SBIホールディングス」の北尾吉孝社長を菅総理に紹介したのも矢島氏だと言われている。本当の経緯は謎だが、「国際金融センター誘致計画」が持ち上がった時、その「受け皿都市」が検討されたことがある。ところが、候補地となる都市がどういう訳か東京ではなく、大阪と福岡になったのだ。これは偶然の一致なのかも知れないが、北尾氏は大阪と神戸に誘致する構想を掲げていた。そして、北尾氏は大阪の吉村洋文知事と対談し、吉村知事はその話に大賛成。なんか、“裏”がありそうな話である。

  矢島氏が率いる「大樹総研」には、前回の記事で紹介した「テクノシステム」の代表、生田尚之も頻繁に出入りしていたという。これは何も、矢島氏が太陽光発電に熱中していたから、という訳じゃなく、政財官の人々を招き入れる和風迎賓館、「大樹庵」を持っていたからだ。そこには、幹事長の二階俊博をはじめ、自民党の議員や細野豪志、長島昭久、野田佳彦など旧民主党の政治家も招かれていた。矢島氏が民主党系議員との人脈を築くことができたのは、羽田内閣で官房長官を務めた熊谷弘と浜町市長になった鈴木康友と親密な関係にあったからだ。市長になった鈴木氏は松下政経塾の一期生。同じ一期生には首相になった野田佳彦がいる。同期生ということで、二人は顔見知り。そこで、鈴木氏は友人の矢島氏を野田元首相に紹介したというわけ。矢島氏の人脈は更に広がり、民主党政権時代には、有力株だった細野豪志や安住淳に近づき、その一方で、野党に転落した自民党の菅義偉や二階俊博にも食指を伸ばしていた。

  政界に顔が利く矢島には、もう一つの「呼び水」があった。まるで「パソナ」の南部靖之(なんぶ・やすゆき)が創った「仁風林(にんぷうりん)」を髣髴させるが、矢島氏も有名俳優や人気アイドルを集めて“快楽”のパーティーを開いていたそうだ。この酒池肉林に、どのような政治家や財界人が招かれていたのか分からないが、何となく常連客がいそうな雰囲気である。自民党や民主党には女好きの変態議員が多いから、こっそりと通っている議員もいるんじゃないか? 矢島氏は接待が得意なようで、大樹総研を創設したのも、落選議員を救済するためだ。元民主党衆院議員の鈴木康友が落選した時、しっかりと「勉強」できるようシンクタンクを創ったというが、実際は浪人議員を養うためだろう。選挙に落ちた議員というのは本当に惨めだから、こういった辛い時期に「恩」を売っておくのは得策だ。権力者からすれば、羽振りの良いときに貰う「賄賂」より、落ちぶれたときに頂く「情け」の方が遙かに有り難い。

  マスコミは面白がって、矢島氏のことを「銀座のフィクサー」と呼んでいるが、驚くような権力は持っていないだろう。ただし、彼がある程度の有力者になったのは、各方面に人脈を広げたことにもあるが、著名人を近くに侍らし、「矢島ブランド」を確立した点が大きい。彼は大衆が家柄や肩書、あるいは学歴とか経歴に弱く、権威者の発言にひれ伏すと分かっている。学歴や家柄の点で劣等感を抱く者は、地位の高い者を盲目的に信用する癖があるものだ。矢島氏は平民の弱点を心得ているので、大樹総研に東大卒の元財務官僚や元国会議員などを呼び寄せた。日銀副総裁に就任した若田部昌澄も、かつては総研の客員研究員を務めていたという。また、矢島氏は德川宗家の当主である德川家広(とくがわ・いえひろ)にも目を附けており、德川氏は選挙に出る前、大樹総研の取締役であった。一般的に、彼は翻訳家として知られているが、德川記念財団の理事も務めている。ちなみに、「大樹」という名称は、ブランド好きの矢島氏が德川家の菩提樹である「大樹寺」にあやかって附けたそうだ。

  矢島氏の「ブランド好き」には、もう一つ、興味深いエピソードがある。それは「東京大学 大学院情報学環 SiSOC TOKYO 最高顧問」と印刷された名刺だ。以前、名古屋のベンチャー企業である「DDS」を経営する三吉野健滋社長が、東京大学に「サイバーセキュリティーの共同研究をしたいから、そちらへ3億円を提供したい」と申し込んだことがある。東大はこの提案に慎重であったが、サイバーセキュリティーを専門とする安田浩・東大名誉教授が仲介者になっていたので、東大の方も「安田先生の口添えでしたら」ということで審査を通してしまった。

  こうして2015年に「情報学環セキュア情報化社会研究」という寄付講座が創設される訳だが、どうも寄付金の源流は大樹総研にあったらしい。新設された講座では、「SISCO-TOKYO」というプロジェクトが推進され、東京電機大学や名古屋工業大学の教授が招かれていた。さらに、元財務官僚や日経新聞の編集委員を客員教授に迎えたというから実に用意周到だ。こうした「下拵え」をした上で、三吉野社長と安田教授は、本当の狙いを実現しようとする。二人は東大側に「矢島会長も客員教授に迎えてほしい」と打診したそうだ。しかし、東大側は困惑し、「研究実績が伴わないと、教授会で諒承が得られませんから」と述べて断ったらしい。それでも、大樹総研は諦めなかったようで、「東大情報学環と大樹総研で共同研究をまとめ、それを本にして出版したい」と提案してきた。ところが、大樹総研が示してきた論文のレベルが低すぎたので、出版に至ることはなかったそうだ。

矢島義也 名刺(左  / 矢島氏が作った名刺 )
  しかし、矢島氏は何としても立派な「肩書」が欲しい。そこで彼は勝手に例の名刺を作成し、周りに配り始めたというのだ。もちろん、寄付講座には「最高顧問」というポストは無い。これに気づいた東大は抗議したが、矢島氏は馬耳東風じゃないけど、サラリと流して知らん顔。こうしたトラブルもあってか、5年計画で始まった寄付講座は頓挫する。分割の寄付金が滞納されたこともあって、当初の計画は4年で打ち切りになってしまった。その後、DDSは株価操作の容疑を受けて、金融庁が調査に乗り出すことに。金融庁はDDSの財務調査を行い、架空取引や虚偽記載を見つけたので、DDSは3千330万円の課徴金を支払う破目になったという。

  週刊誌の記者は矢島氏を「政界のフィクサー」とか「永田町のタニマチ」と呼んで“大物扱い”するが、所詮は利権漁りの名人か、公共事業の旨味に付け込む「ニッチ産業」のブローカーといったところだろう。大抵の議員は馴染みの業者に“旨い汁”を吸わせて、恩返しの“キックバック”を期待したり、「1、2割くらいは還元しろよ!」と強要したりする。菅総理の場合は、自分の派閥を持たないから、色々な資金源が必要だ。彼が日本維新の会に太いパイプを持ち、自分の応援団にしているのは、自民党外の「菅派閥」にしたいからだろう。だいたい、菅義偉が総理になれたのは、米国に上洛し、ウォール街の旦那衆に謁見したからだ。たとえ、清和会や宏池会の連中がグチャグチャ言おうが、宗主国アメリカのパワー・エリートに認めてもらえば鬼に金棒で、安倍前総理や麻生副総理でも逆らえない。哀しいけど、これが日本の現実である。

  もっと情けないのは、『正論』や『WiLL』、『Hanada』といった“保守派”雑誌だ。こういったオピニオン雑誌は、支那や朝鮮に反論する定番特集を組、常連執筆者による野党批判を添えればOKだ。菅総理と矢島氏との癒着を詳しく調べて、生々しい記事を掲載するんなてことは無い。自民党を批判する時は、悪口を書いても安全な二階幹事長に焦点を当てればよく、危険な話題には触れないことになっている。原稿を依頼される知識人は、重要な政権批判をしているつもりでも、雑誌の出版社は会社の利益と雑誌の存続が目的なので、地雷を踏むような真似は絶対にしないものだ。

  雑誌の編集者は、読者が離れないように、一応「喜んでもらえる記事」を並べるが、スポンサーが離れてしまうような危ない記事は、たとえ読者に有益であってもNGとなる。花田編集長の『Hanada』は相変わらず、ちょっと保守的な月刊の週刊誌みたいだ。執筆者には『WiLL』と『Hanada』を掛け持ちしているような人物が多く、自民党をヨイショすれば読者が喜ぶと思っているのか、8月号ではまたもや櫻井良子を起用して、安倍晋三にインタビューさせていた。花田氏が喧嘩別れした『WiLL』は、相変わらず同じような特集を並べ、オリンピックと武漢ウイルスでお茶を濁している。それなら、リストラした深田萌絵を再び採用し、支那系帰化人を支援した足立康史を批判すればいいのに、それをしないのは日本維新に何らかの忖度があるんじゃないか?

  『正論』に至っては議論する気にもなれない。大島信三が編集長の頃までは「まとも」だったが、大島編集長が去ってからの凋落は著しく、田北真樹子が編集長になっても復活しないだろう。田北氏は真面目な産経社員なんだろうが、肝心の才能が無い。たぶん、産経新聞がウェッブ版に縮小するように、『正論』も人気を失い、やがては廃刊か、生き残ったとしても、ウェッブ版のミニコミ誌へ転落するだけだ。保守老人が徐々に鬼籍に入れば、『正論』も等しく衰退する。マンネリと無難な記事ばかりの雑誌なんてつまらない。お金を払う読者は、もっと刺戟的な記事を求めているが、雑誌社には地雷が埋まっている領域を突っ走るだけの勇気は無いよねぇ~。

   

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