無敵の太陽

主要マスメディアでは解説されない政治問題・文化・社会現象などを論評する。固定観念では分からない問題を黒木頼景が明確に論ずる。

ロシア

哲人皇帝プーチン / 国益を重視する民族主義者

言論の自由を失ったアメリカ

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(左 : タッカー・カールソン  /  右 : ウラジミール・プーチン大統領)

  皮肉な事だが、冷戦に勝ったずのアメリカでは、報道や言論の自由が抑圧され、不気味な全体主義がはびこっている。かつて、ソ連には「プラウダ(真実)」という新聞があったけど、当時のロシア人(一般国民)は誰も「プラウダ」の報道が“真実”を伝えているとは思わなかった。西側のヨーロッパ人やアメリカ人は、言論封殺の独裁国家を嗤(わら)っていたけど、まさか自分たちの国が「ソ連化」になるとは夢にも思っていなかったはずだ。

  ミハイル・ゴルバチョフと交渉していたロナルド・レーガン大統領は、あるパーティーの席で次のようなジョークを披露していた。

  ロシア人を前にした或るアメリカ人が、自国の自由を自慢した。「私はホワイトハウスの執務室に怒鳴り込み、大統領の面前で机を叩き、“あなたの政策に私は反対だ”と言える自由があるんだぞ!」と喝破した。すると、話を聞いていたロシア人は驚かず、「私たちもできる」と言い返した。曰く、「私もクレムリンに乗り込み、書記長の前で“私はレーガン大統領の遣り方に反対だ!”」と。

  レーガン大統領のジョークを聞いた聴衆はみな大爆笑。2004年に亡くなったレーガン大統領が、現在の米国を目にしたら、一体どんな感想を述べるのか?

   2月8日、アメリカの保守派国民の間では、タッカー・カールソンのインタビュー映像が瞬時に話題騒然となった。FOX TVの元キャスターで、禁断の領域に踏み込んだカールソン氏は、失業者となったけど、ジャーナリストの魂までは失っていなかった。政府からの妨害工作にもめげず、彼はウラジミール・プーチン大統領に渡りをつけ、インタビュー交渉に成功した。カールソン氏は以前にもインタヴューを試みたが、この動きを傍受したNSA(国家安全保障局)の妨害を憂慮し、不本意ながらもインタビューを諦めたことがあるそうだ。もし、強硬に取材計画を進めていたら、カールソン氏は社会的に抹殺されていただろう。たぶん、何らかの人格攻撃を仕掛けられるか、個人的なスキャンダルを暴かれて、人生の終わりとなった可能性は高い。必要とあれば、政府の工作員は捏造記事をブレンドして攻撃を加えるから、民間人のカールソン氏は一巻の終わりだ。

  日本の地上波テレビはあまり取り上げなかったが、カールソン氏のインタビュー映像は、我々日本人にとっても非情に興味深い対談であった。(この動画はカールソン氏の独自サイト「Tucker Carlson Network」で視聴できる。ただし、英語通訳の対談となっているため、英語が苦手な日本人は、日本語字幕が附いたYouTube動画を観るといい。本来なら、NHKが翻訳を加えて全部を流すべきなんだけど、現在の日本では民間の有志が国民のために尽くしている。)

  インタビューで表明されたプーチンの見解や回答は、色々な解釈ができよう。しかし、大切なのは各国民が自分の目と耳で確かめ、自分自身の考えで判断することだ。日本のマスコミは論外だが、アメリカのCNNやABC、ブリテンのBBCとかフランスのAFPはバイデン政権の味方である。偏向報道が当たり前のメディアは、きっと「こんなのはプーチンによるロシア側の政治宣伝だ!」と盛んに批判するはずだ。でも、報道規制や言論封殺を繰り返してきた連中は、プーチンの発言を「嘘っぱち」と却下できるのか? タッカー・カールソンを貶す前に、自分たちの大衆操作を反省すべきだろう。

  予想通り、タッカー・カールソンはプーチンに対し、ウクライナ紛争に関する質問を投げかけていた。通訳を介して質問を聞いていたプーチンは、米国や日本の保守派国民が既に知っている見解を述べていた。例えば、英米側がミンスク合意を破り、NATOの東方拡大を強行したという内容だ。(軍事衝突の停止を決めた「ミンスク議定書Minsk Protocole」の件は日本でも報道されている。) この解釈はアンゲラ・メルケル前首相の発言を思い出せば、ある程度「もっともな反論」と頷くことができよう。メルケルはティナ・ヒルデブラントやジョヴァンニ・デ・ロレンツォによるインタビューを受けた時、次のように述べていた。

  2014年のミンスク協定(Minsker Abkommen)は、ウクライナに時間を与えるための試み(Versuch)だった。("Hatten Sie gedacht, ich komme mit Pferdeschwanz?" , Interview: Tina Hildebrandt und Giovanni di Lorenzo, Die Zeit, 7 Dezember 2022.)

  その後の展開を思い出せば判るけど、英米がミンスク合意を利用し、ウクライナを強くするために“時間稼ぎ”をしたことは確かだ。ヴィクトリア・ヌーランド達が仕組んだ「クーデタ」は、仲間内の会話が暴露され、今では日本人にも知られている。

  そもそも、当時の軍事バランスを考えれば、ウクライナ軍がロシア軍を撃退するなんて無茶な冒険だ。たとえ歐米諸国の支援があっても、ウクライナ側が苦戦するのは予想できたはずである。しかし、オルガルヒとバイデン政権にとっては、ウクライナ人は単なる“使い捨ての駒”でしかない。ウクライナ兵が何人死のうがお構いなしだ。仮に、ウクライナが勝たなくても、泥沼の長期戦に持ち込めば、ロシア側の国力を削ぐことになるし、新たな冷戦構造の構築にもなるから、軍産複合体にとったら“喜ばしい不幸”である。

歴史に残る偉大な指導者

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(左 :  1980年代のウラジミール・プーチン / 中央 : KGBを辞めて政界に入った頃のプーチン  / 右  : 妙に銃が似合うプーチン大統領 )

  カールソンが行ったインタビューで、最も印象的だったのは、プーチン大統領が“優秀な指導者”に見えたことだ。もちろん、プーチンは有能な諜報局員であったから、一般の視聴者に自分がどう映るのかは計算済みだ。たぶん、プーチンは対談の前にプロパガンダ職員と協議し、「どのような対応にしたら最も効果的か」を入念に検討したんじゃないか。ただ、頭脳明晰でプライドの高いプーチンだ。部下の言いなりで動くとは思えない。岸田文雄とは全く逆だ。もしかすると、自分の構想だけで本番に臨んだのかも知れない。バイデンゆ岸田と違って、プーチンは普段から、つまり若い頃から非情に勉強熱心だ。

  大統領報道官のドミトリー・ペスコフ(Dmitry Peskov)によると、プーチンは今でも常に本を読んでおり、その大半はロシアの歴史に関する書物であるという。彼はロシア史の偉人が記した回顧録を読んでいるそうだ。(Fiona Hill and Clifford G. Gaddy, Mr. Putin : Operative in the Kremlin, Washington, D.C. : Brookings Institution Press, 2013, p.64.)

  一方、ジョー・バイデンは学生時代から怠け者で、誇張と嘘の常習犯。まともに勉強していなかったから、政治家になってもボロが出ていた。

  例えば、大統領選挙に挑戦した1987年、バイデンは昔の“ズル”を認めて選挙戦から離脱したことがある。法科大学(ロー・スクール)に通っていた頃、バイデンは論文を書くにあたって、法学雑誌の文章を“拝借”したそうだ。ところが、担当教授がこの“剽窃”を見抜いてしまったから、さあ大変。アメリカの大学は“チョロまかし”に対して非常に厳しい。論文の不正行為が発覚したから、バイデンはかなり焦ったのだろう。往生際の悪いバイデンは、大学側に「退学処分にしないでください」と泣きついた。

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(左 : 大統領選挙候補から撤退したジョー・バイデン  /  右 : 痴呆症の大統領となったバイデン)

  しかし、「一度淫売、一生淫売(Once a whore, always whore.)」と言うように、卑怯者は何時まで経っても卑怯者のままである。報道陣を前にしたバイデンは、この「剽窃事件」を指摘されると「引用における誤りだった」と言い張り、「騙すつもりはなかった」と釈明していた。 (Joe Perticone,‘Joe Biden's first presidential run in 1988 cratered amid multiple instances of plagiarism’March 13, 2019) でも、バイデンは心の底から根性が卑しい。アイオワ州で開かれたイベントでも、ニール・キノック(Neil Kinnock / 英国労働党の議員)の演説を盗み取って、自分の演説にしていたのだ。後にアメリカの報道陣は、この“剽窃”を指摘する。盗作が発覚したたげても恥ずかしいのに、バイデンは学業成績の“水増し”までバレてしまったのだ。(Harrison Kass, 'Joe Biden Has Plagiarism Problems He Admitted', The National Interest, February 4, 2024.)アメリカには「生き恥を晒すくらいなら、潔く死を選べ」という格言が無いのかなぁ~? 

  歐米の主流メディアは、プーチンの受け答えを“狡猾な演技”と批判するが、これはアメリカの大衆操作と同じで、政治家なら誰でもすることだ。例えば、大統領選挙の公開討論に臨む候補者は、事前に心理学者や演出家、PR会社の専門家を雇い、選挙参謀や法律顧問と組んで何回もシュミレーションを行うことがある。しかし、何度リハーサルを重ねても“駄目な奴”はいるもので、その典型例がジョージ・W・ブッシュだ。2004年に行われたジョン・ケリーとの討論会を覚えている者なら解るはず。本番でドジる姿を見た側近は、「駄目だ、こりゃ!」と呟き、暗い表情で頭を抱えていたのかも。

  悪い時に悪い事は重なるもので、映像に映ったブッシュの背中には、奇妙な“膨らみ(bulge)”があった。これに気づいた一部のマスコミは、「何だ、これ?!」と騒ぎ立てた。テレビ局のスタッフも、「ブッシュは“何か”を背負っているんじゃないか?」と疑っていたから、親父のハーバート・ブッシュやジェイムズ・ベーカー、デック・チェイニーが「ダメージ・コントロール」を命じてもおかしくはない。選挙参謀のカール・ローブ(Karl Rove)も焦ったんじゃないか?

Robert Nelson 1( 左 / ロバート・M・ネルソン博士 )
  NASAの研究員であったロバート・M・ネルソン博士(Dr. Robert M. Nelson)は、ブッシュの背広の下には何らかの電子機器が隠されている、と疑っていた。(Kevin Berger,‘NASA photo analyst: Bush wore a device during debate', Salon, October 30, 2004.) おそらく、背中の突起物は通信機器で、外部の誰かが適切な答えを送信し、その音声をブッシュが聞いて質問に答える、という仕組みであったに違いない。要するに、ブッシュは腹話術の人形になっていた、という訳だ。討論会の後、ブッシュ大統領はマスコミからの“疑惑”を笑い飛ばしていたが、リベラル派のマスメディアは猜疑心でいっぱいだった。天文学や地質学を専攻するピッツバーグ大学のブルース・ハプケ教授は、マスコミからの取材を受け、“疑惑の膨らみ”に関する推測を述べていた。

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( 左 : 背中の「突起物」が目立つジョージ・W・ブッシュ大統領 /  右 : 推測された通信機器)

  話を戻す。カールソンから質問を受けたプーチンの受け答えは見事だった。このロシア大統領は用意周到で、ウクライナ侵攻の動機を話す前に、ロシアとウクライナの歴史を説明する。ただし、大卒でも一般のアメリカ国民は、基本的な東歐史はおろか、西歐史に関しても知識が乏しく、ロシア史に至ってはチンプンカンプンだから、どの程度アメリカ人が理解したのかは不明だ。何しろ、政治学の授業を取っている大学生だって、アレクサンドル・ソルジェニーツィン(Alexandr I. Solzhenitsyn)の『収容所群島』や、ロバート・コンクェスト(Robert Conquest)の『悲しみの収穫』を読んだことがある者は少ないし、ニコライ・ベルジャーエフ(Kikolai A. Berdyaev)の著作やセルゲイ・カラガノフ(Sergey A. Karaganov)の論文を知らない学生も結構多い。

George Clooney & puppy 222(左  / 仔犬を抱きかかえるアルマ夫人とジョージ・クルーニー )
  こんな塩梅だから、アメリカの一般国民は“特殊軍事作戦”の意味すら解らないし、“善悪二元論”でウクライナ紛争を判断して満足している。アメリカの一般国民は退屈な歴史講義よりも、スポーツ観戦や藝能スキャンダルの方に関心がある。俳優のジョージ・クルーニーが誕生日プレゼントとして、女房のアルマにセント・バーナードの仔犬を連れてきた、という記事の方に興味があるんだから。流血の戦場となったウクライナに大衆の関心は無い。

  プーチンは歴史的経緯を説明するため、キエフ公国やリューリック王朝(Rurikid dynasty)にまで遡ってロシア史を語っていたけど、対談を聴いていた一般人がどの程度理解したのかは判らない。しかし、ヨーロッパの歴史や文化に詳しい上層中流階級、そして軍事や地政学に一定の知識を有する教養人には、それなりのインパクトを与えたんじゃないか。というのも、“まとも”なアメリカ国民、特にウクライナ支援に懐疑的な軍人や保守派の国民、リアリスト学派の知識人がプーチンの話を聞けば、「まぁ、ロシア側にも一理あるよなぁ~」と思ってしまうからだ。そもそも、平穏な暮らしを望むアメリカ人は、他国への「軍事介入」を嫌うし、「代理戦争」はベトナムでコリゴリときている。でも、ユダヤ人の上院議員であるチャック・シューマーは別。このユダヤ人左翼は、連邦議会、とりわけ共和党がウクライナへの財政支援を否決するなら、アメリカ軍を派兵すべきだ、と呼びかけていた。(Andrew Rodriguez, 'Schumer Warns U.S. Troops Will Be Sent to Fight Russians if Border Bill Is Not Passed, ' State of the Union, February 8, 2024.)

  歐米や日本のマスコミはロシアの侵略行為を糾弾するが、そもそも北方の熊を挑発したのはバイデン政権の方じゃないか! 政治力学を学んだ者がNATOの東方拡大を聞けば、「それは危険なギャンブルだ」と直ぐに解る。アメリカにとり中南米が“裏庭”なら、ウクライナはロシアにとっての“脇腹”だ。その脇腹に核兵器という匕首(あいくち)が突きつけられれば、プーチンじゃなくても蹶起するだろう。

国家主義者のプーチンと痴呆症のバイデン

  プーチンのインタビュー映像を観ていると、ソフト全体主義に陥ったアメリカと伝統的帝国主義を受け継ぐロシアの“どちら”が“まし”なのか判らなくなる。認めたくない光景だけど、現在のアメリカ合衆国大統領は、四軍の「最高司令官」どころか、その資格さえ無いボケ老人だ。痴呆症が進むジョー・バイデンは、ビックリするような事実誤認を口にしていた。まぁ、息子(ボー・バイデン)の死さえ間違えてしまうくらいだから仕方ないけど、聴衆を前にしたバイデンは、生きている人間と死んだ人間をごちゃ混ぜにしていた。

  例えば、ニューヨークで行われた資金集めの席で、バイデンは2020年の大統領選挙について触れていただが、その際、彼はヘルムート・コール首相と一緒に歐州事情を話していた、と発言していたのだ。だが、バイデンが話したのはアンゲラ・メルケル首相で、2017年に亡くなったコール氏ではない。現世と来世の区別がつかないバイデンは、ネヴァダ州でも“幽霊”と会話を交わしていたそうだ。バイデンは記者を前にして、1月6日の議事堂事件をフランソワ・ミッテラン大統領に語ったと述べていたが、それはエマニュエル・マクロン大統領のことである。('Biden mistakes living European leader for dead one – for second time in a week', The Guardian, 8 February 2024.) おそらく、バイデンは頭の中の記憶が錯綜しているんだろう。周知の通り、ミッテラン大統領は1996年に亡くなっている。バイデンの“迷言”を聴いたアメリカ国民は、「またかぁ~」とウンザリしているんじゃないか。

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(左  : ヘルムート・コール /  アンゲラ・メルケル  /  フランソワ・ミッテラン  /  右 : エマニュエル・マクロン )

  一方、世界政治のキーパーソンと化したプーチンは、核大国の指導者らしく頭脳明晰だ。例えば、カールソンから経済問題を質問されると、プーチンは具体的な数字を挙げて貿易収支やエネルギー問題を語り出す。こうしたインタビュー映像を目にすれば、代理戦争に反対する軍人や国内経済を憂慮するビジネスマンは、何となく羨ましくなるし、保守派のアメリカ国民は“アメリカン・デモクラシー”に嫌気が差すだろう。言うまでもなく、米国は世界最強の軍隊を有する“超大国”なのに、それを統率する大統領が操り人形で、自分が何をやっているのか、何を喋っているのかも解らないボケ老人とくれば、高級将校じゃなくても涙が出てくる。

  「腐っても鯛」の米国で、未だにドナルド・トランプが人気を博しているのは、彼が「アメリカ・ファースト」、つまりアメリカ国民と合衆国の利益を優先し、偉大であった頃のアメリカを取り戻そうと呼びかけているからだ。プーチンも国家優先主義者で、ロシアの国益を追求する為政者である。プーチンは色々なイベントや会見でロシア固有の思想や民族性、そして歴史に根づくロシア正教といった信仰に言及している。彼が大切にするのは、愛国心や集団主義、結束、大国性(derzhavnost)、国家主義(gosudarstvennichestvo)といった価値観である。大統領に就任したプーチンは、次のように自身の国家理念を述べていた。
                                                     
    我々にとり、国家とその制度および構造は、祖国と国民の生活において常に極めて重要な役割を果たしてきた。ロシア人にとって、強力な国家というのは敵対すべき変種ではない。逆に、強力な国家は秩序を保障する源泉であり、あらゆる変革を起動させる主な原動力である。・・・社会は国家の指導力や統率力の恢復を求めているのだ。(上掲、Fiona Hill and Clifford G. Gaddy, Mr. Putin : Operative in the Kremlin, p.36.) 

  エリツィンの政権時代を経験したロシア人なら、政治的に混乱したロシアを立て直したプーチンの行政手腕を褒めるに違いない。何しろ、ソ連の崩壊を経たロシアは、ユダヤ人のオルガルヒが跳梁跋扈していた時代だ。ボリス・ベレゾフスキー(Boris Berezovsky)はテレビ局を買収し、ミハイル・ホドルコフスキー(Mikhail Khodorkovsky)は石油成金になっていた。ウラジミール・グシンスキー(Vladimir Gusinsky)やミハイル・フリードマン(Mikhail Friedman)、ウラジミール・ポタニン(Vladimir Potanin)、アレクサンドル・スモレンスキー(Alexander Smolensky)も“同じ穴の狢(むじな)”で、仲間とツルんでロシアの天然資源を強奪し、金融業界を牛耳っていた。

Boris BerezovskyVladimir Gusinsky 2Mikhail KhodorkovskyVladimir Potanin 1








(左 : ボリス・ベレゾフスキー / ウラジミール・グシンスキー  / ミハイル・ホドルコフスキー  /  右 : ウラジミール・ポタニン)

  こうした辛酸を嘗めていたから、ロシアの民衆がナショナリストのプーチンを称賛するのは当然だ。プーチンもロシアを強欲なユダヤ人から取り戻したという自負を持っている。プーチンが自分自身のことを国家の建設者(ゴスダルストヴェンニク/ gosudarstvennik)、すなわち国家の公僕と宣伝するのは、ちっともおかしくはない。ウォール街の大富豪とワシントンのネオコンに協力し、ロシアの資源をドンドン売り渡したボリス・エリツィンなんかは“国賊”だ。

  話を戻す。木偶の坊たるバイデンとロシアを憎むユダヤ人は、「ウクライナを侵掠したプーチンは赦せない! 政権転覆を目指せ!」と鼻息を荒くするが、一般のアメリカ国民にしたら、「南米からの侵入者を何とかしてくれ!」と言いたくなるだろう。南部だけじゃなく、ニューヨークやシカゴの国民も不満を漏らすくらいだから、アメリカの社会不安はかなり深刻だ。でも、バイデン政権は不法移民や偽装難民に苦しむ一般国民を無視。その一方で、勝ち目が全く無いウクライナには、600億ドルもの軍資金を与えようと必死なんだから、「お前はどこの大統領なんだ?!」と訊きたくなる。バイデンの言い草を聞いていると、穏健な国民だって激怒するぞ。自国を優先するプーチンと他国を優遇するバイデンとを比較すれば、普通のアメリカ人だって「何か変だ!」と感づく。

  カールソンのインタビューで面白かったのは、ノルドストリーム2の爆破に関する質問であった。カールソンの意図を察知したプーチンは、「あなた、判っているでしょ!」という反応で、二人とも笑みがこぼれていた。主流メディアしか観ていない人だと何を言っているのか解らないが、セイモア・ハーシュ(Seymour Hersh)の暴露記事を読んだ人なら、CIAや米国海軍、あるいはノルウェーかブリテンの諜報機関による破壊工作と判る。ドイツの政治家や知識人だって英米の極秘作戦に気づいているが、これを口に出せないのがドイツの悲劇だ。

  アメリカの闇を知っていても、カールソンは敢えてプーチンに答えを求め、なぜCIAの仕業と判っているのに、証拠を挙げて反論しなかったのか、もし証拠を提示すればプロパガンダ戦に勝つことができたのに、なぜあなたは使わないのか、と真面目に問い質していた。しかし、諜報機関の人間なら、一般的にこうした質問には答えない。下っ端の諜報員だって黙秘するのが鉄則だ。ましてや、KGB出身のプーチンなら絶対に情報源を口にしないだろう。公の席で“モグラ(潜入した手先)”の存在を明かすなんて、まず有り得ない。

  プーチンの受け答えは、本当に冴えていた。彼は不思議がるカールソンに向かって、その理由を説明する。プーチン曰く、たとえ証拠を提示しても、西側のメディアはアメリカの支配下にあるから、一般人を納得させるのは難しい、と。確かに、プーチンが仄めかす通り、歐米の主流メディアは金融業界や軍需産業の有力者、およびグローバリストのユダヤ人に牛耳られている。となれば、たとえロシアの報道機関が真相をリークしても、NBCやBBCといったマスメディアは、談合したかのように、息を合わせて「これはロシアの偽情報である!」と決めつけ、「プーチンの戦時プロパガンダ」に過ぎない、と斬り捨てる。

  2020年の大統領選挙だって、あれほどの不正行為が明らかになっても、大多数のアメリカ国民には伝わらず、八百長選挙の実態は闇に葬られていた。仕事や育児に忙しいアメリカ国民は、CNNのウォルフ・ブリッツァー(Wolf Blitzer)とか、MSNBCのレイチェル・マドー(Rachel Maddow)、PBSのジュディー・ウッドラフ(Judy Woodruff)、ABCのデイヴィッド・ミュアー (David Muir)といったキャスターの話を信じている。大手メディアのアンカーマンが、「根拠なき誹謗中傷」と却下し、「トランプ派による陰謀論」と断言するば、巷の大衆は「そうなんだぁ~」と鵜呑みにする。「大手信仰」というのは、日本だけの国民病じゃない。

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(左 :  ウォルフ・ブリッツァー /  レイチェル・マドー / デイヴィッド・ミュアー   /  右 : ジュディー・ウッドラフ )

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  カールソンが行ったインタビューは2時間を超える対談となってしまったが、インターネットで公開された映像は多くの視聴者を魅了していた。プーチン大統領に対する評価はともかく、この番組で印象的だったのは、大手メディアでは出来ないことを個人営業のカールソン氏がなしえたことだ。普通の日本人でも、「どうして、もっと早い段階(2022年か2023年)でプーチンへの取材を行わなかったのか?」と首を傾げてしまだろう。もし、全米放送のテレビ局が政府の“手先”でなく、“独立”したメディアであれば、NBCはレスター・ホルト(Lester Holt)を、CBSなら ノラ・オドンネル(Nora O'Donnell)をモスクワに派遣したはずだ。

  しかし、有名テレビ局の社長や重役は、「ブチャの虐殺」や「ケルチ大橋の爆発」が起こっても、クレムリンに特派員を差し向けず、一方的にロシアを非難するだけであった。本来なら、ニュース番組の名物キャスターを派遣し、直接、プーチン大統領や有力議員にコンタクトを試みるはずだ。たとえロシア側の「言い訳」でもいいから、反対意見の情報を紹介するのがジャーナリストの務めだろう。(日本のNHKや民放は、米国メディアの下請け企業だから最初から無理。)

  今回、クレムリンがカールソンの取材を承諾したのは、カールソンが“保守派のジャーナリスト”で、なるべく“公平性”を保とうと心掛ける人物であったからだろう。FOXをクビになって“独立系のジャーナリスト”になったカールソン氏は、テレビ局の上層部からの“圧力”を受ける立場ではない。YouTubeからは排除されたが、「X」で自由に発言できる身分になった。もし、彼が“忖度”を気にする「社員」のままであれば、冷静にプーチンの反論を聴くことはできなかったはずだ。

  “保守派メディア”と呼ばれるFOXでも、所詮、看板キャスターは「雇われ人」に過ぎない。プロデューサーや現場スタッフは、国務省の役人や社主のマードック家には逆らえないから、どうしてもプーチンを前にすれば“敵対的な態度”を取ることになる。保守派キャスターのショーン・ハニティー(Sean Hannity)やローラ・イングラム(Laura Ingraham)でも同じだ。上層部からの指令や禁止が言い渡され、不本意な質問しか口にすることはできない。おそらく、ハニティーやイングラムが特派員になっても、カールソンのようなインタビューにはならないし、不満を募らせるアメリカ人を満足させるような対談にもならないはずだ。

Sean HannityLaura Ingraham 111Rupert Murdoch 3234Victoria Nuland 1








( 左: ショーン・ハニティー / ローラ・イングラム  / FOX所有者のルパート・マードック  /  右 : 国務省のヴィクトリア・ヌーランド   )

  プーチン大統領に対するンイタビュー番組には、様々な賛否両論があると思うが、岸田文雄へのインタビューよりマシだろう。まともな日本国民は岸田総理に対し、何も期待しないし、何を喋るのかさえ関心がない。「あの人は何がしたくて総理になったの?」というのが、一般国民の意見だ。日本の命運を左右する岸田総理がすることといったら、ウクライナへの巨額贈与とワクチン接種の更なる推進、新たな増税の準備、移民の本格的な輸入であるから、意気銷沈の国民は開いた口が塞がらない。

  新聞やテレビは「次の総理大臣は誰になるのか?」を話題にするが、候補者の顔ぶれを見た一般人はウンザリする。ゾッとするけど、唯一ヤル気満々で意欲的なのは小池百合子だ。この女帝なら、躊躇なくモスクワに飛んでプーチンと会談するんじゃないか? 元“美人キャスター”を自称する小池百合子ならやりかねない。「単独インタビューなら私に任せて!」と言いそうだ。もし、側近の誰かが「電撃訪問」を提案すれば、「あら、名案ね!」と喜ぶかも。“目立つ”ことが選挙の秘訣だからねぇ~。


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プリゴジンの死亡と暗殺の真相

プリゴジンは本当に死んだのか?

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(左  : エフゲニー・プリゴジン /  右 : 墜落したプライベート・ジェット機)

   8月23日、ロシアの傭兵会社「ワグネル」を率いるエフゲニー・プリゴジン(Yevgeny Prigozhin)が、自家用ジェット機に搭乗し、モスクワからサンクト・ペテルブルクに向かう途中、機内で爆発が起こり、そのまま墜落・死亡したという。クジェンキノ村附近で大破した搭乗機、「エンブレアル・レガシー(Embraer Legacy)」の乗客名簿には、プリゴジン氏の名前があったそうで、ロシア連邦航空局は、「ワグネル」の共同創設者ドミトリー・ウトキン(Dmitry Utkin)氏に加え、セルゲイ・プロパスティン、エフゲニー・マカリャン、アレクサンドル・トトミン、ヴァレリー・チェカロフ、ニコライ・マツセイェフらも一緒に死亡したと発表した。('Wagner chief Yevgeny Prigozhin presumed dead after Russia plane crash’, BBC News, 24 August 2023.)
     
  このニュースは直ぐ日本にも伝えられ、当初は「地対空ミサイルによって撃墜された」との憶測も流れていた。しかし、墜落の模様を撮影した映像によれば、やはり機内に爆弾か何かが仕掛けられ、それが爆発した事によって墜落した、と考える方が自然である。これは明らかに謀殺で、誰かの策略と推測する方が普通だ。

  では、いったい「誰」が今回の「暗殺」を仕組んだのか? そして、暗殺の「目的」とは何だったのか? 歐米の主流メディアに盲従する日本のマスコミは、「プーチン大統領による殺人だ!」と判断した。しかし、本当にプーチン政権による暗殺だったのか? なるほど、プリゴジンはロシア国防省に不満をぶちまけ、6月23日にロシア南西部にあるロストフ・ナ・ドヌを占拠した。しかも、彼はロシア軍の幹部を罵倒し、ワグネルの部隊をロシアに向けて進軍させたから、“叛逆者”と呼ばれても当然だ。自体を深刻に受け止めたプーチン大統領は、直ちに異例の緊急演説を行い、「我が国の背後を刺す裏切り行為だ! 厳罰に処す!」と表明した。

  こうした経緯を思い出せば、一般国民は「プーチンに殺されたんだなぁ~」と思ってしまうだろう。なるほど、“叛逆”に遭ったプーチンが、プリゴジンを抹殺する動機は充分にある。しかし、本当にプーチンが出した暗殺命令による殺害だったのか? そして、実際にプリゴジン達は丸焦げになったのか?

  プリゴジンの「死亡」に関しては様々な“憶測”が飛び交っている。「墜落の一件は偽装工作で、プリゴジンは生きているんじゃないか?」と疑う者もいるし、「何らかの理由で姿を消す必要があったから、ジェット機の墜落を仕組んだのかも?」と考える人も出てきた。こうした推測を述べる人は、単なる素人だけじゃなく、国際政治やロシア専門家の中にも見出される。

  例えば、ロンドンの王立国際問題研究所、有名な「チャタム・ハウス(Chatham House)」で上級研究員を務めるキーア・ジャイルズ(Keir Giles)もプリゴジンの「死亡説」には懐疑的で、搭乗者の名簿にプリゴジンの名前が記されていたとはいえ、それが本人とは限らないと述べていた。というのも、プリゴジンはしばしば、所在地や移動先を曖昧にするため、わざと別人が彼の名を記載していたからだ。つまり、複数の人が彼の名前を騙り、移動経路を知られぬよう複雑にしていたそうだ。(Andrew Roth,‘Is Yevgeny Prigozhin really dead? Not everyone is convinced,’ The Guardian, 24 August 2023.)

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(左 : キーア・ジャイルズ  /  中央 : アンドレイ・ソルデトフ / 右 : アレクセイ・ヴェネディコトフ )

  ロシアの諜報組織に詳しいジャーナリストのアンドレイ・ソルデトフ(Andrei Soldatov)氏も、プリゴジンの死亡説には懐疑的で、生存の可能性を仄めかしている。実際、彼と同じく、「生存説」を信じている人も少なくない。なぜなら、2019年にプリゴジンの「死亡」が報じられたことがあるからだ。誤報によると、彼がAN-72輸送機に乗っていた時、搭乗機がコンゴ民主共和国で墜落したそうで、プリゴジンは「死亡した」と思われていた。「Echo of Moscow」というラジオ局を運営するアレクセイ・ヴェネディコトフ(Alexey Venedikotov)氏も、「プリゴジンは生きているんじゃないか?」と疑っている一人である。彼は墜落したジェット機と一緒に飛行していた二番機にプリゴジンが乗っていたのかも、と推測している。

プリゴジンとプーチンによる「猿芝居」?

  そもそも、プリゴジンとプーチンは“敵対関係”にあったのか? ロシアの政治に詳しい瀧澤一郎・元防衛大学教授は、六月の“反乱”を「抗議デモ」と分析している。当初、日本のマスコミは「反プーチンを掲げたワグネルによる内乱」と騒ぎ立てたが、二、三日すると真相が明らかとなり、報道のトーンが下がってしまった。頭目のプリゴジンは「デモであったが、内乱ではなかった」と述べていたから、瀧澤氏も「これが本音だろう」と判断している。(瀧澤一郎「プリゴジンの反乱は三方よしの猿芝居」、『月刊HANADA』10月号、p.105.)」

  また、瀧澤氏によると、プリゴジンの「抗議デモ」はプーチンの許容範囲で、国防省に対する「不満の表明」くらいであったという。もし、本気の「叛乱」あるいは「クーデタ」なら、首謀者のプリゴジンは、とっくに処刑されているはずで、瀧澤氏によれば、ベラルーシ大統領のルカシェンコへ“身柄預かり”程度では済まないそうだ。(上掲記事、p.106.) 瀧澤氏はプーチンとプリゴジンによる「内政混乱劇」という可能性も示している。つまり、プーチンはプリゴジンとの緊密な関係を隠蔽したかった、あるいは、政権の内紛を演出して敵側の油断を誘うつもりだった、というのだ。何しろ、プーチンはFSBやSVRといった諜報機関の出身である。謀略のプロなら、どんな「偽情報工作」だって思いつく。

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(左 : 「ワグナー」の首領を務めるプリゴジン  /  右 : 「反乱軍」となったワグネルの部隊)

  日本のテレビ局に出てくるロシア専門家とか大学教授は、呆れるほど単純で、プーチン大統領による「暗殺」しか考えない。ロシア社会は複雑怪奇で、政治を動かすオルガルヒや冷酷無残なロシアン・マフィアがいるし、国際政治で儲ける武器商人に加え、世界中で戦争を請け負う傭兵会社などが平然と跋扈している。瀆職や戦争で儲けるプリゴジンなら、色々な人から恨みを買っても不思議じゃないし、取引相手からの裏切りだってあるだろう。ヤクザと同じく、彼は常に暗殺の危機にさ晒されているし、それを自覚しているはずだ。プリゴジンを抹殺しようとする者は、何もプーチンだけじゃない。

  まぁ、情報弱者の一般人は、無料放送の地上波テレビしか観ないから、お花畑の解説を容易に信じる。小泉悠や慶應大学の廣瀬陽子、元東部方面総監の渡部悦和が偉そうに解説するコメントで満足するんだから、どの程度の“頭”なのかが判るだろう。テレビ局の制作者は裏で視聴者を小馬鹿にし、「一般人なんて中二程度さ!」と笑っていた。しかし、「皆様のNHK」と称するNHKはもっと悪質だった。池上彰がNHKにいた時、「週刊こどもニュース」を担当していたが、あれは小学生じゃなく、子供と一緒に番組を観ている母親がターゲットであった。NHKは民放よりも酷く、視聴者を“小学生扱い”にしていたのだ。

  一般的に我が国の庶民は、平和な暮らしで一生を終える。大半が常識的で善良だ。マトモな国民なら、極悪非道の世界には縁が無い。それゆえ、「謀略」とか「詐欺」には疎く、巧妙な暗殺となったらチンプンカンプン。一般国民は傭兵軍団を率いるプリゴジンについては、ほとんど知らないし、興味も無い。

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(左 : プーチン大統領に仕えるプリゴジン   /  右 : ジョージ・W・ブッシュ大統領を迎えたときのプーチン大統領とプリゴジン )

  このエフゲニー・プリゴジンは1961年生まれで、ユダヤ人の父親を持つ。だが、この実父はプリゴジンが10歳の時に他界し、エウゲニー少年はユダヤ人の養父に引き取られた。(‘Who are you, Yevgeny Prigozhin? Wagner Group's powerful Jewish leader,’ Ynet News , June24, 2023.)ところが、人相を見ても判る通り、エフゲニーは子供の頃から悪ガキだった。初犯は18歳の時で、盗みを犯して有罪となる。ただし、執行猶予附きの判決であったから、それほど厳しくはない。

  しかし、二年後、プリゴジンは詐欺と強盗の廉で再び有罪となり、今度は12年の刑を宣告されて塀の中へ。そして、九年後の1990年、彼はシャバに出る。塀の外に放り出されたプリゴジンはホット・ドッグ屋を始め、次第にレストラン・ビジネスに食指を伸ばす。この前科者はサンクト・ペテルブルクで高級レストランを開き、富裕層や有名人を顧客にした。ここにプーチンも含まれていた。プリゴジンはケータリング・ビジネスを通してクレムリンへ潜り込み、やがてプーチンの信頼を得るようになる。プーチン大統領ばかりではなく、外国の首脳に対しても料理を提供するようになったプリゴジンは、やがて「プーチンの料理人」と呼ばれるようになった。


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(左 /  ドミトリー・ウトキン)
  日本ではプリゴジンがワグネル・グループの総帥と評され、この民間軍事会社(PMC)を創設した人物と思われているが、実際は傘下に収めた会社への就任だった。「ワグネル」の発祥は明らかではないが、一応、2013年頃に出来た「スラブ軍団(Slavonic Corps)」というのが母体となっている。社名となった「ワグネル(Wagner)」は、ドミトリー・ウトキンが軍にいた頃のコード・ネームで、彼はナチスの信奉者であったから、リヒャルト・ワグナーに因んで附けたらしい。ちなみに、ナチス・ファンのウトキンは、体に「帝國の鷲」や「SS」の刺青を彫っていたそうだ。

  ウトキンは元々、諜報畑所属のロシア軍中佐で、特殊部隊「スペツナズ(Spetznaz)」のメンバーであった。プリゴジンにはスキー選手としての経歴は有るが、軍人の経歴は無い。したがって、「ワグネル」の隊員を集め、兵隊の訓練や指導を行うのはウトキンの役目で、プリゴジンは武器の調達や資金の運用を担当していた。おそらく、プリゴジンには軍隊を指揮する才能は無かったと思うが、政治的感覚は鋭く、利益となれば躊躇なく人を殺せる度胸と器量を持っていたので、パルチザン的部隊を必要とするプーチンにとっては便利な側近であったらしい。しかも、プリゴジンには忠誠心がある。表に出せない暗殺や軍事作戦といった非合法活動を任せるには、“うってつけの人物”であった。

  ロシアの公式見解では、プリゴジンやウトキンはプライベート・ジェットの墜落により「死亡」となっている。だが、DNA鑑定で確認されるまでは本当に死んだのかどうか判らない。黒焦げになった残骸からは、プリゴジンの携帯電話が発見されたというが、この遺品を以て本人の搭乗があったとは断言できず、“偽装工作”という可能性もある。また、この墜落事件はロシア国内で起こり、遺体の確認作業もロシア政府となるから、たとえDNA鑑定で“遺体の確認”がなされても、本当に「プリゴジンの遺体」なのかどうか、素直に信じることはできない。もし、この「墜落事件」が最初からプーチンとプリゴジンによる“演劇”であれば、本人確認の報告だって“捏造”ということも有り得る。

  たぶん、90%くらいの確率でプリゴジン達は死んでいるのだろう。だが、残りの10%で自由に考えたい。彼が何らかの目的で「地下へ潜伏した」ということも考えられるので、現在のところ、偽装工作という線も捨てきれない。アメリカのCIA やブリテンのMI6、フランスのDGSEに属する諜報員なら、事故死を装って永遠に姿をくらますことも理解できよう。自分の葬式を企画することで、安全な生活を確保することもある。プリゴジンのような“ワル”だとやりかねない。悪党というのは、いつも用心深く、常に暗殺を意識している。あの狡猾なプリゴジンが、素直に乗客リストへ自分の名前を記載し、身を預ける飛行機に乗り込むというのは、ちょっと想像できない。案外、CIAもロシア政府の発表を疑い、プリゴジンの生存を信じているのかも知れないぞ。


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