イタリアで「極右」の政治家が誕生した !
冷戦を象徴するベルリンの壁が崩れ、1993年になると、ヨーロッパ諸国はマーストリヒト条約を以て結束した。アメリカ合衆国に対抗しようとしたのか、ドイツやフランスを始めとする西歐諸国は、ヨーロッパ合衆国を目指したのかも知れない。西歐の政治家はカロリング帝国を理念とし、「ヨーロッパ共同体(EU)」を築いたが、その新帝国には暗雲が立ち込め、各地に亀裂が入っているようだ。特に、フランスやイタリア、ハンガリーの民衆はブリュッセルの歐洲委員会(European Commission)に叛旗を翻し、自らの文化、すなわち昔ながらの生活、祖先から受け継ぐ伝統、自らの運命を自らで決める権利、民族と国境を守る自由などを求め始めたのである。この現象を簡単に言えば、EC委員長のウルスラ・フォン・デア・ライデンが嫌う「ナショナリズムの復活」ということだ。
(左 / ジョルジア・メローニ )
日本でも報道されたが、左翼勢力が強い、あのイタリアでも「右翼」政党が躍進したというから一大事。この現象は歐米の主流メディアにとって衝撃だ。何しろ、「全体主義勢力」の流れを汲むと評される「イタリアの同胞(Fratelli d'Italia / FdI)」が選挙で勝利を収めたんだから。党首のジョルジア・メローニ(Giorgia Melani)は、次期首相になる。これは左翼にとっての悪夢だ。あたかもサッカーの試合で、ダークホースのチームが優勝したような惨事である。でも、メローニ氏はローマやナポリに攻め込んだフランス王シャルル8世(Charles VIII <l'Affable>)じゃないんだから、そんなに焦ることはないだろう。イタリアで意外な「どんでん返し」が起こるは「いつも」のことだ。
イタリア人というのは矛盾の塊らしく、選挙で共産党に投票するオッちゃんでも、親子代々カトリック信徒で、教区の神父には敬意を示す。しかし、イエズス・キリストから浮気を禁じられても、道端で偶然、美女を見かけると「つい」本能が目覚めて声を掛けてしまう。イタリア人は表看板でキリスト教徒でも、心の底は異教徒のままなのかも知れない。聖書にも「求めなさい。そうすれば、与えられる。探しなさい。そうすれば見つかる」(ルカによる福音書11章9節)と記されているから、もしかするとイタリアの中年男性は、モニカ・ベルルーチ(Monica Bellucci)やアンナ・サフロンシく(Anna Safroncik)を求めれば、このような「恩寵」を神様から与えられる、と思っているのかも知れない。
( 左 : アンナ・サフロンシく / モニカ・ベルルーチ / タリア・シャイアー / 右 : ベット・ミドラー )
でも、現実は甘くなく、出逢える女性といったら、タリア・シャイアー(Talia Shire)とかライザ・ミネリ(Liza Minnelli)、あるいはユダヤ人のベット・ミドラー(Bette Midler)くらい。キリスト教の神学では、罪深い者は百熱の炎が燃えたぎる地獄へ堕ちることになっている。でも、「天国」がどんな「楽園」なのか判らない。美女のハーレムがあるとか、極上のウィスキーが飲める、といった具体的な説明が無いのだ。「永遠の命」を貰えても、カルヴァン派みたいに、ずっと禁欲で独身じゃ厭だよねぇ~。
脱線したので話を戻す。メローニ氏の躍進は左翼陣営にとって不愉快な出来事であった。歐米の大手メディア、特にニューヨーク・タイムズ紙やガーディアン紙に居坐るリベラル派のジャーナリストは、ナショナリズムを前面に出す保守派の政治家を嫌う傾向がとにかく強い。ドナルド・トランプが大統領になった時を思い出せば分かるじゃないか ! lリムジン・リベラルの連中は、庶民が望む事を代弁し、それを実行に移そうとするポヒュリストを憎む。
「庶民の味方」を豪語するTV局員でも、庶民が暮らす下町に住まず、黒人や南米人が寄りつかない高級住宅地に自宅を構える。人気キャスターになると、森の中に豪邸を築き、牧場を拵えて乗馬を楽しむ。バラク・オバマも同類で、引退後は黒人が近づかないワシントンD.C.の高級住宅地、「カロラマ(Kalorama)」に豪邸を建てていた。アマゾンの創設者ジェフ・ベゾス(Jeff Bezos)と隣人になるなんて、チンピラ黒人でも大統領になると違ってくる。(オバマ御殿は公表価格で800万ドルとされているが、実際はそれ以上だ。田中角栄の目白御殿なんか使用人の住宅である。)
(左 / 大統領選挙に出たヒラリー・クリントン )
「FdI」の快進撃で不思議というより偽善的なのは、主流メディアがイタリア初の女性首相を祝福しなかったことだ。普段、リベラル派のジャーナリストは「ガラスの天井」を非難する。彼らは女性の政界進出や女性議員の昇進、閣僚ポストへの登用を求めているくせに、いざ保守派議員が要職に就くと怒り出す。一方、ヒラリー・クリントンが上院議員となり、オバマ政権で国務長官になれば、CNNやABCに雇われた御用学者どもは大絶賛。日曜の政治番組になると、フェミニストのヒラリーは引っぱりダコ。そして大統領選挙に出馬すれば、NBCやCBSの左翼ゲストが応援団に早変わり。「やった ! 女性初の大統領になるぞ !」と大はしゃぎだ。
(左 : ジェニファー・ルービン / 中央 : マギー・ハバーマン / 右 : レイチェル・マドー)
こうなると、対抗馬になったトランプは女性の夢を邪魔するサタンである。例えば、ワシントン・ポスト紙のジェニファー・ルービン(Jennifer Rubin)やニューヨーク・タイムズ紙のマギー・ハバーマン(Maggie Lindsy Haberman)、MSNBCで冠番組を持つレイチェル・マドー(Rachel Maddoe)といった左派のユダヤ人は、不愉快なトランプを憎悪の的にしてボロクソに貶していた。それゆえ、ヒラリーが負けた時の失望は凄まじく、「米国を脱出する」と言い出す俳優まで現れた。たぶん、「アメリカ第一主義」というスローガンは、「666」と同じで「悪魔の刻印」なんだろう。
(左 / ジェイソン・ホロウィッツ )
選挙前、メローニ氏の勝利が現実味を帯びてくると、案の定、ニューヨーク・タイムズ紙が個人攻撃に乗り出してきた。ローマ支局で局長を務めるユダヤ人ジャーナリストのジェイソン・ホロウィッツ(Jason Horowitz)は、ジョルジア・メローニを蛇蠍の如く嫌っており、インクの絨毯爆撃を繰り返していた。親の仇じゃないのに、ホロウィッツは病的にメローニ氏を何度も「ファシスト」呼ばわり。例えば、彼は次のように述べていた。
強烈な右派党首であるジョルジア・メローニは、ポスト・ファシスト的ルーツを持つ。今月行われる選挙が終わったら、どうも次のイタリア首相になりそうだ。彼女は同性愛者を支援するロビーイストやヨーロッパの官僚、不法移民を糾弾する容赦ない演説、稲妻のように轟く音声、段々と強くなる口調で知られている。(Jason Horowitz, 'Hard-Right Candidate Poised to Lead Italy Tries to Soften Edges', New York Times, September 16, 2022.)
左派ユダヤ人のホロウィッツは、かなり全体主義者に恨みを持っているようだ。彼はメローニ氏を第二次世界大戦以降も続くイタリアのファシスト、LGBTQを批判する「右翼」と評していた。ホロウィッツは彼女の“危険性”に鈍感なイタリア人を覚醒したいのか、歐洲委員会の副総裁を務めるフランス・ティンマーマンス(Frans Timmermans)に“御意見”を伺っていた。事前に示し合わせた通り、この副総裁もメローニ氏に対して否定的で、「私は右翼が提唱する社会的および道徳的政策に恐怖を感じている」と答えていた。
「極右政治家」を憎むホロウィッツは、9月25日の記事でもメローニ氏を取り上げ、執拗に彼女を「ファシスト」呼ばわりし、「FdIはファシズムの政党なんだぞ !」というメッセージを読者に刷り込んでいた。歴史を勉強しないアメリカ人でも、ベニート・ムッソリーニ(Benito A.A. Mussolini)の名前くらいは知っているから、ホロウィッツは「ファシズムの発祥地」であるイタリアを強調し、メローニ氏をムッソリーニの系譜に連なる人物と仄めかしていたのだ。
しかし、自分だけの意見じゃ不充分と考えたのか、ホロウエィッツはブリストル大学で歴史学を教えるジョン・フット(John Foot)教授に助けを求めた。フット教授には『Blood and Power : The Rise and Fall of Italian Fascism』という著書があるくらいだから、イタリアの全体主義に関しては権威者である。この大学教授によれば、メローニ氏の政党はファシズムのルーツを持つが、イタリアの民衆はそれに慣れているそうだ。(Jason Horowitz, 'With Hard-Right Candidatein Italy, a Page May Be Turning in Europe', New York Times, September 25, 2022.)
(左 : ベニート・ムッソリーニ / 中央 : ジョン・フット / 右 : ウンベルト・エーコ )
もう一人、ホロウィッツが意見を求めたのは、『Ur Fascism(永遠のファシズム)』を書いたウンベルト・エーコ(Umberto Eco)である。彼の小説『薔薇の名前』は1986年に映画化され、名優ショーン・コネリーが出演したので、ある程度のヒット作となった。当時、上智大学の渡部昇一先生も映画に関する随筆を書いていたので、この映画を憶えている人も多いだろう。ちなみに、コネリーが演じたフランシスコ会修道士「バスカヴィルのウィリアム」は、明らかに中世の偉大なる神学者「ウィリアム・オッカム(Gulielmus Occamus)」がモデルとなっている。
イタリアではファシズムの歴史が批判され、人々の意識から除去されたように見受けられるが、それは抑圧されたからであり、決して完全に否定され、排斥された訳じゃない。エーコ氏によれば、「抑圧は神経症を誘発し、赦すということは忘れるとこではない」という。だから、何らかの切っ掛けでファシズムの亡霊が復活すらしい。
(左 / エンリコ・レッタ )
「極右」のメローニが如何に危険な人物であるかを示すために、ホロウィッツは政敵のリベラル派であるエンリコ・レッタ(Enrico Letta)にも質問をぶつけてみた。皆様ご存じの通りの、このレッタ氏は中道左派の「民衆党(Partito Democratico)」で党首を務め、イタリアの首相になった人物だ。彼はメローニ氏の正体を述べるに当たって憲法まで持ち出す。彼によると、「(イタリアの)憲法はレジスタンスと反ファシズムから生まれたものだ」で、メローニ氏に「その憲法を触れさせてはならない」そうだ。
三名の掩護射撃を得たホロウィッツは、トドメの一撃を刺すべく、メローニ氏を悪党の仲間にした。すなわち、彼女は「アメリカ・ファースト」を唱えるドナルド・トランプ、同性愛者を嫌悪するウラジミール・プーチン、移民を排斥するマリーヌ・ル・ペン、ジョージ・ソロスを敵視するヴィクトール・オルバンと同じ「国粋主義者(ナショナリスト)」と非難したのだ。なるほど、メローニ氏は極悪のナショナリストかも知れないが、ホロウィッツも紹介している通り、彼女は次のような「常識」を述べていた。
私はジョルジア。私は女性で、母親であり、イタリア人であり、キリスト教徒だ。
カタギの日本人ならホロウィッツの批判に呆れてしまうが、イタリアの政治家がこうした言葉を口にしたら「極右」になるのか? 例えば、メローニ氏はレズビアンのカップルが養子を取って育てることに反対だ。でも、普通の日本人だって反対だろう。レズビアン「夫婦?」に育てられた息子なんて「女が腐ったような男」でしかない。戦後教育に染まらなかったオバちゃん達は、「男らしい凜々(りり)しさ」が大好き。
( 左 : ドナルド・トランプ / ウラジミール・プーチン / マリーヌ・ル・ペン / 右 : ヴィクトール・オルバン )
昔、日活スターの石原裕次郎や小林旭、渡哲也、藤竜也を目にして、キャーキャー騒いでいた奥方達は、おすぎ&ピーコに憧れなかった。仮面ライダー役もオダギリジョー(クウガ)や要潤(アギト)ならいいけど、カルーセル麻紀じゃ子供と一緒に見ている母親だって厭だろう。(筆者は今の若手俳優をほとんど知らないので御免なさい。) 下町のオッちゃんはインテリが好む“デリカシー”に欠けるから、軟弱な少年を見ると「テメェー、男だろ ! どこにキンタマ附けてんだ !」と、つい怒鳴ってしまう。
岩波や朝日の進歩的文化人は、国境に囚われない「世界市民」や性別にこだわらないジェンダー学を好み、リベラリズムに理解を示さない庶民を「低学歴の下層民」と見下すが、一般の日本人は伝統的生活様式を護り、神仏を崇め、家族を大切にする。左翼学者は批判するけど、巷の庶民は息子が「男らしく」成長するよう望むし、娘は「女らしく」“おしとやか”になるよう躾けている。 また、「政教分離」なんて奇妙きてれつで、元旦に初詣をするのが「古代からの迷信」だとは思わない。留守中に知らない朝鮮人が自宅に入って昼寝をしていれば、即座に首根っこを摑んで叩き出す。不法侵入を「人権」と考えるのは、アホな大学教授くらいだ。
そもそも、「右翼」という罵倒語の定義が怪しい。『コリンズ英語辞典』によれば、「right wing」というのは保守的な意見、あるいは資本家の見解を有する個人や集団を指すらしい。そして「far-right wing」というのは、「ファシズムや抑圧的イデオロギーを含む、ナショナリスト的な見解で、もっと極端な思想」であるという。コロンビア大学で社会科学を教えるロバート・パクストン(Robert Paxton)教授によれば、「極右(far-right wing)」というのは、個人の権利や公民の自由、自由な活動、民衆政治を拒絶する反リベラリズムである、というのだ。
『The Scotsman』紙や『Edinburgh Evening News』紙で記事を書くトマス・マッケイ氏は、メローニ氏を「右翼」と断定せず、報道媒体によって様々だ、と述べている。(Thomas Mackay, 'What is Fascism? Italian election won by Giorgia Meloni, Italy's reportedly far-right leader who denies fascist claims', The Scotsman, 26 September 2022.) なるほど、「FdI」は中道右派と呼べるが、国家全体主義を目指すファシスト政党とか、ナチスの如き独裁政党じゃないだろう。
(左 : 国王のフェリペ6世 / 中央 : レオノール王女 / 右 : レティシア妃)
かつて、スペインのフランコ将軍は、歐米諸国のリベラル派や左巻きの大学教授から、「ファシスト」の独裁者と呼ばれたが、このナショナリスト指導者のお陰で、スペインは君主政に戻る事が出来たのだ。現在、スペインの庶民はほぼ王政支持者で、国王のフィリペ六世とレティシア妃に忠誠と敬意を示している。もし、ファランヘ党の反共政府、すなわちフランコ将軍の「独裁体制」が無く、共産党(PCE)や社会労働党(PSOE)の人民戦線が天下を取り、「人民共和制」となっていたらブルボン王朝の復活は無かったぞ。(フランコ将軍に関しては「過去記事」を参照。)
( 左 / フランシスコ・フランコ将軍)
部外者である歐米の左翼知識人は、勝手な理想で「人民政府」を望んでいたけど、スペインの庶民はカトリックの君主国を選んでいたのだ。これは日本にも当て嵌まることで、昭和時代、社会党に票を入れていた中高年の左翼国民は、現在「ダンマリ」を決め込んでいる。だいたい、民衆を弾圧する“ファシスト”の“ナショナリスト”政権が一般国民の幸せを考え、結果的に庶民から支持されるなんて、おかしいじゃないか ! フランコ将軍を貶していた知識人は責任を取ったのか? 平成時代、民主党の政権奪取を喜び、「素晴らしい日本」を期待していたジャーナリストは、匿名で提灯記事を書き連ねたが、無惨な結果を目にしても尻込みをした。しかし、彼らが筆を折ることはなく、「過去」を水に流して赤い褌を締め直しただけだ。訊くだけ野暮だが、令和の日本人は、あの鳩山由紀夫や菅直人の再登板を望んでいるのか? 朝日新聞や毎日新聞が凋落したのも当然だ。
後編へ続く。
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冷戦を象徴するベルリンの壁が崩れ、1993年になると、ヨーロッパ諸国はマーストリヒト条約を以て結束した。アメリカ合衆国に対抗しようとしたのか、ドイツやフランスを始めとする西歐諸国は、ヨーロッパ合衆国を目指したのかも知れない。西歐の政治家はカロリング帝国を理念とし、「ヨーロッパ共同体(EU)」を築いたが、その新帝国には暗雲が立ち込め、各地に亀裂が入っているようだ。特に、フランスやイタリア、ハンガリーの民衆はブリュッセルの歐洲委員会(European Commission)に叛旗を翻し、自らの文化、すなわち昔ながらの生活、祖先から受け継ぐ伝統、自らの運命を自らで決める権利、民族と国境を守る自由などを求め始めたのである。この現象を簡単に言えば、EC委員長のウルスラ・フォン・デア・ライデンが嫌う「ナショナリズムの復活」ということだ。
(左 / ジョルジア・メローニ )
日本でも報道されたが、左翼勢力が強い、あのイタリアでも「右翼」政党が躍進したというから一大事。この現象は歐米の主流メディアにとって衝撃だ。何しろ、「全体主義勢力」の流れを汲むと評される「イタリアの同胞(Fratelli d'Italia / FdI)」が選挙で勝利を収めたんだから。党首のジョルジア・メローニ(Giorgia Melani)は、次期首相になる。これは左翼にとっての悪夢だ。あたかもサッカーの試合で、ダークホースのチームが優勝したような惨事である。でも、メローニ氏はローマやナポリに攻め込んだフランス王シャルル8世(Charles VIII <l'Affable>)じゃないんだから、そんなに焦ることはないだろう。イタリアで意外な「どんでん返し」が起こるは「いつも」のことだ。
イタリア人というのは矛盾の塊らしく、選挙で共産党に投票するオッちゃんでも、親子代々カトリック信徒で、教区の神父には敬意を示す。しかし、イエズス・キリストから浮気を禁じられても、道端で偶然、美女を見かけると「つい」本能が目覚めて声を掛けてしまう。イタリア人は表看板でキリスト教徒でも、心の底は異教徒のままなのかも知れない。聖書にも「求めなさい。そうすれば、与えられる。探しなさい。そうすれば見つかる」(ルカによる福音書11章9節)と記されているから、もしかするとイタリアの中年男性は、モニカ・ベルルーチ(Monica Bellucci)やアンナ・サフロンシく(Anna Safroncik)を求めれば、このような「恩寵」を神様から与えられる、と思っているのかも知れない。
( 左 : アンナ・サフロンシく / モニカ・ベルルーチ / タリア・シャイアー / 右 : ベット・ミドラー )
でも、現実は甘くなく、出逢える女性といったら、タリア・シャイアー(Talia Shire)とかライザ・ミネリ(Liza Minnelli)、あるいはユダヤ人のベット・ミドラー(Bette Midler)くらい。キリスト教の神学では、罪深い者は百熱の炎が燃えたぎる地獄へ堕ちることになっている。でも、「天国」がどんな「楽園」なのか判らない。美女のハーレムがあるとか、極上のウィスキーが飲める、といった具体的な説明が無いのだ。「永遠の命」を貰えても、カルヴァン派みたいに、ずっと禁欲で独身じゃ厭だよねぇ~。
脱線したので話を戻す。メローニ氏の躍進は左翼陣営にとって不愉快な出来事であった。歐米の大手メディア、特にニューヨーク・タイムズ紙やガーディアン紙に居坐るリベラル派のジャーナリストは、ナショナリズムを前面に出す保守派の政治家を嫌う傾向がとにかく強い。ドナルド・トランプが大統領になった時を思い出せば分かるじゃないか ! lリムジン・リベラルの連中は、庶民が望む事を代弁し、それを実行に移そうとするポヒュリストを憎む。
「庶民の味方」を豪語するTV局員でも、庶民が暮らす下町に住まず、黒人や南米人が寄りつかない高級住宅地に自宅を構える。人気キャスターになると、森の中に豪邸を築き、牧場を拵えて乗馬を楽しむ。バラク・オバマも同類で、引退後は黒人が近づかないワシントンD.C.の高級住宅地、「カロラマ(Kalorama)」に豪邸を建てていた。アマゾンの創設者ジェフ・ベゾス(Jeff Bezos)と隣人になるなんて、チンピラ黒人でも大統領になると違ってくる。(オバマ御殿は公表価格で800万ドルとされているが、実際はそれ以上だ。田中角栄の目白御殿なんか使用人の住宅である。)
(左 / 大統領選挙に出たヒラリー・クリントン )
「FdI」の快進撃で不思議というより偽善的なのは、主流メディアがイタリア初の女性首相を祝福しなかったことだ。普段、リベラル派のジャーナリストは「ガラスの天井」を非難する。彼らは女性の政界進出や女性議員の昇進、閣僚ポストへの登用を求めているくせに、いざ保守派議員が要職に就くと怒り出す。一方、ヒラリー・クリントンが上院議員となり、オバマ政権で国務長官になれば、CNNやABCに雇われた御用学者どもは大絶賛。日曜の政治番組になると、フェミニストのヒラリーは引っぱりダコ。そして大統領選挙に出馬すれば、NBCやCBSの左翼ゲストが応援団に早変わり。「やった ! 女性初の大統領になるぞ !」と大はしゃぎだ。
(左 : ジェニファー・ルービン / 中央 : マギー・ハバーマン / 右 : レイチェル・マドー)
こうなると、対抗馬になったトランプは女性の夢を邪魔するサタンである。例えば、ワシントン・ポスト紙のジェニファー・ルービン(Jennifer Rubin)やニューヨーク・タイムズ紙のマギー・ハバーマン(Maggie Lindsy Haberman)、MSNBCで冠番組を持つレイチェル・マドー(Rachel Maddoe)といった左派のユダヤ人は、不愉快なトランプを憎悪の的にしてボロクソに貶していた。それゆえ、ヒラリーが負けた時の失望は凄まじく、「米国を脱出する」と言い出す俳優まで現れた。たぶん、「アメリカ第一主義」というスローガンは、「666」と同じで「悪魔の刻印」なんだろう。
(左 / ジェイソン・ホロウィッツ )
選挙前、メローニ氏の勝利が現実味を帯びてくると、案の定、ニューヨーク・タイムズ紙が個人攻撃に乗り出してきた。ローマ支局で局長を務めるユダヤ人ジャーナリストのジェイソン・ホロウィッツ(Jason Horowitz)は、ジョルジア・メローニを蛇蠍の如く嫌っており、インクの絨毯爆撃を繰り返していた。親の仇じゃないのに、ホロウィッツは病的にメローニ氏を何度も「ファシスト」呼ばわり。例えば、彼は次のように述べていた。
強烈な右派党首であるジョルジア・メローニは、ポスト・ファシスト的ルーツを持つ。今月行われる選挙が終わったら、どうも次のイタリア首相になりそうだ。彼女は同性愛者を支援するロビーイストやヨーロッパの官僚、不法移民を糾弾する容赦ない演説、稲妻のように轟く音声、段々と強くなる口調で知られている。(Jason Horowitz, 'Hard-Right Candidate Poised to Lead Italy Tries to Soften Edges', New York Times, September 16, 2022.)
左派ユダヤ人のホロウィッツは、かなり全体主義者に恨みを持っているようだ。彼はメローニ氏を第二次世界大戦以降も続くイタリアのファシスト、LGBTQを批判する「右翼」と評していた。ホロウィッツは彼女の“危険性”に鈍感なイタリア人を覚醒したいのか、歐洲委員会の副総裁を務めるフランス・ティンマーマンス(Frans Timmermans)に“御意見”を伺っていた。事前に示し合わせた通り、この副総裁もメローニ氏に対して否定的で、「私は右翼が提唱する社会的および道徳的政策に恐怖を感じている」と答えていた。
「極右政治家」を憎むホロウィッツは、9月25日の記事でもメローニ氏を取り上げ、執拗に彼女を「ファシスト」呼ばわりし、「FdIはファシズムの政党なんだぞ !」というメッセージを読者に刷り込んでいた。歴史を勉強しないアメリカ人でも、ベニート・ムッソリーニ(Benito A.A. Mussolini)の名前くらいは知っているから、ホロウィッツは「ファシズムの発祥地」であるイタリアを強調し、メローニ氏をムッソリーニの系譜に連なる人物と仄めかしていたのだ。
しかし、自分だけの意見じゃ不充分と考えたのか、ホロウエィッツはブリストル大学で歴史学を教えるジョン・フット(John Foot)教授に助けを求めた。フット教授には『Blood and Power : The Rise and Fall of Italian Fascism』という著書があるくらいだから、イタリアの全体主義に関しては権威者である。この大学教授によれば、メローニ氏の政党はファシズムのルーツを持つが、イタリアの民衆はそれに慣れているそうだ。(Jason Horowitz, 'With Hard-Right Candidatein Italy, a Page May Be Turning in Europe', New York Times, September 25, 2022.)
(左 : ベニート・ムッソリーニ / 中央 : ジョン・フット / 右 : ウンベルト・エーコ )
もう一人、ホロウィッツが意見を求めたのは、『Ur Fascism(永遠のファシズム)』を書いたウンベルト・エーコ(Umberto Eco)である。彼の小説『薔薇の名前』は1986年に映画化され、名優ショーン・コネリーが出演したので、ある程度のヒット作となった。当時、上智大学の渡部昇一先生も映画に関する随筆を書いていたので、この映画を憶えている人も多いだろう。ちなみに、コネリーが演じたフランシスコ会修道士「バスカヴィルのウィリアム」は、明らかに中世の偉大なる神学者「ウィリアム・オッカム(Gulielmus Occamus)」がモデルとなっている。
イタリアではファシズムの歴史が批判され、人々の意識から除去されたように見受けられるが、それは抑圧されたからであり、決して完全に否定され、排斥された訳じゃない。エーコ氏によれば、「抑圧は神経症を誘発し、赦すということは忘れるとこではない」という。だから、何らかの切っ掛けでファシズムの亡霊が復活すらしい。
(左 / エンリコ・レッタ )
「極右」のメローニが如何に危険な人物であるかを示すために、ホロウィッツは政敵のリベラル派であるエンリコ・レッタ(Enrico Letta)にも質問をぶつけてみた。皆様ご存じの通りの、このレッタ氏は中道左派の「民衆党(Partito Democratico)」で党首を務め、イタリアの首相になった人物だ。彼はメローニ氏の正体を述べるに当たって憲法まで持ち出す。彼によると、「(イタリアの)憲法はレジスタンスと反ファシズムから生まれたものだ」で、メローニ氏に「その憲法を触れさせてはならない」そうだ。
三名の掩護射撃を得たホロウィッツは、トドメの一撃を刺すべく、メローニ氏を悪党の仲間にした。すなわち、彼女は「アメリカ・ファースト」を唱えるドナルド・トランプ、同性愛者を嫌悪するウラジミール・プーチン、移民を排斥するマリーヌ・ル・ペン、ジョージ・ソロスを敵視するヴィクトール・オルバンと同じ「国粋主義者(ナショナリスト)」と非難したのだ。なるほど、メローニ氏は極悪のナショナリストかも知れないが、ホロウィッツも紹介している通り、彼女は次のような「常識」を述べていた。
私はジョルジア。私は女性で、母親であり、イタリア人であり、キリスト教徒だ。
カタギの日本人ならホロウィッツの批判に呆れてしまうが、イタリアの政治家がこうした言葉を口にしたら「極右」になるのか? 例えば、メローニ氏はレズビアンのカップルが養子を取って育てることに反対だ。でも、普通の日本人だって反対だろう。レズビアン「夫婦?」に育てられた息子なんて「女が腐ったような男」でしかない。戦後教育に染まらなかったオバちゃん達は、「男らしい凜々(りり)しさ」が大好き。
( 左 : ドナルド・トランプ / ウラジミール・プーチン / マリーヌ・ル・ペン / 右 : ヴィクトール・オルバン )
昔、日活スターの石原裕次郎や小林旭、渡哲也、藤竜也を目にして、キャーキャー騒いでいた奥方達は、おすぎ&ピーコに憧れなかった。仮面ライダー役もオダギリジョー(クウガ)や要潤(アギト)ならいいけど、カルーセル麻紀じゃ子供と一緒に見ている母親だって厭だろう。(筆者は今の若手俳優をほとんど知らないので御免なさい。) 下町のオッちゃんはインテリが好む“デリカシー”に欠けるから、軟弱な少年を見ると「テメェー、男だろ ! どこにキンタマ附けてんだ !」と、つい怒鳴ってしまう。
岩波や朝日の進歩的文化人は、国境に囚われない「世界市民」や性別にこだわらないジェンダー学を好み、リベラリズムに理解を示さない庶民を「低学歴の下層民」と見下すが、一般の日本人は伝統的生活様式を護り、神仏を崇め、家族を大切にする。左翼学者は批判するけど、巷の庶民は息子が「男らしく」成長するよう望むし、娘は「女らしく」“おしとやか”になるよう躾けている。 また、「政教分離」なんて奇妙きてれつで、元旦に初詣をするのが「古代からの迷信」だとは思わない。留守中に知らない朝鮮人が自宅に入って昼寝をしていれば、即座に首根っこを摑んで叩き出す。不法侵入を「人権」と考えるのは、アホな大学教授くらいだ。
そもそも、「右翼」という罵倒語の定義が怪しい。『コリンズ英語辞典』によれば、「right wing」というのは保守的な意見、あるいは資本家の見解を有する個人や集団を指すらしい。そして「far-right wing」というのは、「ファシズムや抑圧的イデオロギーを含む、ナショナリスト的な見解で、もっと極端な思想」であるという。コロンビア大学で社会科学を教えるロバート・パクストン(Robert Paxton)教授によれば、「極右(far-right wing)」というのは、個人の権利や公民の自由、自由な活動、民衆政治を拒絶する反リベラリズムである、というのだ。
『The Scotsman』紙や『Edinburgh Evening News』紙で記事を書くトマス・マッケイ氏は、メローニ氏を「右翼」と断定せず、報道媒体によって様々だ、と述べている。(Thomas Mackay, 'What is Fascism? Italian election won by Giorgia Meloni, Italy's reportedly far-right leader who denies fascist claims', The Scotsman, 26 September 2022.) なるほど、「FdI」は中道右派と呼べるが、国家全体主義を目指すファシスト政党とか、ナチスの如き独裁政党じゃないだろう。
(左 : 国王のフェリペ6世 / 中央 : レオノール王女 / 右 : レティシア妃)
かつて、スペインのフランコ将軍は、歐米諸国のリベラル派や左巻きの大学教授から、「ファシスト」の独裁者と呼ばれたが、このナショナリスト指導者のお陰で、スペインは君主政に戻る事が出来たのだ。現在、スペインの庶民はほぼ王政支持者で、国王のフィリペ六世とレティシア妃に忠誠と敬意を示している。もし、ファランヘ党の反共政府、すなわちフランコ将軍の「独裁体制」が無く、共産党(PCE)や社会労働党(PSOE)の人民戦線が天下を取り、「人民共和制」となっていたらブルボン王朝の復活は無かったぞ。(フランコ将軍に関しては「過去記事」を参照。)
( 左 / フランシスコ・フランコ将軍)
部外者である歐米の左翼知識人は、勝手な理想で「人民政府」を望んでいたけど、スペインの庶民はカトリックの君主国を選んでいたのだ。これは日本にも当て嵌まることで、昭和時代、社会党に票を入れていた中高年の左翼国民は、現在「ダンマリ」を決め込んでいる。だいたい、民衆を弾圧する“ファシスト”の“ナショナリスト”政権が一般国民の幸せを考え、結果的に庶民から支持されるなんて、おかしいじゃないか ! フランコ将軍を貶していた知識人は責任を取ったのか? 平成時代、民主党の政権奪取を喜び、「素晴らしい日本」を期待していたジャーナリストは、匿名で提灯記事を書き連ねたが、無惨な結果を目にしても尻込みをした。しかし、彼らが筆を折ることはなく、「過去」を水に流して赤い褌を締め直しただけだ。訊くだけ野暮だが、令和の日本人は、あの鳩山由紀夫や菅直人の再登板を望んでいるのか? 朝日新聞や毎日新聞が凋落したのも当然だ。
後編へ続く。
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