無敵の太陽

主要マスメディアでは解説されない政治問題・文化・社会現象などを論評する。固定観念では分からない問題を黒木頼景が明確に論ずる。

経済問題

インボイス制度の正体 / 阿漕な役人のマジック

財務省による増税が可能になる理由 

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  いよいよ、10月から免税事業者を潰す「インボイス制度」が導入されるそうだ。今まで、課税売上高が1千万円以下の個人事業者や法人は、消費税を納めなくてもいい小規模事業者となっていたが、税収増加を狙う財務省は、“お目こぼし”の恩恵を受けていた庶民に目を附けた。財務官僚曰く、「こいつらは“ずっと”消費税を“ネコババ”していた奴らだ! 不届き千万、けしからん! お前ら、覚悟しろよ! キッチリ、消費税を取ってやる!」と。

  プライマリー・バランスの黒字化を大義名分とする高級官僚は、一般国民が困窮化してもお構いなし。ホント、米国のATMとなった日本からは、どんどんお金が流れてゆく。日本政府は、いったい何兆円をウクライナに献上するつもりなのか? アメリカ国民は軍事支援を継続するバイデン政権に激怒し、「俺達の生活を考えろ!」とわめいているが、属州民の日本人は言われたままの金額を差し出している。(まさか、復興支援の総額58兆円の半分を負担する、なんてことはないよねぇ~。)

  インボイスの導入が契機となり、今頃になって消費税の“正体”が議論されているが、こんなことは導入前から判っていたことだ。高学歴の一般国民は大蔵官僚の言葉を鵜呑みにするが、日本の“常識”を備えた日本国民なら、消費税の“胡散臭さ”は見抜けたはずだ。これは後智慧じゃない。令和の高校生や大学生は「まさか、そんな!!」と疑ってしまうが、喫茶店や床屋、飲食店といった商売人なら判る。なぜなら、政治家や高級官僚は不都合な事情を隠すため、別の議論を持ち出してヤバい事を“はぐらかす”陽動作戦を用いるし、言葉を変えてイメージを良くしたりするからだ。

  例えば、大東亜戦争の「敗北」を「終戦」と言い換えたり、「マッカーサー憲法(占領軍が押しつけた詫び状)」を「日本国憲法」と呼んで誤魔化したりする。安倍内閣は平成25年(2013年)に「主権回復の日(4月28日)」を提案し、公的な休日にはならなかったものの、保守派言論人は好意的に捉えていた。井尻千男や入江隆則、小堀桂一郎は2008年に『主権回復』(近代出版社)という本を出版し、日本の独立回復を祝う集会を開いていたが、本当に我が国が「独立主権国」なのかどうかは疑わしい。日本独自の方針で動かせる「国軍」がない上に、防諜組織すら持てない国が、本当の「独立国」なのか? 日本の自衛隊なんてコスタ・リカの警察防衛隊と同じだ。コスタ・リカは1948年に軍隊を廃止し、憲法に書き込んでいる。つまり、宗主国のアメリカに守ってもらう属州という訳だ。

  普段の生活でも言葉の書き換えは珍しくない。平成時代、NHKや民放は「外国人参政権」を報道したが、日本の参政権を求めていたのは、主に在日朝鮮人であった。本来なら、「在日鮮人参政権」と呼ぶべきなのに、実態を隠したいマスコミは在日アメリカ人や在日フランス人、在日ドイツ人までもが参政権を求めているような煙幕を張っていた。国際経済の話題でも、役所や主流メディアは実態を誤魔化そうとする。例えば、1989年から1990年にかけて「日米構造協議」の話題が新聞を賑わせたが、英語で言うと「Structual Impediments Initiative」という名称だった。これは米国が“主導権”を取って、日本の邪魔(奇妙奇天烈)な構造”を解体し、米国にとって都合のいい仕組みに“改造”するということだ。マスコミは「協議」と呼んで本質を隠したが、実質的には米国の通商代表部(USTR)が、宇野宗佑や海部俊樹に要求を突きつける、というものだった。日本国民としては悔しいが、宗主国の代官(特使)には勝てない。

  社会問題の話題でも同じで、マスコミは「刺青」という昔ながらの言葉を用いず、なぜか「タトゥー」と呼んでいる。筆者がTBSの職員に訊いたところ、「タトゥーだと、“ポップな感じ”がするから」という理由だった。以前、筆者がある銀行に赴いた時、女性の行員から「ローン・カード」の作成を勧められたが、「“借金カード”は必要ないので遠慮します」と答えたことがある。勧誘した行員は、筆者の返答に驚き、笑って誤魔化していた。おそらく、露骨な名称を口にして拒絶する客に会ったことがなかったんじゃないか? 確かに、普通の銀行員は客に向かって、「このカードを使って借金してください」とは言えないだろう。

  旅客機の安い席を呼ぶときも、婉曲表現が用いられる。昔の列車のように、一等席とか三等席と呼べばいいのに、一等席を「ファースト・クラス」、二等席を「ビジネス・クラス」、三等席を「エコノミー・クラス」と呼んだりする。この三等席(coach class)というのは、駅馬車の名残で、これといったサービスの無い車輌というのは、荷物や郵便物と一緒に乗客を運ぶ貨車であるからだ。令和では何と呼ぶのか知らないけど、平成時代、マスコミは少女売春を「援助交際」と呼んでいた。渋谷とか新宿でオッさんを相手にする女子高生なら、遠慮なく「パンパン」とか「淫売」と呼べばいいのに、「援交」とかの略語を使うなんて奇妙だ。


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(左  /  中曾根康弘)
  話を戻す。最初に頭に入れておくべき点は、高級官僚というのは非常に狡猾で、論点を逸らしたり、言葉を変えて庶民を騙そうとする手口だ。中曾根康弘が総理大臣だった時、「大型間接税」の導入が議論されていた。中曾根内閣は「直間比率の是正」とか「所得税・法人税の減税」、「マル優廃止」などを掲げて「売上税」の導入を謀ったが、輿論の激しい抵抗に遭って断念するしかなかった。何しろ、製造業者や流通業者、全国各地に存在する小売業者に税負担が及ぶことになったから、日本小売協会や日本百貨店協会、日本チェーンストア協会などが騒ぎ出したのだ。

  各業界の不満を受け取った親分どもは、経団連の土光敏夫会長にも陳情したから、中曾根総理も無理強いは出来ない。しかも、衆参同時選挙を控えていたから、自民党議員も売上税の導入には反対だ。結局、中曾根総理は売上税の導入を否定し、衆参ダブル選挙で大勝利を得た。やはり、「増税」を掲げた選挙なんて危険である。自民党の重鎮達も心配になったのか、売上税の廃止に賛成することにした。たぶん、藤尾正行・政調会長や「税調のドン」山中貞則も“マズイ”と思ったのかも知れない。業界団体は硬い“票田”となっているから、当選が危うい国会議員なら焦ってしまうだろう。ここが無党派層とか孤立有権者との違いである。たとえ、数が多くても砂粒のような“個人”は政治改革の原動力にはならない。それゆえ、自民党は結束できない庶民から搾り取ろうとする。

Matsumoto 1(左  /  松本零士)
  中曾根内閣で大型間接税の導入に失敗した大蔵官僚は、「業界を敵に回したから悪かったのかなぁ~」と反省した。そこで今度は名称を「消費税」に変えて導入を謀った。名前は何であれ、大蔵省が目指したのは歐洲で実施された「附加価値税(VAT / Value Added Tax)」の模倣である。これは国民が何らかの“価値”を産みだしたら、そこから搾り取る税金だ。例えば、漫画家の松本零士(まつもと・れいじ)先生が、ペンや絵の具で「メーテル」のポスターを描いたとしよう。人気漫画家の直筆となれば、その価格は紙代や経費を上回って高値となる。もし、200円で買った画用紙が、オークションで2万円とか20万円になったら大儲けだ。本来なら、利益を得た松本先生が所得税を払えば済む話なのに、大蔵省(現:財務省)は附加価値税を取ったうえに、さらなる収奪として所得税を取ろうとする。

 「売上税」から「消費税」に名称を変えた大蔵官僚は、小売業者を宥(なだ)めるため、「消費税は客が払う税金です」と説明していた。そして、抜け目なく「お客様から預かった税金をちゃんと納めてください!」と釘を刺していた。しかし、これはペテンだ。実際は原材料の製造業者から、各流通業者、および小売店に至るまで、各段階で課税される仕組みになっていた。(要するに、課税売上×税率−課税仕入×税率を納めるという訳。)でも、大企業から小規模会社、個人事業者までを網羅する“根こそぎの徴税”となれば、多数の自営業者から苦情が殺到する。だから、大蔵官僚は附加価値税の“お目こぼし”を画策していたのである。つまり、「年間課税売上高が3千万円以下の事業者は“免税業者”にしてやるから、ギャアギァア騒ぐんじゃねぇ!」と言い放ったのである。

  しかし、2004年になると“ちょっとだけ”財務省の本音が現れたのか、「免税は1千万円以下の事業者」となってしまい、令和5年になるや、「今まで免税事業者になっていた奴らはけしからん! これからはテメー達らからも取るからな!」と凄むようになった。この方針転換により、零細業者は窮地に立たされた。インボイス(適格請求書)制度に登録しない者は、登録番号をもらえないから、取引先からの依頼が無くなるか、大幅な収入源となってしまうのだ。注文や仕事の依頼が激減するとなれば、自営業者は嫌々ながらでも「登録業者(適格請求書発行業者)」になるしかない。(ただし、インボイス制度への認知や理解が広まっていないから、未登録者は結構多いという。色々な情報筋から推測すると、法人で約200万件、個人事業主で約116万件らしい。

高橋洋一も賛成派

  新聞やテレビは藝能ニュースなら朝から夜まで報道するが、一般国民にとって重要な政策になると急に静かになる。当然ながら、テレビ局に招聘される御用学者や経済評論家もプロデューサーに従い、財務省のお役人様に逆らうような解説はせず、財務省のパペットを演じたりする。憐れなのは、テレビや新聞だけを頼みとする庶民と個人事業者で、慶應や早稲田で飯を食う偉そうな大学教授が喋ると「うわぁぁ~、登録しないと大変だ!」と騒ぎ出す。


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(左  /  高橋洋一)
  元財務官僚で嘉悦大学の高橋洋一教授だって、インボイス制度に関しては危機感を抱いていなかった。去年、高橋氏は自信のYouTube番組でインボイス制度を取り上げていたが、なぜか“中小企業”だけに焦点を絞り、零細企業、とりわけ“個人事業者”の窮状について述べなかった。番組では一般人からの質問を受けて答えるという形式を取っている。いつもなら、財務官僚の悪巧みを暴く高橋教授なんだけど、インボイスの件に関しては論調を変え、「今まで払っていなかった人が払うようになるだけ」、という説明だった。曰く、「こういう質問をする人は、今まで免税事業者だったんじゃないの? ・・・消費税の金額だけ貰っておいて払わない人は結構いるよね。それは利益と勘違いしているんじゃないの?!」と。(「高橋洋一チャンネル」、第317回 『インボイス制度で中小企業が潰れる!』)

  若い頃、税務署の署長を務めたことがある高橋教授は、税制に詳しくない視聴者に対してアドヴァイスを与えていた。彼は笑顔を浮かべて、「インボイス制度に関してよく解らない人は、税務署で訊いてみれば」と勧めていたけど、新たな増税で困っている庶民が、きっちりと税金をむしり取る税務署に行くのか? 夫婦で営業する大衆食堂や街の魚屋、赤字すれすれの青果店、燃料代の高騰に苦しむ配送業者、無名の声優、フリーランスの作家やイラストレーター、下っ端の演奏家、売れない漫画家、三流作品を手掛ける脚本家などは、所得の激減や経理業務の煩雑化で悲鳴を上げている。焦燥感を抱く個人業者は「このままでは身の破滅だ」と悟ったそうで、勇気のある者達が立ち上がり、インボイス制度の廃止を訴えているそうだ。(岡田有花「インボイスはデスゲーム」、税の押し付け合いが始まる 反対署名18万、“身バレ”問題も未解決」ITmedia、2023年02月14日)

  高橋教授から見ると、こうした人々は本来払うべき消費税を懐に入れている“ネコババ業者”なんだろうが、どうして税務署や財務省は“泥棒業者”を放置してきたのか? 脱税に対して厳しい税務署が、明らかな泥棒を赦すなんておかしい。サン・フランシスコの警官じゃあるまいし、イワシの大群みたいに容易に捕まる脱税者を取り締まらないなんて不自然だ。おそらく、大蔵官僚は消費税が本質的に“附加価値税”であったから、「お前らはチンケな雑魚だから見逃してやる!」と思っていたのだろう。

  ところが、岸田政権下の財務官僚は、更なる税収を求めた。つまり、鬼の形相を見せるお役人様達は、この“恩恵”をチャラにしようとした訳だ。高級官僚というのは悪徳代官のようなもので、消費税の導入前は「少子高齢化になっても社会保障を充実するため」とか、「安定した福祉財源を確保するためにも、消費税の導入は必要です」と嘯(うそぶ)いていた。令和になると、「消費税額と消費税率を正確に記載することができ、業務の簡素化が実現できます」と役所のメリットだけを強調し、塗炭の苦しみを味わう庶民の生活は無視。マスコミに登場する経済評論家も、財務省の手先になった方が「得」と考えたのか、「インボイス制度の導入は納税の不正防止になるます!」と煽るようになった。

  そもそも、消費税の導入は法人税の減額とセットになっており、企業から得られる税収が減った分を一般人から“むしり取る”という仕組みになっている。法人税は徐々に40%から37.5%、34.5%から30%へと減っていったが、消費税は逆に増えていった。橋本内閣で5%に上昇し、安倍内閣では8%へと引き上げられ、さらに10%へと鰻登り。岸田総理がどうするのか判らないが、将来的には財務省が目論む13%か15%に引き上げられるだろう。まともな国民であれは、消費税が導入される前から、「大蔵官僚は北歐型の税制と福祉制度を目指しているから、やがて20%か28%にになるだろう」と予測できたはず。でも、こうした予測は少数派だった。

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(上写真  / 高い税金と高度の福祉を容認するスウェーデン人 )

  一般人でも北歐諸国の税制を見てみれば解る。例えば、スウェーデンの標準税率は25%で、ほとんどの商品に適用されている。ただし、軽減税率もあって、食料品や藝術家の作品は12%で、新聞・雑誌・書籍、飛行機や列車の運賃、映画やスポーツ観戦、コンサートのチケットなどは6%になっている。ただし、医薬品は0%。スウェーデンの税制では、社会保障税や賃金・労働税の比率が高いけど、法人税は7%くらい。たぶん、日本も法人税をもっと低くして、その減った分を社会保障税の増加で埋め合わせるつもりなのかも知れない。つまり、国民健康保険税や地方税を増やすか、新たな税金、例えば環境税とか通行税、自転車保有税、子供支援税とか、色々な理屈を述べて増税路線を強化することも可能だ。

  衰退する日本経済については、もっと深い闇がある。大学やシンクタンクに雇われる経済学者は口にしないが、財務省や日銀の財政・金融政策には政治の要素が絡んでいる。この件に関しては別の機会で述べたい。


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金の掠奪をした合衆国大統領

ゴールドの魅力と権力の基盤

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  2022年2月にウクライナ紛争が勃発したことで改めて感じたことは、天然資源を持つ国は有事に強い、ということだ。ロシアは歐米諸国からの金融制裁を受け、貿易や商業活動で甚大な被害を被ったが、石油や天然ガスの輸出でその穴埋めを出来た。CNNの報道によれば、ロシアが出荷する石油や石油製品の輸出量は侵攻前の水準に戻ったそうだ。こうした輸出でロシアは127億ドルを手にしたというから、何とも羨ましい。(Anna Cooban, 'Russia’s oil exports are back to pre-war levels,' CNN, April 17, 2023.)歐米諸国がいくら経済制裁を加えても、その仕置きに与しない勢力が存在すれば、包囲網の壁には抜け穴が開いているということだ。

  一方、ロシアから供給される天然ガスが止まってドイツは大慌て。しかも、せっかく造ったノルド・ストリームは米国の極秘作戦で破壊されてしまった。これじゃ、ロシアとアメリカのどちらがテロ国家なのか判らない。石油やガスの輸入に頼る日本も、原油価格の高騰で青色吐息。信じられないが、レギュラー・ガソリンの平均価格は各都道府県で、だいたい165円から174円の間で揺れ動いている。でも、長野県では180円台に突入したというからビックリ。月々の燃料代を考えると、クルマで遊園地や職場に行くことすら苦痛になってくる。しかも、真夏となれば、自宅の冷房はフル活動。政府の補助金も無くなるから、電気代は鰻登り。これに加え、冬でも庶民の膏血をすする吸血鬼がいる。我々日本国民は、太陽光パネルを望まないのに、毎月毎月、再エネ賦課金を払っている。これではウナギの蒲焼きが食卓に並ぶことはない。「泳げタイ焼き君」の子門真人じゃないけど、毎日が厭になっちゃう。(令和の幼稚園児は歌わないよね。)

  石油や天然ガスに加え、コバルトやゲルマニウム、ガリウム、プラチナ、パラジウムなどの稀少金属を持つ国は、先進国からの標的にされやすいが、その反面、有利な立場で取引を提案できるという利点を持つ。そして、忘れてはならないのが、各国ともゴールドやシルヴァーといった貴金属を貯め込んでいることだ。World Gold Council の情報によれば、最も金を買い込んでいる国は、支那人が住むシンガポールで、保有量が68.67トンも増えている。第二位は共産支那で57.85トン。第三位のトルコは30.21トン。次にくるのがインドで、7.26トンとなっている。やはり、狡猾な民族は「困った時の金。安心をもたらす金塊」を求めてしまうのだろう。

  言うまでもなく、世界で最も多く金を保有する国はアメリカ合衆国で、ダントツ1位の8,133トン(約4,808億4千万ドル相当)。フランスやイタリア、スイスが金を貯め込んでいるのは理解できるが、ブリテンが保有する金の量がたったの310.29トン(metric tons)なんて驚きだ。1950年代には2,500トンくらいあったのに、1962年頃から減り始め、引き続き売りに出したので1972年になると500トンくらいになってしまった。

  ブレア内閣で財務大臣に就任したゴードン・ブラウンは、1999年から2002年にかけて政府が保有する金715トンに目を附け、そのうちの約400トンを売り払ってしまった。当時の金市場だと、1トロイ・オンス当たりの価格は254ドルから312ドル。それゆえ、イギリス人の間では、「安値(底値)で売却したんじゃないか?」という批判もあったそうだ。確かに、第21世紀になってからの金価格は上昇したから、我慢して持っていれば良かった。2002年頃から1トロイ・オンス(1 troy ounce = 約31g)当たりの価格は500ドルを超えてしまい、2012年には2,178ドルにまで跳ね上がった。2023年4月には1,999ドルになっている。2000年当時の日本でも「これからは金の価格が上がるぞ!」と言われていたから、ブリテン政府は苦肉の策で金の売却に臨んだのかも知れない。(経済評論家の長谷川慶太郎は1991年に『金の時代 金の世界』を出版しており、彼の読者には金価格の上昇を予想した人も多いはず。筆者も「たぶん、そうなるよなぁ~」と思っていたけど貧乏だから純金とは縁が無かった。)

  ちなみに、現在各国が保有する金の数量は以下の通り。

   アメリカ                   8,133 (metric tons)
   ドイツ                      3,355
   イタリア                   2,452
   フランス                    2,437
   ロシア                       2,299
   支那                          1,948
   スイス                       1,040 
   日本                             846
         インド                          785
   ネーデルラント               612

  令和の時代、金本位制に基づくアメリカのドルやブリテンのポンドなんて考えられない。1ドル360円といった固定相場制も遙か昔の出来事だ。今は1ドルが138円とか、1ポンド当たり182円といった変動相場制になっている。日本の言論界では、前世紀から何度かアメリカの衰退が論じられてきたが、未だに米ドルは世界の基軸通貨だ。貿易赤字が膨らんでも米ドルの地位は不動である。第一、ドル安になっても紙屑になる訳じゃない。なぜなら、米ドルは金との兌換に基づかず、“信用”で成り立っているからからだ。もし、現在の米ドルが金本位制に基づく通貨であったら、とっくの昔に破産している。14兆ドルもある対外債務をゴールドで払うとなれば、フォート・ノックスの金庫は空っぽになるだろう。

  でも、心配ご無用。支払いに困ったら財務省の輪転機を回して紙幣を刷ればよい。外国からたくさんの商品を購入したら、支払いは刷りたての100ドル札を渡せば問題なし。アメリカへの信用が続く限り幾らでも緑色の紙を刷ることが出来る。そして、石油の取引も米ドル決済じゃなきゃ駄目。リビアのカタフィー大佐やイラクのサダム・フセインのように、米ドルをやめてユーロ決済にしようと目論む奴は私刑。アメリカの支配者層からすれば、何が何でも米ドルを護らねばならない。「お前はテロリストの親玉だ。大量破壊兵器を持っているはずだ!」とイチャモンを附けてもいいから邪魔者は抹殺すべし。自国のルーブルで石油を販売しようとするロシアなんて言語道断。何年かかってもいいからウクライナ紛争を続けようというのがバイデン政権の狙いだろう。

  米ドルはアメリカ合衆国の経済力や軍事力、金融システムなどの要素によっさて支えられている。だが、ワシントンの連中は自分たちの都合で、幾らでも紙幣を刷ることが出来るので、外国の政府要人や投資家、あるいは金融マフィアなどはインフレに対する懸念を常に抱いている。それゆえ、他人を信用しない支那人やインド人、アラブ人、ユダヤ人は、密かに金塊を貯め込むことにした。なるほど、金塊を金庫に入れても何ら利子を産まないが、「いざ」という時になったら、やはり頼りになるのは重量感溢れるゴールドだ。世界中、何処に行ってもゴールドは歓迎され、人々を魅了する。

“合法的泥棒”となった合衆国大統領

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(左 :  ウィンストン・チャーチル  / 中央 : フランクリン・デラノ・ローズヴェルト  /  右 : ヨシフ・スターリン)

  政治家は理想を口にするが、その手足は金銭で動く。「お金に困った場合どうするのか?」という場面で、その人物の性格が判る時もある。借金で首が回らなくなったウィンストン・チャーチルは、昵懇のユダヤ人に助けてもらった。革命資金の不足に直面したボルシェビキの「コバ(Koba)」、すなわち後のヨシフ・スターリン元帥は、「カネが無ければ資本家から奪え!」と言い放ち、躊躇なく銀行強盗になった。

  このグルジア人は現金輸送の馬車隊を仲間の「カモ(Kamo)」に襲撃させ、まんまと25万ルーブル(現在の価値で約340万ドル)を獲得した。(Roman Brackman, The Secret File of Joseph Stalin : A Hidden Life, <London : Frank Cass>,2001, p.47.)さすが、スターリン! チャーチルやローズヴェルト、レーニンとはひと味違う。「鉄の男」と呼ばれたソ連の書記長は、自らの運命を自らの力で切り開く。資金に困れば強盗も辞さない。もっと稼ぎたければ、娼婦を集めてヒモになる。


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(左  /  ヘンリー・モーゲンソー・シニア)
  それでは、フランクリン・デラノ・ローズヴェルト(FDR)は、どうやったのか? お金に困っても、デラノ家とローズヴェルト家の御曹司は強盗にならない。フランクリン坊ちゃんはカツアゲすら考えもしなかった。ハーヴァード大学で暢気に過ごしたボンボンは、ヘンリー・モーゲンソー・シニア(Henry Morgenthau Sr.)の勧めで株を購入したことがある。しかし、購入した株は値下がりし、フランクリンは大損を被った。しかし、名門の青年には幸運の女神が附いている。ただ、この時はドイツからやって来たアシュケナージのユダヤ人であった。モーゲンソーはフランクリンの損失補填をしてやり、その代わり、何時の日か、息子(後の財務長官ヘンリー・モーゲンソー・ジュニア)のことで何かあれば便宜を図ってもらいたいと頼んでいた。

  アメリカの“貴族階級”に生まれたフランクリンは、社会主義を彷彿とさせるニュー・ディール政策を提唱し、労働者階級の庶民や左翼系の知識人から賞賛された。しかし、実際はウォール街の旦那衆に担がれた使い捨ての神輿でしかない。それでも、この軽薄な大統領の周りには“宮廷ユダヤ人”が多く、ご自慢の「ブレイン・トラスト」にも何人か混ざっていた。

  例えば、「New Deal」という言葉を考えついたサミュエル・ローゼンマン(Samuel Irving Rosenman)判事やACLU(極左団体)の創設に貢献したフェリクス・フランクファーター(Felix Frankfurter)判事、証券委員会(SEC)の会長を務めたジェローム・フランク(Jerome Frank)判事、CFR(外交評議会)のメンバーにもなったポール・ウォーバーグの息子であるジェイムズ・ウォーバーグ(James Paul Warburg)、親父の代からFDRと親しいヘンリー・モーゲンソー・ジュニア(Henry Morgenthau, Jr.)、FDRの指南役であったバーナード・バルーク(Bernard Baruch)などである。

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( 左 :  サミュエル・ローゼンマン /  フェリクス・フランクファーター  /  ジェローム・フランク  /  右 : ヘンリー・モーゲンソー・ジュニア )

  話を戻す。ローズヴェルトは合衆国憲法を守る最高執政官というより、法律に縛られない「アメリカの皇帝」を目指していた。彼の背後では、バーナード・バルーク(Bernard Baruch)やハリーホプキンス(Harry Hopkins)が糸を引いていたけど、FDRの雰囲気に魅了された“ぶら下がり”の記者達は、あえて批判しようとは思わなかった。この図式は今でも同じで、主流メディアのジャーナリストは、どうしてボケ老人のジョーバイデンが大統領になれたのか、どうして激しい批判がなされないのか、巷の庶民に伝えることはない。情報統制は1930年代の米国にもあったけど、多少なりとも教養を身に付けた国民なら、ローズヴェルト大統領は嘘つきの食わせ者(lying quack)だ、と判ったはず。

  歴史の研究が進むと、「英雄」と評された人物のメッキが剥がれてくることもある。特に、戦勝国の要人だと顕著だ。ウィンストン・チャーチルと組んで戦争を仕掛けたFDRの策略は、西歐諸国の歴史家も気づいたようで、段々と広まっている。しかし、この操られた大統領が国民の金(gold)を掠奪したことに関しては、意外と知られていないのだ。

  大恐慌の最中にホワイトハウスの主人となったFDRは、預金の取り付け騒ぎ(bank runs)を沈静化すべく、1933年3月6日に、4日間の営業停止を各銀行に命じた。表面上、この緊急処置は預金の払戻しに殺到する国民を抑制し、閉鎖すべき銀行を査定するための時間稼ぎと見なされている。しかし、本当は金や銀の買い溜め、および金銀の流出を防ぐための予防策であった。法的根拠を欠いた大統領を助けるためなのか、連邦議会は「緊急銀行法(Emergency Banking Act)」を可決した。一方、議員が与えた自由裁量にFDRはいたく御満悦で、躊躇うことなく即座に署名した。

  ところが、翌月、アメリカ国民はビックリするような法令を耳にする。1933年4月5日、FDRは「大統領命令(Executive Order 6102)」を発し、アメリカ国民が持つゴールドを奪ってしまったのだ。つまり、この大統領は金貨や金塊を貯蔵することを禁じたのである。さらに、金(gold)を用いた契約も無効とされ、契約書(金證券)自体は有効でも、金による支払いは出来なくなった。従来の金約款契約だと、債権者は通貨である米ドル、あるいはゴールドによる返済のどちらでも要求できたが、FDRの大統領命令によりゴールドでの請求は無理になった。

  連邦政府が自国民から金貨や金地金を没収するなんて前代未聞だが、これは単なる“掠奪”じゃなく、「強制的な買い取り」という形式になっていた。すなわち、役人がゴールドを持って行くか、所有者が交換に出向くという仕組みである。ただし、政府はちゃんと“代金(対価)”を払う、となっていた。それでも、国民は嬉しくない。政府が提示した交換レートは、1トロイ・オンス(troy ounce)当たり20ドル67セント。(1トロイ・オンスは480 グレイン。1 grain は0.0648g。また、当時の20.67ドルは、現在の約467ドルに相当する。) こんな無茶苦茶な法令を聞けば誰でも反抗したくなるけど、従わない者には1万ドルの罰金か10年未満の懲役刑が待っていた。それゆえ、どんなに悔しくても泣き寝入りするしかない。

  おそらく、FDRは外貨に対するドルの急激な切り下げで輸出が伸び、不況から脱出できると踏んでいたんだろう。でも、戦争が始まるまで景気が好転することはなかった。一方、早めに手持ちの米ドルを金と交換しておこうと銀行に殺到した国民は、突然の法令で唖然となった。通貨の価値に不安を覚えた者なら、「米ドルが値崩れになる前に金塊に換えておこう」と考えるはず。実際、政権の内部事情に詳しい者は、さっさとゴールドに換えていた。ところが、ドルの信用不安と金の流出に懸念を示したFDRは、先手を打って金との兌換を停止することにした。

  第20世紀前半だと、どの西歐諸国も金の保有に熱心で、ブリテンなどは南アフリカを味方につけて金本位制を守るべく必死になっていた。大不況の波に呑まれたアメリカでも、ゴールドの流出は深刻で、FDRが就任する前の1932年12月だと、合衆国政府が保有する金の総量は2億450万オンス(5,797,477kg)くらいあった。しかし、就任後の1933年3月には、1億9千330万オンス(5,479,962kg)に減っていたのである。ところが、法令の効果があったのか、保有量の減少は抑えられ、1934年1月になると1億9千510万オンス(5,530,991kg)に増えていた。

  一方、金の私蔵を禁じられた国民は、ローズヴェルト政権の横暴に対して無力だった。しかも、米ドルの価値が下落したから泣けてくる。政府は1オンスの金を20.67ドルで買い取ったが、その後、奪われた金の価格は35ドルに跳ね上がっていた。つまり、ドルの価値が減少したという訳だ。でも、1億9千510オンスのゴールドを手にした政府はニッコリ。国民からゴールドを巻き上げたことで68億3千万ドルを有していたんだから。ローズヴェルト政権はウキウキだったけど、金約款契約をした外国人はカンカンだった。ゴールドでの返済が盛り込まれていたから安心していたのに、いきなり金での返済が禁止なんて・・・。まるで債務不履行に遭ったようなものである。第一次世界大戦で債権国となったアメリカは、債務国となった英仏伊に対し、米国からの戦時債務は米ドルで払うよう釘を刺していた。支払いの猶予を期待していた英仏伊は、米ドルが無ければゴールドで支払うことになっていたから憤懣やるかたない。

  現在は金本位制度じゃないけど、1970年以前は金が米ドルや英ポンドの保証になっており、他国も金を貯め込むことに熱心だった。1973年以来、変動相場制で世界経済が動いているので、いまさら昔に戻って金本位制が復活することはないだろう。しかし、米国による強引な戦争が引き起こされると、「不安」という妖怪が徘徊するようになった。不確実な未来を懸念した国家は、天然資源の確保に努め、「もしも」の時に備えて金を貯め込む。1トロイ・オンス当たり約2000ドルにもなれば、「あの時、もっと買っておけばよかった!」という後悔の念でいっぱいになる。

  日本でも岸田政権による資産の掠奪が起こっているから、意外とタンス預金は紙幣じゃなく金塊になるかもね。1億円とか10円の現金を自宅に隠している老人は、新札の導入で冷や汗ものだ。まさか、銀行で5億円の両替となったら怪しまれるし、かといって交換しなければ段々と不安になる。福沢諭吉の銀行券で問題ないのに、どうして政府は渋沢栄一の紙幣に替えたいのか? 純金の板なら交換は不要なのに。物価高に苦しむ庶民は節約生活よりも、自宅での家庭菜園か秘境での砂金探しに邁進するしかない。

  次回に続く。


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