いよいよ、10月から免税事業者を潰す「インボイス制度」が導入されるそうだ。今まで、課税売上高が1千万円以下の個人事業者や法人は、消費税を納めなくてもいい小規模事業者となっていたが、税収増加を狙う財務省は、“お目こぼし”の恩恵を受けていた庶民に目を附けた。財務官僚曰く、「こいつらは“ずっと”消費税を“ネコババ”していた奴らだ! 不届き千万、けしからん! お前ら、覚悟しろよ! キッチリ、消費税を取ってやる!」と。
プライマリー・バランスの黒字化を大義名分とする高級官僚は、一般国民が困窮化してもお構いなし。ホント、米国のATMとなった日本からは、どんどんお金が流れてゆく。日本政府は、いったい何兆円をウクライナに献上するつもりなのか? アメリカ国民は軍事支援を継続するバイデン政権に激怒し、「俺達の生活を考えろ!」とわめいているが、属州民の日本人は言われたままの金額を差し出している。(まさか、復興支援の総額58兆円の半分を負担する、なんてことはないよねぇ~。)
インボイスの導入が契機となり、今頃になって消費税の“正体”が議論されているが、こんなことは導入前から判っていたことだ。高学歴の一般国民は大蔵官僚の言葉を鵜呑みにするが、日本の“常識”を備えた日本国民なら、消費税の“胡散臭さ”は見抜けたはずだ。これは後智慧じゃない。令和の高校生や大学生は「まさか、そんな!!」と疑ってしまうが、喫茶店や床屋、飲食店といった商売人なら判る。なぜなら、政治家や高級官僚は不都合な事情を隠すため、別の議論を持ち出してヤバい事を“はぐらかす”陽動作戦を用いるし、言葉を変えてイメージを良くしたりするからだ。
例えば、大東亜戦争の「敗北」を「終戦」と言い換えたり、「マッカーサー憲法(占領軍が押しつけた詫び状)」を「日本国憲法」と呼んで誤魔化したりする。安倍内閣は平成25年(2013年)に「主権回復の日(4月28日)」を提案し、公的な休日にはならなかったものの、保守派言論人は好意的に捉えていた。井尻千男や入江隆則、小堀桂一郎は2008年に『主権回復』(近代出版社)という本を出版し、日本の独立回復を祝う集会を開いていたが、本当に我が国が「独立主権国」なのかどうかは疑わしい。日本独自の方針で動かせる「国軍」がない上に、防諜組織すら持てない国が、本当の「独立国」なのか? 日本の自衛隊なんてコスタ・リカの警察防衛隊と同じだ。コスタ・リカは1948年に軍隊を廃止し、憲法に書き込んでいる。つまり、宗主国のアメリカに守ってもらう属州という訳だ。
普段の生活でも言葉の書き換えは珍しくない。平成時代、NHKや民放は「外国人参政権」を報道したが、日本の参政権を求めていたのは、主に在日朝鮮人であった。本来なら、「在日鮮人参政権」と呼ぶべきなのに、実態を隠したいマスコミは在日アメリカ人や在日フランス人、在日ドイツ人までもが参政権を求めているような煙幕を張っていた。国際経済の話題でも、役所や主流メディアは実態を誤魔化そうとする。例えば、1989年から1990年にかけて「日米構造協議」の話題が新聞を賑わせたが、英語で言うと「Structual Impediments Initiative」という名称だった。これは米国が“主導権”を取って、日本の邪魔(奇妙奇天烈)な構造”を解体し、米国にとって都合のいい仕組みに“改造”するということだ。マスコミは「協議」と呼んで本質を隠したが、実質的には米国の通商代表部(USTR)が、宇野宗佑や海部俊樹に要求を突きつける、というものだった。日本国民としては悔しいが、宗主国の代官(特使)には勝てない。
社会問題の話題でも同じで、マスコミは「刺青」という昔ながらの言葉を用いず、なぜか「タトゥー」と呼んでいる。筆者がTBSの職員に訊いたところ、「タトゥーだと、“ポップな感じ”がするから」という理由だった。以前、筆者がある銀行に赴いた時、女性の行員から「ローン・カード」の作成を勧められたが、「“借金カード”は必要ないので遠慮します」と答えたことがある。勧誘した行員は、筆者の返答に驚き、笑って誤魔化していた。おそらく、露骨な名称を口にして拒絶する客に会ったことがなかったんじゃないか? 確かに、普通の銀行員は客に向かって、「このカードを使って借金してください」とは言えないだろう。
旅客機の安い席を呼ぶときも、婉曲表現が用いられる。昔の列車のように、一等席とか三等席と呼べばいいのに、一等席を「ファースト・クラス」、二等席を「ビジネス・クラス」、三等席を「エコノミー・クラス」と呼んだりする。この三等席(coach class)というのは、駅馬車の名残で、これといったサービスの無い車輌というのは、荷物や郵便物と一緒に乗客を運ぶ貨車であるからだ。令和では何と呼ぶのか知らないけど、平成時代、マスコミは少女売春を「援助交際」と呼んでいた。渋谷とか新宿でオッさんを相手にする女子高生なら、遠慮なく「パンパン」とか「淫売」と呼べばいいのに、「援交」とかの略語を使うなんて奇妙だ。
(左 / 中曾根康弘) 話を戻す。最初に頭に入れておくべき点は、高級官僚というのは非常に狡猾で、論点を逸らしたり、言葉を変えて庶民を騙そうとする手口だ。中曾根康弘が総理大臣だった時、「大型間接税」の導入が議論されていた。中曾根内閣は「直間比率の是正」とか「所得税・法人税の減税」、「マル優廃止」などを掲げて「売上税」の導入を謀ったが、輿論の激しい抵抗に遭って断念するしかなかった。何しろ、製造業者や流通業者、全国各地に存在する小売業者に税負担が及ぶことになったから、日本小売協会や日本百貨店協会、日本チェーンストア協会などが騒ぎ出したのだ。
各業界の不満を受け取った親分どもは、経団連の土光敏夫会長にも陳情したから、中曾根総理も無理強いは出来ない。しかも、衆参同時選挙を控えていたから、自民党議員も売上税の導入には反対だ。結局、中曾根総理は売上税の導入を否定し、衆参ダブル選挙で大勝利を得た。やはり、「増税」を掲げた選挙なんて危険である。自民党の重鎮達も心配になったのか、売上税の廃止に賛成することにした。たぶん、藤尾正行・政調会長や「税調のドン」山中貞則も“マズイ”と思ったのかも知れない。業界団体は硬い“票田”となっているから、当選が危うい国会議員なら焦ってしまうだろう。ここが無党派層とか孤立有権者との違いである。たとえ、数が多くても砂粒のような“個人”は政治改革の原動力にはならない。それゆえ、自民党は結束できない庶民から搾り取ろうとする。
(左 / 松本零士)
中曾根内閣で大型間接税の導入に失敗した大蔵官僚は、「業界を敵に回したから悪かったのかなぁ~」と反省した。そこで今度は名称を「消費税」に変えて導入を謀った。名前は何であれ、大蔵省が目指したのは歐洲で実施された「附加価値税(VAT / Value Added Tax)」の模倣である。これは国民が何らかの“価値”を産みだしたら、そこから搾り取る税金だ。例えば、漫画家の松本零士(まつもと・れいじ)先生が、ペンや絵の具で「メーテル」のポスターを描いたとしよう。人気漫画家の直筆となれば、その価格は紙代や経費を上回って高値となる。もし、200円で買った画用紙が、オークションで2万円とか20万円になったら大儲けだ。本来なら、利益を得た松本先生が所得税を払えば済む話なのに、大蔵省(現:財務省)は附加価値税を取ったうえに、さらなる収奪として所得税を取ろうとする。
「売上税」から「消費税」に名称を変えた大蔵官僚は、小売業者を宥(なだ)めるため、「消費税は客が払う税金です」と説明していた。そして、抜け目なく「お客様から預かった税金をちゃんと納めてください!」と釘を刺していた。しかし、これはペテンだ。実際は原材料の製造業者から、各流通業者、および小売店に至るまで、各段階で課税される仕組みになっていた。(要するに、課税売上×税率−課税仕入×税率を納めるという訳。)でも、大企業から小規模会社、個人事業者までを網羅する“根こそぎの徴税”となれば、多数の自営業者から苦情が殺到する。だから、大蔵官僚は附加価値税の“お目こぼし”を画策していたのである。つまり、「年間課税売上高が3千万円以下の事業者は“免税業者”にしてやるから、ギャアギァア騒ぐんじゃねぇ!」と言い放ったのである。
しかし、2004年になると“ちょっとだけ”財務省の本音が現れたのか、「免税は1千万円以下の事業者」となってしまい、令和5年になるや、「今まで免税事業者になっていた奴らはけしからん! これからはテメー達らからも取るからな!」と凄むようになった。この方針転換により、零細業者は窮地に立たされた。インボイス(適格請求書)制度に登録しない者は、登録番号をもらえないから、取引先からの依頼が無くなるか、大幅な収入源となってしまうのだ。注文や仕事の依頼が激減するとなれば、自営業者は嫌々ながらでも「登録業者(適格請求書発行業者)」になるしかない。(ただし、インボイス制度への認知や理解が広まっていないから、未登録者は結構多いという。色々な情報筋から推測すると、法人で約200万件、個人事業主で約116万件らしい。
高橋洋一も賛成派
高橋洋一も賛成派
(左 / 高橋洋一)
元財務官僚で嘉悦大学の高橋洋一教授だって、インボイス制度に関しては危機感を抱いていなかった。去年、高橋氏は自信のYouTube番組でインボイス制度を取り上げていたが、なぜか“中小企業”だけに焦点を絞り、零細企業、とりわけ“個人事業者”の窮状について述べなかった。番組では一般人からの質問を受けて答えるという形式を取っている。いつもなら、財務官僚の悪巧みを暴く高橋教授なんだけど、インボイスの件に関しては論調を変え、「今まで払っていなかった人が払うようになるだけ」、という説明だった。曰く、「こういう質問をする人は、今まで免税事業者だったんじゃないの? ・・・消費税の金額だけ貰っておいて払わない人は結構いるよね。それは利益と勘違いしているんじゃないの?!」と。(「高橋洋一チャンネル」、第317回 『インボイス制度で中小企業が潰れる!』)
若い頃、税務署の署長を務めたことがある高橋教授は、税制に詳しくない視聴者に対してアドヴァイスを与えていた。彼は笑顔を浮かべて、「インボイス制度に関してよく解らない人は、税務署で訊いてみれば」と勧めていたけど、新たな増税で困っている庶民が、きっちりと税金をむしり取る税務署に行くのか? 夫婦で営業する大衆食堂や街の魚屋、赤字すれすれの青果店、燃料代の高騰に苦しむ配送業者、無名の声優、フリーランスの作家やイラストレーター、下っ端の演奏家、売れない漫画家、三流作品を手掛ける脚本家などは、所得の激減や経理業務の煩雑化で悲鳴を上げている。焦燥感を抱く個人業者は「このままでは身の破滅だ」と悟ったそうで、勇気のある者達が立ち上がり、インボイス制度の廃止を訴えているそうだ。(岡田有花「インボイスはデスゲーム」、税の押し付け合いが始まる 反対署名18万、“身バレ”問題も未解決」ITmedia、2023年02月14日)
高橋教授から見ると、こうした人々は本来払うべき消費税を懐に入れている“ネコババ業者”なんだろうが、どうして税務署や財務省は“泥棒業者”を放置してきたのか? 脱税に対して厳しい税務署が、明らかな泥棒を赦すなんておかしい。サン・フランシスコの警官じゃあるまいし、イワシの大群みたいに容易に捕まる脱税者を取り締まらないなんて不自然だ。おそらく、大蔵官僚は消費税が本質的に“附加価値税”であったから、「お前らはチンケな雑魚だから見逃してやる!」と思っていたのだろう。
ところが、岸田政権下の財務官僚は、更なる税収を求めた。つまり、鬼の形相を見せるお役人様達は、この“恩恵”をチャラにしようとした訳だ。高級官僚というのは悪徳代官のようなもので、消費税の導入前は「少子高齢化になっても社会保障を充実するため」とか、「安定した福祉財源を確保するためにも、消費税の導入は必要です」と嘯(うそぶ)いていた。令和になると、「消費税額と消費税率を正確に記載することができ、業務の簡素化が実現できます」と役所のメリットだけを強調し、塗炭の苦しみを味わう庶民の生活は無視。マスコミに登場する経済評論家も、財務省の手先になった方が「得」と考えたのか、「インボイス制度の導入は納税の不正防止になるます!」と煽るようになった。
そもそも、消費税の導入は法人税の減額とセットになっており、企業から得られる税収が減った分を一般人から“むしり取る”という仕組みになっている。法人税は徐々に40%から37.5%、34.5%から30%へと減っていったが、消費税は逆に増えていった。橋本内閣で5%に上昇し、安倍内閣では8%へと引き上げられ、さらに10%へと鰻登り。岸田総理がどうするのか判らないが、将来的には財務省が目論む13%か15%に引き上げられるだろう。まともな国民であれは、消費税が導入される前から、「大蔵官僚は北歐型の税制と福祉制度を目指しているから、やがて20%か28%にになるだろう」と予測できたはず。でも、こうした予測は少数派だった。
(上写真 / 高い税金と高度の福祉を容認するスウェーデン人 )
一般人でも北歐諸国の税制を見てみれば解る。例えば、スウェーデンの標準税率は25%で、ほとんどの商品に適用されている。ただし、軽減税率もあって、食料品や藝術家の作品は12%で、新聞・雑誌・書籍、飛行機や列車の運賃、映画やスポーツ観戦、コンサートのチケットなどは6%になっている。ただし、医薬品は0%。スウェーデンの税制では、社会保障税や賃金・労働税の比率が高いけど、法人税は7%くらい。たぶん、日本も法人税をもっと低くして、その減った分を社会保障税の増加で埋め合わせるつもりなのかも知れない。つまり、国民健康保険税や地方税を増やすか、新たな税金、例えば環境税とか通行税、自転車保有税、子供支援税とか、色々な理屈を述べて増税路線を強化することも可能だ。
衰退する日本経済については、もっと深い闇がある。大学やシンクタンクに雇われる経済学者は口にしないが、財務省や日銀の財政・金融政策には政治の要素が絡んでいる。この件に関しては別の機会で述べたい。
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